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086 なぞ謎ナゾ

日頃より当作品をご覧いただきありがとうございます。


次週の土日は予定が詰め込まれており、アップ出来ない可能性があります。

会社の休日はカレンダー通りですが、今年のカレンダーは信用ならないので多少変則的なアップになると思います。

皆様も『海の日・山の日』はご注意ください。

 狐獣人の男は時折電池が切れたように、ボーっと虚空を見つめ「フヒヒ」と笑い出す。

 見た感じ、明らかに薬物中毒者な雰囲気だ。

 何でファンタジーな世界観なのに、妙に現実に近い事件を起こすのか不思議だった。


「みなさん、落ち着いて離れてください」

「君! アイツは危険だ。急いで逃げなさい!」

「俺は冒険者です」


 二名の衛兵が大声をあげていると、狐獣人は首を大きく傾げながら戸惑う人々を睨みつけた。

 ペン回しをするような柔らかい軌跡を描いていた片手剣が、一人の衛兵を目標に据えて止まった。


 俺は槍の持ち手を逆にし、穂先ではなく石突の方を狐獣人に向ける。

 ただ単に倒すのは簡単そうだけど、薬物中毒なら販売人ばいにんがいる事が予想される。

 事件はユジョーに斬り捨てられた一件と、先程の闖入者の一件だけだけど、この状況を見ると他にも起きている可能性があった。


 ユラっと動き出した狐獣人は一歩目を踏み出すと、衛兵に向かって驚くような加速をみせた。

 俺の後ろを誘導しながら移動する衛兵は、まだそれに気付いていない。

 相手へ制止を促すつもりで、槍で大きく進行方向の邪魔をする。


「フヒヒヒハァ」

「グルゥゥゥゥゥ」


 狐対狼なら、狩る方はこちら側だ。

 相手の生存本能に語り掛けるように、俺はノドを鳴らして威圧をかける。

 狐獣人は対象を俺の方に変更したみたいで、一瞬だけ動きが鈍った所でカウンターを放った。

 胸元に当たった感触は驚くほど軽く、その割には勢いよく吹っ飛んでいる。


 その瞬間を見たのか、ワラワラと出てくる店員とお客達。

 衛兵の一人が振り返り、「大丈夫かい? さすが冒険者だなぁ」と歩いてくる。

 目の端に捉えたのは、少し奥の方で何かを燻している獣人店員。

 辺りに甘く、少しだけ不快な香りが流れてくる。


「まだ注意してください。そいつは多分……」

「フヒ、ヒヒヒヒヒ」


 ゆらぁと剣を片手に立ち上がった狐獣人は、然程さほどダメージを受けているようには見えない。

 スポンジに向けて打撃武器を全力で振るっても、多くの力は流されてしまうだろう。

 蜘蛛の子を散らすように避難しようとする人々は、若干イベントと勘違いしている節も見えていた。

 大きく広がった輪は、俺と狐獣人の行動を疎外しないくらいのスペースを保っている。


「仕方ない、時間を稼ぐか」


 俺は車椅子を前進させ、槍の技量スキルで狐獣人を制圧しようと考える。

 一般的にスキルの有無は、その行動に於いて圧倒的な力量差を見せるからだ。

 見た感じ狐獣人の剣術は、完全に素人のレベルだ。

 思い切りの良さとキ〇ガイが刃物を持っている怖さなだけで、倒すだけなら問題ない……けど。


 素人の動きなら、いつかは限界が来る筈だ。

 出来れば衛兵が応援を呼んでくれれば良いけど、そもそもここに衛兵がいることが奇跡なのだ。

 ハワードとアナライズの支援も、ユジョーの行動範囲にも限界があるだろう。

 サーヤが隣にいてくれるなら焦りはしないんだけど……。


「グルルゥ(気をしっかり持て!)」

「ヒィ……、ヒャハハハハ」


 剣と槍の間合いは違う。

 いくら相手が軽快に剣を振るっても、槍の持ち手が逆になっても間合いの差は変わらない。

 剣の軌道を変えて肩を突き、車椅子を小回りに動かし腹を打ち付ける。

 こちらの攻撃が当たる度に拍手が沸き起こるが、嫌な胸騒ぎだけが頭にずしりと圧し掛かってくる。


 すると、一人の妙齢の獣人女性が輪から出てきた。

 キツネでも猫でもない尻尾。

 グレーで斑にもなっていないので、ここにいる獣人達とは違う氏族なのかもしれない。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「無闇に傷つけるのは良くないわ」

「でも、今抑えておかないと危険です」

「じゃあ、私が引き継ぐわ。貴方は、この匂いの元を追って!」


 しなやかに歩み出てきた獣人女性は、多分だけど猫系肉食獣なのだろう。

 それも強者だけが持つ風格というか、種族を守るリーダー的な威厳を備えていた。


「無手で大丈夫ですか?」

「えぇ、あっちは逃げ足が速いから、頑張ってねフェザーくん・・・・・・


 思わず二度見してしまうように見上げると、その女性は一瞬身を屈め瞬時に狐獣人に間合いを詰める。

 剣を持つ手を手の甲・・・で押し流し、その手首を掴んだかと思うと柔道の体落としのように獣人を転がす。

 狐獣人はうつ伏せの状態で片腕だけ極まっているせいか、尻尾がダランと降参の姿勢を見せていた。

 俺も格闘技を使えれば良いけれど、さすがに車椅子では無理らしい。


「衛兵さん、捕縛用の縄はあるかしら?」

「あっ、はい! ご協力感謝します」

「これで安心かしら?」


 まるで俺に合図を出すように、妙齢の獣人女性はウィンクを一つする。

 あまりにも鮮やかな手際に感心するが、匂いの元は観客の輪の外にあった。

 一般の人にこの匂いは分からないのか、なかなか人の輪を突破出来ないでいた。

 人ごみの中で小回りが利かない車椅子は、こういう捜査では不利になる。


 何とか人の輪を抜けて匂いの元らしき場所へ着くと、七輪のような物に乾燥した草を燃やした後が残っていた。

 ここはグレーで斑な尻尾の獣人が店員をしていた所で、店員も店の商品も撤去された後だった。


『フェザーさん、落ち着きました?』

『あ、あぁ、こっちは終息した。麻薬中毒者みたいな奴が出てな』

『ねえねえ、やっつけた?』

『大丈夫かのぉ』


 簡単にメンバーへ事情説明をし、ハワードとアナライズに伝えて貰うことにした。

 そして少し考えた後、サーヤと別行動し合流出来てない事を話した。


『もしかして……』

『何か分かるか?』

『リアルで何か起きたとか?』

『……まだログインしているよな?』


 ログイン・ログアウトの不具合バグという可能性は無くはないと思う。

 ただ沙也加は買い物に熱中すると、かなり強めに呼び掛けなければ自分の世界に入ってしまうことも知っていた。

 杞憂きゆうで済めば問題はないけど、このゲームで俺とサーヤは互いをサポートしながら動いている。


『事件に巻き込まれていないか、心配だのぉ』

『ん? サーヤおねえちゃん、うごいてるよ』


 クスクスの一言に、俺は色々な機能を覗き込む。

 パーティー会話だけでなく個人への会話機能もあるし、パーティーメンバーならいる場所も捕捉出来る。

 遠くの方にいるコジカの位置まで分かるんだから、その精度は信頼して良いレベルだ。


『フェザー先輩、これってもしかして……』

『あぁ、多分……人身売買だろう!』


 マーケットで起きている失踪事件にばかり頭が行っていて、人身売買は同一の物と考えてしまっていた。

 ハワードとアナライズは、確かに誘拐事件と人身売買と言っていた筈だ。

 ただ確証がない噂話レベルなので、出せる情報とそうでない情報があるのだろう。

 確かに噂話レベルでは完全に信じる事が出来ない、かと言って疎かにしては不味い話でもあった。


『心配は心配じゃが……』

『ウノさん、どうしました?』

『プレイヤーが誘拐犯に攫われるのは、不具合バグじゃなかろうか? あっさり犯人の拠点が分かってしまうしのぉ』

『あっ……』


 間もなく夕方に差し掛かる時間。

 もしサーヤが気が付いて、ログアウトをしたらどうなるのだろうか?

 またどこかに監禁されたとして、一生動けない可能性があるのはゲームとしては大問題だ。

 今回はハワードとアナライズを巻き込んで、サーヤの救出作戦を検討する。


『とりあえず合流するか』

『フェザー先輩、パーティーリーダー権限を貸してください』

『えーっと、これか……』

『はい、すぐに戻しますね』


『やあ、さっきぶり。こんな短時間に事件が起きるなんて凄いね』

『あぁ、主人公のようだな』

『ハワードさん、アナライズさん』

『サーヤさんが移動している先は、高級住宅地方面だな』


 再び同盟アライアンスを組んだ事で、ハワード達とのパーティー会話が復活した。

 アナライズの予想では、サーヤは多分意識を失っているらしい。

 この世界にも刑事ドラマで良く出るクロロホルム的な薬品があるらしく、一瞬で意識を奪えるようだ。

 そんな劇薬を使っても大丈夫かと聞くと、アレはシチュエーション重視な代物らしい。


 アカネが少し心配した『身の安全』も、ゲーム内のハラスメント設定でガード出来るようだ。

 華奢な後衛エルフが『クッ、殺せ』という場面は、このゲームでは起こらないらしい。


『なんか、一気に緊張感が無くなりましたね』

『悪いね。GMに苦情を入れておくよ』

『クスクスくん。どうして、そんなにニコニコしてるの?』

『だって、これからわるものたいじでしょ?』


『フェザー先輩、そこから動かないでくださいね』

『あぁ、それとさっき強い獣人を見かけたんだけど、凄い手並みだったなぁ』

『うん? かなりの手練れだと、プレイヤーの可能性があるな』

『まだバレてないだろ?』


 アナライズの発言の後一瞬の間があり、ハワードの『もしかして……』でクスクスの動画が一本アップされている事が分かった。

 クスクスの動画編集能力は知っていたけど、まさかこの短時間で訓練風景がアップされているとは思わなかった。


『やばいな、アナライズ』

『アイツらが来るぞ。いや、もう匂いを感じ取っているのかも?』


 俺はサーヤの心配よりも、ハワードとアナライズが恐れるプレイヤーがいる事に驚いた。

 出来ればサーヤには、途中で気付かずに犯人の元へ誘導して欲しい。

 あまり騒いでサーヤを起こさないようにし、合流した俺達は小声で作戦を練っていく。

 こんな不可思議な事件の解決方法は、これが最初で最後だろう。


 夜になれば沙也加との話が待っている。

 俺はいくつもある不安を振り払い、まずはサーヤの救出を第一に考えるのであった。

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