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別れ

 パイレッサー・クラインクライン。フォフォザット王国初期に誕生した、男爵家の跡取り。

 彼は人と違った性癖を持っていた。パイレッサー・クラインクラインは、貧乳大好きマンであったのだ。

 彼は山より谷より、なだらかな丘を愛した。幼女、少女、淑女、聖女、たとえどのような女性でもちっぱいこそが正義。ちっぱいに勝るものはないと、そう思っていた。

 だが、周りの男たちは、巨乳好きのデカパイ派だった。周りと差に苦悩……は別にしてない日々。

 誕生日が訪れた日、彼は貧乳に捧げる詩を書いていた。そのとき、奇跡が起こった。彼の身元に一人の神が舞い降りたのだ。

 黒く美しい長髪に、なだからかな身体のお姉さん。滑らかな肌、滑らかな肢体、そして滑らかな胸。

 パイレッサーは一目見て悟った。自分が生まれてきた意味、そして彼女がいったい何者なのか。

「おおっ、あなたが、あなたこそが我らが神。貧乳の神なのですね」

「殴るわよ、誰が貧乳か!! 誰がっ!? ……まぁ、そうなんだけど」

 貧乳の神は、パイレッサーをぶん殴ってからそうおっしゃった。彼女は貧乳でありながら、それにコンプレックスを持つ貧乳の神だったのである。

 貧乳に(こうべ)を垂れるパイレッサー。ここに、ちっぱい教団の元となる地盤が生まれたのだ。

 そして神は小さな胸を掲げて、こうおっしゃった。

「あなたに使命を授けます。いいですか、この世から巨乳を駆逐するのよ! 決して僻んでるわけではないけど、なんかあの脂肪の塊みてるとムカつくから消すのよ! 分かった!?」 

 ちっぱい聖典、第一章、貧乳神との出会いより。続く……。


「続きませんよ!? 続かせませんよ!?」

「そうですか、ここからが面白いのですが……」

「うむ! 吾輩、続きを聞きたいのである! ぜひ、説法の続きを!!」

「ええええええ!! 気になるんですか!? どこに気になる要素が!?」

「まぁ、とにかく私のパイナインという名前は、由緒正しい開祖の名をもじった素晴らしき名前なのです。私はこの名を誇りに思っています」

「吾輩も良い名前だと思うのである! ソウルを体現する名前、これほど名付けられてうれしい名もないであろう」

「おお、分かってくださいますか」

 がしっとブロッコリーとパイナインが握手を交わした。二人は気づいたのだ。

 差異はあれど、彼らは同士だという事に。同じ性癖を共有するものだという事に。

 そこに人間とブロッコリーの差などない。何故ならば、ちっぱいには人間もブロッコリーも関係ないからだ。崇めよ、さすれば与えられん。

「ここに今! 新たなる信徒が生まれた! 信徒ブロッコリーの誕生だ!」

「うむ、皆よろしく頼むのである! ちっぱい最高!」

「「「「「ちっぱい最高!!」」」」」

「ま、待ってください! なに、スムーズすぎる動きで入信してるんですか!? スピード展開過ぎますよ!?」

 混乱するキャロル。その前で、パイナインが修道服から、ブラジャーを取り出した。Aカップだ。

「ブロッコリーよ、我らが信徒の証、薄胸ブラジャーを授けましょう」

「ありがたく頂戴するのである。だが、吾輩は頭には乗せぬ」

 ちっぱい教団内に衝撃が走る。ブラジャーを受け取ったブロッコリーは、ブラジャーを懐にしまう。セラリーが見た所、懐がどこかわからないがとにかくしまった。

 そして高らかに宣言した。

「吾輩、すでに順ずるちっぱいを決めている。頭に乗せるのは、キャロルのブラジャーだけだ!!」

 一瞬の沈黙、そして……教団内から歓声が上がった!

「うぉおおおお!! ちっぱい最高! ちっぱい最高!」

「あなたは我らが開祖、パイレッサーが貧乳の神に人生を捧げたように、その御霊を捧げる勇気があるとおっしゃるのですね!? なんてお方だ、渋い!」

「今日はめでたき日だ。ブロッコリーさんはすでに、悟りの領域に入っておられる。ちっぱいを愛するものと出会えるのもまた、良き出会い。この感謝を、今すぐちっぱいに伝えたい!」

「ヒカエメパイデス、タニマガナイデス、スバラシキコトデス、パイパイナッシュ、パイナッシュ。あなたに貧乳神のご加護を!」

 歓喜乱舞! まるでお祭り騒ぎの様に、ちっぱい教たちが喚き立った。

「静まれぇ!」

 そこにパイナイン教皇の叱咤が飛ぶ。何事か!? と教徒たちは静まり返った。

「……信徒ブロッコリー、あなたをちっぱい教団から破門とする」

「「「「「!?!?」」」」」

 ざわめきが教徒たちの間を駆け巡った。何故? そんな疑問がどうしても浮かび上がる。

「教皇様! お言葉ですが……」

 一人の教徒が我慢できずに、教皇に異議を唱えようとした。

 それを彼は手で制する。ブロッコリーが手で待ってくれの合図を出している。どうやら、ブロッコリーには、この教皇の言葉の意図が分かっているらしい。

「パイナイン教皇殿。遠慮はいらない、言ってくれ」

「ええ、信徒ブロッコリーよ。我らちっぱい教団は、ちっぱいを第一とする者。全てのちっぱいを愛し、信仰を捧げる。ゆえに、たった一つのちっぱいに祈りを捧げる者は、教団内に居てはならない」

「そうか、教団内の掟に、一人のちっぱいと結婚したものは破門とするものがある。これは他のちっぱいに現を抜かさず、あなたの隣の貧乳を愛せよとの教えだが……、これはつまり!」

「その通り、信徒ブロッコリーはすでにキャロル殿に順ずる覚悟を決めておられる。それは我らのすべてのちっぱいを愛せよ、との開祖の教えから外れるものだ。故に、破門とする」

 鈍痛の叫びが教徒たちから上がった。むせび泣き、涙を流すものもいる。別れとはいつだって悲しい。それが同士であるならば、なおさらだ。

「承った。パイナイン教皇、世話になったな」

「……ブロッコリー殿」

 見ればブロッコリーもパイナインも静かに涙を流していた。パイナインの決断は教皇として正しい、されど心が痛まぬわけではない。また、それをブロッコリーも分かっている。

「だが、これだけは言わせてほしい。ちっぱい最高!!」

「「「「「ちっぱい最高!!」」」」」

 ブロッコリーが聖句を謳い、天に拳を突き立てる。教徒たちもまた、それに応じた。

「ブロッコリーよ。忘れないでほしい、我らが仲間だったこと。貴殿の名は、特別信徒としてちっぱい教に刻まれるだろう。そしてちっぱいは最高だという事を」

「うむ、そちらも覚えていてほしい。吾輩という貧乳好きがいたことを。そして約束しよう。お主たちがいつか助けと必要をした時、吾輩は駆けつける。ちっぱいに幸あれ!」

 二つの道は交差し、そして離れていった。だが、これで終わりではない。二つの道が、ちっぱいに通ずる限り、必ずその道は再び交わることになるだろう。

 すべからくして、その胸は滑らかだ。彼らの道のりも順風であることを祈る。


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