082 邪魔者たち
ウノの初級者講習は、アカネとクスクスも一緒に参加するようだ。
地域によってやる内容は変わるみたいで、基本的には体力の見極めと戦闘スキルの習得が主になる。
その時間別行動をしようと思ったけど、ウノがパーティーに加入したばかりなので見学しようとサーヤが言った。
講師は聖騎士ハワードが務めるので、俺とサーヤは分析官のアナライズと一緒に見学することにした。
昨日来たユジョーといういけ好かない貴族もどきは、訓練場まで来ないので少しだけ安心出来る。
俺とサーヤは新人達が走っているのを眺めながら、アナライズに色々と聞くことにした。
「それにしても、どうして俺達なんですか? 多分、ハワードさんにも仲間はいますよね」
「そうだな。アイツは上級職として、多くの仲間と数々の敵を倒してきた」
「クスクスくんが聞いたら、羨ましがるだろうなぁ」
「あまり彼の話を出さないでくれよ。ファンが多いから、そこかしこに出てくるかもしれない」
俺達の冒険は、それほど大したことをしてない筈だ。
クスクスが加入する前はレイカさん預りだったこともあり、彼の潜在能力の高さに少し怖くなる。
俺もサーヤも掲示板は一部の場所しか見ていなく、そこで特定の名前が出てくるのは珍しいようだ。
うちのパーティーは全体的に注目を浴びているみたいなので、良くも悪くも行動には注意したいと思う。
アナライズは続けて教えてくれた。
高位ジョブに就くと、どうしても柵が増えてくるらしい。
単純に依頼の達成度の高さや、そのジョブによる威光のようなもの。
更には姻戚関係を結ぼうとする貴族から、悪の組織・団体にまで目をつけられるようだ。
「そうなると、ハワードさんが事件を招いた可能性も……?」
「サーヤ!」
「ハハハ、まぁ仕方ないさ。何もない物語なんて退屈なだけだろう? 人間だってAIだって、悪意はあるんだ」
「はっきり言い切りますね」
「フェザーくん。……痛まないかい?」
アナライズの突然の言葉に、俺は一瞬固まってしまった。
多分車椅子に乗っているから、脚の事を言っているのだろうと思う。
少なくとも、この世界でのリハビリに痛みはない。
それは開発している社員が、一番わかっている事だろうと思っていた。
「個人情報は基本的に守られているよ。でもね、君は有名すぎた」
「はい、それは分かっています。だからこそ、この治験を受けられたしリハビリも……」
「でもね、それと痛みは別物なんだ。特に『心の痛み』は、本人にしか分からない」
「……そんな深刻そうな顔するなよサーヤ。俺は元気ですよ!」
「うん、それなら良いんだ。ただ、感情を吐露出来る場所は作っておくように!」
「分析官って、何でも分析出来るんですね」
「ハハハ、だから彼女が出来ないのかも? 君達が本当に羨ましいよ」
「「……違います!」」
一緒に居すぎたせいで、間まで似てしまっているのは問題かもしれない。
訓練場では我を忘れて『いっちばーん』とゴールを切るクスクスに、その後バテバテで後続が雪崩れ込む。
最後尾をドスドス走るドワーフのウノは、いかにも苦しそうだ。
ただの見学の筈が、今日は思いがけない長い一日になるような気がしていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
NPC数名も参加している初級者講習。
アカネとクスクスは二回目なので、なるべく端に寄って受講していた。
冒険者は冒険者で、社会としては必要な職種であり人材だ。
屈伸をしながら次を待ちきれないクスクスに、聖騎士ハワードは武器が入った籠を持ってくるように伝える。
途中からアカネも手伝いだし、最後尾でゴールしたウノは、ゼェハァと腰を下ろしながら荒い息をしていた。
「それにしても彼、両手剣がメイン武器じゃないのかい?」
「はい、諸事情がありまして。絶対に使わせないでください」
「周りから見させて貰ったけど、なかなかの業物だったけどね」
「多分ですけど、あの剣は呪われています。死に戻りでニュートラルに戻ったというか……」
「解呪したいけど、中途半端な形でキープしているって所か」
「アナライズさんは、その辺詳しいですか?」
「うーん。どちらかと言うと、起きた事象から分析する感じかな? システム的な事やプロファイングなんかも出来るよ」
アナライズの話では、他にも『情報屋』がいるらしい。
プレイヤーの人数だけジョブがあってもおかしくないと言い、それぞれに持っている情報を集めてもGMには敵わないようだ。
そしてGMさえも理解しきれていない現象も起こっているらしく、社員と協力会社・外部プレイヤーが駆け回っているらしい。
正式版ではメインシナリオが関わって来るので、どのくらいの規模の物語になるのか想像も出来ない。
「なあ、サーヤ。フレンド登録を申し込んでおかないか?」
「うん、そうだね。私の権限では分からない事があるし、この町での事件も気になるので」
「ん? サーヤさんは、純粋なテストプレイヤーではないのかな?」
「はい。××――フェザーの同行者なんです」
少し呆れ気味にサーヤを見る。
まるでたまたま失敗しちゃったと照れるエルフに、すっかりアナライズは騙されているようだ。
考えてみれば沙也加には感情を爆発させた所も、投げやりになって閉ざしてしまった所も見せてしまった。
それでも現実世界から仮想世界までついて来てくれる――そう思うと名前くらいは……いやいや、良くないな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
初級者講習が武器の扱いに変わる。
少し距離が離れていても、同じような情報をアナライズが教えてくれていた。
特に武器の利点や対人・対魔物の有利不利、エリアによって使い分けるなど習っていない事も話してくれて勉強になる。
世間話的にアナライズに武器の話はしてあって、今の説明から斧槍を勧めてもらった。
メインで使っている槍は、基本的には突く武器だ。
たとえば戦ったモンスターとして球体の豚がいた。
これから戦うだろう相手として、金属鎧を着る人間だっているだろう。
それを相手に『突く』だけでは心許ないようだ。
「とぉ、やぁ!」
「フン、フン」
NPCの頑張りは分かる。
それにも増して元気なのはクスクスであり、頻繁にカメラ調整している姿が恐ろしい。
それでいて誰より本気で打ち込んでいるので、ハワードも注意出来ないみたいだ。
アカネは格闘戦がメインなので、傍から見ても武器の扱いはそれほどでもなかった。
「昨日、パーティーメンバーから聞いたんですけど」
「うん」
「この町の異変って、どこで情報を得たんですか?」
「あぁ、やっぱり難しかったか」
「確か、『誘拐・人身売買・麻薬関係』でしたよね」
「どれも大きな街では、起こってもおかしくない事かな? 確実に見つかったのは麻薬関係で、中毒者が暴れてたんだ」
「どうなったんですか?」
「ユジョーが配下と現れて、切り捨て御免で終わりさ。その時いた仲間が、持ち帰って検死したから分かった」
ハワード一行がその証拠を持って領主に掛け合ったが、なまじ技術を科学に頼り過ぎた為、結果と文明レベルとの乖離――つまり検死官にしか分からない情報では証拠にならないと判断されてしまった。
良くも悪くも、冒険者は冒険者でしかない。
ハワードは領主の下に付く事で、仲間は権威を上げる為に別行動をするようになったらしい。
ユジョー達の人数は少ないけど、行動範囲とそこに与える影響は大きくなっていた。
それによって町が寂れていき、町の明暗の場所が明らかになった。
慎ましくも毎日を生きるのは、何も光の場所にいる者だけではない。
マーケットにいた獣人達も、日々逞しく生きている。
「マーケットは見ましたが、事件らしいものは……あっ」
「サーヤ!」
「何も起きてないです。全然、本っ当に何も起きてないです」
「フェザーくん、これは『怪しいね』と突っ込んだ方が良いのかな?」
本当に、乾いた笑いしか出てこなかった。
アナライズからは、マーケットで起きている誘拐事件について教えてくれた。
あの場所にいた獣人は、厳密にいうと何グループかいた。
それは俺も、何となく理解出来ている。
ネコミミおっさんが管理する猫獣人族は、情にもろいが規律には厳しかった。
その他の特徴で言うと……、キツネっぽい獣人がいたような気がする。
ただ全ての獣人がケモノケモノしているかというとそうではなく、耳や尻尾で判別するしかない。
そして尻尾をじっくり見ようとすると……、高確率でサーヤが感付いてしまう。
「場所が分かっているなら……」
「そう思って、領主さまには衛兵を数名出してもらってるんだ」
「あぁ、なるほど。場違いだなとは思っていました」
「ん? 何あれ?」
冒険者ギルドに併設された訓練場であるここは、もちろん何ヵ所か出入口が存在する。
広いコートで訓練する者は気楽に入れるし、たまに模擬試合をする時には観客をいれることもあった。
逆に初級者講習のような時間は、観客をシャットアウトする。
そこに現れた幽鬼のような男性が、フラフラと訓練生の方に歩いて行く。
「様子がおかしいね」
「でも、ハワードさんがいるなら大丈夫じゃ……」
フラフラした足取りがトットットと躓くように勢いを増し、突然籠に差さっていた木剣を掴んでNPCに殴りかかろうとする。
呆気に取られているNPCにハワードは割り込み、その木剣を訓練用の剣でカーンと跳ね上げた。
「君は誰かな?」
ハワードの言葉を無視した男性は、無手で目の前の相手に襲い掛かる。
武器を持っても倒せない相手に挑むなんて無謀だなと思いつつ、その猛襲は一撃腹部を殴打されただけで沈んでしまった。
俺達もハワードさんの元に集まり、周囲の警戒を始める。
すると案の定、直ぐ後に男達がやってくるのであった。




