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FLY HIGH アゲイン! ~VRMMO車椅子ランデヴー~  作者: 織田 涼一
1章 翼の折れた主人公(本編はここから)
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006 サーヤの気持ち①

 私の名前は梶塚かじづか沙也加さやか

 羽鳥俊介しゅんちゃんとは幼馴染で、小さい頃はミニバスで一緒に遊んだ仲。

 段々と同性同士で遊ぶことが多くなり、それでもバスケという共通の話題もあった。

 今は応援の方に回っているけど、俊ちゃんのシュート姿はいつ見ても輝いていた。


 あの日以来、俊ちゃんから輝きが薄れていた。

 それは『バスケが出来なくなったからだ』と俊ちゃんは言うけれど、私は違うと思っている。

 いつも一番近くにいたからこそ、俊ちゃんからバスケを引いても、俊ちゃんの価値は一欠片も損なわれてはいなかった。

 自らを閉ざしてしまうには、大きすぎる理由だと思う。でも、今回ほんの少しだけ希望が見えていた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「先生。俊ちゃん――フェザーについてなくて良いんですか?」

「うーん。本当はついててあげたいけど……」

「……けど?」

「今は梶塚さん――サーヤさんがいるでしょ?」


 ゲーム内で顔合わせした後、私達は救護院へ向かうことになった。

 一番の目的は支援者メンターである先生からのアドバイスで、回復系の魔法を習いに行くことだった。

 フェザーからは『俺の怪我のことを考えるなら、一緒に遊べない』と言われたけれど、それを抜きに考えるのは正直無理だった。

 だからエルフになって神聖魔法を視野に入れながら、回復系の魔法と他の魔法を混ぜて覚えるつもりだった。


「私のせい……ですか」

「あー、誤解させちゃったね。まずはこの世界でも行う、リハビリの場所を見てもらうつもりだったんだよ」

「しゅ……フェザーは治りますか?」

「医療に携わる立場だと、100%とは言えないんだ。でも、見込みありだと思うよ」


「本当ですか?」

「でも、それはフェザーくんには言わないでね」

「えっ……、どうしてですか?」

「サーヤさんは、人って飛べると思う?」


 先生の言葉を聞いて、一番に俊ちゃんのことを思い浮かべた。

『まるで羽根が生えたみたい』と称されていた俊ちゃんは、バスケ選手としては背が低く、飛んだり跳ねたりするイメージは少ない。

 次に考えたのがライト兄弟だ……。結局、飛べたかどうかは分からないけど、飛行機で空を飛んだんだと思う。


「『飛行機とか作って』ってことですか?」

「そうじゃなくて、自力でだよ。何の道具も使わずに、その身一つでね」

「それなら、無理じゃないでしょうか?」

「うん、普通の人はそう思うよね。例えばプロ野球選手になるのも、宝くじを当てるのも。確率があるかないかで言えば、その差は大きいけれど、確率0と0.000~%はほぼ無いと同じだと思う」


「何が言いたいんですか?」

「まず自分で運を引き寄せるには、『出来ない』と思わない事が大事なんだ。これはプロ選手によくある、暗示のようなものだね」

「フェザーの場合は、『治らない』……ですか?」

「今の彼は、どん底にあると思うよ」


 それは痛いほどよく分かる。

 でもそれなら逆に、希望になる言葉を聞きたいはずだと思った。

 その事を素直にぶつけたら、『いつ迄に、どのくらい治る』が伝えられない以上、言うべきではないと言われてしまった。

 今回の治験とリハビリは、あくまで細い糸をるような頼りないものだったから……。

 この治療は選手として復帰出来るかではなく、一般生活を送れるかどうかの治療だった。


 案内された救護院は一言で言うと、シスター達が行う『かかりつけ医』のようなものだった。

 左側に孤児院があり、右側には入院施設がある。

 真ん中の建物が診療所で、この規模には珍しく魔法で治療出来るシスターがいるらしい。

 シスター姿の女性と、何故か麦わら帽子の農村娘風の女性が出迎えてくれた。


「楠先生、遅いですよ!」

「ようこそ、『やすらぎの里』救護院へ」

「あぁ、悪い悪い。こちら受付にいたレイカ嬢、こちらはシスターマリア」

「宜しくお願いします」


 先生は『設定コンフィグ』と唱えると、PCプレイヤーキャラクターNPCノンプレイヤーキャラクターの見分け方を教えてくれた。中の人がいるかどうかの違いで、見分け方は名前の色が黄色いとNPCのようだ。

 プレイヤーは基本的に青色で表示されるけど、犯罪歴があるような危険人物やモンスターは赤色で表示されるらしい。

 自己紹介されると名前はオープンになるようで、私も『エルフのサーヤです』と自己紹介した。


 レイカさんは受付にいた女性で、普段お客が来ないあの病院で働きながら、こちらの世界でハーブを栽培しているらしい。

 お客が来ないという言葉に敏感に反応してしまったけど、先生の説明によるとあそこは特別な病院のようだ。

 ゲーム会社と関係がある時点で変な病院だけど、俊ちゃんを診た医師は名医と言われていた。

 その紹介状が、おかしな訳ない。シスターマリアは先に診療所に戻り、レイカが救護院を案内してくれることになった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 右側の建物は入院患者用と言っていたけれど、基本的に通院の人が多く一階は食堂で二階にベッドがあった。

 その後案内されたハーブ園は薬草畑と隣接していて、レイカさんは『調香師』というジョブに就いているようだ。

 孤児院の子供たちが畑を手伝い、その報酬におやつを作るらしい。

 どんなジョブか聞いてみた所、スキル構成はヒミツと言われてしまった。

 ただ興味があるなら色々教えてくれるらしい。料理が得意なようなので、こちらの世界で学ぶのもありだと思う。

 そろそろ行こうかという誘いに、レイカと別れシスターマリアが待つ診療所に向かった。


「待たせたね、シスターマリア」

「いいえ、クスノキさま。今日は、サーヤさんが手伝ってくれるのですね」

「はい、宜しくお願いします」


 待合室からやってきた患者をマリアが診るが、その仕事を隣で見せてもらう。

 やっている事は応急処置と、風邪の診察みたいな簡単なものが多かった。


 《スキル【観察】を解放しました》

 《スキル【処方】を解放しました》


「サーヤさん、包帯を取って貰える?」

「こっちに仕舞ってあるよ」

「サーヤさん。今手が離せないから、巻いてもらえる?」

「えっ? 私で良いのですか?」

「大丈夫、最初は誰でも素人だよ。フェザーくんのテーピングをする可能性……」

「やります!」


 シスターマリアは何ヵ所か調べているけど、私は先生から指示を受けながら包帯を巻き始めた。

 男性の診断は軽い打撲と言っていたけど、この巻き方で良いのかな?

 ぼーっと、こちらを見ている視線を感じる。初めてやる手当が、上手くいってないのか心配になった。


 《スキル【応急手当】を解放しました》


 患者さんの流れが一段落した頃、レイカがハーブティーを淹れて持ってきた。

 爽やかさだけの香りではなく、空気まで浄化してくれるような気がした。


「凄いでしょー。VRって視覚だけでしょって思ってたら、再現度が高いのよ」

「はい! さっきの人も、肌の温度とか視線とか凄いリアルで」

「あら? 見られる事に慣れてるの?」

「え? 私の手際が悪かったからじゃ……?」

「そうじゃないわ。エルフの人って、周りを寄せ付けない人が多いの。だから驚いてたのよ」


「三人が話していると、私の居場所がないな」

「そんなことないですよ先生。脳外科から転身したスーパードクターなんですから自信をもってください」

「はぁ、まさかゲームの中にまで入るとはね」

「先生、サーヤさん。お茶請けにスコーンを如何ですか?」


 レイカは手際良く、テーブルにハーブティーとスコーンを用意する。

 甘さと爽やかさの二種が混ざり合い、不思議と食欲を掻き立ててくる。

 レイカの話では、この世界は現実を忠実に再現しているようだ。

 マニュアル操作をすれば、調理工程もここで学べるらしい。

 この世界でフェザーを治療出来れば――俊ちゃんの怪我も良くなるかもしれない……その可能性を信じて。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 レイカも先生と同様に助言者メンターらしく、先生が忙しい時にサポートをしてくれるようだ。

 今はシスターマリアの時間が取れたこともあり、先生と一緒に魔法の講習を受けることになった。

 講義ではこの世界のスキルの取り方の難しさと、魔法についての講義をしてもらった。

 一般的なエルフが取得出来る魔法は精霊魔法で、古代語魔法はいずれかを師と仰ぎ、神聖魔法は教会に所属する必要があった。


「よく見てて!」


 シスターマリアが先生にかける神聖魔法は、正直何が起きているのか分からなかった。

 よく見ててと言われたので、見るしかない。……何となく、マリアの手と触れている箇所が淡く光っているような気がした。


 《スキル【魔力感知】を解放しました》

 《スキル【魔力感知】を習得しました》

 《スキル【魔力視】を解放しました》

 《スキル【魔力視】を習得しました》


「その驚き方を見ると、分かったようね」

「これが……魔法ですか?」

「そう、基本はどれも同じ。私達が使う神聖魔法は、神々の御業を人の体を介して行う奇跡。その媒体は魔力ね」

「エルフはこの世界にいる精霊の力を借りて、その力を代行することが出来る。サーヤさんにも、感じることが出来るはずだよ」


 魔力の親和性が高いエルフだからこそ、すぐに魔力を敏感に感じることが出来たらしい。

 そして精霊魔法にも癒しの魔法があると分かった。

 それは私の目の前でお辞儀する、掌サイズの水の精霊が教えてくれた。


 《スキル【精霊との対話】を解放しました》

 《スキル【精霊との対話】を習得しました》

 《スキル【精霊との対話】がセットされました》

 《スキル【精霊魔法/水】を解放しました》


「先生、マリアさん。水の精霊さまが、魔法の使い方を教えてくれるそうです!」

「そう。じゃあ、今日の講義はここまでにしましょうか?」

「さすがエルフだね。他の種族だと、早くて三日。遅いと一週間くらいかかるかな?」

「私も早く、マリアさんのように魔法を使いこなしたいです」


 私の手の中で、水の精霊はクルクルと回っている。

 その姿がまるでフィギアスケーターのようで、ほのぼのとしていると、急患を知らせる声が聞こえてきた。

 魔法を覚える必要があるけれど、まずは今出来ることを頑張りたいと思う。

 それが俊ちゃんの力になれると信じているのだから……。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  沙也加の優しい気持ちが感じられて良いですね。医療とゲームを結びつけた斬新な小説だと思います。  楽しく読ませてもらいました、ありがとうございます
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