093 恋人達襲来
最終章に突入しました。
引き続きご愛読頂けるように最後まで走り続けます!
この章はタイトルに大アルカナ名がつくよ
ウノの特訓が終わる頃、コジカと合流出来そうな時間を確認し、俺達は冒険者ギルドに集まっていた。
この町での用事も終わりが見え、ハワードとアナライズに挨拶をしてたら一つ忠告を受けた。
どうやら馬車で向かっているコジカには同行者がいるらしく、それがクスクスを追っている問題の人らしい。
俺達のパーティーは『嘘をつける人が少ないんじゃないか?』という指摘のもと、アナライズが渡してきたのは大きなシーツだった。
もう時間がないのでウノに説明し、クスクスに少しの間黙っているように指示を出す。
ウノがクスクスを肩車すると、その上から目の部分に穴を開けたシーツを被せた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「サーヤさーん」
「コジカちゃーん」
「「タシッ!」」
ほぼ毎日学校で会っている筈の二人が、何故か抱擁をかわしている。
冒険者ギルドは閑散としている時間帯のせいか、俺達の再会に興味を示している人は少なかった。
『じゃあ、まずはウノさんとクスクスで馬車まで行ってくれ』
『はーい』
『クスクスよ、間違って声を出したらいかんから頷くだけで良いぞ』
不格好な仮装で移動を開始したウノの脇を、二人の女性がすれ違っていく。
一人は白を基調とした魔術師か、聖職者を思わせるローブ姿だった。
そしてもう一人は……。
「フェザー先輩、ダメです!」
「アカネ?」
アカネが俺の目を塞いだが、どう考えてもヤバイと一瞬で理解出来てしまった人だった。
真っ赤なビキニアーマーだけでも凄いのに、『それ何処を支えているの?』と思えるような黒のガーター装備。
肘と膝から先を真っ黒い革で保護している姿は、もしかすると女王様なのかもしれない。
何故か片方の革手袋の中指部分だけを口に咥え、シナを作ってポーズを決めだした。
「恋する乙女に白い祝福、みるきー」
「愛する気持ちは深紅の淑女、あっぷる」
「私達、恋人達」
「コジカちゃん、お友達?」
「いいえ、旅の途中で助けて貰った方々です」
一瞬だけ、ギルドに残っている人の視線が二人に集中する。
たった数秒でも、この場を凍り付かせられるのは才能だと思う。
俺はこの隙に、二人に指示を出す。
『サーヤ、コジカを連れて外の馬車に』
『えっ……、うん。悪い人には見え……、危ない人には見えるね』
『確かに……。クスクスくんに見せるのはチョット』
サーヤ達がスッとギルドを出ていくと、あっぷるとみるきーは何故か俺の方に歩いてきた。
名乗りを上げている所でアカネの手は半分浮いていたが、こちらに向かって来たので慌てて手を離してくれた。
「あなたが有名なフェザーさんね」
「有名かどうかは分かりませんが……」
「アーン……、この返事。残念だわ、とても残念だわ。貴方がもう少し若かったなら?」
「若かったなら……」
あっぷるの発言に、頭の中がハテナでいっぱいになる。
『俺、まだ高校生なんだけど……』と。
思わず後ろにいるアカネを見ようとしたら目を背けられた。
とりあえず『クスクスを追っている危険人物だ』と頭の中で反芻し、話の行く先を見守る。
俺に話しかけている筈なのに、何故かあっぷるとみるきーは盛り上がっているが……。
「おいおい、そろそろ彼らを解放してあげないか?」
「そうそ、フェザーが困っているぞ」
少し離れていたハワードさんとアナライズさんが助け船を出してくれた。
ところで何で離れていたのだろう?
「あら、私達は友好的に――そう、フェザーくんのパーティーと友好関係を結ばないといけないの」
「ちゃんと勉強してきたんだから。フェザーくん・サーヤちゃん・アカネちゃんにコジカちゃん、ウノさんにク……クス」
「きゃー、はじゅかしぃー」
「頑張るのよ、みるきー。未来の旦n……」
「あの……初対面の方に、こう言うのはちょっと」
「正直演技なのは分かっていますが、このゲーム良い人もいれば悪い人もいると」
「うん、それが正解だよ」
「わ、私達。ちゃんと関係あるもん。だって、コジカちゃんを助けたもん」
俺達が話している間、ギルド内は普通に動いている。
人の出入りもあれば、忙しなく働く人も大勢いた。
その中であっぷるとみるきーは、何故か自分の世界に入り盛り上がっていた。
そんな心の隙間で、彼女たちはミスを犯した。
事前に結んでいたコジカとの関係性が切れていることに。
「え? さっきまでコジカちゃんいたよね?」
「あの女子高生エルフをどこにやったの?」
「いや……、詰め寄られても困ります」
「止めてください」
二人が膝立ちで詰め寄って来る。
特に革の触感がリアルな癖に、俺の位置から微妙に見える谷間。
多分見えたのは一瞬の筈なのに、さりげなくアカネが車椅子を引いた。
何故か引き摺られる、あっぷるとみるきー。
「おい、それ以上はGMコールの対象だぞ」
「どうして? まだクスクスくんにも会えてないのに?」
「そうだ、フレンド登録をしましょう」
「しません!」
「ん? フレンド登録?」
「どうしたの? あっぷる」
「コジカちゃんとフレンド登録してたら、もれなくクスクスくんと……」
「さっすが、あっぷる。で、もちろんしたんだよね?」
「それはみるきーの仕事じゃない?」
「そんな仕事はなーい。あ、アカネちゃんでも良いわ」
「嫌です!」
「「そんなぁ……」」
項垂れた二人は、ハワード達に強制的に離された。
そしてパーティーメンバーが揃っていない理由は、それぞれ個別に修業しているからだと説明してくれた。
ウノとクスクスがいなかったので、二人はあっさり信じてくれたようだ。
「フェザーも、この後用事じゃなかったか?」
「あっ、そうでした。行こうか? アカネ」
「明日もここで待ってます」
「クスクスくんに一目だけでも……」
その言葉を背中で聞きながら、俺とアカネは馬車に乗り込んだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ふぅ……、何かどっと疲れた気がする」
「おつかれさまでした、フェザー先輩」
「がおー、オバケだぞぉ」
「クスクスよ、それはもう良いのじゃよ」
「××、フェザーは鼻の下伸びてなかった?」
「サーヤさん、それは……」
走り出した馬車は静かに町を出ている。
それぞれがやる事をやっている間、特に俺とサーヤは買い出しに精を出していた。
旅立つ準備は出来ていたし、挨拶も既に済ませてある。
そして馬車についてはコジカの手配で、そのまま継続して契約してくれたようだ。
特に旅の目的はないけれど、ウノとクスクスが鍛冶をやりたいらしい。
そしてコジカからの情報なんだけど、煙突のように遠くに見えた建造物は『塔』らしく、ボスがいるのに相応しい名所のようだ。
改めてフルメンバーになった為、簡単な自己紹介を始める。
特にウノは生まれ変わったようなスキル構成で、ゲームで言う宝探し/盗賊のようなスキルを身につけていた。
「フェザーさんも、かなりスキルが変わったって聞きました」
「あぁ、みんなが強くなったからな。ウノさんの変わり様に比べたら、微々たるもんだよ」
「それは謙遜じゃな。フェザーのスキルの恩恵を受けての事じゃ」
「ウノさんって大人ですね」
そう言えば寡黙なイメージだったウノとの会話が増えた気がする。
コジカはコジカで、少しだけ人見知りな部分も減ってきたと思う。
二人が会話出来ていると言う事は、本当にウノは話しやすく、人を思いやる心を持っているんだと思う。
それに比べて俺は許すと心に決めながら、あの時彼を置き去りにして帰ってしまった。
彼の謝罪というか悔恨が響かなかった訳ではない。
それでも、あの日は何かが違うと思っていた。
「××……フェザー。どうかしたの?」
「あぁ、何でもない」
馬車が進むにつれて、俺は窓の外をぼんやり見ている時間が多くなった。
それはウノも同じようで、男には考える時間が必要なのかもしれない。
アカネとコジカとクスクスで内緒話をしていて、小声で話し鈴のような笑い声をあげている。
サーヤが「何の話?」と聞くと「ひみつー」と帰ってきて、馬車の中は思ったより明るかった。
「それで、これどこに向かっているんだ?」
「フェザーさん。たまには息抜きしましょう!」
空回り気味のコジカのやる気に、俺達は自然と笑顔になる。
ただ、その空気感は思いの外心地よかった。




