序章
シリアス・グロいシーンがあります。
お気をつけてお読みください。
一歩足を踏み外せば堕ちる人生を歩んできた。
それでも一緒になりたくなくて、自分の信念をを貫いていると信じてきた。
ぱきん、と薪が音を立てて割れた。
椅子の上に座り、机に伏して眠っている少女はその音に反応してもぞもぞと毛布をどけて起き上がった。
少し長めの茶髪が顔にかかり、鬱陶しそうに後ろに髪をかき上げ、少女はキョロキョロと辺りを見渡した。
何か、否誰かを探しているらしく、その目当ての人物は暖炉のそばで蹲る様に眠っていた。
「アルシュア様ー」
少女は呼びながら近づき、足でツンと突いた。
「…ん」
うっすらと開けられた瞳を覗き込み、少女は更にアルシュアが着ているマントを勢いよく剥ぎ取った。
「っわ!」
ガン、という音が室内に響き渡り、アルシュアは声にならない悲鳴を上げた。
しかし、当の原因である少女はそ知らぬ様子で暖炉に薪を放り投げた。
「〜〜〜っ、レイ!いったい何をする!!」
レイと呼ばれた少女はいけしゃあしゃあと言ってのけた。
「だって、昨日アルシュア様が
『起きなかったらどんな手を使っても起こしてくれ』
って」
「そんなことは…っ!
………言った、か?
年をとると記憶力が悪くなって困るな」
はぁ…と溜息混じりに呟き、服に着いた埃を払いながらアルシュアは立ち上がった。
レイはマントをアルシュアに放ると、自身も青いマントを羽織り、フードを被った。
「アルシュア様ー、今日で北方の視察は終わりでしょうー?
早く帰りましょうよー。
私寒い所は嫌いなんですよー?」
「分かっている。
やるべきことはやった。
首都に――ベルグに帰るぞ」
「ヤッター!
これで王宮の食事にありつけるー!!」
喜ぶレイを放置して、アルシュアは懐からぼろぼろの本を取り出した。
「無事に…春がこればいいが」
その様子をレイが見ていたとは、アルシュアは気づかなかった。