第一章 苦悩
北は名峰、スウェラ山が聳え立ち、南は大海、ブレア海、東は入ったら脱出不可能と云われる森、リベア樹海により守られた国、“アルフルフィルド”
その国の王として君臨し、もう30年その玉座に座り続けてきたグルト王は、三ヶ月前北方に視察に行かせた宮廷魔法使い、アルシュア達が帰還するという報告を聞き、溜息をついた。
北方地方はアルフルフィルド国内でも一番国土の占める割合が高く、おまけに動物嫌いのアルシュア達は歩いて向かった。
魔法を使ったとして、現地に着くのに半月はかかる。
視察を入れ、帰還までには、少なくとも半年はかかるのだ。
それが、たった三ヶ月で帰還しなければならなくなったということは――
「何か、悪いことが起きなければいいが…」
グルト王は深い溜息をつき、玉座から立ち上がった。
テラスへと出て中庭を見れば、まるで型で抜き取ったようにそっくりな二人の青年がいた。
剣の稽古中なのか、お互い汗だくで木刀を構えている。
ふと、片方の青年が視線に気づき、もう片方の青年を呼んだ。
「あっ、父上ー!」
二人の青年こそ、次代の国王になるアルフルフィルドの双子の王子であった。
しかし、その年はあまりにも若く、そして現実というものの恐ろしさを全く知らない二人にはまだこの国を任せられないと、グルト王は常々思っていた。
笑顔で手を振る双子に手を降り返し、グルト王は本日二度目になる深い溜息をつくのだった。