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旅は道ずれブロッコリー

 黒竜、バーベキューになる! 

 スライスされた肉を金属の杖にぶっ刺して、魔法の火で炙る。金属の杖から伝わる熱と外からの熱で満遍なく火が通り、肉は程よい焼き加減となる。

 味付けはキャロルが常備している岩塩のみだ。ナイフで粗く削った岩塩を振りかける、豪快な調味。屋外のサバイバルでは、これが極上の料理となる。

 焼いた巨大な肉の塊に岩塩を掛けたものを、ナイフで食べやすい大きさに分けて口にすれば、シンプルイズベストの意味を口で味わえるだろう。

 都会では滅多に食べられない黒竜の味に、キャロルは舌太鼓をうった。疲れた体に、肉が沁みる。力溢れる竜の肉は、一回食べないとグルメを名乗れないほどの、メジャーな食材。

 肉そのものの濃厚な旨みが、キャロルの体に活力を与える。おもわずほおが緩んだ。

「やっぱり黒竜のお肉は美味しいですね」

「ああ、この味は病みつきになるな!」

 ブロッコリーも黒竜を食べていた。生で、鱗ごと、頭から、バリボリっと。

「……味、分かるんですか?」

「うむ、ドラゴンって感じの味だ。この固い部分の歯触りと肉の食感が、いい具合に、こう……ハーモニーを奏でている。いうなれば、食のオーケストラチックな、甲高い、何かが、いい感じに、いい感じに美味い!」

「下手くそですか。というか、ブロッコリーってドラゴンのお肉を食べるですね。もっとこう、水だけ啜ってれば満足する生き物だと思ってました」

「そんな訳ないだろう! 土も食べたい!」

「あっ、ブロッコリーっぽいこといいましたね。少し感心しました」

 ガッツリと食事をとった二人。黒竜をブロッコリーが倒した後、キャロルはブロッコリーに礼を言うとすぐに下山しようとしたのだが、それをブロッコリーが止めたのだ。

 そんなフラフラでどこに行く? せめて食事をして行け、と。

 そう言う訳で、二人は仲良くドラゴンイーターになっている。お肉美味しー! となっている可愛らしいキャロルと違って、ブロッコリーの方は骨も肉も丸ごと口にして、血がブシャーっとなっているが気にしてはいけない。

 そうとも、捕食とはそもそもグロテスクなものなのだ。喰らい尽くす、それこそが生きる秘訣。ブロッコリーは捕食者なのだ。

「キャロル。いや、マイプリンセス。次の候補に向かうと言ったな」

「ええ、その通りです」

「やはり……君は吾輩のマイプリンセスであったか」

「違います! 肯定したのは後者の方です! 勘違いしないでください、ブロッコリーさん!」

「残念だが、ブロッコリーさんではない。お兄さんだ。……それでだな、キャロルはお姉さんの呪いを解くために、次に向かうのだろう?」

 いつになく真面目な調子で、ブロッコリーが尋ねる。真面目なブロッコリーってなんだよ。

 彼の目を見て……どこに目があるか知らないが、目線を感じてキャロルは見つめ返す感じで問に答えた。

「そうですよ。何がっても、私は諦めません。お姉ちゃんを助けるために、呪いを解くだけです」

 キャロルの目は、決意にみなぎっていた。黒竜に殺されかけても、歩くブロッコリーに出会っても彼女の決意は変わらないのだ。凄い。

「吾輩も連れて行ってくれないか? きっと君の役に立つだろう」

「ブロッコリーさんが? 私の旅に?」

 キャロルがブロッコリーを連れて行くことに、不満は余りない。ブロッコリーだが、話は通じるし、ドラゴンを倒せる強さもある。

 だが、キャロルにはブロッコリーが何故、自分について行きたいと思うのか、それがわからない。

 ロリコンなどいっていたが、本当なのだろうか。ロリコンだけでも業は深いと思うが、それが人間と植物の異種とは業が深すぎないか。こいつ超がつくほどの変態じゃないか。キャロルがそう脳裏で思考した所で、ブロッコリーが天を仰ぐ。

 空は霧に隠れて見えない。

「吾輩が目覚めたのは、キャロルに会う少し前だ。その時は地面に生えていたのだがな、それ以前の記憶がないのだ」

「ええ!? なんで、生えてたのに歩きだしてるんです!? あなたブロッコリーですよね!?」

「うむ、それはブロッコリーだからだ。吾輩の知るブロッコリーは、走って跳ねて飛べる」

「飛べる!? 飛べる!?!?」

「だが、そんなことしか吾輩は思い出せない。自分が何者か、家族はいたのか、なぜ記憶を失っているのか、エリンギって何なのか……吾輩には、分からないのだ」

「ブロッコリーさん……」

 悲しそう? な顔でブロッコリーが唸った感じがした。

 キャロルには分からない、記憶を失いうという意味。その心中はいったい何が渦巻いているのだろう。何もかもが不明で、暗黒に包まれているのは、とても不安なのことではないのか。

 自分が記憶を失ったら、その時にキャロルは平静が保てる自信がない。

「まぁ、そういうのはどうでもいいんだが」

「良いんですか!?」

「うむ、ぶっちゃけ記憶はどうでもいいのだ。いつか勝手に思い出すだろう。そんなことより、問題は今なのだ」

「今、ですか? この土地には、ミミズがいないとか、そういう?」

「違う! 吾輩を何だと思っているのだ」

「ブロッコリーですけど? ブロッコリーですよね?」

「その通り。こういう記憶を失った時、ブロッコリーは何をすればいいのか分からないのだよ」

「だから、ですか? だから私についていきたいと?」

 こくりと、ブロッコリーが頷く。

 ブロッコリーは記憶がないという五里霧中の霧の中で、道しるべが欲しいのだだろうかと、キャロルは思う。

 一歩だけでいい、前に進むための、キャロルというなの道しるべが。きっと頼れる糸は、偶然出会った自分だけなのだろうと。

「うむ、吾輩がロリコンだから、君について行きたいのだ」

「違うじゃないですか!! 記憶喪失の下りは何だったんですか!! 醸し出した悲壮感に謝ってくださいよ! この茎野郎!」

「褒めなくてもいいぞ。吾輩は紳士なのでな」

「褒めてないですよ、貶してるんですよ! そうですか、茎野郎ってブロッコリーにとって褒め言葉なんですか。絶対使わない豆知識が増えましたね」

「豆だけにって? 残念! 吾輩はブロッコリーでした!」

「やかましいですよ! 緑、この緑め! 緑ぃいい!!」

 こうしてキャロル・アンフィフィは、ブロッコリーと出会いを果たし、彼を手なずけた? のである。


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