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084 二人の守護者

 午前に色々あったけど、初級者講習が終わった午後は模擬戦が待っていた。

 アカネに聞いた話だと、クスクスは昨日ハワードの話題をしきりに出していたらしい。

 クスクスにとって強いとは正義であり、どうやら『聖騎士』という職業の響きにやられたようだ。


 食事が終わり同盟アライアンスを解除すると、クスクスはウノの手を引っ張って訓練場に急いでいた。

 そんなに急いでもハワードがここにいる以上訓練は進まないのに、準備だけでも済ませておきたいようだ。

 俺達はハワードに、「ゆっくりで良いですから」と伝えてクスクスの後を追う。

 クスクスは大量のカメラを各所に浮かべると、木剣を持ってカメラチェックを行っていた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「さあ、どこからでもかかって来なさい!」

「うーん!」


 俺達が来てからそれ程時間が経たないうちに、ハワードとアナライズはやってきた。

 クスクスのやる気とは違う意味で、アナライズはクスクスに興味津々の様子だった。

 午前に講習に参加したNPCも、目を輝かせながら見学している。


「アナライズさん、『聖騎士』ってどんな職業なんですか?」

「『聖騎士』の聖は神に仕えるという意味、騎士は誰かを守る人を指すかな?」

「回復も使える盾職って感じですか?」

「この説明だと、そう聞こえるだろうね。ほら、動いたよ!」


 聖騎士ハワードとクスクスは、互いに木剣を持ち盾を構えている。

 自身が多くの敵を一手に担い、その間に仲間が敵の数を減らしていくのが基本的な戦い方だ。

 人間と小人族との違いはあるけれど、俺達はクスクスの実力を知っている。

 クスクスは早くも盾を展開し中央に小さい面だけ残し、他の四つの部位は細い支えから分割して上下左右の独立した盾になる。


「あの独創力は面白いね。GMも褒めていたよ」

「アナライズさんはGMと、よく話すのですか?」

「私はどちらかと言うと技術職だからね。理詰めで考えすぎて、遊び心がないってよく言われるんだよ」


「でも普通、盾に隙間なんて作りませんよね」

「あれが最終形態じゃないんだろう? ハワードも不思議がってるよ」


 アナライズの話では、クスクスが撮った動画は出回っていて、かなり人気だと言っていた。

 そして俺達の戦術はバレバレらしい。対モンスターなら問題ないけど、対人戦では不利になるかもしれない。


 クスクスの分割した盾は、その後『粘土細工くれいあーと』の魔法により、隙間が塞がるのをアナライズは知っていた。

 当然ハワードも知っているようで、中途半端なまま展開だけしたクスクスの意図が見えないのだろう。

 その代わりと言うように、クスクスの足元が少しだけ盛り上がる。

 これはダメージを地面に逃がすための土属性の魔法で、欠点としては足が止まる事だった。


「小人族は自由に動き回り、鋭い刃物で細かい傷を与える……か」

「クスクスくんも、本当は飛び出したいと思います」

「あぁ、そうだな。クスクスは強さに対する美学があるし、自身の役割を考えてると思う」

「ハワードさんが、ゆっくり歩いていきます」


「小人族なのに魔法まで使えるのか。なら少しは、こちらも手の内を見せないとな」

「ぼくは負けないよ!」

「では手始めに、ハッ!」


 二人の剣先が、ギリギリ届くか届かないかの距離。

 そこでハワードが立ち止まり、裂帛の気合を発した。

 それだけで突風が通り抜けるような感触を味わった。

 通常敵の注意を引きつけるスキルは、『悪意』や『強い感情』を叩きつける事が多い。


「何て爽やかな気合なんじゃ……」

「彼は聖騎士だからね。まずは挨拶代わりだけど、実際対峙しているクスクスくんは……」


「うっわぁぁぁぁ、すごい! 思った通りだ!」

「喜んで貰えて嬉しいよ。次は『聖属性付与ホーリーウェポンだ』


 驚くような滑らかな動作で、ハワードは木剣に光を纏わせる。

 これはアカネも同じような技を使っているから分かるけど、その輝き具合はアカネのスキルと天と地ほどの差があった。

 ハワードが掲げる木剣は、『光を見ていたい』・『温かみに触れてみたい』と、ついつい目で追ってしまう。

 そして気付いた時には僅かに踏み込んだだけで、クスクスの盾に木剣が振り下ろされていた。


「ちょっと、××――フェザー。いつ剣を振り下ろしたの?」

「サーヤ、落ち着けって。俺達ずっと見てただろ?」

「わ、儂にも分からなんだ……」

「見よう見ようとするから、意識が剣だけに集中するんだよ。相手がモンスターなら、訳が分からないうちに逝っただろうね」


俯瞰ふかんで見ていてこれですか……」

「クスクスくんの感の良さ……違うな。ハワードは真面目な男だから、わざと受けさせたって事はないと思う」


 クスクスはきちんと中央の面を使いながら、ハワードの光る木剣を受け止めたように見えた。

 ダメージは少し盛り上がった地面へ流す……。

 でも一瞬、苦しそうな顔をしているのが分かってしまった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「うんうん、良いね。ただ、戦い方が幼いかな?」

「つぎは、ぼくのターンだよ」


 二人が近距離ショートレンジになった事で、クスクスの攻撃も届くようになっていた。

 ハワードが持っているのは訓練用の円形盾で、仲間を守るというよりかは軽い防御手段程度の脅威度だ。

 そしてクスクスは最初に講習を受けたギルドで、『敵の足を殺せ』と指導を受けている。

 相手をするのが圧倒的な身長差になることが多いので、小人族が行う足元への攻撃は地味に痛い筈だ。


 剣道では上段・中段・下段の構えがある。

 ハワードは体格的に中段で構えていても、クスクスへは打ち下ろす形になる。

 クスクスは身長的に上中下段を巧みに使い分け、ハワードは若干戦いにくそうにも見えた。

 けど有効打は一つとして見受けられない。


「儂なら、どちらを相手にしても勝てるビジョンが見当たらぬ」

「うんうん。正直なところ、よく頑張っているとも言えるね」

「ハワードさんは何回か、打ち込めるのに別の場所を攻撃していましたね」

「あれは多分、クスクスにも分からないように教えてるのかな?」


「それでも、あの魔法は使いどころを考えないとね」

「小人族の利点を潰している……ですか?」

「あぁ、そしてハワードは中距離の技を持っている。その意味は分かるよね」


 ハワードは圧倒的な実力差を示しながら、防御の上から削る事も中距離で攻撃することも出来る。

 その上、回復魔法まであるんだから、反則としか言いようがなかった。

 まさに上級職。俺達はプレイスタイルが違うけど、クスクスにとっては一つの到達点なのかもしれない。


「あは、あははははは!」

「もう、考えることを放棄したのかい?」

「ん? なんでこんな楽しいのを止めちゃうの?」


 ハワードは軽くトンと地面を踏んだだけで、ふわりと後方にジャンプする。

 クスクスは『逃がさないよ』とでも言うように、地面に設置した魔法を呆気ないくらい放棄した。

 元々、陸上のクラウチングスタートをする発射台のような魔法で、クスクスは相性の良さで使っていた。


 全てのカメラがハワードに集中する。

 着地と同時に大きく一閃するハワードの木剣は、昼間なのに光の軌跡を残していた。

 そこにスピード命な小人族が猛ダッシュをかける。

 滑り込む事スライディングで剣筋を回避したクスクスはすぐに反転し、剣と盾を離して膝の裏にタックルを敢行した。


「盾職が武器と盾を捨てるだと……」

「クスクスくんは出来る子なんです」

「あー、アカネと訓練をしているからか」

「小人族相手に格闘戦は地味にやりにくいんです。捕まえちゃえば、こっちのもんですけどね」


 一瞬、クスクスの首根っこを掴んでいるアカネを想像する。

 アカネの持つスキルは、小動物を制圧するのに向いているからクスクスにも有効だろう。


 膝カックンを狙うようなタックルは、ハワードの気合と共に失敗に終わった。

 今度は最初にあったような突風ではなく、ハワードを中心として半球状の光の膜が発生している。

 クスクスはゴロゴロと転がりながら、器用に木剣と盾を回収していた。


「うっわぁ、それなんてわざ?」

「まさか、これまで使わせるなんてね。試合が終わったら教えてあげるよ」


 砂埃まみれでも、クスクスの好奇心は尽きない。

 この純粋さは、それだけ見ても聖騎士の資格があるだろう。


 この後クスクスは純粋な剣技・盾の使い方を実践で習いながら、諦めることも泣くこともなくハワードに挑んでいた。

 途中で講習に参加していたNPC達が木剣の素振りをしだし、サーヤは『先にマーケットへ話を通しに行こう』と言い出した。

 もう楽しむモードに入っているクスクスを止められる人はいなく、ウノは保護者として見守るようだ。

 アカネは卵を抱きながら、クスクスの雄姿を語っている。


「あ~なると、大人も子供も変わらないな」

「ゲームは楽しむものですからね」

「私は少し気が重いよ……。多分、助っ人は来るだろうけどね」

「それが何か問題でも?」


 アナライズの不安そうな顔に、まだこの町では問題を抱えているのかと少し心配になった。

 ただ町には衛兵もいるし、俺達だけではなく協力してくれる人もいる。

 少しダレてきたのでサーヤの提案に乗って、この後マーケットに行く予定だ。


 本音を言えば俺も戦ってはみたいけど、この距離でハワードとの実力差は分かっている。

 それなら個人の戦力アップのみに捉われず、今出来る事に取り組みたいと思う。

 事件が起こっている分、不幸になっている人が増えるのだから……。

 サーヤが立ち上がると、みんなの視線を集める。


「××――フェザー、そろそろ行こっか?」

「あぁ、それといい加減……」


 みんなの視線が前方に戻るが、耳だけはしっかりこっちの言葉を聞いているような気がしていた。

 だからサーヤに『分かってるよな?』と目で合図すると、何故か照れたように目を逸らすのでため息・・・しか出なかった。

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