ブロッコリーVSペルカン
ブロッコリーは天井と床が崩壊した時、羽を生やした。鶏天使姿。鮭怪魚姿、光踊人姿と並ぶ、フォルムチェンジの一種だ。
この形態は空を飛べる。セラリーを瓦礫から守るように抱え込み、キャロルの所に行こうとした時、問題が起きた。
「まさか、再開するとはな! ブロッコリー!!」
「貴様は! あの時、キャロルを覗いていたパンツ泥棒!!」
「違うわぁ!! あんな小娘などに、私は興味などない!!」
空か降って来たのは瓦礫だけではない。瓦礫に混ざって、ペルカンも飛び込んで来た。ブロッコリーを見つけて、加速してきたようだ。後ろには元海賊の吸血鬼が落ちてきているのが見える。
「ひゃああああ!! きゃあああああっ!!」
ペルカンが落ちてきたのと同時に、血晶武具で槍を作って突撃してきた。槍の穂先はセラリーの顔面すれすれまで来ている。ブロッコリーがセラリーを抱えていない、左手で止めてなければ、セラリーの頭は穴が貫通していただろう。
ブロッコリーが力を込めて、血晶武具の槍を破壊する。それを見て、忌々しげな表情をするペルカン。
「こうもたやすく我が槍を砕くとは、やはり貴様ただのブロッコリーではないな!」
「その通りなのである! 吾輩はブロッコリーにしてロリコン。ただのではない。変態のブロッコリーなのだ!」
「違うわぁ! くそっ、何だこいつは、頭がおかしいのか! いや、頭がおかしいんだろうなぁ! どうみても脳みそが入っていまい!」
「人の心は胸の中にある! 脳みそは要らぬ!」
「ほざけぇ!! 主に頭の中身を疑われたうらみ、今ここで晴らす!!」
今のペルカンには勝機がある。少なくとも、彼はそう考えた。ブロッコリーがかばっている女性。彼女を見捨てられないとすれば、それは大きなハンデだ。不確定要素は消すに限る。ここで、このブロッコリーを消して、人生の汚点を消す!
ペルカンの背中に、蝙蝠の羽が生えていた。ブロッコリーはセラリーにも耐えられる速度で、落下している。それに速度を合わせて、ペルカンは猛攻を仕掛けた。
血晶武具で次々に武器を生み出し、それが身体を突き破って自動的にブロッコリーとセラリーを狙う。
ブロッコリーは、自身を守りはしない。刃が当たろうと、彼は無傷だ。だが、セラリーは守らないと死ぬ。左手で蠅でもはたくかのように、血晶武具を砕いてセラリーを守る。
両手がふさがっているので、ブロッコリーは羽を上手く使ってペルカンに攻撃しようとするが、簡単に避けられた。相手もまた、数千年生きた上位吸血鬼、ハンデのおかげで全力を出せない単調な相手の攻撃など、当たりはしない。
「やはり血晶武具では傷を与えられんか。魔術も通用しなかった。ならば、次は呪いだ!」
ペルカンが自分の血を媒体に、呪いをくみ上げていく。
傷の呪血。効果は単純明快、痛みを与える呪いだ。呪いを入れ込んだ血を、血晶武具で血の鎖にする。
「バインド!」
呪いをこめた鎖が、ブロッコリーを絡めとらんとする。ブロッコリーはそれを、わざと左手で受け止めた。
「かかったな! 呪われろ、ブロッコリーが!! 苦しみ、苦しめ、苦しんで死ね!」
呪いの具現となった黒い靄が鎖から溢れだす。それをブロッコリーは、ただ一息で払った。
「ふんっ!」
ばふっとあっさりめの音がして呪いは、はじけ飛んだ。
「な、なに!? これも通じないのか!?」
「残念であるが、野菜には野菜でしか勝てない。お主は、勝負の土俵にも立ってないのである」
左に手に絡まった鎖をブロッコリーが引っ張る。血で作り出した鎖は、ペルカンの腕から伸びており、自然とペルカンが引っ張られた。
引っ張られた先はブロッコリーの真正面だ。そこにブロッコリーの丸太の様な足が、蹴りとなって繰り出された。
「がっふぉっ」
ペルカンの腹に、蹴りが炸裂する。激痛と衝撃がペルカンの中に駆け巡り、ブロッコリーの反対方向へと、蹴り弾かれた。
鎖をぶっちぎって、飛んでいくペルカン。壁に激突し、埋め込まれた。壁画!
「ひぁああああ!! ……はっ!」
戦っている間に、一番下へとたどり着いていた。ふわりとブロッコリーが柔らかく着地する。
続けて元海賊の吸血鬼たちが、落下してきた。受け身も取れずに墜落していく。
「うむ……床に下ろしても大丈夫であるか?」
「え、ええ。大丈夫かしら」
ゆっくりと床、というよりは瓦礫の山に降りるセラリー。小声でぼそっと漏らした……、と言っていたがブロッコリーは聞かないふりをした。気遣いでもあるし、何より興味がなかった。彼はロリコンだった。
「ど、どうする? ブロッコリーだぞ? こいつを俺らは倒さないといけないのか?」
「む、無理だろ。ペルカン様が負けてたぞ。新米吸血鬼の俺らが立ち向かっても、瞬殺されるだけだ!」
「マヨネーズかけたら、うまそうだな……。野菜食べてぇ」
落下してきた元海賊たち、彼らは吸血鬼の再生力ですぐ立てるようになった。海賊だっということで戦闘慣れしてたのも良かったのかも知れない。
彼らは上司から命令を受けている。邪魔者排除。
上からの命令は絶対だ。命令は実行しなければならないが、ブロッコリーに勝てる気がしない。羽の生えたブロッコリーってなんだよ。
「うむ、吾輩に敵意はない。今すぐ去るのならば、追いかけはせぬ」
そこにブロッコリーが声をかけた。元海賊たちが、ほんの少し希望を見た顔をする。
だが、それも束の間だった。突如上から降ってきた剣に、一人の元海賊が貫かれる。
鋭い突起がついた血で出来た剣。その剣の名は、吸液鋭鎌。持ち主の名は、ペルカンだ。
「死ねっ! 主の命令を実行しようともせぬ愚物は、私の糧となってさっさと死ね!」
吸液鋭鎌は、相手の血を吸う形をしている。本来ならば首筋に牙を突き立て、血を吸う過程を、突き刺すだけで省略する。
血を吸収し、ペルカンは血の力を回復させる。先程の蹴りで半分ほどの血の力をぶち壊された。一人の元海賊の血を全て吸いとったぐらいでは足りない。
「……!!」
声も出せず、血を全て吸い取られ、元海賊は灰となって散る。ペルカンは次の元海賊に剣を突き立てながら、宣言した。
「お前たち、あのブロッコリーを殺せ! いいか、多方面から攻めて、常に女も危険に晒すんだ。常に攻め続けろ!」
上の吸血鬼から、直接命令が下されたことによって、元海賊たちが動く。本人たちが拒否しても、血の呪いにより勝手に体が動くのだ。
「外道であるな。女の子にモテまい? そんなのだから、パンツ泥棒に走るのである」
「戯言を! 口がないのに、どこからそんな言葉が出てくる。ふざけやおって!」
大渦の冥犬は海の支配者とまでいわれた海賊。下っ端といえども、軍人の様に鍛えられている。そこに吸血鬼の血の力が加わり、勢いを増して元海賊たちが襲い掛かって来る。
「セラリー殿! 吾輩から離れるなよ!」
「あ、あわわわわ!! わ、分かったかしら!?」
左手でセラリーを抱き寄せ、かばうようにして立ち回るブロッコリー。生やした羽で周りの元海賊を薙ぎ払う。
元海賊は巨大な羽にぶっとばされ、次々に脱落していく。
「ぬっ!」
力が膨れ上がるのを感じるブロッコリー。ペルカンからだ。奴は血の力を練っている。
ブロッコリーを滅ぼすために、全力を出そうとしているのだ。情けねぇ。
「手下を差し向けている間に、力を練り込む。そして手下ごと吹き飛ばそうという算段であるか。何とも、ゲスであるな」
「何とでもいえ、もう遅い!」
練り上げられた血が解放されていく。体中から溢れた血が作り出すのは、兵器だった。
一言で表すならば、それはガンキャノン。四足の脚立が巨大な筒を支えており、開いた砲口が赤と黒の稲妻を充填している。
五メートル以上にもなる血の大砲が、大気を震わせた。
「私の最大威力の技! 血晶武具・呪血大砲塔! 野菜屑一つ残さず、大地の焦げとなれ! 失せろ、ブロッコリィィイイイイイイイ!!」
砲にひびが入る。デカすぎる力に耐久度が追い付いていないのだ。そして、この兵器の場合それでいい。何度も使う必要はない。ただ一度、目の前の敵を滅ぼせばいいのだから。
「あわっ、やば、やばいかしらぁ!? あわわわわ!!」
恐怖に慌てるセラリー。大気が揺れ、ブロッコリーが何かする前に、砲口から光が放たれた。
光といえど、赤と黒で出来た稲妻は、とても禍々しい。人を丸丸のみ込んで余り余る攻撃範囲。広がりがら、電撃は大地を抉って進む。
「ッ!?」
避けられない。死ぬ。
セラリーが覚悟を決めれず、再びお漏らししていた……その時。
世界が大きく揺れた。少なくとも、セラリーとペルカンにはそう感じられた。
歪んでいる。割れている。曲がったガラスの様な破片が、花びらの様に宙に浮かんでいる。
砕けているのは、時間と空間。セラリーが呆気にとられたまま、前を見ると黒と赤の稲妻の動きがゆっくりとなっていた。
「不可能破壊の破壊者。吾輩の必殺技の一つである」
砕けているのは世界。曲がったガラスの様な欠片の中を、ブロッコリーが進む。この必殺技の前では、吸血鬼でも吸血鬼の最大威力の技でも、風に吹かれたスカートでも、時でも空間でも、通常通りには動けない。
ペルカンは悟る。これを前に一度、浴びたことがある。あの時とは、規模が違うから気づかなかったのか。
これは……ブロッコリーに背後を取られた時の技だ。あの時、一瞬の違和感をペルカンは覚えた。あれは空間と時間を砕き、世界がスローになっている間にブロッコリーが裏に回ったのだ。
「お前に教えてやる。吸血鬼が下で、ブロッコリーが上。これが自然の摂理だ」
渾身の一撃。止まる世界で、助走を付けた拳が赤と黒の砲弾に放たれる。
ただのパンチ。だが、ただのパンチではない。ブロッコリーが放った一撃だ。
槍が貫くかの如く、力の流れが光を貫く。
砕けていた破片が徐々に収束していき、世界が速度を取り戻す。
光が砕かれ、その先にある半壊の呪血大砲塔がすべて破壊される。そして呪血大砲塔を生み出し、その巨大さゆえに固定砲台の一部となっていたペルカンも、衝撃を真正面から受け止めることになる。
「ぐ、ぉぉおおおおお!!!」
時間も空間も元に戻った世界。ペルカンの体は吹き飛ばされ、地面に血の跡が残るのみ。
しかし、そこから蘇るのが、上位の吸血鬼というもの。不死だと比喩されるのは、伊達ではない。
「ま、まさか。あんな芸当が……。本当に我が主を倒せ――」
血が膨れ上がり人の形を作り出した、ところでその喉にブロッコリーの手が差し込まれた。
コップを掴むように、ペルカンの喉に手を掛けながら、ブロッコリーが尋ねる。
「聞きたいのであるが、お主は何なのかな? 何の目的で、こんなことをするのだ。パンツ泥棒にしては、派手だと思うが?」
「……いいだろう、教えてやる。我が主はナーハレスの武具を探しておいでだ、私は懸念があってついてきたにすぎない。そしてお前といる小娘、その姉に呪いをかけたのは我が主だ」
「なんだと!? それは真か!?」
「懸念は実現するかもしれない。だが、我が主は私とは比べ物にならない強さを持った、吸血鬼の王! お前でも勝てるとは思わんことだな、頭でっかちのブロッコリーが!!」
ペルカンが小さく笑った。同時に、彼の身体が膨れ上がる。
「自爆か!」
その次の瞬間、血の爆発がブロッコリーを襲った。