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ブロッコリーと諸島

 調子に乗っていた、という反省がキャプテンの頭をよぎった。

 最近は手ぬるい相手ばかりで、出会った客船や商船も少し脅せば、命の代わりに金品を差し出す。だから今日も万事うまくいくだろうと、高を括っていたのだ。

 海の支配者とこの海域で呼び声が高い大渦の冥犬(ストロムケルベロス)。その船の一隻を任せられたキャプテンとして、惨敗した様を申し訳なく思う。キャプテンボスに合わせる顔がない。

 大破した船の木片にしがみつき、キャプテンは大きく空気を吸い込む。取りあえず助かったと思うと同時に、先程の光景を思い出す。

「クソッ! 何だったんだあのデタラメな魔法は!! あんなの相手じゃ、いくら命があっても足りねぇ!! ……そういや聞いたことあったな、あんな魔法の使い手を。たしか、北の海で暴れまわってる海氷の女王ってやつか?」

 当たりを見渡すと、海賊の下っ端たちは思い思いに木片にしがみついて難を逃れている。

 しかし、この世界の海は危険がいっぱいだ。大抵の船には、海の魔物を遠ざける魔術具があり、それで魔物を遠ざけている。だが、今は魔術具は木っ端微塵だ。原型があったとしても、海の底へと沈んで行ってるだろう。

「うおおあああ!! キャプテン! 二頭鮫(ダブルヘッドシャーク)が早速来やがった! 俺らを食べる気だ!!」

 海賊の一人が悲鳴を上げる。一つの胴体に二つの頭を持つ鮫。Bランク相当の魔物、二頭鮫(ダブルヘッドシャーク)が海賊を食べようと迫って来ていた。

「チッ! いまどき、船ごと沈めるか? クソがっ!!」

 キャプテンは苛立ちに吐き捨てると、土魔法で槍を作り鮫に向かって放とうとする。

 そこに、一枚の羽が落ちてきた。カモメ? と思ったが、そうではない。カモメにしては大きすぎるし、白に茶色が混ざった色だ。

 キャプテンが訝しんで上を見ると、そこにはブロッコリーがいた。

 ブロッコリーが巨大な翼を生やして飛んでいた。

「……は?」

 まるで堕天使のようだった。緑のブロッコリーに、筋骨隆々な人間の四肢、そして背中に一遍で五メートルにはなろうかという鶏の羽が生えている。

 鶏の羽はゆったりと優雅に舞う。明らかに飛ぶための速度として遅すぎる。なのになぜかブロッコリーは落下せず、宙に硬度を保っていた。

「海賊といえど、魔物の生餌にするのは可愛そうであるからな。吾輩が牢屋にぶち込んでくれよう。というわけで、一応助けてやるぞ」

 事前動作もなく、キャプテンには反応できない速度でブロッコリーが消える。次に目が捕らえた時には、とびひざげりの形でブロッコリーの足が二頭鮫(ダブルヘッドシャーク)の胴にめり込んでいた。

 骨と肉が折れる嫌な音が響き、勢いそのままに二頭鮫(ダブルヘッドシャーク)が海中に沈んでいく。

「おい、そこのキャプテンっぽい奴。土魔法が使えるようだな。全員が乗れる板は作れるか? 吾輩が船まで引っ張ってやろう」

 ブロッコリーが悠然と宣言する。神々しいオーラを感じる。同時に、悪魔めいたパトスも響き渡って来た。

 勝てない。こいつには勝てない。キャプテンは異様な雰囲気を感じ取り、素直に従う事に決めた。ブロッコリーが空から飛んできて、思考停止してるともいう。

 

「きびきび歩いて牢に行くのである。逃げ出す輩は、吾輩が相手になるので覚悟するように」

 海賊船をぶちまけられ、命からがらブロッコリーに助けられた海賊たち。意気消沈した形で、客船の牢屋に自分から入っていく。

 さすがに空飛ぶブロッコリーを相手どって、アウェイで勝負を仕掛ける度胸はなかった。

 ブロッコリーが海賊を牢に連れて行く場面を見て、他の乗船者たちは目が死にかけてる。

 そしてキャロルは喜んでいた。。

「やりましたね。海賊は捕まって、私たちは賞金でウハウハ。一石二鳥って奴です!!」

 ぐっとガッツポーズをとるキャロル。かわいい。

「し、心臓に悪い体験だったわ。まさかキャロル君がこれほどまでに、蛮ぞ……強かったなんてね。あと、ナチュラルに飛んでいったブロッコリーってなんなのかしら? 旅路について行った選択肢は、間違ってないようでそこは安心ね」

 フラフラになりながら、何とか立っているセラリー。海戦のことで目が死んだり、ブロッコリーが空を飛んだことで目を輝かせたりしていた。

「あれはフォルムチェンジである」

 牢屋に海賊をぶち込み、ブロッコリーが返ってきた。今は羽も生えておらず、ノーマルフォルムだ。

「前にいってたあれですか。本当にできたんですね」

「失敬であるな! 吾輩はあと三つ変身を残しているのである!」

「かなり色々変身できますね!? 今更ですけど、あなたブロッコリーですよね!?」

「もちろんである!」


 ***


 サンサンと輝く太陽。白い貝殻が顔を出す砂浜。そよ風にゆれるヤシ科植物の葉。

 ポーホールの町から二日。フェーリエン諸島に、ブロッコリーたちを乗せた客船が到着した。

 砂浜にタラップが架けられ、乗客が降りていく。最後に海賊たちが船員の手によって降ろされ、詰め所に連れていかれた。

 長年近辺の海を騒がせてきた大渦の冥犬(ストロムケルベロス)の海賊たちだ。のちにキャロルには、報奨金が支払われることだろう。

 船員たちも海賊を捕らえられたことに感謝していた、ブロッコリーショックで目が死んでいたが。

「うーん、さすが貴族たちが別荘を持ちたがるリゾート地。空気が美味しいわ。」

「うむ、空気の歯ごたえが素晴らしいのである。砂浜も貝殻がアクセントとなって美味い」

「ぶ、物理的においしいって意味じゃないかしら!? あと、砂を平然と食べないでほしいわ! 観察記録が追い付かない!!」

 新たな発見にメモを量産するセラリー。ブロッコリーは空気をもぐもぐ、砂浜をもぐもぐ、リゾート地を満喫していた。

「見てくださいあの看板! 砂浜バーベキューですって! ここから三キロ先の宿で、食べ放題バーベキューをやってるようですよ!」

「ふむ、なら今日はその宿に泊まって、明日に遺跡を目指すとしようか」

「そうですね! 今日は情報収集に当てましょう!」

 情報収集にはもちろんナーハレスの武具のことやその遺跡の子とのことだ。だが、グルメの情報も収集しないとは言ってない。


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