ブロッコリーとちっぱい
冒険者ギルド。フェーリエン諸島支部。冒険者とは、魔物に関するエキスパートだ。
農作物うめぇ~と畑を荒らすゴブリン退治。ハチミツが脳にキマるぅ~な角熊の縄張りから、ハチミツ採取。ドラゴンから町を防衛せよ! な護衛。
冒険者は体を張って、魔物たちと戦う職業なのだ。
そして冒険者に与えらる依頼の中に、探索というものがある。危険度が高すぎて未開の地を調査しに行ったり、新たに発見された遺跡の先陣を切ったり、あのこのスカートの中を調べて来て下さいと言われたり……。
聖人ナーハレスの武具が眠ると言われている遺跡の探索も冒険者の役目だった。
「えっ!? 入るのに許可がいるんですか!?」
「ええ、遺跡にはかなり強い魔物が出るんです。不用意に入ると被害が出るので、冒険者ランクがBランク以上の方でないと、許可はおりません」
フェーリエン諸島の遺跡は、冒険者ギルドが管理していた。遺跡が発掘されたは二十年のこと。中にがゴーレム系の魔物が存在し、うろちょろと回廊を徘徊していた。
遺跡を守るためのガーディアンタイプの魔物だ。このような魔物は滅多にテリトリーから抜け出して外に出てこない。だが、可能性はゼロではなく、出入り口は冒険者ギルドの者が見張っている。
「うーん、困りましたねぇ」
受付から離れて、キャロルがブロッコリーとセラリーの所に戻ってきた。
彼女は懐からプレートを取り出す。冒険者カードと呼ばれる冒険者の証だ。プレートにはCと書かれている。
「Bランク以上じゃないと遺跡に入れないそうです。私はCランクですから、無理ですね」
キャロルの実力はAランクより上だ。しかし冒険者ギルドから認定を受けるランクと実力は必ず一致するわけではない。
冒険者ランクは戦闘力以外にも信頼が重要となる。依頼をこなし、達成ポイントを貯めて、昇級試験を受けて、ランクは上がっていくのだ。
上の方となると、どうしても年月がかかる。まだ12歳の少女である彼女には時間が足りなかった。
「むしろ、Cランクなのが驚きなのだけれど。私も一応冒険者ギルドに登録してるけど、Eランクよ。力になれそうにはないかしら」
冒険者ギルドでは、冒険者に依頼をすることが出来る。オークのトンカツを食べたいので、オークを狩って来てください! という様な感じだ。そして依頼者でも冒険者ギルドに登録はしなければならない。なので、冒険者として活動しないセラリーも、冒険者ギルドに登録をしている。
「うむ、そして吾輩はそもそも登録してないのである」
ブロッコリー、登録してない、ブロッコリー(字余り)。
冒険者ギルドの事務員によると、ナーハレスの武具が眠っている遺跡というのは正しいらしい。他方から見つかった実際にナーハレスの武具が発見された遺跡と、この島の遺跡は類似する点が多く確実に関係がある。
だが、見つかった当時に色々と探索がなされたが、ナーハレスの武具は見つかっていない。
隅々まで探索され、遺跡内のマッピングは全て終わったのにもかからず、だ。それにでも、ナーハレスの武具が眠っていると言われるのは、ナーハレスの武具が実際に見つかった遺跡から見て取れる。その遺跡には隠し通路があり、隠し通路の先に武具があったらしい。
つまり、隠し通路さえ見つければ、その先にナーハレスの武具はあるはずなのだ。
許可が手に入らなくて、立ち止まっている暇はない。
「よろしいかな? そこの御仁がた」
うんうむかしら~と迷っていた一同。
そこに低い男性の声で、話しかける人物がいた。
「どうやらお困りの様子。私たちでよければ、力になれると思うのだが、いかに?」
このご時世、見ず知らずの人に手を差し伸べられるのはとても素晴らしいことだろう。
話しかけてきた男は、白い修道服を身に着けていた。腰には分厚い白の表紙の本と、刃幅が広い剣を携えている。
彼の後ろにいる十人ばかりの男たちも、剣は身に着けないまでも本をベルトに携え、似た様な格好をしていた。
傍から見れば、彼らはどこかの聖職者の一団を想起させる格好だ。どこか信仰に準ずるもの特有の雰囲気も醸し出していて、疑う余地はなかっただろう。
頭巾の代わりに、ブラジャーを被ってなければの話だが。
「変態は間に合ってるので、大丈夫です」
「そうであるな、変態は吾輩だけで充分なのである!!」
ブロッコリーを前にして、悠々と話しかけてきた集団。そんな彼らがマトモな訳がなかったのだ。類は友を呼ぶのではない、類は類以外を弾くので結果的に類しか来ない。
「我らは怪しいものではありません。由緒正しき、神に準ずる聖職者。聞いたことはありませんか? ちっぱい教団の名を」
「ありませんけど!? あってたまりますか、その教団!?」
ちっぱい教団たちが頭に乗せているブラジャー。冷静な沈着な探偵アイがあれば、初見で気づいたことだろう。ブラジャーのサイズがAやBだということに!
そのことに気付いたのは聡明なブロッコリーだけであった。
「……聞いたことあるわね、その教団名。由緒正しいのかは知らないけど」
「あるんですか、セラリーさん!?」
専攻は生物学だが、それ以外にもセラリーは詳しい。考古学や宗教学で、ちっぱい教団の名が度々上がるのは知っていた。実在するとは思っていなかったけど。
「申し遅れましたな。私はちっぱい教団の教皇。パイナイン・クラインクラインと申すもの。好きなものは言わずもがな貧乳です。ヴェールの君よ、あなたのちっぱいはとても素晴らしい。称賛に値します」
「馬鹿にされてません? そこはかとなく馬鹿にしてません!? 私の胸を崇めらえる義理はないですよ!?」
胸元を隠しながら、抗議するキャロル。ちっぱい教団たちは崇めるように膝をつき、手を組んで祈りを捧げた。
「おおっ、貧乳の神よ。この出会いに感謝します。ちっぱい最高!」
「「「「「ちっぱい最高!!」」」」」
冒険者ギルドの中で目立つことも厭わないカルト集団。その蛮勇見事と言わざるを得ない。
「……雷ぶっ放していいですか? その頭の奴ごと丸焦げにしてあげますよ?」
キャロルは別に貧乳にコンプレックスを持っていないが、ここまで正面から言われると別だ。
金属の杖を右手に、杖先が右に左にゆらゆらと揺れ動く。
「待って、キャロル君。よくよく考えてみて、ちっぱい教団とブロッコリーどちらが、世の法則から逸脱してる存在かしら? 私はブロッコリーだと思うわ」
「ええええええっ!! そんな訳ないじゃないですか……。いや、そうかも知れ……?????? っていうか、だから何なんですか!?」
「なるほど、あなたの名前はキャロルとおっしゃるのですね。胸のちっさそうな名前だ。実に素晴らしい。マーベラス!」
「胸のちっさそうな名前で言うと、あなたの方だと思いますけど!? パイナインとか、馬鹿にしてるんですか!?」
「いえいえ、そんな訳はございません。いいでしょう、ここは我らちっぱい教団のことをお話しします。あれは約5000年前、我らが開祖、パイレッサー・クラインクラインが十五の誕生日のことです……」