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 事件の翌日は、それぞれ自由行動にした。

 ウノだけはトレジャーハントの技術を学びにマーケット裏へ行き、アカネは卵状態のゼロと日向ぼっこをするらしい。

 卵のひび割れは思った以上に深刻で、無事に孵化出来るかかなり・・・心配だった。

 クスクスは動画の編集をすると張り切っている。コジカは移動中のようだ。


「それでサーヤは、また買い物で良いのか?」

「えーっと、今回は他にもあるんだ。最近みんな、急に強くなったでしょ?」

「それ、俺も気になってたんだ。聞いても良いのか?」

「うんうん。コジカちゃんも強くなったんだよ」


 ウノとコジカは、この世界のNPCノンプレイヤーキャラクターから技術スキルを習っている。

 この世界の住人しか知らない技術もあれば、現実世界の俺達しか分からない技術があるからだ。

 いくらお金を積もうが得られない技術もあるらしい。


「俺も本格的に、誰かから学ぶ必要があるのかな?」

「××……。フェザーは今のままでも、十分上を目指せるんだなぁ」

「なあ、サーヤ。学習機能って言葉知っ……」

「はいはい、細かいことは良いの。×××ちゃんは、×××ちゃんなんだから」


 俺達は冒険者ギルドに到着すると、操作パネルの前に陣取る。

 二枚あるスキルカードにセットしてあるのは以下のスキル構成だった。

 これらの他に解放してあるスキルと習得しているスキルは多数ある。

 それらを合成するのが今回の目的だった。


 まず先輩冒険者でもある聖騎士ハワードと分析官アナライズから、戦闘スタイルの改善点を指摘してもらった。

 それを同行者パートナーであるサーヤに見てもらうと、チェインポイントを使えば問題なくスキルの合成が出来るらしい。

 これはパーティーに与えられた隠れステータスの『幸運ラック』の効果らしく、多少難しくても上位スキルが狙えるようだ。

 アンリミテッドのスキルである、【アクロ走行】が関連しているのではないかと推察されている。


「じゃあ、行くぞ」

「うんうん、頑張って!」


 スキルの中から【槍技:弐】と【斧技:壱】を合成する。

 するとスキルが【武技/棹状武器ポールウェポン:壱】へと変化した。

 これで斧槍ハルバードという武器が使用可能になり、突く・叩き斬るという戦い方が出来るようになった。


「斧と槍が合成出来るなら、色々バリエーションが出来そうだな」

「そうだね、でもこれは分かりやすい形。ただ××……フェザーには、習得出来ないスキルもあるんだ」

「あぁ……、なんとなく理解している。【戦闘姿勢】とかだよな」

「……うん。だから盾職や重戦士には、基本的に向かない筈なんだけど」


 教官から『負傷兵が頑張るなら、後方支援や魔法職に就いた方が良い』と言われている。

 そんな俺が【戦闘姿勢】のスキルもなく前衛で立てているのは、【アクロ走行】の恩恵が大きかった。


 俺達はテストプレイヤーなので、イロモノなジョブに走っても戦闘をしなくても問題はない。

 本来のリアルな業務はバグの発見で、今回のバグとも言えそうなスキル合成の結果を報告するのも改善に繋がるからだ。

 初級者として始めた俺達とは逆に、上級職で始めた社員テストプレイヤーも多くいる。

 その人達を差し置いてアカネは新しいジョブとスキルを解放しているので、あながち初級者の行動もバカには出来ない。


「まあ、楽しんだもん勝ちだろ?」

「うん、そうだよね! みんな、それぞれ楽しんでいるし。全員が集まったら、ボスだって倒せちゃうかも?」

「メインシナリオが進まないとボスなんか出ないぞ。倒したら物語が終わっちゃうからな」

「そっかぁ……。じゃあ、とりあえず××……フェザーの強化をしようか?」


 無駄にやる気を燃やすサーヤを見て、まだまだ正統派ヒロインの座は遠いなと思った。

 どちらかというと冷静沈着な精霊術士、少し冷たい視線を投げかける弓使い。

 そんなエルフは〇〇先生の作品の中にしかいないのかと、俺は半ば諦めながら目の前の切り札カードのバージョンアップを考えるのであった。


 フェザー(冒険者):セットスキル(1枚目:戦闘用)

【槍技:弐】→【武技/棹状武器ポールウェポン:壱】

【精霊魔法/風:壱】

【腕力強化:壱】

【根性:壱】

【アクロ走行:弐】

【一点突破:壱】

【警戒:壱】


 フェザー(冒険者):セットスキル(2枚目:生産用)

【斧技:壱】

【腕力強化:壱】

【アクロ走行:弐】

【緑の鑑定:壱】

【伐採:壱】

【木工/見習い:壱】



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 〇ウノ視点


 このゲームは本当に不思議だ。

 普通のゲームなら主人公至上主義で、基本的にNPCは弱いものだ。

 いくら初級者な俺でも、目の前のくたびれた獣人おっさんに負ける筈は……。


「おいおい、いくらドワーフでもドスドス歩いてどうするよ?」

ワシの癖なんじゃ。いいから財布を返せ!」


 最初挨拶をした後おっさんは斜め上の空を見上げ、つられた俺が同じ方向を見た瞬間、懐に入れていた財布をられていた。

 いつの間にか離れた獣人おっさんと俺の間には、猫系のちびっ子獣人が一定の間隔を保ちながら点在していた。

 獣人おっさんはまるで、『取り戻せるものなら取ってみな』と財布を軽く宙に浮かせている。


 子供の隙間を縫いながら、おっさんを追う。

 これが訓練だと分かってはいるが、どうにもすばしっこい奴を相手にすると、衣服を引っ張ろうと手が出そうになる。

 身についてしまっている癖に躊躇ちゅうちょしていると、おっさんがあざけるように声をかけてきた。


「根性が足りねぇな」

「観察していたのじゃ。どうやら、このエリアから出るつもりはないのじゃろう?。なら、いつかは取れる!」


 ただ立っているだけの子供を強引にどかす訳にもいかず、かといって獣人おっさんは軽快に飛び回っているのがムカツク。

 しかも何の因果かどうみても、この広さはバスケのハーフコートだ。

 俺が習ってきた技術は、ユニフォームを引っ張る事や脚を掛けたり体当たりをしたり――これが技術と言えるのだろうか?

 もし子供達が俺にとって障害物なら、おっさんにとっても障害物の筈だ。


「ほう、目に生気が宿って来たな」

「ドワーフの戦い方が一つとは限らんからのぉ」


 財布をボールに見立てれば、まだシュートどころかパスの行先も決まっていない。

 相手が3Pシューターならこの身長差は致命的だけど、俺にも培ってきたバスケ人生があった。

 多分、『歩き方・目の動かし方・予想/予測』など、複数の事を同時に教えようとしているのだろう。

 そして重要なのは、『取れそうで取れないギリギリ』の位置ラインを保っていることだ。


 それだけに技量差が分かり過ぎて辛い。

 だけど、手の届くところにあるボールを諦めるのは俺らしくない。

 いつだって全力でボールを追いかけたのは、ゴールを決めた時仲間・・と喜びを分かち合う為だった。


 その瞬間、大きな罪悪感が襲ってくる。

 目の前で倒れる選手を前に、俺は手を差し伸べるどころか両手を上げていたからだ。


「もう終わりか?」

「まだじゃ!」


 もうバスケには、関わるのを止めようと思っていた。

 俺にはその資格がないし、アイツは一生車椅子で動けないかもしれない。


 VRMMOでのゲームは、徐々に進化を遂げている。

 仲間であるフェザーは獣人キャラなので年齢は分かりにくいが、サーヤやコジカと同じ学校だと言っていた。

 同じ時代に車椅子に乗っている学生が何人いるのだろうか?


 触れてはいけない話題なんで、俺から話を聞くのははばかられる。

 それでもフェザーは明るくみんなを引っ張り、こんな俺にまで声を掛けてくれた。


「フンヌッ!」

「【すてぃーる】」

「注意力が散漫だな」


『届いた!』と思った瞬間に、おっさんの両手から財布が消えていた。

 障害物だと思っていた子供の中に、途中で財布を横取りカットした子がいたようだ。


 茫然としている中、微笑むちびっ子獣人の女の子がいた。

 俺は目の前に夢中すぎて、ただの障害物だと思っていた子供にまで……。


「おい、『やりすぎるな』って言われてただろ?」

「だって、おじちゃんの顔怖いんだもん。はい、パス」

「あ~。とりあえず、これ以上やると感じ悪いから一旦返すな」


 ちびっ子獣人の男の子から戻って来た財布には、それほどお金は入っていない。

 それでも大事にしている何かが戻って来た喜びは、再びボールが回って来た喜びに近かった。

 それだけで嬉しくなると同時に、ちびっ子獣人達の視線が気になった。


「これは儂が預った、大切な相槌じゃ」

「そんな大事なものを良いのか?」

「きちんとスキルを習得して持って帰る。だから、それまで預かって欲しい」


 おっさん獣人に相槌を渡すと、今度は背中を突かれる。

 誰が突っついたのか確認しようと振り返ると、別の誰かがまた背中を突く。


 まるで遊びのような訓練は、この先も続いた。

 くたびれたおっさん獣人は、本当に器用で教え方も上手い。

 ある時は謎の箱といくつかの針金を用意し、座学でも眠くなる暇もないくらい課題は続いた。

 ちびっ子獣人達は、出来の悪い弟弟子おとうとでしである俺を応援してくれる。


 俺は修業が終わってログアウトした後、ふと目元を拭った。

 この修業は、本来俺がするべき努力の一つの形だった。


 チームとして勝ち上がる為のラフプレーは、必ずしも悪いとは言えないと思う。

 それでもレギュラーとして参加する為に、俺に課せられた使命の絶対条件だった。


「謝罪する機会はもらえた。後は俺が、何を言えば良いのか?」


 一生をかけて償いをする気持ちはある。

 ただ……、ただ償い方が分からなかった。


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