ブロッコリーを見たら人は何を思う?
霊山を降りることは二人にとって簡単だった。山の山頂までソロで登ったキャロルと黒竜すらものともしないブロッコリーがいたからだ。
途中でドラゴンサイズの死毒蜘蛛がうじゃうじゃいる巣に迷い込むという惨事があった。
もちろん、惨事になったのはブロッコリーが巣に迷い込んで来た大蜘蛛の方である。蜘蛛たちは食欲を滾らせて、ブロッコリーに果敢に挑み、そして散っていった。並阿弥陀仏。
山を降りて、野宿をしながら進むこと一日。二人は街道に辿り着いていた。このまま進めば、ポーホールという港町に着く。次の目的地にいくために、この港町には用があるのだ。そして町の入り口が見えるほどに近づいたところで、キャロルは気づいた。
このブロッコリー……どうするんの? と。
「ブロッコリーさん、いいですか? あなたはまず、あなたがブロッコリーであることを自覚してください」
「なにをいう。吾輩がブロッコリーであることは、記憶喪失の中でも覚えていた数少ないことさの一つ! この世の誰よりも、吾輩はブロッコリーだと自負している!」
プライドが傷ついたような顔をするブロッコリー。
「そうですか。ではここで、問題です。このまま道なりに行くと、ポーホールという港町に着きます。町ですから当然入り口には見張りの騎士の方がいて、出入りする人に怪しい人がいないか、監視しています。ここで、一つのトラブルが予測されるのですが、それは一体何でしょう」
ブロッコリーはどこまでいってもブロッコリーだ。キャロルのいう問題とは、ブロッコリーが町に入ろうとすると当然止められるという事。
これがただの、ブロッコリーなら場所の荷台にでも積んでいたらいいのだろうが、なにせこのブロッコリーは、ムキムキの四肢が一メートルサイズのブロッコリーに引っ付いている。
これをスルーして町に入れる奴がいたら、そいつはよっぽどの大馬鹿者か、ブロッコリー中毒者のどちらかだ。
「ふむ……一つ質問があるのだが、いいか?」
「はい、何ですか」
「問題に正解した時の景品は何だろうか? キャロルのパンツの色を見せて教えてくれるのならば、ブロッコリー冥利に尽きるのだが」
「見せませんよ!? それにブロッコリー冥利じゃなくて、ロリコン冥利ですよね!? この世のブロッコリーが少女のパンツを見て喜ぶ変態にしないでください!」
「そうか、性癖の方向性が違うって奴だな。悲しいな、時代の流れって奴は」
「どの世か知りませんが、普通のブロッコリーは喋りませんし、二足歩行で歩いてドラゴンを殴りつけたりしませんからね? あなたがブロッコリーの中でも逸脱した存在だと自覚してください」
「……え?」
ブロッコリーが呆気にとられたように、小さく呟く。
その反応が気になって、キャロルがブロッコリーを見ると、顔を真っ青にしていた。元から緑色なので良く分からないが、たぶんそんな表情をしている、たぶん。
「ま、まさか……今のブロッコリーは喋りもせず歩かないって、どういう存在なのだ!? いったい何が目的でブロッコリーになったのだ!?」
「ブロッコリーってなるものじゃないでしょう……。ブロッコリーは野菜の一種です。それ以下でもそれ以上でもありません」
「そ、そうなのか? ブロッコリーは歌って踊ってダンシングするものだと思うのだが、どうやらそうじゃないらしいな」
「はい。なので、門番の前にこのまま突っこむと、やばい奴だと思われてたぶん逮捕されるか、追い返されます」
たぶんブロッコリーの中に何かが入っている。つまり、着ぐるみ的存在だと疑われるだろう。
よく見ると人間の骨格からして、ブロッコリーの中に入るのは不可能なのだが、キャロルには門番の騎士がそれを理解できるほど冷静でいてくれる自信がない。
「では、どうするというのだ? さすがに鳥になるのは無理だぞ? 吾輩はブロッコリーの完全な力に目覚めていない」
「ブロッコリーの力って何なんですか!? まず鳥になるのを目指す前に、人間になるのを目指してほしかったですね!」
「鳥になれば、頭上を素通りできるだろう?」
「ま、まっとうな作戦っぽいことを……いえ、ダメですからね。町の中でブロッコリーに戻ったりしたら、結局やばいことに変わりませんから」
いきなり鳥がブロッコリーなったら、幼子にとってトラウマものだろう。大人でもトラウマものだ。
「そうか。小さい鳥になって、下からスカートを覗きこもう作戦は無理か」
「何考えてるんですか!? 少しでもまっとうだと思った私の気持ちを返してください!! 鳥になったらスカートを覗きたいとかいう人初めて見ました! 鳥になったら絶対地面におろしませんから、覚悟してください!!」
いいですか、と呆れた調子で続けるキャロル。不純なブロッコリーに、彼女は言い聞かせる。
「町の中にロリコンブロッコリーでも、合法に入れる方法があります。それは従魔として登録することです」
「従魔?」
聞いたことない単語だ、と首を捻るブロッコリー。横に捻ったせいでグシュっと茎から変な音がしたが、ブロッコリー的には平気らしい。強い。
「従魔というのはですね。人が手懐けた魔物や、従えた生き物を言います。例えば、物を運ぶ小地竜や、狩りに役立つ灰狼、金持ちの飼うペットとかですかね。とりあえず従えてたら、大抵は従魔です」
従魔を従える者はテイマーと呼ばれる。
従魔の定義はテイマーギルドという組織が詳しく決めていて、家畜は従魔ではないだとか、色々あるのだが、キャロルの言う通り従えたら大体が従魔だ。
「ふむ、吾輩がその従魔とやらになればいいのだな? そうすれば、中に入れると」
「そうです。従魔とは、従えられているから従魔。最低でも従えたものが周りの人間を襲わないのが条件です」
「うむ、それなら簡単だ。吾輩はブロッコリーの中でも、特段知能が高い。だが、一つ問題がある」
「うっ、やっぱり従魔扱いは嫌ですよね。すみません、ブロッコリーさん……」
従魔とは従えられる存在。曲がりなりにも人? である可能性が少なすぎるけどあるブロッコリーには、屈辱だろう事が察せられる。
年上? かどうか分からないが、町に入るためとはいえ、外聞だけでも上下関係を明確に決められるのは、嫌な感触だろうとキャロルは思う。
「君に所有される扱いなど、興奮する。テンションが上がって仕方がない」
「ダメだ。このブロッコリーダメですね! 変態じゃないですか!! ……元からか」
「では従魔作戦で行こうか! よーし、歌って踊るぞぉー!」
「待ってください! 何を、何をするつもりなんです!? ブロッコリーさんは黙ってたらいいですから、私が何とかしますから!! お願いだから変なことしないでくださいね!!」