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ブロッコリー、ブロッコリーとの出会い

 港町ポーホールの街並みは、白い煉瓦造りの四角い家々が並ぶ光景だった。海側には、波止場に船舶している船がズラリと揃っている。波止場には漁船も止まっていて、帰ってきた船が樽に詰め込んだ魚を漁師が荷卸ししていた。その場で魚を売り買いしている光景も見られる。

 活気にあふれている良い街だ。

 キャロルとブロッコリーの二人は、食事を摂るために、宿屋兼食事処の眠る鯨亭という場所に来ていた。

 美味しい店はどこか、通行人に聞いたところこの店を紹介されたのだ。

 眠る鯨亭は、冒険者ギルドや漁業ギルドと提携しており、肉体労働者が多く集う。

 そのため、安くてうまいボリューミーな料理を楽しめるとのこと。通行人はさらに、おススメの料理も教えてくれた。

 ブロッコリーを前に、かの通行人は一切怯まなかった。ただものではない。

「お、お待たせしました。注文の料理です」

 トレーに乗せた数々の料理を二人のテーブルの上に乗せる看板娘。ブロッコリーを前にして顔が引き攣っている。それでも給仕をきっちりこなす姿、この子もただものではない。

「おおー! 圧巻ですね。見てください、この品々。白身魚のクリームチャウダーに、刺身のカルパッチョ、山盛り白身フライに、海鮮ユッケ! どれも美味しそうですね!」

 大皿に乗せられた魚料理を前に、テンションが高いキャロル。優れた戦闘能力を持つ者は、総じて大食いと言われている。エネルギー消費料が単純に多いのだ。

 魔法使いとして上位にいるキャロルも例に漏れず、食事量が多い。黒竜の肉も、三キロは食べていた。

「うむ、これはこれは、圧巻だな。さっそく食べようではないか!」

 対して、ブロッコリーも大食いである。人を丸のみにする黒竜の咢を全て平らげるほどには。

「そうしましょう!」

 まずキャロルは刺身のカルパッチョに手を伸ばした。大皿に花の様に乗せられた切り身に、柑橘系とマスタードさらにはオリーブオイルを混ぜたソースを掛けられている。

 それを添えられたスプラウトとトマトを一緒に食べると、実に贅沢な味がした。濃厚なソースと魚本来の旨み、その二つの濃すぎるともいえる味を添えられた野菜が丁度よく混ぜてくれる。

 海鮮ユッケは、白身魚とタコやイカさらには貝柱を辛味のあるソースと深く混ぜ合わせた料理だ。単体では味が濃いので、パンと一緒に食べる。酒にあいそうな一品だ。

 山盛りの白身フライには、山盛りのタルタルソースが掛けられていた。ドロリとしたタルタルは大ぶりに刻んだ野菜も入っていて、フライのザクザク感とタルタルソースのシャキシャキ感が非常にマッチングする。

 最後のクリームチャウダーは具だくさんのあっさり目のスープだった。野菜と白身魚がゴロゴロと一緒に煮込んである。癒される一品だ。

「あっ」

 そこでキャロルは気づいた。このクリームチャウダーに、茎が太い緑黄色野菜が入っている。これは一口サイズに切り分けられた……ブロッコリーだ。

「……」

 どうする? どうしたら? 一抹の不安がキャロルの脳内をよぎった。ブロッコリーがブロッコリーを食べる、それは共食いなのではないか?

 人は人を食べない。人間に限らず大抵の魔物もそうで、ゴブリンやオークなんて食欲旺盛な魔物も共食いはしたりしないのだ。

 共食いとは基本的に憚れること。ブロッコリーがブロッコリーを食べてしまったら、どうなってしまうんだ? もしかして深く木津付くことになるのではないか。キャロルがもし人の肉を知らずに食べてしまったら、確実にショックを受ける。

「あの……ブロッコリーさん」

「ん? 何であるか? しかし、この料理たちは美味いな。見よ、このクリームチャウダーとやらの具材を、どれも大ぶりなのに味が染みてうまい、うまいぞ」

 器用にスプーンでクリームチャウダーの具を口に運んでいく、ブロッコリー。当然の様に、ブロッコリーも口にしていた。

「ええええええええええええ!! なに当たり前の様にブロッコリー食べてるんですか!」

「……え? もしかして、これがブロッコリーなのか?」

「そうですよ! その緑の野菜はブロッコリーですよ! 見たらそっくりじゃないですか! もしかして、気づいてなかったんですか!?」

「うむ、吾輩はもっとイケメンだしなぁ。ほら、しなびてる」

「スープに浸けられているから、当然じゃないですか! 食べて平気なんですか? お腹痛くなったりしてませんかよね?」

「はっはっは! たかが野菜でお腹を壊すわけがなかろう。肉食動物じゃあるまいし」

「いや、あなたは肉食動物ではないかもしれませんが、ブロッコリーじゃないですか!」

 平然と共食いをするブロッコリー。どうやら彼にとってブロッコリーと自分は大きくかけ離れた存在らしい。ブロッコリーというよりは、自分と野菜は違う存在と思ってるようだった。

「これもそれも、ブロッコリーが美味しいのがいけない。いや、このクリームチャウダーが、と言うべきかな。この宿のコックは腕がいい」

 手放しで褒めるブロッコリー。黒竜の頭をボリボリ食べている姿からは想像もつかなかったセリフだ。何ともなさそうなブロッコリーを見て、杞憂だったとキャロルは胸をなでおろした。

「はぁ……ブロッコリーさんがいいなら、別に良いんですけどね。お腹痛くなったら言ってください。一応回復魔法は使えるので」

「心配はいらんよ。土を食べても、鉄を食べても、毒キノコを食べても、吾輩は大丈夫だ。何せ、雑食だからな!」

「それって雑食何ですか!? 人も雑食ですが、同じカテゴリーとは思えませんけど!?」


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