夢
レイはアルシュアが王に報告を済ますまで私室で過ごすことにした。
とは言っても、たいしてすることはなく、ただ何となく時間は過ぎていく。
だんだんと瞼も重くなってきて、レイは夢の世界に落ちていった――
キーッ!という甲高い音で、レイは眠りから現実に引き戻された。
『何…?煩いなぁ』
イライラしながらそう愚痴れば、返ってきたのはすごい剣幕で怒鳴る罵声だった。
「いきなり出てくんじゃねぇ!危ねえだろうがっっ!」
その発言にムカッときたレイは、一発殴ってやろうと声の方向を振り返った。
『危ないのはそっち――』
しかし、出かけた言葉は喉の奥でつっかえる。
からからと喉が渇いてゆく。
ありえない光景に、レイは目を見開き、呆然と立ち尽くした。
頭を落ち着かせようと、辺りを見回す。
もしかしたらこれは、悪戯好きな妖精が作り出した幻かもしれない。
しかし、いつまでたっても周りの景色は変わろうとせず、レイは次第に焦りを感じた。
『…ゃ、だ…アルシュ、ア…様ぁっっ!』
嗚咽と共にぼろぼろと涙が溢れ出してくる。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ・・・・・
アルシュア様と離れるなんて…会えなくなるなんて…
『嫌だぁぁぁあっっっ!』
「レイっ!」
ハッと、目を開くと、アルシュアが心配げにこちらを見ていた。
「アルシュ、ア様…?」
見ると、そこはいつもの宮城の自分の部屋だった。
訳が分からず、頭が混乱するレイに、アルシュアは報告を終えてからのことを話した。
「部屋に入ったら、お前が魘されていた。悪い夢でも見ているのかと思った…。
初めは放っておいたんだが、突然叫び声をあげて暴れ出したから無理矢理拘束魔法を使った…悪かったな」
「……いえ…」
あれは夢だったのだろうか。
それにしては妙にはっきりした夢に、レイは身震いした。
何か嫌なことが起きる。
嫌な考えを振り払うかのように、レイは頭をぶんぶん振った。
「何だ、お前は。犬か」
アルシュアが苦笑いで言う。
「あ、酷ーい、アルシュア様ー」
このいつもの日々がもっと続けばいいのに。
でも、分かってる。
もう私には時間がない。