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ブロッコリーとバーベキュー

いい区切りが見つからなかったので、多めです。

減らすより、多い方がいいよな! そういうわけで大盛りですぜ。

 夕暮れの砂浜。キャロルたちは、とある宿に併設されたバーベキュー会場にいた。

 あれから、遺跡探索の許可を冒険者ギルドから貰い、探索は明日からということに決まった。

 英気を養うとはしゃぐ理由を適当につけて、宿の砂浜でバーベキュー大会を開いている。

 バーベキューは宿の食べ放題コースで、キャロルたちの他にも楽しんでいる者たちがチラホラ見られた。

「うはーっ、ジューシー! とってもジューシーですよっ! ブロッコリーさんが焼く肉は、絶妙な加減で絶品です! ソースの種類も豊富で、いくらでも食べれそうですよ!」

 キャロルが年相応にきゃっきゃとはしゃいでいる。フォークに刺しているのが、700グラムの分厚い海大蛇(シーサーペント)の肉じゃなければ、もっと微笑ましかっただろう。でも沢山食べる女の子って可愛いんじゃないかな?

 炭火と金網で焼いた分厚い海大蛇(シーサーペント)の肉に、ソースピッチャーからトマトとビネガーを混ぜたバーベキューソースを垂らす。そのまま豪快にかぶりつくと、三分の一がキャロルの口内に消えた、続いて二口目、三口目であっという間にお肉は胃の中へ。

 かぶりついた肉からは、炭火焼き独特の味が広がり、甘みと酸味のソースがその味をさらに高い物へと昇華させる。ビールが欲しくなる味だ。

 一説によると炭火焼きで焼き肉をすると、炭火から遠赤外線が出ておいしくなると言われている。つまりどういう事かというと、炭火焼でバーベキューをするとおいしいってことだ。

「うむ、バーベキューのコツは焼き加減。戦いは焼く前から始まっている。炭をスリーゾーンファイアに配置し、完璧な黄金比率で火を出現させるのだ。そこから先は、食材に合わせた焼き加減を観察眼からの情報を元に……」

 焼き肉職人ブロッコリー、彼は海大蛇(シーサーペント)の骨をボリボリ食べながら、焼き肉のコツを語っていた。煎餅の様に食べられる骨。音が小気味いい感じに流れているが、少女の腕よりもぶっとい骨をゴリゴリ食べてる姿はホラーでしかない。セラリーは、ブロッコリーは骨も食べるとメモした。ブロッコリーってなんだよ。

 メモを終えて、ちらりとセラリーが別方向へ目を向ける。

 その先にはちっぱい教団が焼き肉に励んでいる。だが、彼らの視線は焼き肉を見ているようで見ていない。彼らが見ているのはそう、ちっぱいだ。キャロルのちっぱいをオカズにして、焼き肉を楽しんでいる!

「キャロル君、胸部をがん見されてるけど、いいのかしら?」

「いいじゃないですか、別に目からレーザーが出てる私を貫いてるわけでもありませんし。別に胸は見られても減るもんじゃないですからね」

 おおっ、なぜ胸は見たら減らないのか! とキャロルの言葉で嘆く教徒。

「肝が据わってるわね。さすがは海賊相手に一歩も引かなかったキャロル君という所かしら? 私、結構プロポーションがいいって言われるのだけど、こうも蚊帳の外だと自身無くなるわね」

 この団体では貧乳が上で巨乳が下だ。ブロッコリーも何回かキャロルにパンツ見せてパンツ、とせがんでいたがセラリーには一切こなかった。

 ぐわーっと樽ジョッキでビールを煽る、セラリー。彼女は呑兵衛だった。未だ酔ってないが、ビールの味でテンションが上がったので、ちょっとエッチなセクシーポーズをとる。

 伸びをするようにビールジョッキを持った手を上に掲げると、纏わりつくような黒ドレスがより一層セラリーの肉体を強調させた。

 半目で周りの様子を窺うと、ちっぱい教団の方から声が聞こえる。「あれは胸パッドだろうか?」「いや、私の瞳がナチュラルだと告げている」「非常に残念だな。なぜ、胸パッドではないのか」「そんなことより、キャロルさんのちっぱいを拝みませんか? ただでさえ美味しい焼き肉が三倍は美味しく感じられますよ」

 パイナイン教皇が何故か、焼き肉を焼きながら教徒たちと談笑している。話題はキャロルのちっぱいについて。とうのキャロルはバーベキューに舌太鼓をうっており、全然気にしていない。セラリーは何故か、負けた気がした。

「……ビールが美味しいわ」

「うむ、焼き肉とビールは親和性がかなり高いのである。セラリー殿は小食の様であるからな、ミニブロックに焼いた肉をおつまみにするといい」

 一口サイズ(五センチ×五センチぐらいで、決してキャロルが基準ではない)のお肉を、セラリーは口に放り込む。ビールが進む味付けだった。


***


 時は少しだけ進む。夕日は空の向こうへと進み、代わりに闇がやってきた。

 月が照らす夜。場所はフェーリエン諸島から半日の沖合。

 海洋に一つの船。いや、一つだった船が浮かんでいる。それは二つに折れた海賊船だった。

 中折れしている海賊船の断面は、すぱっと斬られたものではなく、無理やり折られて乱れているように見えた。

 この船は大渦の冥犬(ストロムケルベロス)が保有する海賊船の艦だ。百人が余裕で乗れる大船だった。

 それが、真ん中から折れている。原因は、拳を叩きつけたことによる、単純な物理破壊。

 およそ人間の仕業ではない。そして実際に人間の仕業ではなかった。

「見つけましたぞ、我が主よ!」

 船が真っ二つに折れて、Vの字に浮かんでいる。その谷間とでもいうべき、真ん中の海に沈む甲板部分。そこに一つの影が舞い降りた。

 蝙蝠から姿を変えた影、上位吸血鬼のペルカンだ。彼は斜めになった甲板で、無理やり片足をついて跪く。

「おつくろぎの所、失礼します。どうしても伝えたい事がありまして、急遽ここに来た次第です」

 この船には複数の人がいる。元海賊とペルカンの主だ。そしてペルカンが頭を下げるのは、ペルカンの主に対してのみ。

 主は海の中でくつろいでいた。真っ二つに割れた船を魔術で固定し、折れたVの字の真ん中で、海水を湧かせて浸っている。簡易湯舟だ。スケールがでかい。

 荒々しい金髪、鋭い三白眼、鍛えられたスマートな若い肉体。

 全裸で浸かっているが、その威圧感は半端ない。吸血鬼特有の赤い目が、ペルカンを覗いている。

「とりあえるご苦労といっておこうか、ペルカン」

「はっ。我が主よ。お褒めにあずかり、至極光栄です」

 吸血鬼は完全縦社会生物。その社会を構築する必須要素が、血には逆らえないというのもの。

 血が薄い者は、血が濃い者に逆らえない。吸血鬼が人の血に自分の血を流し込み、吸血鬼とした場合、新たな吸血鬼は自分を吸血鬼にした存在に服従する。

 これは単純に力の差があるということもあるが、血が呪縛となるという理由がある。血が繋がっている場合、血の濃い者に血の薄い者は本能的に差から得ないのだ。

 だったら、一番血が濃い者はいったい誰なのだろうか。それが真祖と呼ばれる存在だ。

 吸血鬼の血を辿っていくと、必ずオリジナルの血である真祖に到達する。

 そう、この真祖こそが吸血鬼の頂点。

 ガナッシュ・オリジン・エナペトシュ。世界に二桁といない吸血鬼の真祖、常闇派閥の王だ。

 魔術で海水風呂に浸かるガナッシュ。船板に肩をのっけてくつろぎポーズを取っている。

 彼はペルカンに向かって、不機嫌そうに呟いた。

「褒めてなどいないぞ、ペルカン。そもそも、お前には命令を出していたはずだが? その命令の中に、今の状況が含まれているか? くだらん内容を言いに来たのだとしたら、どうなるか分かっているんだろうな?」

 ペルカンはガナッシュの血を貰った吸血鬼だ。血の呪縛により、相手には一切逆らえない。実力差があれば、逆らえる場合もあるが、ガナッシュは怠けて堕落した吸血鬼ではない。もし、ガナッシュがペルカンの血に命令すれば、例えそれが自害せよとの命令でも逆らえないだろう。

 ペルカンが冷や汗を垂らす。4500年という長い年月、彼はガナッシュに従ってきた。だが、いまだにガナッシュの目にはなれない。滅多な事で自分をガナッシュは殺さないだろうが、絶対ではない。

 ブロッコリーが危険なんです! と言ったら、海の底にダンクされるかも。そう思った、ペルカンはとりあえず尋ねることにした。

「はっ、もちろんでございます。……その前に、お聞きしたいことが。我が主よ、フェーリエン諸島にナーハレスの武具を探しに行くと言われましたが、それは今も変わらないので?」

 ガナッシュは強さを求める吸血鬼だ。彼の行動は全て強さの向上に当てられる。ナーハレスの武具を探しているのも、強さに繋がるから。

 ガナッシュは世界を放浪し、日々強くなるための力を求めている。ナーハレスの武具の噂を聞き、それを探しに行くと言ったのが約二週間前。ガナッシュの実力なら、とっくに遺跡に辿り着き、探索をすべて終えるかその最中でないとおかしい。

 こんな海の真ん中で、海水を風呂にしては言っている理由は何なのだろうか。もしかして、ナーハレスの武具のある遺跡に行かないのか。主は気まぐれだ。唐突に目的を変えることは、ままある。

 もし彼が遺跡に行かないのであれば、ブロッコリーと鉢あう可能性はゼロ。進言をしなくてもよいと、ペルカンは思っていた。できればそっちのほうがいい。

「ああ、もちろんだ。フェーリエン諸島に行く最中、鯨の超巨大種(ギガス)と遭遇してな。戦っていたら、時間がかかっただけのこと。この海賊船もたまたま出会ったら、攻撃してきたから沈めただけだ」

 おい、とガナッシュが後方に待機していた元海賊の一人を呼びつける。元なのは、ガナッシュが海賊を吸血鬼にしたからだ。彼は海水の中の不純物から、ワイングラスを作り出す。そして元海賊に向けて命令する。

「心臓の血を注げ」

 その言葉に元海賊は顔を顰める。言葉を発することは禁じられているため、声は出ない。

 元海賊が余計な事をする前に、勝手に体が動いた。右手が腰の剣に向かっていき、剣をすらりと抜き出す。元海賊の顔が恐怖に歪んだ。されども、命令によって体は止まることなく、一息に自分の心臓を剣で貫いた。

「ぐふっ、ぐっ」

 くぐもった声が漏れる。本来なら叫んでいただろうが、言葉を発するなという命令がそれを最小限に抑えたのだ。元海賊が激痛に苛まれる様子を、つまらなそうに見ながら、ガナッシュは心臓からこぼれる血をワイングラスに注いだ。そのまま口に運ぶ。

「まずいな。まぁ、こんなものか。俺の血で吸血鬼にした劣等種といえども、所詮は雑種。栄養源になるだけマシか」

 吸血鬼は不死と呼ばれるほどの再生力を持つが、生まれたとなればその再生力も低い。心臓から血を流し過ぎて、元海賊がその場に倒れる。主の機嫌をそこなわないよう、他の元海賊たちが汚いものでも掃除するかのように、それを引きずって行った。

「我が主よ、三か月ほど前に血の贄餐(グラートサイン)を掛けた小娘のことを覚えてらっしゃいますか? 紫色の瞳が特徴の金髪の娘でございます」

「ああ、覚えている。そうだったな、そろそろ収穫時期か。ナーハレスの遺跡を探索したら、食べに行くとするか」

 畑の隅に植えた野菜がそろそろ実ったと言われたかのように、気軽な調子でガナッシュは答えた。キャロルからしてみれば、姉が死に瀕する大事態だが、彼からしてみれば上級の餌に関する一つのことにすぎない。

「その小娘の妹、キャロルという小娘なのですが。そのものがいま、姉の呪いを解くためにナーハレスの武具を探しております。おそらく、すでに遺跡の方へと近づいている頃かと」

「ほぉ? あの小娘は俺の力を高める贄として、相性が良さそうだったからな。その妹となれば、これもまた質のいい贄となる可能性がある、か」

 ガナッシュは少し機嫌が良さそうに思案した。ペルカンが伝えに来たことを理解したという顔だ。だが、ペルカンからしてみれば、ここからが本題。足を震わせながら、彼は口を開いた。

「そ、そのですな。その小娘が連れている者。その者が……そのブロッコリーが……」

「は? ブロッコリー?」

「ええ、こうブロッコリーとしかいいようがないような。ブロッコリーでございます。そのブロッコリーが主に、仇名す可能性があると。主に匹敵する可能性があると、私は思いまして、忠告に参った次第でございます。あのブロッコリー得体が知れなかった。ブロッコリーは危険なのです!」

 まるで歯が立たなかったブロッコリーを明確に思い出し、ペルカンが進言する。

 ガナッシュはそれを哀れなものを見るかのような目で見ていた。

「お前……疲れてるんじゃないか? そこいらの吸血鬼を餌にしてもいいから、回復に努めろ」

「いえ、私は錯乱したわけではありませぬ。信じてくだされ!」

「ああ、分かった分かった。分かったから、寝ろ」

 しっしっと払う動作をするガナッシュ。ブロッコリー、ブロッコリーと躍起になってる部下を見て、呆れ顔だ。

 これ以上いってもも聞いて貰えないと思ったペルカンは、渋々そこを後にする。

「野菜ダイエットにでも挑戦したか? 明らかに頭がおかしくなっている。……まぁ、どうでもいいか。吸血鬼だから、ほっとけば治るだろう。それよりも、キャロルだったか? 楽しみが増えたな」

 吸血鬼はその不死性ゆえに、怪我や病に無頓着だ。数千年生きていれば、どこかしら狂っていく部分はあるので、ガナッシュもいちいち気にしない。

 ガナッシュがグラスの血を煽る。鋭い犬歯が、唇の合間から見えていた。


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