080 コジカの信念【閑話】
コジカです! 最近、忘れられているような気がして少し悲しいです。
今の時間、サーヤさんは宿屋でお料理をしていて、フェザーさんは近所で車椅子を押す歩行訓練をしているみたいです。
みんなが待っていてくれる今のうちに……。
「コジカくん。では、ついてきたまえ」
「はい! マナリアさま」
私はリアルの学校が終わっても、ゲームの中で学校に通っています。
職員室に呼ばれた私は喜び勇んで行ったけど、用事は雑用にすぎませんでした。
こんな雑用でも、周りからやっかまれることが多くて困ってしまいます。
『そんなにやりたかったら、いつでも代わるのに……』と思っても、何故か指名を受けてしまいます。
「あの、私の卒論は……」
「あぁ、ちゃんと見ておるよ。とても良くまとめられていた」
「じゃあ、ハンコをくだ……」
「それより今日は、この実験に取り掛からなくては!」
マナリアさまは両手に大量の書類を持ち、私は実験素材を両手に抱えています。
この学校は学ぶべき所が多く、それに気付いてからが勝負でした。
掲示板で騒がれているのは、適正がないのに最初から覚えようと無理をした人です。
私は下地があり、フェザーさんの恩恵が大きかったと思います。
「まだまだ、教えたい事は多いのだが……」
「それじゃあ遅いんです。ベータテストが終わってしまいますから」
「現実世界も、忙しないのだな」
「多くの事を教えて頂いて感謝しています。私は、それを実践に生かしたいのです」
最終的に魔道具の講義をするマリアナさまに師事したのは、私の知らない分野だったから。
『魔法理論』・『魔道具』・『占星術』を中心に学び、生徒の立場で後世に知識を残すのが卒論でした。
この卒論は精査された後、ゲームの世界で新たな教科書になり、結果として学ぶハードルを下げていくみたいです。
学校は早い人だと、一か月もしないうちに卒業が出来ます。
なんだかんだ引き延ばされているけど、私も卒業の証を手に入れたら、すぐにでも合流出来る準備は整っています。
サーヤさんのこと、アカネさんのこと。
新しく入ったメンバーも興味があるし、クスクスくんやフェザーさんのことだって……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
羽鳥俊介さんと梶塚沙也加さんが通う学校で、まさか今のような関係になるとは思ってもいませんでした。
始まりは私が個人的にやっているサイトでの占いから。
タロットを使った、恋占いをメインにしていると言えば分かるかな?
占いって言うと竹ひごをジャラジャラしたり、水晶の前で手をクルクルする胡散臭いイメージだけど違います!
れっきとした統計学であり、タロットは的中率が100%と言われています。
ただ占う側の実力が影響するので、実際の所は『当たるも八卦』といった感じに落ち着きます。
「今日も1日勉強したぁ。……って、私勉強しかしてないかも?」
自室で独り言を言うのはオカシイけれど、二人の進路はもう決まっています。
私は進学を視野にいれているので、受験勉強は必須でした。
ゲームの中での勧誘は二件あって、そのうち一つは運営に、もう一つは『占星術』の教授の内弟子になることでした。
かなり惹かれる内容なだけに迷いましたが、ゲームの中で進路相談をすると、目指すべき大学は教授が卒業した学校でした。
この教授は私の運営しているサイトも見ているらしく、その関係でベータテストのプレイヤーに選ばれたみたいです。
今のまま、『一日一件は見るように』とアドバイスを貰い、今日も勉強終わりに相談者の悩みを占います。
~
HN:D.Evil
タイトル:過ちを犯してしまった友へアドバイスをしたい
本文:初めて投稿します……
~
いくつもある内容から、一件のお悩み相談を確認します。
この悩みを選んだのは、単純にHNに惹かれたから。
『悪魔』を意味するデビル、そこからDを抜くとEvil(悪・邪悪・罪悪)みたいな意味になります。
本文を読んでいくと、Dの意味が段々分かって来ました。
「なるほど……。HNのDは、『誰が(悪い)』なんですね」
相談者の友人は、取り返しのつかない罪を犯してしまったみたいです。
それは一歩間違えれば実刑を受けるようなもので、友人の立場的にギリギリ赦されたものでした。
相談者の個人情報は、サイトの管理者である私だけ見る事が出来ます。
まだ未成年ともなれば、友人も近い年齢になるでしょう。
例えば殺人罪と過失致死は、罪の重さが違います。
それは『殺害する気持ちがあるかないか』という、内面が関わってくるからです。
最近の刑事物のドラマを観ると、『犯人の背景』に焦点をあてることが多いと思います。
それは『仕方がなかった』と情状酌量を描写し、更生する機会を与える理由を表現しているからでしょう。
物語的には事件を複雑化させ、視聴者に『容易に犯人を当てさせない為』なのかもしれません。
その結果このHNのように、『計画犯』・『実行犯』・『後処理』みたいに罪が分散してしまう現象が起きてしまったようです。
「悪いのは計画した人? それとも実行犯? 相談者さんは友人を助けたいのですよね」
私は相談の内容を思い浮かべながら、友人を中心に考えカードをシャッフルします。
使うのは22枚ある『大アルカナ』と呼ばれるタロットカードで、正位置・逆位置があるので44通りの事象が分かるようになります。
得意なのは恋占いだけど、それだけに特化するようでは一人前の占い師にはなれません。
英語でフォーチュンテラーと呼ばれる占い師、『運命を語る』だけではなく『幸運を伝える』のが責務だと思います。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『魔術師・女教皇・女帝・皇帝・法王・恋人・戦車・力・隠者・運命の輪・正義』
『吊るされた男・死・節制・悪魔・塔・星・月・太陽・審判・世界・愚者』
1番『魔術師』から始まる『大アルカナ』は、21番『世界』をもって完成し0番の『愚者』から再開します。
調和を司る3番『女帝』の倍数である6番『恋人』、権力を司る4番『皇帝』の倍数である8番『力』など数字の関係性もあります。
宇宙の運営とか、『天運:変えられない運命/地運:自ら切り開く運命』とか説明すると長くなるので省略します。
これが相談者の友人を表すカード。
よく混ぜ、決められた形にカードを配置し、一枚ずつ展開してリーディングを始めていきます。
過去:戦車(正位置)
現在:吊るされた男(逆位置)
未来:塔(正位置)
本人の意識:正義(逆位置)
本人の立場:世界(逆位置)
本人の環境:隠者(正位置)
問題の原因:悪魔(正位置)
問題解決には?:審判(正位置)
結果:月(正位置)
元々真面目な性格の友人は、モラルの欠如から犯行に及んでしまいました。
結果として本人が全ての罪を被る形になり、今動いても事態は好転しません。
問題の原因は『計画犯』に唆されたから。周りはだんまりを決め込んでいて、事態の終息を願っています。
審判のカードは『最後の審判』をモチーフにしていて、正しい行いをした者は生き返り、悪しき行いをした者は……。
この結果を元に、友人に向けてのアドバイスを書き込んでいきます。
鍵になるのはやはり相談者で、友人の減刑を望むしかありません。
犯してしまった罪は罪です、それは消えるものではありません。
そして罪の意識は、友人から消してはいけません。
人は心の内を『審判』することは出来ません。
裁判になれば、事前に準備していた証人・証拠がものを言います。
だから友人を助ける為には、何か物証が必要になってくるでしょう。
結果としては『月』のカードが出ています。
これから満ちるか欠けるか分からない、『不安』を示すカードでもあります。
ただ、夜明けを表すカードでもある。
比較的強いカードが出ている分、全てが噛みあったなら解決は早いのかもしれません。
「最後の一言は、いつも迷っちゃうな」
リーディングはインスピレーションを大事にしながらも、あまり気持ちを込めすぎてはいけません。
それでも例えば、恋占いなら『頑張って』の気持ちをカードに込めてしまいます。
だから最後に相談者さんには、相談ナンバーの他にタグを付けグループ分けをしています。
この相談者さんには、HNの他に『隠者』と名付けました。
杖を持ち灯を掲げる老人は、世界の暗闇を照らしています。
道を誤らず知恵と理性を保ち、正しい道を導き出す。
それは他のカードのように強いものではなく、一歩一歩確かめるような頼りないものです。
相談者の慎重な性格を考えると、何も出来ない友人さんは期待していないのかもしれません。
「ご友人の明日を応援しております……っと」
世の中には、一人ではどうにも出来ない時が存在します。
大殺界・厄年は有名で、そういう時は神様にすがる事もあるでしょう。
占いはテクニックとして不正をすることも出来るけど、信じられる人から貰える言葉は力になります。
世の中には親や家族・恋人や友人など、気軽に相談出来ない人もたくさんいます。
その人達に一言でも『大丈夫だよ』と伝えられるように、私は占いを続けていきたいと思います。
有名になんてならなくて良い。
今日を生きる糧になるなら、私は占いの結果を捻じ曲げてでも『大丈夫だよ』と伝えます。
親しくなりすぎると結果を言うのが戸惑ってしまうけど、私は何人もの『恋人』・『運命の輪』のカードを見てきました。
サーヤさん個人の占いは、もうしないつもりです。
あれだけ仲の良い姿を見せつけてる人には、必要ないと思いますから……。




