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081 サーヤの気持ち⑥

 アカネちゃんがゼロを失ってから、入れ替わるようにウノさんがやってきた。

 コジカちゃん風に言うなら、『愚者』から『魔術師』に昇格したんだよと……言わないかもしれない。


 しゅ――言いかけて一瞬考える。

 ここなら言っても良いんだよね?

 しゅんちゃん・俊ちゃん・シュンちゃん、フェザーも認めたんだから私も受け入れようと思う。


「女将さん。台所を貸してくれて、ありがとうございます」

「冒険者も大変なんだねぇ。でも頑張って、みんなに美味しいものを作ってあげな」


 外ではフェザーが車椅子を押しながら、一歩ずつ歩いている。

 たまに膝から崩れ落ちる事もあれば、倒れている姿もいっぱい見てきた。

 料理をしている手が止まり、ついつい影から頑張っている様子を見に行ってしまう。


「そんなに気になるんなら、彼氏の傍にいれば良いのに……」

「か、彼氏じゃありません!」

「ハイハイ。子供の成長は早いんだから、しっかりと見守ってあげな」


 女将さんがそんな事を言ったタイミングで、宿屋の子供が顔を出してくる。

 どうやら、美味しそうな匂いに釣られたみたいだ。

 小分けにしたお菓子をあげると、女将さんはニッコリとして子供の小さい頃の話を始める。

 初めて寝返りしたこと。ハイハイからのつかまり立ち、拙い歩き方から今は元気に走り回っていると……。


 前の先生が『原因不明』と言っていたのに、やっぱり楠先生は名医だった。

 私の手元には先生から借りた多くの本があるし、その理由について薄々と分かった事がある。

 リハビリはスピード勝負な所もあるし、開始時期が遅くなれば倍以上の時間を要すこともあるらしい。

 時間が解決する問題でもあるので、俊ちゃんには穏やかに過ごして欲しかった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 最近、馬車での旅が主流になってきている。

 一般的には旅自体・・・浸透してないんだけど、護衛も兼ねている私達は格安で移動出来ていた。

 そう毎回、強盗・夜盗他モンスター級が街道に出る訳がない。

 それぞれに生息域というものがあって、同行者パートナーとしての知識をフル活用して掴み取った移動手段だった。


 自動車の教習では、『ボールが転がってきたら、子供が来るかもしれない』と予測するという。

 でも、こんな田舎町の近くで、血塗れの少年と出会うとは思わなかった。

 話を聞いてみると、ゴブリンの目撃情報と怪しいドワーフについて教えてくれた。


「そんなにタマネギを切って、どうするんだい?」

「あっ、切り過ぎちゃったか……。飴色タマネギで甘みを強くします」


 ぼーっと作業をしていると、ついつい無心で進めてしまう。

 同じ作業なだけに、やり過ぎに注意しないといけない。


 そういう意味ではフェザーはどこか、こだわりがあるのかもしれない。

 馬車の旅で『システムメッセージをOFFにする方法』を聞いてきたんだった。

 普通のRPGなら、一刻も早くレベルを上げたり強くなったりしたくなると思う。

 隠しパラメーターと予想されている『幸運』の話をする前に切り出されたので、私とフェザーだけが恩恵に与れなかった。


「冒険者は変わった料理を知ってるんだねぇ」

「自己流ですよ」

「お母さんの教育が良かったってことさ。男の子は食べるだけだから……」


 宿の子供はもうお菓子を食べ終わったのか、顔を出すのは二回目だ。

 一瞬女将さんの顔を見ると、首を横に振っている。

 仕方がないので料理を多めに作り、後でお裾分けでもしようと考えることにした。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 村の事件は難しいものではなかった。

 一般的な導入で良く出てくるゴブリン退治に変わりなく、問題はその対象が私達のパーティーではなく他のプレイヤーだってことだ。

 事情を調べていくうちに分かった事は、ドワーフのプレイヤーであるウノさんは生産職らしい。


 多くのゲームで生産だけで食べていくなら、早いうちに詰む未来が予測できる。

 材料の調達・備品の確保・組合問題他エトセトラ、村で唯一の鍛冶師に拾って貰ったからこそ成り立っていた感じだった。

 だからこそ、ある程度の自衛手段と知識が必要になってくる。

 ベータテストだから引き籠ることも出来るけど、世界設定的に冒険者は文化の起爆剤に位置づけられていた。


「そっちは煮込み料理かい?」

「はい、ホワイトシチューです」


 考えてみれば、このゲームは本当に凄い。

 トマトがトマトの味がするなんて普通だと思うけど、どれだけ凄いことか今更ながらに痛感する。

 NPCの女将さんが、料理に興味津々なのは分かる。

 でも私とフェザーのことを気遣いつつ、日常生活を元気に過ごしている事は、凄いとしか言いようがなかった。


 逆に言えば少し前のウノさんは、おかしな点が満載だった。

 フェザーは『老成した年配の人が、ゲームを始めたかもしれない』と言っていた。

 確かにクスクスくんが入って来るくらいだから、上の年齢の人が参加してもおかしくはない。

 でも初めて会った時のウノさんは、世界から拒絶された悲しそうな子供にしか見えなかった。


「ここって、野菜が豊富ですよね」

「そうね、やっぱり王都から近い事もあるかな」


 女将さんがビシッと指さしたのは、馬車の旅からも見えた遠くにある高い建物だった。

 煙突だと思っていた建物は『塔』で、通常地下に潜る筈のダンジョンが上空に伸びているらしい。


 そこでふと、コジカちゃんの言葉を思い出す。

『塔には絶対に近寄らないでください』と……。

 根菜類を炒めながら、ウノさんの事を思い出していた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ウノさんを説得出来た私達は、フェザーとの合流を目指していた。

 対象の少年は確保出来たし、ゴブリンの被害にはあってないみたい。

 ところが、もう一人行方不明者がいたのが分かった。

 嫌な予感が広がる。でも、フェザーと合流出来れば……。


 私の嫌な予感は、意外な形で目の前に起こってしまった。

 フェザーを見たウノさんが苦しみだす……。

 ある意味行方不明・・・・の子供より、何倍も危険な事が起こっていると分かってしまった。


 それは喉元まで込み上げているのに、言語化出来ない不安。

 漠然としてるのに、導火線に火がついてしまったような焦燥感。


「あれは何だったんだろう?」

「隠し味でもあるのかい?」


 女将さんの言葉を上の空で聞きながら、次の作業の説明をしながら調理する。


 クスクスくんが気付けたので、ウノさんに薬を飲ませることができた。

 それで落ち着いたから、その時はおかしな事だとは気付けなかった。

 フェザーと同じように、仮想世界でも病気を患っている・・・・・・・・と。


 合流した私達は二手に別れ、ウノさんを中心にゴブリンの討伐をしてもらう計画を続行した。

 それは直ぐに実行され、行方不明の子供も見つける事が出来た。

 ミッション自体は簡単だったのに、とても回り道をした気がする。

 そして何故か、新しいミッションが発動された。


「随分、険しい顔をしているね」

「あっ、いえ……」


 嫌な予感だけが次から次へと襲い掛かってくる。

 ウノさんの制圧は簡単で、特にスキルをアクティブ化してない状態なら、一人でも負けようがなかった。

 厄介なのはあの剣だ……。フェザーが呪われた時とは状況が違う。

 ウノさんには状況を理解して貰い、死に戻りで対応することに同意してもらった。


 ゲームなんだから事件が起こっても問題はない。

 何も起きない日常系のVRMMOなんて聞いた事がないし、実際に現実世界から隔絶されていないなら米・醤油の有難みがない。

 それでもメインシナリオが進んでいないのに、何故か私達だけ被害が大きいと思う。

吊られた男グッドマン』に『運命の輪ウロボロス』、今回は『悪魔デビル』の可能性まであった。


「良い匂いだねぇ……。これ宿で出しても良いかい?」

「はい、名物にしちゃってください」


 ウノさんがパーティーに少し打ち解けた頃、『車椅子を押そうか?』とフェザーに申し出た事があった。

 周りは茶化して「それはサーヤさんの役目ですから、取っちゃダメですよ」と言っていたのを思い出す。


 ウノさんのパーティー入りを最後まで考えた私としては、フェザーの背中を守るのは私しかいないと考えていた。

 反対意見を聞いたフェザーは『エルフとドワーフは、やっぱり仲が悪いのか?』と聞いてきた。

 システム的に『好き嫌い』のパラメーターがある訳ではないと思う。


 ただ、その時何故か思い出したのが『悪魔デビル』のカードだった。

 それがウノさんに対する疑念なのか、自分の中で生まれた独占欲なのかは分からない。


 現在、ウノさんの呪いは発動していない。

 そしてウノさんは、周りを気遣える良い人だとは理解出来ている。

 なのに何に対して私は焦っているのだろう?


 フェザーのリハビリは、とても順調だ。

 バスケに対しても相手に対しても、わだかまりがないようにも見える。


「手紙か……」

「レシピは大丈夫だよ。それとも、ラブレターの話かい?」


 相手校の監督からの、謝罪の手紙は一通だけ。

 それも『監督不行届』という、どこか他人事のような感じだった。

 相手校も同じようなポジションを貫いていて、弁護士は選手を擁護している状態だった。


 羽鳥家の届いた相手の手紙は、私の所で止まっている。

 二家で共有している話も、俊ちゃんには届いていない。


 そして父親パパからは、いつか区切りをつける必要が出てくると話を受けている。

 その時になったら俊ちゃんに説明するのが私の役目で、それを迎えないまま明日は歩けないだろうと……。


『魔が差した』……都合の良い言葉だと思う。

 村の少年に『悪魔』だと言われたウノさん、……『魔』ってなんだろう?

 少なくとも『悪』は悪いものだと思う。

 クスクスくんのことを思い出し、あの三人なら大丈夫かと安心する。


「サーヤ、腹減った……。何か食わしてくれ」

「もー、××――フェザーは汚れを落としてきなさい」

「ふふ、まるで夫婦ね」

「「違います!」」


 突然やってきたフェザーにドキリとしつつも、こんな毎日がいつまでも続いたら良いのにと、願わずにはいられなかった。

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