2-4 心痛領主
よろしくお願いします
「ハナアア!!!」
エイトが叫び、悲鳴が同時に上がる。
「矢を抜いて、回復を!」
誰かが叫ぶ。
そして矢の刺さったハナが、苦しそうに声を発した。
「だいじょぶだから、殺しちゃダメ。」
エイトはハナの声で安堵し、矢を抜いた瞬間、抱えてたニエベスにハナの全体重がかかる。
次にエイトの回復魔法がハナを包んだ。
「えっ!!ハナー?」
と呼びかけるが返事はない。
エイトは敵を認識し、睨みつけ、剣を取り出すと、すぐに投げた。
「ハナさんは生きてるから。」
テレストのその声に幾分か冷静さを取り戻すが、怒れる炎はまだ消えない。
先ずは左の手で、前に居る徴税官の首を掴み、引き摺りまわしながら、護衛の兵士を一人、また一人と、右手の剣を使って一撃で昏倒させて行く。
最後に剣の刺さった射手ににじり寄り問う。
「誰の指示?」
何も言わないので仕方ない右手の剣を収納庫にしまう。右手で射手の肩の剣を抜いて、
「ギャー」
左腿にプス。
「うあおーーーー。」
射手は怯えに目を見開いてる。そして問う。
「誰の指示?」
何も言わないので、左腿の剣を抜いたところで射手が答えた。
とてもとても苦しそうな声で
「自分の判断で・・・」
「君は」
エイトは右手の剣で射手の左肩にプスと刺して抜く。
「平民だと」
右肩にプスと刺して抜く。
「殺しても」
左腹にプスと刺して抜く。
「いいほど」
右腹にプスと刺して抜く。
「権限が」
左上腕にプスと刺して抜く。
「あるの」
右上腕にプスと刺して抜く。
「ですか?」
そして誰かの声が、ハナさんも殺してはダメと言ってたンダニャ。と聞こえる。
射手の顔を見てゆっくりと、左手の徴税官の顔に目を移し言う。
「このゲーム面白いでしょ、弓使い危機一髪って言うんですよ。次のゲームは徴税官危機一髪なんてどうでしょう?」
エイトは射手に向き直り、魔法を詠唱する。
「やるきのない回復魔法」
なんか味方のほうから安堵の声が・・・。
エイトはすこしクールダウンした自分を自覚し、徴税官に尋ねる。
「この人が自分の判断で僕の友人を弓で殺しかけたんですけど、どうすればいいと思います?」
と尋ねると
「こんなことをすると、刑罰になるのは君の方じゃないのかな?」
と神妙な顔をして言う
「じゃあ、あなたは無差別殺人者の共犯ということでいいのですね?」
徴税官は押し黙る。
そしてからくり人形たちに指示し御者以外を縛り、猿轡をした。
すべての敵を、馬車の座席に放り込む。
しばらく見学していた仲間もハナの介抱で村長宅に入ったらしい。
それからエイトは、「そうですか、そうですか。」と呟き、指輪を触ったり、空を仰いだり、「なるほどなるほど。」と独り言を言ったりしながら、そろそろ1時間が経とうという頃。「これしかないか。」誰に言うでもなく小さく呟き、スキップをし軽やかに走った。
「お待たせしました。」
と、徴税官に詰め寄る。
「じゃあ、徴税官さん、私のこの服を見てください。触ってもいいですよ。とても高級なものだとわかりますよね、私はある国から、ここにお忍びできています。私はその国では司る側にいるものですので徴税官さんと同じですね。
そして許可が下りたので、あなた方の領主のところへ、ご一緒しますね。」
エイトは、領主への訪問の、前触れの手紙にはこう書き留めた。
---
親愛なるタカ・リアーノ辺境伯
突然の手紙失礼する私は、万共和国の王をしているエイト・リナレスという。この度、お忍びで牛のいる最果ての村が見たくてな、お邪魔しておる。
不敬な、徴税官とその護衛なんだが、いまだ生かしたままにしておる。
事の次第を説明すると、わしと部下が話していた、そこへ徴税官が割って入った、邪魔するなと言う感じでわしと部下は徴税官を突き飛ばしたその後、何の前触れもなく、矢がわしの部下を射抜いた。わしも部下も徴税官も抜刀はしていない。徴税官が指示したかどうかも見ていない。
それで、射掛けた兵士が無差別殺人罪で徴税官が殺人教唆?、監督責任の罪だな、それと領主のそちが監督責任の罪と私見はこうなるのだが、
そちの領内で起こったことだ、そちの方で良きに計らえ。
結果によって外交にまで発展するとは考えていない。
3日後にはそちの領館に着く。
この3日間はこちらの手並みを披露する。当方の身分や実力を疑われるのも遺憾だからな。毎日切り傷くらいは辛抱せい。毎日命を狙ってやる。どうじゃ面白い嗜好じゃろ。
わはっはははっは。
なにぶんお忍びじゃからなくれぐれも頼む。
PS、ちなみに戦争したいなら兵は街の外に置いておけ、全部切り倒してから入る。
エイト・リナレス
---
エイトはテレストに手紙を見せ、青くなったり赤くなったりしつつ読み進めるテレストの顔を微笑みつつ眺めている。
そしてテレストと2、3言葉を交わした。
手紙は、ニコニコマークの封筒へ入れレッドに渡した。
そして、エイトは仲間の方に向き、大声で言う。
「なんかこのままじゃ罪になるらしいので、謝りに行ってくるよ。」
そういうとエイトは御者の横に乗り込み、リアーノ辺境伯領の領主館を目指した。
***
最果ての村からリアーノ辺境伯領までの距離、約1500キロ、馬の休憩時はルークに乗せて、トイレ休憩以外止まらない。
そして72時間後領都に入った。
(兵もいないな。たまに見える人影は間者かなぁ。)
すぐ領館に向かい、すぐにタカ・リアーノと対面することとなった。
長身で白髪も蓄えたグレーの髪に細面、いかにも貴族然とした服装。文官あがりか血統かな、とても武芸者には見えない。
そして、首に新しい傷が6本ある。
(偽の手紙も見抜けず、あっさりリアーノ領への侵入を許し、10歳の僕に怯えの色さえ見える。
そんな、無策のタカ・リアーノに少しがっかりした。)
「わしからの刺客は防げなんだか?」
タカの首に着いた傷、それはレッドが12時間に一度、襲って刻んだ跡だった。エイトは回復魔法を唱えた。
タカはすぐに治った首の傷に、目を見開いた。
「私どもの修練が足りないようで、お恥ずかしい限りです。」
「襲って来られると、殺さないよう、手を抜くのが大変でな。こうやって実力を見てもらって、剣を納めてもらうのじゃよ。
それとわしは田舎の国の王だからな。言葉遣いも正しく出来んからよしなに頼む。」
「はっ。」
「僕のことはエイトと呼んでくれ、僕はタカさんと呼ぶ。」
(お気に召さない感じだが、しぶしぶ了承と言ったところか。)
「それで僕たちには解決する問題が二つある。一つは今回の事件の処分と、二つは今後どうするかということだ。タカさんはどう思う?」
(うんうんうんうん、唸ってるだけだな。)
「正直に答えろ、ここでは殺さん、僕とタカさんが歩み寄れないなら戦争で決めればいい。」
「平民二人が喧嘩していました、名も名乗っていない人間が割り込んで平民にちょっと押された、これが徴税官だな。すると即、弓が飛んできて平民の一人に当たり血が流れた。すぐ沙汰を出せ。」
(・・・なんだこいつ。蒼くなったり赤くなったりで言葉が出ない。)
「じゃあタカさん、今まではどうだったんだ。」
「今までであれば、咎めはないように・・・。でも平民ではなく他国の王族の方となると・・・。」
「そか、じゃああれだな。意識改革だな、触れを張り出して通知しよう。先ずは、我領の民を領主に伺いなく殺傷することは禁止、次に今回の内容と結果、徴税官減俸半分、弓兵減俸半分と尻叩き100回、これをタカさんの名で張り出せ。
あと、タカさんは罪は問わないがあの村は今後徴税しない。
これでどうだ?それと、僕たちへの賠償や和解金は要らないから。」
ただただ頭を下げるタカさんに言葉をかける。
「だいじょうぶか、喋らないけど?」
タカさんは声を絞り出す。
「はい。ありがたいことにございます。」
「じゃあ2つの問題のうち1つは解決だ。」
タカさんはいまだに恐縮している。
「2つ目の問題に入る前に少し質問してもいいかい?」
と言って現状を聞いてみた。
タカさんは3代目で領主には向いてないと自覚している。領主を継いだのは2年前、他人と話すのは苦手らしい。領内のことは譜代の家臣に任せている。
「タカさんはここの領主に向いてるね。」
「そうですか?」
と言いつつすこし嬉しそうである。
「まあ僕も帝王学を習ってる途中の未熟者だけどね。2代目3代目はとても難しいんだ。今あるものを守るということは、こうしようとか、ああしようとかすると必ずどこかに歪みが出来る。
なので、これはしてはいけない。あれもしてはいけない。という事をいろいろ見て覚えないといけない。じっくり時間かけて。」
タカさんは何やら思案している。
「それと、タカさん、1週間以上先の話になるんだが、またこの街に来た時に、魔法で解決できそうな問題があれば書き出しておくといいよ。いろいろ便宜を図ってくれたので手伝いをさせてもらおうと思う。例えばだけど治水の事だったり、城壁や野盗あと魔物の討伐とかね。
あとそのときに僕達、王都の学校に通う予定なのよ。11人ほど手配頼む。推薦とかそういうのあるんだろ?あと彫金ギルドと酒造ギルドの紹介も。」
タカさんはコクコク頷いてメモを取っている。
(いい部下になれそうなのにな。と失礼なことを考え、じゃあこれで2つ目の問題も解決。)
「あと余談なんだけどさ、サウスポークラブっていくらするか知ってるかい?」
タカさんは、多分とか口にしながら言った。
「ほぼ出回らないのですが、以前でたときは190~200枚だったかと。」
「僕が持ち込みたいんだけど、いくつ買う?」
「詳しいものに聞いてきますので、すこし席を外してもよろしいでしょうか?」
「うん。」
そういうとタカさんはすこしふらついて、家具や壁を手すり代わりに部屋から出て行った。
(なんだあれは緊張の極ってことなのか・・・。)
しばらくして顔は似てるが商人服の4男だというコス・リアーノを連れてくるタカさん。そして見たいというので、1匹のカニを出すと親ガニですか!と言いながら、コスさんはじっくり検閲していた。
「これは金貨300枚はいけますよ。」
(あれ銀貨じゃなく金貨なのか、ええ、金貨1枚10万ゼニって言ってたよな。いやいやいや。いーや)
エイトは金額が大きすぎて、思考の範疇を超えたので、考えるのを諦めた。
「じゃあ1匹ごと価格が変わりそうだな?」
「全部並べて査定しましょうか?」
「いや、コスさんに全部任せるのでどこに出せばいいかだけ指示ちょうだい。」
(そういえばまだハナさんに貨幣って、習ってないよな。)
「なあコスさん、このカニ3000万ゼニもするの?あとこのノートにさ、」
と話しつつエイトはニンジンさんノートを取り出すと、コスさんは、エイトの話をぶった切り、食い気味に言う。
「何ですか、この高級な紙は?」
このカニはとても状態が良く、食用だけでも1500万いけるはず、それに加えカニの殻は軽くて火に強い、鎧や防具はもちろん、鍛冶小手や火の周囲の飾り素材としても使えると言っていた。
「いいだろ、ニンジンさんノートだ。この国の貨幣価値がわかるように書いてくれないか?」
と言って、コスさんにニンジンさん鉛筆とニンジンさんノートを突き出すとしげしげと眺めていた。
「じゃあタカさん、土産を置いておく。うちのシェフが作ったカニ三昧セット10人分だ。」
と差し出すとタカさんは今までのナマコのような動きがフナムシの機敏さに変わった。
「なんですかあ、これは!しかも焼いたのとか茹でたのまだ熱いですよ。これどーやって作ってるんでしょうか、やはりシェフの腕なんですかねえ・・・家に雇いたいな。」
(なんじゃタカさん、カニ好きなのか?食道楽なのか?)
「ダメじゃな、お前の部下が矢で撃ったから。しかしタカさん、今日一番喋ったな。じゃあタカさんいろいろ世話になったな。また後日来るから、その時もよろしくなー。」
と言ってコスさんと、忙しなく部屋を後にした。
「タカ兄貴はいつもああなんで、気にしないほうがいいですよ。」
「じゃあ、あれだな領主には向いてないな。」
「わかりますか。」
二人はお互いの顔を見合って笑った。
「「あははははは。」」
お読みいただきありがとうございました




