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ブロッコリー登録

いい区切りがなかったので、多めになりました。

大盛りですぜ。

 食事は満足のいく結果で終わった。何度かお代わりを注文して、皿が何枚もテーブルの上で重なっている。

 コップに入った水を飲んで、キャロルが一息をつくと口を開いた。

「ブロッコリーさん、聖人ナーハレスってご存知ですか?」

「いや、知らないが? 有名人なのか?」

 聖人ナーハレスは今から約七千年前にいた人物だ。ブロッコリーが知っているとは思わなかったが、一応キャロルは尋ねてみた。

「そうですね、トレジャーハンターやウェポンコレクターの間で特に有名な人です。聖人ナーハレスは、神に愛された伝説の鍛冶師です」

 神の寵愛を受けた者を聖人、そして神の寵愛によって奇跡の力を使える者を奇蹟者と呼ぶ。ナーハレスは聖人にして奇蹟者。神から授かった力で、数々の伝説的武具を生み出したと言われている。

 生前当時は有名と言えるほどではなかったそうだが、彼の残した武具の力が死後に徐々に広まり、今では立派な有名人だ。

「彼の生み出した武具の中に永久シリーズと呼ばれるものがあって、それらは決して壊れることも朽ちることもないそうです。その永久シリーズの中に、あらゆる厄災の身代わりになるという盾があるんですよ」

「ふむ、それならば、キャロルの姉上殿も救えそうだな。場所は分かっているのか?」

 もしその話が本当ならば、呪いを縦に映すことで、キャロルの姉を助けることが出来る。

「はい。このポーホールの町から出港している船の行き先に、フェーリエン諸島という行き先があります」

 フェーリエン諸島。バカンスで有名な諸島群で、貴族の間ではフェーリエン諸島に別荘を持つことがステータスの一種とされている。所謂リゾート地の一つだが、それ以外にも遺跡が多くあることでも知られていた。

「その諸島群の一つに、聖人ナーハレスの武具があると噂される遺跡があるとか。すでに何度も発掘調査がされていますので、確率は低いと思いますが、ゼロじゃないと思います」

「なるほど、是非もなし。可能性があるならば、行くべきだな」

「ええ、明日の朝に定期便が出るので、それに乗っていきましょう。二日ほどの船旅です」

 うむ、とブロッコリーが頷く。首? が曲がらないので体全体が前のめりになった。

「出発は明日の朝、なのでその前にテイマーギルドに行きましょう。さっさと本登録をしないと、どこかの町で捕まりそうで恐いですからね」

 果たしてブロッコリーの衝撃にテイマーギルドの職員は耐えられるのか? 危機が迫る!


 テイマーギルドは町の沿岸沿いに、外壁と沿うような形で存在した。

 荷馬を貸し借りするサービスのための厩舎エリアや、海で飼っている従魔のためのエリアがあり、テイマーギルドの敷地は広い。白く四角い建物が役割ごとに分けられていて、複数の建物が敷地内に存在した。

 キャロルとブロッコリーはまず、従魔登録をして欲しいことを受付に伝えた。その後、従魔登録のためのテストを行うため、ギルド内の中庭の一つに足を運んだ。

「興味深いわ~。未来の旦那様より気になる存在ね、あなた」

 雑草を抜いてある土のグラウンドにキャロル、ブロッコリー、そしてテイマーギルドの職員がいた。

 暗い色を基調としたドレス。身体に纏わりつような、吸い付くような、全身を覆う衣装をギルド職員の女性は身に着けていた。

 上は長袖で、ドレスのスカートは地面に垂れてなお余りある。幻想的な銀髪も相まって、どこか魔女のお姉さんみたいなイメージを想起させた。従魔に(しもべ)とでも言いそうな雰囲気だ。

「……そんなに気になりますか? セラリーさん。ブロッコリーですよ?」

 セラリー・フリートホーフ。ブロッコリーの従魔登録テストに打って出てきた変人。彼女は受付に来ていたキャロルとブロッコリーを見て、嬉々としてテストの検査員に立候補した。

 彼女は素早くスケッチをとりながら、ブロッコリーを見つている。

「気になるわね。だってブロッコリーなのよ? ブロッコリーが二足歩行で歩いて喋るのよ? これぞ生命の神秘って感じで、グッドだわ!」

 どうやらセラリーは研究畑の人間の様だ。彼女に掛かれば、ブロッコリーも気になる対象でしかない。

「うーん、生命の神秘ですか。物はいいようですね。だって、ブロッコリーですよ?」

 熱を持って語るセラリー、対するキャロルは困惑気味だ。

 話の中心のブロッコリーは、

「そんなに見つめられるとムズムズするであるな。セラリー殿が少女でなくて、残念である。キャロルもじろじろ見てくれてかまわんであるからな」

 セラリーの視線にたじたじしながらも、直立で立っていた。直立と言っても、がにまただったが。

「何言ってるんですか!? 見ませんよ!?」

「では、こちらから見るか。出来ればスカートをまくって貰ってもいいかな?」

「良くないです! 良くないですから!!」

「へぇー、人の少女に興奮を覚えるのね。どういう思考回路なのかしら?」

「冷静に観察しないでください! ただの変態ですよ!」

 三枚目のスケッチを書き終えたセラリー。メモに、ブロッコリーは少女に興奮を覚える、と記入する。

「ところで、セラリー殿。テストはしなくていいのか? 歌って踊って見せようか? それともソング&ダンシングしようか?」

「意味が同じです! どんだけ、歌って踊りたいんですか!?」

「ダンシングは吾輩のソウルであるからな。ほら、どことなくブロッコリーってアフロっぽいであろう?」

「あっ、そういう理由でダンスが好きなんですね……って納得できませんよ!?」

「趣味はブロッコリーの趣味はダンスっと。ブレイクダンスとかもするのかしら? 気になるわね」

 ただ立ってるのも暇だったのか、ブロッコリーがコサックダンスを始める。ムキムキの足は、安定感のある素早い動きでステップを刻む。それに反して上半身? は全くぶれてない、体幹が強力なのだ。もしブロッコリーに腹筋があれば、ゴリゴリだっただろう。ゴリラ。

「そうね、テストの話だけど。それなら、合格よ。あとで、私名義で従魔登録証を出しておくわ」

「ええ!? そんなあっさり決めて良いんですか!?」

 夜までテストが続くことも覚悟していたキャロルからしてみたら、あっさりもあっさり過ぎる決断。これにはブロッコリーも拍子抜けした。

「かまわないわよ。受け答えできて、話が通じて、あなたに従っている。これ以上安全な従魔がいるかしら? 何せ、人間並みの知能があるのよ? 気性の荒い陸鳥(ライドピーク)や、プライドの高い小地竜(グランドドラゴン)よりも、よっぽど信頼できる」

「うむ、吾輩のことは信頼出来るブロッコリーである。信頼をこめて、お兄さんと呼んでくれて構わないぞ、キャロル」

「呼びませんからね。信頼はしてますが……」

「なら、私が呼ぼうかしら? お兄さん……どう?」

「吾輩はお主の兄ではない! 少女になって出直してくるのである!」

「だめね、これは筋金入りだわ。業が深いわね」

 ブロッコリーはロリコンとメモに書き込むセラリー。いつの間にか、ロリコンについての記述ばかりになっている。トリックだよ。

「ところで、ブロッコリー君。もし特技があるなら、見せてほしんだけど、どうかしら?」

「よかろう! では、吾輩のダンスを……」

「いえ、そうじゃなくて、種族的特技とでもいいましょうか。ブロッコリーにしかできないことを見せてほしいのよ」

 ドラゴンならばブレス、雷鳥(サンダーバード)なら放電といったように、その種族でないと難しいという事がある。もしブロッコリーにそれがあるなら、大発見? だ。少なくとも、セラリーのテンションは上がる。

「うむ、ではそうだな。フォルムチェンジを見せようか。それとも必殺技を放つか……」

「ま、待ってください!? ブロッコリーにあるまじきこと言ってませんか!? ダメですからね! やったらダメですよ! 少なくとも、町の中じゃダメです!!」

 キャロルはブロッコリーが、黒竜を殴り倒すところを見ている。それも二発で終わる無傷の圧勝だ。

 黒竜はAランクに相当する。Aランクとは本来、町を滅ぼすポテンシャルを持つ怪物につけられるランクだ。強さの指標となるランクを決めている冒険者ギルドでは、上からS、A、B、C、D、E、Fとランクを分けている。

 上から二番目のAランクは、人間が到達できる限界などと言われており、Sランクから上の人間は人外と揶揄される。Sランクの人間には、強さでも性格でも、人間の枠を外れたやばい奴しかないないというのが、世間の認識だ。

 すなわちAランクの魔物は、滅多にいない人間の頂点が、パーティー単位で挑むような強さなのだ。

 そんな黒竜を、軽々しく屠ったブロッコリー。彼は確実にSランクの領域にいる。そんなブロッコリーが、フォルムチェンジと必殺技を使えばどうなるか。フォルムチェンジは、まだ大丈夫かもしれないが、必殺技の方は確実にやばいと分かる。

 キャロルが引き留めるのも、当然のことなのだ。

「ダメか、残念だな。空を飛ぶのは楽しいのだが」

「飛ぶんですか!? でも、飛ばないでくださいね! お願いですから!!」

 ウキウキしてきたブロッコリーを止めるキャロル。見れば、セラリーも残念そうにしていた。

「ブロッコリーって飛べるのね。知らなかったわ」

「私は知りたくなかったですね。ブロッコリーが飛べること」

 駒みたいに回転して空を飛ぶのだろうか、とキャロルが考える。このブロッコリーなら、プロペラダンス! 何て言って、回転しながら飛びそうだ。シュールなり。

「ねぇ、お二人さん。従魔登録をした後、どうするつもりなのかしら? 畑にでも帰るの?」

 素朴な疑問。セラリーが世間話のように語り掛ける。

「うむ、帰らないのである。畑は帰る場所ではなく、生まれる場所だからな」

「へぇー、奥深いわね。なにか、哲学めいたものを感じるわ。奥深い言葉ね」

「ええ? そうですか、本当にそうですか?」

 ちらりと、ブロッコリーがキャロルに目線を送った。セラリーの疑問に答えていいかと、目で語りかけている。姉を呪いから救うというプライバシーな目的、勝手に語るのは憚れた。ブロッコリーは気遣いもできるのだ。えらい!

 対して、キャロルは気にしてない風に目線を送り返す。彼女からしてみれば、目的を語るのは恥ではない。むしろ、呪いを解くために情報はあって困らない。そう考えている。

「吾輩たちの目的は、フェーリエン諸島の遺跡で聖人ナーハレスの武具を手に入れることだ。そして呪いの身代わりになる盾を持ち帰り、呪いに掛かっているキャロルの姉上殿を救うのが最終目的なのである」

「なるほど、そうなのね。お姉さんの呪いを解くのが目的なの。もしよかったら、私が検診してみましょうか?」

「え? 呪いに詳しいんですか、セラリーさん」

「まぁね。私が出自であるフリートホーフ家は、研究者の一族だけど、元々は王族の墓を守る墓守の一族だったのよ。その関係で呪いには詳しいの。専門家には、負けるけどね」

 墓守の一族であったフリートホーフ家。かの一族は、王族が死んだとき、遺体を調べて呪殺されたかどうかを調べたりしていた。王族の遺体が不死者(アンデッド)として不用意に蘇らない様に、また遺体が不死者にされないように、守っていた側面もある。

 そうした由緒正しい墓守の一族だったのも、今は昔。ある時、一族の中にゾンビフェチが生まれたのが転換期だった。

 その者は王族の遺体をゾンビにして、ゾンビっ子ハーレムを作る狂ったアホだったのだ。

 大不敬にも程があるが、その者は何とか処刑を免れて地位の剥奪だけで済んだ。

 変態なだけじゃなく、優れた研究者でもあったからである。その者は、至高のゾンビハーレムを作るために、研究を重ねた。所謂、有能な狂研究者(マッドリサーチャー)だったことが幸いした。

 こうしてフリートホーフ家は、ゾンビフェチのせいで墓守の一族から、研究者一族に変わり、セラリーもその血を色濃く引き継いでいるのだ。性癖は継いでいない。

「お言葉はありがたいですが、遠慮します。緑鹿(りょくろく)騎士団の、呪いの専門家に見て貰いましたけど、解呪は不可能でしたから」

 セラリーが少し驚いたように片目を見開く。緑鹿騎士団というと、この国の医療機関の大本だからだ。実質トップクラスの治癒師といっていい。彼らに解呪できなかったのであれば、実質解呪が不可能と断言されてもおかしくないほどの実力者なのだ。

 これ以上ないほどの専門家の名をだされては、セラリーにもう言えることはない。

「でも、残念ね。少しでもいいから恩を売って、あなたたちに着いて行きたかったのだけど」

「ええ!? それはどういう?」

「だって、ブロッコリーよ? ブロッコリーなのよ? まだまだ、研究したいに決まってるじゃない!! だから、お伴させて貰いたかったのよ。まじかに観察できるチャンスだし」

「そんなに、そんなにブロッコリーが気になるんですか!? ブロッコリーなんですけど!?」

「ブロッコリーだからじゃない! 珍獣を超えた珍獣! ブロッコリーを超えたブロッコリーよ!! 私の生涯の中で、これほど気になるブロッコリーはいなかったわ! だって、だってブロッコリーなのよ!!」

 セラリーは、生物学者だ。その界隈では有名な人物でもある。飼いならした従魔を用いての魔物の生態観察や、まだ従魔にする方法が確立されてない魔物を飼いならす手法を確立してきた。

 解剖だとか、成分分析だとか、そう言う方法から違ったアプローチで生物を研究する生物学者なのだ。そんな彼女から見て、ブロッコリーの登場は衝撃的、何て一言では表せないほどのであいだった。

 まさに常識が覆されるような、どんな生態系にも当てはまらない存在。

 口も発声器官もなく、ましてや魔法で音を出しているでもなく、どうやって声を出しているのかすら不明。喋って、二足歩行で歩いて、会話もできる。研究者的観点で見ると、謎が謎を呼ぶ謎生物なのだ。ブロッコリーって一体何なんだよ。

「どうかしら、あなたたちの旅に少しでいいから、連れて行ってくれない? 実は私、考古学もかじってるのよ。遺跡でナーハレスの武具を探すとき、お役に立てると思うわ」

 前髪をさらりと撫でるセラリー。透き通る光沢を放つ銀の髪が美しい。

「うむ、いいのではないか? 別に吾輩は見られて困るようなものではないのでな」

「ブロッコリーさんがいいのであれば、私は構いませんよ。呪いを解くための手がかりが増えるのであれば、やぶさかではありません」

 こくりとキャロルが頷いた。承諾の合図に、セラリーが微笑む。

「あら、やったわね。これでブロッコリーの観察が続けられるわ! こうしちゃられない、私も旅の支度をしないと!」

 ずだだだっ! とものすごい勢いで、建物に帰っていくセラリー。途中で長いドレスを踏みつけて、ずっこけていたが、気にしてないようだ。

 旅のお伴が増えたらしい。ブロッコリーの次は、生物学者だ。随分まともだな。

「ところで、キャロル。そろそろいいのではないか?」

「何がですか?」

「パンツの色を教えてくれても、と言う話だ」

「脈絡が、脈絡が飛び過ぎてますよ! いきなりなんなんですか!?」

「先程までブロッコリーブロッコリーといわれていたが、ロリコンであることも忘れてほしくなくてな。露骨なロリコンアピールというやつだ」

「そんな理由で!? 言われなくても、ブロッコリーがロリコンなんて、衝撃は忘れられませんよ!?」


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