踊れブロッコリー
騎士の前に二人組が返ってきたきた。リータンオブ、少女&ブロッコリー。
騎士にとっては悪夢の再来だ。関わりたくねぇ、が一致した意見だった。
「先ほどは失礼したな。今回は先の様な無様を晒さないと誓おう。この名に賭けてな!」
流暢に話しかける騎士に話しかけるブロッコリー。何を言えばいいか、何をすればいいか、分からなくなっている騎士に、ブロッコリーは怒涛の展開を押し付ける。
「では、楽しんでください。イッツァ、ダンシングタイム! サラダの時間だ!!」
空から七色の光が、オーロラのように、またはミラーボールのように降り注ぐ。
一瞬にして、町の入り口はオールナイトフィーバーフロアに早変わりしたのだ。
レインボーライトがブロッコリーを照らす中、彼は指で天を指す。
それはまるで、始まりを告げる合図。
「ウォーウォーウォー! 俺はブロッコリー! 君は何? 誰がどうした? それがどうした? 俺ブロッコリー!」
軽快なステップでビートを刻む。まな板も斬れそうなキレでダンスを踊る。
「ウォーウォーウォー! 緑の悪魔がビタミンなのだ! 太陽と土が躍る! 水も添えれば、そこから生まれるブロッコリー! 食卓の果てでまた会おうぜ!」
回転、バックステップ、クロスターン、クリップウォーク!
「ウォーウォーウォー! スライスザッパー! ミキサーピーラー! 来る奴来る奴、俺らの餌食! 何故なら俺達ブロッコリー!」
密集した蕾を下にして、頭のてっぺんを軸に回転する! 逆さに回る姿はテンションの高いドリルを連想させた。
「さぁ、君もなろうぜブロッコリー! まだ羽はないけど、いつか俺達だって飛べるさ! そうさ、俺たち全てがブロッコリーさ! イェー!」
ブロッコリーが天を仰ぐ。再び人差し指で天を指し、光がブロッコリーを包む。
どこからか拍手や観客の歓声が聞こえてきそうだった。だっただけだが。
まもなくしてスポットライトは消えて、辺りに静寂が戻って来る。
「どうだったかな? 満足いただけただろうか」
さも当たり前の様に、ブロッコリーが騎士たちに感想を尋ねた。
「な、何いきなり踊ってるんですかー!? 見てくださいよ、門番さんたちが固まってるじゃないですか!!」
唖然とした表情で門番の騎士たちは動きを止めている。理解が追い付かず、脳がショートしているのだ。
「うむ。真の芸術というものは、例えそのジャンルに疎くとも、何かしら人の心を揺るがすというもの。感激して固まってしまうのは、恥じることではない」
「違います! ショックがでかすぎたんです!! だって、だってブロッコリーがキレのダンスを踊りながら歌ってるんですよ!」
ショックがでかすぎる、とはマイナスの意味でキャロルは言ったのだが、ブロッコリーはプラスの意味で受け取ったらしい。
満足げにガッツポーズをしていた。緑が歓喜に震えている。
キャロルは呆然としている騎士の前で、どうすればいいか、困っていた。
ちらりとブロッコリーを見ると、ガッツポーズがダブルバイセップスに変わっている。
ダブルバイセップスとは上腕二頭筋を正面から見て強調するボディービルダーのポーズ。ムキムキの力こぶが太陽に照らされて光る。
キャロルは考えるのを少し放棄した。
「門番さん、この通りです。この人は無害なブロッコリーなので、仮従魔登録をしてくれませんか? 大丈夫、テイマーギルドの人がちゃんとしたテストで従魔登録してくれますよ。専門家に任せるという選択肢、私はありだと思います。だから、とりあえず仮従魔登録をしてください、お願いします」
度重なるブロッコリーショックにより、精神が摩耗していた騎士たちは、彼女の言葉を鵜呑みにした。一応キャロルの言うことは聞いているし、従えているといえるので従魔の条件は満たしている。
結果、騎士たちが詰所から持ってきたのは、紐のついたプレートだ。プレートには、仮従魔登録証と文字が掘ってある。例えば灰狼なら、首輪のように首にひも付けたり、矢鷹なら足に付けたりする。
ブロッコリーの場合、首が太いくて首輪の様に装着することはできないので、右手の手首に括りつけた。
この仮従魔登録証が、従魔の証だ。これさえあれば、町の出入りも自由。
もっともあくまでこれは仮。できるだけ早く正規の従魔登録証にすることが求められる。
幸いポーホールの港町には、テイマーギルドがあるので、のちに二人は行くことになるだろう。
仮従魔登録証を手首に嵌めて、騎士に見送られて町の入り口の門をくぐるブロッコリー。キャロルもその後に続く。
「無事、門も抜けたな。やはり、ダンスは素晴らしい! 言葉より簡潔に、深く物事を伝えられる。吾輩たちが従魔足りえると、伝わったようだな!」
「違いますからね。伝わったのは、あなたがブロッコリーってことだけです。脳が麻痺して、正常な判断が出来なくなっただけなんです」
「ブロッコリーの魅力に気が付いたという事か。一年後には彼らも、ブロッコリーになってるやもしれんな」
「なるわけないでしょう!! どんな未来ですかそれは!」
一瞬、キャロルは想像してしまった。町の門番を始めとして、町の住人全てがブロッコリーになる光景を。ハロウィンが目じゃないほどの、モンスター祭りだ。ブロッコリーはがにまたで、横幅がでかいから狭い扉にはつっかえるだろうな……キャロルは冷静にそう思った。冷静じゃない。
「まずは昼食を食べましょう。ポーホールの町はフェーリエン諸島への船が出ている港町として有名ですが、漁港としても名が高いです。魚料理は絶品と聞きますよ」
「ほう、それは楽しみだな。ドラゴンも美味で好きだったが、吾輩魚も好物である」
「やっぱり魚も食べれるんですね……。土も食べれるとか言ってましたよね。逆に何が食べられないのか、気になる気もします」
「道脇に咲く可憐な花……かな?」
「それって物理的な意味じゃなくて、ポエム的な意味ですよね!? もしかしてブロッコリーにだけ効く猛毒が入ってるとかじゃないですよね? だとしたら、次に野宿した時に、道端の野草を食材として使えるかどうか、吟味しなくてはならないのですが」
「ノーノー! そうじゃない。可憐な花は、野草のことじゃなくて君のことだ、キャロル」
「やっぱりポエム的な、意味じゃないですか!」
「違うな。プロポーズ的な意味だ。愛の歌的な、君に捧ぐ的な……ポエムかもしれんな。では、せっかくだし歌おうか。作詞ロリコンのラブソングと求愛のダンスを!」
「あああああああ!! 悪化してくる! 街中何で、恥ずかしいことは止めてくださいね!! お願いですから、ストップですよ! 分かりましたか、ブロッコリーさん! フリじゃないですからね!」