083 事件はどこで起きている
広いグラウンドに現れたのは、貴族もどきのユジョーとその取り巻きだった。
前二人・後ろ二人とユジョーを囲むフォーメーションに変更はなく、誰も彼も鍛え抜かれた猛者という感じだった。
まがりなりにも貴族家の私兵だというのに、その雰囲気はゴロツキにしか見えない。
ハワードは身振りだけで俺達に『動かないように』と伝え、堂々とユジョーを出迎えた。
『タイミング的に、絶対コイツが犯人だよね』
『サーヤお姉ちゃん、こいつら悪者なの?』
『サーヤ。クスクスが真似するだろ? もうちょっと、言い方を……』
『フェザー先輩、近付いてきます』
『ふむ』
「フェザーくん、同盟を受領してくれないかな?」
小声で話しかけてくるアナライズに、声も出さず了承の意味も込めてOKを出す。
するとアナライズとパーティーを組んでいるハワードの名前も出て来て、これで内密にパーティー会話が出来るようになった。
身構えているのはクスクスだけで、アカネは何故か大きい卵を抱いている。
アカネから逃れようとあっちこっちに暴れるもんだから、アカネは潰さないよう抱きしめるのに精一杯だった。
「どうされましたか? ユジョーさま」
「また貴様か。犯罪者予備軍を鍛えて何とする?」
「これは異なことを。有事には、町を守ってくれるのが冒険者ですよ」
「ふっ……。犯罪者が町を救うなど、マッチポンプもいいとこだな」
『この世界に、マッチやポンプなどあるのかのぉ?』
『ウノさん、それは言わない約束よ』
『サーヤさん……、本当に若いの?』
『アナライズ。女性に年齢を聞くのは止めておけ』
ユジョーと対峙していても、アナライズへのツッコミは忘れないハワード。
悪者を睨んでいるクスクスも、隣で卵と格闘しているアカネが目に入るらしく、少しだけ毒気を抜かれていた。
ユジョーは町の有志から、『不審者が冒険者ギルドに入っていった』と聞いてきたと言う。
一回目の麻薬中毒者を『悪・即・斬』したユジョーなだけあって、何故犯行のすぐ近くに二度もいたのか気になってしまう。
『みんな、動かないでくれよ』
『あぁ見えて全員強者だからな。クスクスくん、戦いたかったら後でハワードが相手してあげるから』
『ほんとう?』
『アナライズ……。ハァ、まあ仕方ないか』
「そこに倒れている男が不審者か。運び出せ!」
「ユジョーさま、それはご勘弁ください。ギルドで起きた事は、ギルド内で処理するのが習わし」
「ほう、犯罪者を隠匿するつもりか?」
「そこに隠れているお嬢さん、早く責任者を呼んで来てくれないか?」
ハワードは自然な声量で呼び掛けたにも関わらず、少し遠くの建物の影にいたギルド職員が出て来て一礼して建物に戻っていく。
ユジョーは冷ややかな目をしながら、うつ伏せで倒れている男を軽く蹴ると、オセロを思わせるように軽やかに反転した。
『アイツは貴族籍を持っているが強い。そして、取り巻きもね』
『前方にいるのがスペードとクラブ・後方にいるのがダイヤにハートって、世界観的にはつまらないネーミングだよな』
『その中心にいるのがユジョーか?』
『ウノさんが、オヤジギャグを……』
一瞬の間があって、『ジョーカー』と掛かっているのに思い至る。
外見がドワーフなだけあって、オヤジギャグがやけにしっくりくる。
そして取り巻きの四つのマークも、ゴロツキっぽい外見のせいかすんなり入ってこなかった。
「テメェら、ユジョーさまにあんまり舐めた口叩くんじゃ……」
「止めないか、クラブ。……まぁ良いだろう。こんな粗暴な集団では……うん?」
「な、なによ!」
「ほう、こんな所に一輪の華が。エルフとは珍しい、名は何と申す」
「恐れながら申し上げます。うちのメンバーをナンパするなら、時と場所を選んでもらえませんか?」
「なんだと?」
「ハァ……、スペード。お前までいきり立つな。駄犬に耳を貸しては底が知れるぞ」
「ちょっと! フェザーは私のコッ……コッ、家族なんだからね!」
サーヤに釣られて俺も口を出してしまったけど、急にサーヤが鶏と化していた。
良く分からないけど、俺達はずっとお隣として過ごした家族のようなものだ。
間違ってないぞサーヤ!
『はいはい、そういう関係ね』
『これは秘密にしておけよ、アナライズ』
『了解!』
『でも、どうやって収拾をつけるんですか?』
アカネの問いかけに、ハワードが一歩前進する。
「ユジョーさま、事態は終息しております。あまりギルドにばかり関わっては、他の大事を見逃してしまうのでは?」
「貴様に言われなくても分かっておる。そこのエルフ、気が変わったならいつでも持て成してやろう」
「結構です!」
「気の強い女子は嫌いではない。では、行くぞ!」
訓練場から去っていくのと入れ替わるように、冒険者ギルドから何人かやってくる。
そして速やかに倒れている男を運んでいくと、午前の初級者講習は幕を閉じた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
食堂や酒場を兼ねている冒険者ギルド。
そこに集まった俺達パーティーとハワード・アナライズは、昼食を取りながら色々と話をしていた。
この町では、ユジョーの力が及ぶ場所と及ばない場所が存在する。
もし犯罪者を捕まえたらどうなるか?
基本的には町の統治者が取り締まり・裁判権を持つが、冒険者ギルド内・町の教会などは独自の裁量を有している。
「そういえばウノさん、昨日真っ先に教会の場所を聞いてお祈りしてましたよね」
「二人には、時間を取らせてしまったのぉ」
「誰か、気になる人でもいるんですか?」
「あぁ、……ふむ。神頼みではなく、儂が何とか出来ればのぉ」
日本には『信教の自由』が存在するし、大切な人を想い祈りを捧げるのは悪い事ではないと思う。
それが悪い方向の商売なら問題だけど、俺もたった一つの声援が力になることを知っている。
「話を戻すね。それで、さっきの男性は衛兵に引き渡す事になったよ」
「大事な生き証人だから管理は徹底するってさ。物語なら、グサリと暗殺だけどな」
「それってダメじゃない!」
「落ち着け、サーヤ」
「物語の様式美という奴かのぉ」
「実際俺達には、そこまで管理は出来ないさ」
「毒気を抜かなきゃいけないしな」
「やっぱり、中毒なんですか?」
いつの間にか卵が消えているアカネが確認する。
やけに自己主張の強い卵だけど、出てくるタイミングは決まって嫌な予感がする時だった。
クスクスは、目の前の料理に夢中だ。
通常メニューの他に、前日サーヤが作った料理も並べてあるから軽いパーティー状態だった。
俺達は情報の共有を図る。
どこかは分からないけど、時々起こる麻薬中毒者による暴走事件。
主に獣人関係で起こっている、神隠し的な事件――これが誘拐か人身売買だろうか?
ここの冒険者ギルドはやる気がないが、それはユジョーに目をつけられているので昼行燈を装っているらしい。
「具体的に調べる価値があるのは……」
「マーケットかな?」
「昨日も行ったしなぁ……」
「ウノさんは、スキル解放出来ました?」
お爺ちゃんな目線でクスクスを見ていたウノは、一つ一つの行動がスキルの解放に結びついていると驚いていた。
あまり感情を表に表さないようにしていても、感情の揺れ幅が少ないなりに表情が物語っていて何となく嬉しくなる。
「失礼ですがウノさん、武術の心得は?」
「ふむ、ないのぉ」
「では、お仕事は……?」
「……」
「アナライズ、個人情報だろ?」
「ウノさん、これおいしいよ!」
「どれどれ、クスクスくん。ふむ、サーヤさんは料理上手じゃのぉ」
「そんな事ないですよ」
アナライズは立ち上がって謝罪した後、スキルの解放はそんなに簡単なものではないと教えてくれた。
もしかすると社員と俺達では難易度が違うのかもしれないし、元々持っている素質や技術によっても習得難易度は変わるようだ。
「サーヤ、心当たりでもあるのか?」
「……ううん、何でもない」
「そ、そうですよね。サーヤさん」
「アカネも何か知っている……か。まあ、言える状況になったら教えてくれ」
別に、すぐにすぐ何かを知りたい訳ではない。
考えるべきは事件についてであり、この世界でウノが暮らし易くできるのが直近の課題だ。
「それにしてもメンバーの足りない部分を補うなんて、ウノさんは献身的だね」
「儂は、……居場所が欲しいだけかもしれない」
「ほーら、そんな顔しないで! 食べて食べて、午後も訓練をするんでしょ?」
「戦闘系は手ほどき出来るけど、宝探し系はね……」
「なあ、一度相談してみるか?」
「誰に?」
「あのネコミミおっさんにだよ」
「あっ……ニャー助くん関係だね」
猫獣人は手先が器用な人が多いので、何か役立つスキルを学べるかもしれない。
ついでに異変などの情報を仕入れられれば、事件の解決につながるかもしれないと思う。
「みんな、だいじなことをわすれてる! つよくないと悪者やっつけられないよ」
「ハァ……」
「観念しろ、ハワード」
「ご迷惑を掛けます」
このゲームに一番向いているのは、クスクスのような性格なのかもしれない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ウノ:ドワーフ
セットスキル
【剣技:壱】
【槌技:壱】
【頑強:壱】
【観察:壱】
【熱耐性:壱】
【鍛冶/手伝い:壱】
ボーナススキル:【冒険者の心得】
解放スキル
【斧技】【盾】【戦闘姿勢/重戦士】




