帰還
アルシュアは三ヶ月前に見納めたアルフルフィルドの首都、ベルグの門を見上げた。
「何、黄昏てるんですかー?」
「黄昏てなどいない。
少し強化する必要があると思っただけだ」
「…へ?
アルシュア様ー、別にそんな必要はないんじゃないですかー?
だってこの門、この国が建国された時に四人の賢者が力の全てを使って作った門ですよー?
そんな簡単に他国に破られるようなものじゃないと思いますけどー」
「……そうだな。
行くぞ、レイ」
歩き出すアルシュアを慌てて追い、レイはチラ…と門に視線を送った。
ベルグの小高い丘に建っている宮城は、その壁に刻まれる神秘的な紋様が観光客を多く呼び寄せている理由の一つになるぐらい、美しい宮城だった。
宮城の謁見の間に向かっていると、アルシュアとレイの元に双子の王子が走ってきた。
「やあ、久しぶりだね。アルシュア、レイ」
「お久しぶりです。
クレマ王子、フレマ王子」
「………どうも」
双子の姿を見ると、あからさまに機嫌の悪くなったレイ。
アルシュアの後ろに隠れ、双子を睨んでいる。
「元気そうで安心したよ。
今北方の辺りは危ないからね」
「もうすぐ冬だからね。
北の賢者が目覚めかねない」
“北の賢者”という言葉にピクリと反応したアルシュアだったが、それが分かったのはアルシュアにくっついていたレイだけだった。
「それより、今から父上の元に行くのだろう?
僕達も行くから待っていてくれ」
双子は中庭の方に走って行き、その場にはアルシュアとレイだけが取り残されていた。
しかし、アルシュアは双子を待つことなく歩いていく。
「…二人、待ってなくていいの?」
「一緒にいたくないだろ」
「まぁ…」
「助手はお前だけだからな。
こんなことで居なくなられたら困る」
その言葉に微かに頬を赤らめ、レイは俯いた。
何もいらない。
ただそばに居させてくれればそれだけで十分だから。
だから――
「殿下、アルシュア殿が帰還されました」
衛兵の報告を聞き、グルト王は頷いた。
「今すぐ通せ」
これが、物語のすべての幕開け。