ブロッコリーとちっぱい教団
いい区切りが見つからなかったので、多めです。
もーりもりですぜ。
「ま、待ってください!! なんですか、これ!? なんですか、これ!? ……なんですか、これ!?!?」
思わずキャロルは叫んだ。なんかこの空気に水を差すのも悪いか? と黙っていたが、黙り切れなくなった。突っ込まずにはいられない。キャロルの悲しい性だ。
「なんで、感動の場面みたいな謎の雰囲気を醸し出してるんですか!? ただの変態と変態が意気投合しただけですよね!? あと、ブロッコリーさん、私の胸しか褒めないのはどうなんです!? 私がちっぱいだけのちっぱい人間見たいじゃないですか!?」
「いや、そんなことはない。パンツも魅力的だ。パンツ万歳!! パンツ人間万歳!!」
「さっきのは比喩です! 私はパンツ人間じゃないし、なりたくありません!」
パンツを愛する人と、誰かのパンツを愛する人は、根本的に違う。布フェチと真っ当? なフェチ。そこには峡谷よりも深い溝がある。ブロッコリーは後者だ。パンツも(物理的に食べたら)美味いが、やはりキャロルのパンツと他のパンツでは圧倒的な差があることは簡単に察せられる。
「……そういえば、なんでこんなことしてたのかしら?」
全裸がダンスしてくるような嵐が過ぎ去った後、セラリーが口ずさむ。
その声を聞いて、今日はいい一日だった! と冒険者ギルドから、ちっぱいを探す旅に出ようとしていた、ちっぱい教団者たちがこちらに戻って来る。
「そうでした、そうでした。私としたことが、すっかり忘れていましたよ」
パイナインが腰に差していた刃幅の広い剣を抜く。
剣の素材は神秘的な水色の輝きを放つオリハルコン。全体がオリハルコンで出来ているだけでも、とんでもない値打ちになる。だが、オリハルコン以上の価値を示すものが、刃に数字で彫り込まれている。
「聖人ナーハレスが作り出した最高傑作ナンバリグ、その永久シリーズ。これはその54番目……」
刃の側面に彫り込まれた独特な数字表記。独創的な余り人目には落書きにしか見えないアイドルのサインみたいに、くっそ読みにくいが辛うじて54と読むことが出来た。
「え? 本物なんですか!? なぜ、パイナインさんが持ってるんです!?」
ナーハレスの武具、トレジャーハンターやウェポンコレクターがこぞってもとめる伝説の品々。価値からみても、強さから見ても、歴史的観点から見ても、誰もが欲しがることは間違いない代物だ。だが、パイナインが求めるかと言われると疑問に思う。そんなものを買うお金があったら、頭に乗せるブラジャーを買うか、ちっぱいの写真集でも買っていそうな気がする。
しかし次の言葉で、キャロルは疑問の答えをぐうの音も出ないほど理解する。
「その名も、パイスラッシャー!! 我らが開祖、パイレッサーが聖人ナーハレスに協力を取り付け、作り出された聖拳! 別名巨乳殺しと呼ばれるこの剣は、巨乳相手に必ず勝てる奇蹟を携えている! 貧乳の神から受けた使命を果たすため、パイレッサーはこの剣で数多の強敵を打ち破ったのだ!!」
「待ってください!! なんてものを永久にしてるんですか!?」
一見、オリハルコンという材質を除けば、どこにでもありそうなデザインの剣。だがよく見てみると、これまたクッソ読みにくい書いた奴しか自己満足できないような筆記体で、パイスラッシャーと小文字が掘られている。
もしパイナインがいう逸話? が本当ならば、持っている意味は分かった。
キャロルは永久シリーズには、姉の呪いを解く希望として期待してたのだ。パイスラッシャーと同格の武器っていうと、何かあれだった。ご利益が下がる!!
「そう言えば、どっかで聞いたことがあったようないようなかしら。聖人ナーハレスとパイレッサーがいた時代は、この国の建国初期。確かに、信ぴょう性は有るかも」
「あっ、あるんですか……」
「ええ、その通りです。我らが開祖、パイレッサーは聖人ナーハレスと同じフォフォザット王国建国初期の時代に生まれました。初代王妃であるクラリナ・フォフォザット様のちっぱいを、歌にして褒め称え、指名手配されたという逸話があります」
「それ、逸話何ですか!? よく王妃様を侮辱して生き残れましたね!?」」
「うむ、まごうことなき逸話であるな!! 吾輩には分かるのである。その巨乳殺しがなくとも、パイナイン殿が並々ならぬ強さを持っていることが。おそらく、祖先であるパイレッサー殿も相当の武人。その強さゆえに、減刑されたのではないかな?」
「よくお分かりで。ブロッコリー殿はちっぱいを見抜く慧眼だけでなく、強さを見抜く観察眼も持っておられる。我らが開祖パイレッサーは、建国当時の荒れていたフォフォザット王国の中で、ちっぱいを守るために戦ったことでも有名なのです。賊を退けたり、内乱を収めたりと、身を粉にして戦い、度々王族から頼られていたとか」
「そうなんですか、そこだけ聞いてちっぱいって言葉を引き算すれば、とても偉い人に聞こえるんですけどね……」
すっとパイナインが鞘にパイスラッシャーを戻す。巨乳に必ず勝てる特殊効果はどうかと思えるが、それがなくとも永久シリーズにはもう一つ特徴がある。
永久に朽ちず壊れず、ゆえに永久シリーズ。絶対不壊の性能を持つがゆえに、聖人ナーハレスの死後、ずっと世界に残り続けて有名になって行ったのだ。
キャロルが聞いた話だと、黒竜が踏みつけようと一切曲がらず、海の底に何年沈もうと錆びず、人参を切っても一切欠けない。料理に使ってんじゃねーよ!
パイスラッシャーの材質は、世界一固い鉱石と呼ばれるオリハルコンだ。
材質が剣の全てを決める訳ではないとはいえ、大抵の剣を力任せでも割ることが出来るだろう。しかもこっちは不壊なのだ、オリハルコン対オリハルコンでも勝てる。
さらに朽ちないし錆びないので、手入れを放っておいても大丈夫。
おっぱい相手にせずとも、マジつよいっすねパイスラッシャー。まじ脱帽っすわ。
「聖人ナーハレスは神に愛され、寵愛により奇蹟を授かった。それにより世界最高峰の武具を作れた。そしてそれはまた開祖パイレッサーも同じ。貧乳の神から寵愛を受け、彼もまた奇蹟を授かった」
「……あれ、そう言われるとパイレッサーさんも聖人何ですか?」
「そうねぇ、定義上はそうなるかしら。聖人というよりも、性人だけど」
神なる存在はどれも気まぐれだ。今まで、その存在は確認されてきたが、表舞台に堂々と登板してきたことはない。神に遭遇した人物は限りなく少なく、オスの三毛猫より珍しい。ブロッコリーよりは珍しくはない。
なので神から恩寵を与えらた人間を聖人と呼ぶ、という一応の定義はあるが、サンプルが少なすぎて詳しく定義しきれてないのだ。
「パイレッサーは胸に関する……おっぱいに関する奇蹟を使うことが出来ました。そして奇蹟の行き先の一つが、この聖剣パイスラッシャー。言わばパイスラッシャーは、聖人同士による共同開発の結晶というわけです」
法則? 何それ、おいしいの? な精神で、神が与える奇蹟の力に、常識は通用しない。
仕組みは不明だが、巨乳に絶対勝てる奇蹟の力があるのならば、何故か勝てるのだ。
もっとも、それはその奇蹟に干渉されなければの話。巨乳に絶対勝てる剣を持つ貧乳と、貧乳に絶対勝てる槍を持つ巨乳が、ぶつかり合えば勝敗は分からない。絶対勝てるとかほざいてるが、絶対勝てる訳ではないのだ。
ならばここに更なる奇蹟を加えるとどうだろう。当然、二対一なら、二の方が有利。
その点から見ると、パイスラッシャーは共同開発されただけ合って、とんでもない強さを持つ剣と言えるだろう。名前もとんでもない。
「このパイスラッシャーを我らが開祖、パイレッサーは愛用していました。されど、この剣が彼の信念を体現していたかというとそうではありません。ただ単純に強いから、といる理由でパイレッサーはこの剣を振るったのです。そして彼が、聖人ナーハレスと開発した武具は、これだけではない」
パイナインはまるで、実はあいつの巨乳は胸パッドで、本当は貧乳だったんだよ!! というような真剣な雰囲気で、言葉を続けた。
「永久シリーズ74番、その名も……聖剣プルンティング!! かの剣の力は、胸の操作。貧乳を巨乳に変えることも、巨乳に貧乳を変えることも、自由自在! 天国と地獄が共存する表裏の剣! 私たちちっぱい教団は、聖剣プルンティングを求めて、今日この島にやって来たのです」
ついに明かされるちっぱい教団の目的。彼らもまた、ナーハレスの武具を求めてやってきたのだ。胸を変幻自在に変化させる剣。キャロルはあほらしいと思ったが、隣のブロッコリーが感動している様を見ると、どうやら求めるだけの価値はありそうだった。
「我々は長きにわたり、プルンティングを求めてきました。文献をたどり、ちっぱいを崇め、ちっぱいを拝み、ちっぱいを夢見て。そしてつい先日、この島にあるナーハレスの遺跡に、聖剣プルンティングがある可能性を探し当てた、というわけですね」
パイナインは、修道服の内ポケットから、胸パッドを取り出す。おっと間違えたといって、また胸にしまった。次に取り出したのは、冒険者カードだ。ランクの欄にはSと書いてある。
Bランクから二つ上の実質上位ランクだ。
「私はこう見えてSランクの冒険者。遺跡の探索許可足りえるランクを持っています。後ろにいる教徒たちも、BからAランクの精鋭ばかり」
「この変態達、とんでもなく強いのね。ブロッコリーといい、見た目で判断できないってのは本当に厄介かしら? ブラジャーを被った人間が黒竜を屠ってる姿を思うと……ぷくくっ、笑えて来るわね」
セラリーが何やらニヤついてる。ツボに入ったらしい。キャロルは自分より、この変態が強いと冒険者ランクで認められてると知り、こめかみが引き攣っている。個人的にキャロルは自分の実力をAランクプラス相当と考えている。
例えばAランクの魔物、黒竜がいたとする。これにAランクの冒険者を一人ぶつけた場合、どうなるか? Aランク冒険者一人では、Aランクの魔物と同等と、世間では言われている。
勝つ確率は五分五分、黒竜が勝つかもしれないし、冒険者が勝つかもしれない。
だがこれがAランク冒険者パーティーだとすればどうだろう。四人のパーティーだとしても、同格が四人。黒竜一匹では勝ち目は薄い。冒険者たちは比較的安全に、黒竜を討伐できるだろう。
この強さぐらいが、Aランクプラスだ。言いかえると、Aランクの強さを持つ少数の集団と同等。キャロルは、ソロで霊山の頂上まで言った実力者。強い、強いのだ。
しかし、さらにその上を行くのがSランク。目の前の、パイナイン・クラインクラインは、Aランクプラスをさらに超えるランクに、公式に認めらている。
くやちい、なぜこうも変態ばかり強いのか。もしかして、変態的性癖を生やすと人は強くなれるのだろうか、キャロルはブロッコリーを見てそう思った。
セラリー(Eランク)は、この中で自分が一番弱いと悟り、どういうことかしら? って首を捻っている。
「さきほど、といっても随分時間が立った気がしますが、ミス・キャロル。あなたもナーハレスの武具を求めているのでは? そしてそのために遺跡に入ろうと試み、されどランクが足りないがために許可は下りない。そこで、どうでしょう? 我々と共に、探索をするというのは? 共同探索戦線を我らと共に介しましょうぞ」
俺ら遺跡は入れるんだけど、ちっぱいの君も一緒に行かない? イエーイ! みたいな誘われを受けるキャロル。おそらく自分がちっぱいだから、差し伸べられた手。
だが、善意は善意として素直に受け止めるべきで、キャロルは姉の呪いを解くために藁にもすがりたい思いだ。その手を取らない理由はなかった。ブロッコリーのせいで、このカルト教団のインパクトが緩まったというのもある。危機感の欠如、ちっぱいの台頭。
「お願いします。私の目的は、呪いの身代わりになる盾を手に入れること。もしその力を持つ武具が見つかったら、一回でいいので貸してください。どうしても、呪いを解きたい人がいるんです」
「分かりました。私たちちっぱい教団に、ちっぱいを見捨てるなどという字はありませぬ。それに見た所、ブロッコリー殿は私に匹敵する実力者。共に、頑張りましょう」
がしっとキャロルとパイナインが握手をする。そして、ちっぱいとの共同探索に、信徒たちが湧いた。ブロッコリーも湧いた。セラリーは頭が痛そうにしていた。
「ぅおおおおお!! うぉおおおお!!」
「同盟は今結ばれた! 世界を巡り、ちっぱいを求めてきた。今事の時ほど、充実感を得たことはない! ちっぱい最高!! ちっぱい最高!!」
「我が開祖、パイレッサーはおっしゃった。貧乳に貴賤なし。されど、キャロルさんのちっぱいは素晴らしい! 滑らかさと形あるものの黄金比率を両立されている! 今すぐ、ひれ伏して、拝み倒したいぐらいだ!」
「吾輩もキャロルが、皆に好かれて感動が止まらないのである!」
「ヒカエメパイデス、タニマガナイデス、スバラシキコトデス、パイパイナッシュ、パイナッシュ! あなたに貧乳神のご加護を!!」