088 アカネと家族【閑話】
今月、家族が旅立ちました。
色々と思う所はありますが、早く日常を取り戻す為
今回のお話をもって年内の執筆活動を休止したいと思います
来年早々にお会い出来るよう、頑張りたいと思います
※書きかけを仕上げた形です
ずっと休んでいてごめんなさい
『サ、サーヤさんは大丈夫でしたか?』
コジカさんとのメッセージが終わり、少し顔を上げて大きく息を吐く。
VRMMOのテストプレイヤーとなってから、毎日が充実していると感じる。
『どうせ……』と思う事が少なくなり、『暇だ暇だ』と思っていた日常は時間が足りないくらいだ。
学校にアルバイトに実家の手伝い。それもこれも全部が、自分を成長させる糧のような気がしている。
「茜ー、少し手伝ってくれない?」
「はーい、今行くー」
ペットサロンを経営している母もゲームの事なのに、前より話をよく聞いてくれる。
特にゼロの話では手が止まりがちになり、お別れのシーンでは席を外すくらい感極まっていた。
卵になったシーンでは考えこみ、ブツブツと『卵生の利点』について呟いていた。
「ママ、手が止まってるよ!」
「あら、茜こそ。ユメちゃんが苦しそうよ」
「えっ、良い仔にしてるように見えるけど……」
「ほら、ここ。プルプルと我慢してるでしょ」
何度ウチに来ても、慣れない仔はいる。
それでも家族とウチとの信頼関係で、分かっている仔は大人しくしている。
よく吠える仔だって、うちのママにかかれば従順な仔犬・仔猫と化す。
母と私の違い……。年季と言ってしまえばそれまでだけど、同じ事をしていて違いが出るのは納得がいかなかった。
そういえば、あの時現れた獣人プレイヤーも……。
私はゲームの出来事を思い返していた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
パーティーメンバーの中で気心が知れているのは、やっぱりクスクスくんだった。
幼い故の正直さがあり、裏表がないのは不登校だった私にとって心地が良かった。
最近ではそこにコジカさんが交ざり、メッセージでよくやり取りをしている。
今回の救出作戦では私とクスクスくんが攪乱係になり、フェザー先輩を無事にサーヤさんの元に届けなくてはいけない。
ただそれだと、感動の瞬間を見られないと悩んでいた。
そんな悩みを一瞬で吹き飛ばしたのはクスクスくんで、フェザー先輩に抱き着いた瞬間、こっそりとカメラを備え付けたらしい。
お互いに隠れて、サムズアップで合図をした。
「あ~、夜分遅くに申し訳ない」
「んぁ? あっ、これは『聖騎士ハワード』さま」
屋敷への潜入は、聖騎士ハワードさんが門番を引き付けてくれている。
その隙にクスクスくんが足取りを軽やかに死角から潜入し順番に続いていく。
「このわっかをこう? ぴんぽん、ぴんぽーん」
更に先行したクスクスくんが、カワイイ仕草を見せながら正面突破を試みていた。
実際に子供だから小人族とは思わないけれど、パーティーメンバーの中で誰よりもゲームの才能を発揮していると思う。
正面の扉が開き何人かを引きつけてから、自慢の疾走で屋敷の中に入っていく。
私はその後に続こうとした所で、胸元から卵が零れ落ちてきた。
一抱えする大きさの卵が落ちた瞬間割れると思ったけれど、ヒビもなく無事な姿に安堵する。
ただ勢いそのままに転がっていく卵は、途中まで無人だった屋敷を縦横無尽に進んでいた。
途中でクスクスくんのルートから外れようとした所で後ろから気配がし、後ろ・前方と周囲の状況を瞬時に確認する。
「迷っている暇はないニャ、もう離れないんじゃないの?」
「じゅう……じん?」
「しっかりするニャ!」
使い込まれた革鎧をタイトに着た獣人は、どう見ても屋敷の従業員ではないと思う。
でも敵か味方かも分からないのに、不思議な親近感があった。
「グズグズしてるなら置いて行くニャ」
「あっ、待ってください」
「そんな恰好で……、育て方を間違えたかにゃー?」
「何か言いました?」
先行する卵を獣人が追いかけ、私は追随する並びになった。
フェザー先輩は脚を悪くしているけど、本気の獣人の脚は小人族にもひけを取らないようだ。
とりあえず卵の回収と攪乱、そして無事に離脱することが私の役目だと思う。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
転がる卵を追いかけていると、どうやら卵もきちんと周りの状況を確認しながら動いている事が分かった。
曲がり角では止まるし、縦になって壁から覗き込みながら、グリンと勢いをつけて動き出す。
しかもコロコロコロとキレイに回るせいで、一度走り出したら追いつくのに苦労する程だった。
「ゼロ、待って!」
「クンクン! 卵はきっと、匂いを追っているニャ!」
「え? 分かりませんが……。そもそも貴女、誰なんですか?」
「えーっと、ミケニャ!」
明らかな偽名か、ベタなネーミングだ。
ただ自己紹介されたことで頭上に表示され、プレイヤーネームが分かるようになった。
プレイヤーなのは明らかだけど、サーヤさんは常日頃から新しいプレイヤーを警戒している。
だから私も何故か馴染んだ空気を感じつつも、警戒心だけは持ち続けていた。
「コロコロコロ」
「ゼロ、止まって!」
「甘ったるい匂い……。もう遅いかもニャ」
段々と屋敷の端の方に行き、立往生している卵の近くで地下へと続く扉を見つける。
鍵はかかっていないようで、扉を開けるとゼロは転がりだしてしまうだろう。
卵を抱き上げて扉を開けると、ミケさんは「匂いは階下から上がってきているニャ」と言っていた。
「ちょっと、ゼロ。戻りなさい」
「過保護は良くないニャ」
「でも、まだ卵なんですよ」
「躾は小さいうちからするニャ! それが家族を守る事にも繋がるの」
胸の内に収まってくれない卵に向かって、ミケが卵の頂点をコツンと叩いた。
すると卵から反省するような? 甘えるような気持ちが伝わってくる。
「何で?」
「きちんと危機意識を教えれば分かってくれる。ゼロは良い仔ニャ!」
私よりゼロの気持ちが分かっているような気がしてモヤモヤする。
その一瞬茫然とした私の腕からゼロがまたまた零れ落ち、階段をスプリングの玩具のように器用に降りていく。
また私達の追い駆けっこが始まった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
突き当りには大きな部屋が一つあった。
扉は一つしかなく、隙間から嫌な色の煙が漏れ出ている。
扉の前には椅子に座った筋骨隆々な男が一人、物語でしか見ないような黒鉄色のハンマーを携えていた。
要所要所は革で保護されており、それでも基本的に肌色パーツが多めだった。
「ハァ……、だから金かけろって言ったんだ……」
「そこに何を隠しているニャ?」
「そういう事言う前に、やる事は一つだろ?」
「分かったニャ! じゃあ、お手並み拝見」
多分、ここが人身売買で一時保管している場所だろう。
フェザー先輩が見つけた麻薬中毒者と、猫系獣人の怪しい行動とも結びつきそうな気がする。
敵とミケさんが問答していたので、私達は救出に――ミケさん、何で私の肩を叩いたの?
男のハンマーはゆうに肩幅もある。それを片手で軽々と打撃部分を上向きにし、半身になって構えをとった。
特別な武器を持たない私は拳に光を灯す。
これである程度の武器に対して、リスクを減らすことが出来る。
ふと母が『剣道三倍段』と言っていたのを思い出した。
武器を持っている相手を倒すには、三倍相当のスキルが必要なのかもしれない。
「あっ、ゼロ。ダメだって!」
考えすぎたせいで、卵が焦れたのだろう。
まるで「いっちばーん」とでも言うように、何の虚飾もない突撃を男に向かってしていた。
卵とハンマーがぶつかり拮抗する。
ピシッ……と嫌な音が聞こえてくる。
私も思わず男の脇腹目掛けて殴りかかっていた。
弾けた卵は着地し、縦向きでグルングルンと楕円の動きで揺れている。
これが昏倒の効果だったなら、頭上にピヨピヨピヨとヒヨコが歩いているに違いない。
柄が長く重い武器なら、超接近戦はこちらが優位だ。
「油断は禁物。後、少し時間を稼ぐニャ! 茜」
「はーい……って、何でミケが命令してるの?」
「役割分担ニャ。立ってる者は?」
「……親でも使えね。ハイハイ」
「ハイは一回ニャ!」
何故かドキっとしてしまったけど、ショートスイングする男のハンマーをまたもや卵がその身で相殺する。
ピシッ……、ゼロ無茶をしないで。
不意に姿を消したミケさんは、何故か男の背後にいた。
一生懸命扉に向かってガチャガチャしているのは、もしかして鍵開けをしているのだろうか?
「てめぇ、お約束ってもんを知らないのか?」
「こっちは手を離せないニャ。それに当たったら、私は木っ端微塵にゃぁぁ」
器用に尻尾をヘニャリとさせるミケさん。
ここは私とゼロで食い止めるしかない。
この男、防御は捨てて攻撃に全振りしているタイプな癖に、コツコツ当てることは忘れない。
卵と二人で一生懸命乱打戦になりながら、男の先をチラ見しているとミケさんは扉をパタパタさせていた。
「ミケさん、手伝ってください!」
「こっちも安全確保をしているニャ。そろそろかな?」
ミケが指笛をピーっと鳴らすと、扉の中から一人の小さな獣人が這いながら出てきた。
その奥から目が虚ろな、尻尾が斑な獣人も……。
「こんな猫系いたかな?」
「ハァ、止めだ止めだ。こんな割の合わねぇ仕事はこりごりだ」
「じゃあ、行って良いニャ。今度は真っ当な仕事に就くニャ」
「わぁったよ。お嬢ちゃんも、どいてくんな」
不承不承男が出て行った後、それ程時間が経たずに増援部隊がやって来た。
陽動作戦は無事に終わったと思う。
フェザー先輩は無事にサーヤさんと逢えたのかな?
後でクスクスくんやコジカさんと一緒に、感動の再会の鑑賞会をしたいと思った。




