005 試練②
大きく助走距離を取った俺達三人は、モールの掛け声と共に突撃した。
直前で教官の短杖が伸びたのは仕方がない。
『そんなの反則だ』とは思ったけれど、三対一で戦っている以上狡いとは言えなかった。
槍を小脇に抱え、一生懸命車椅子を漕ぐ。教官、せめて苦しまずに一撃で死んでください!
「工夫が足りない!」
もうすぐ肉薄するかという所で、教官は杖を地面に向けて一振りした。
短くはない杖だけど、そのままなら俺達三人の誰かの攻撃が……。
「「「うわぁぁぁぁぁ」」」
教官の一振りは土埃と共にウールとモールをその場に繋ぎ止め、俺は風圧をモロに浴びて車椅子がスピンしていた。
モールは途中から盾を使って耐えていたけど、ウールは体重が軽いせいか地面に腰を下ろしてしまった。
慌てて槍の持ち手部分を地面に突き立てブレーキにし、教官の姿を確認すると武器を地面につけたまま待機していた。
早く前線に追いつこうと槍を小脇に抱え、車椅子で再度猛ダッシュする。
モールが早くも戦線復帰したので、一人で立ち向かっている状態だ。
そのまま合流しようとした所で膝立ちのウールが、片手でこちらに制止の合図をしてきた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「フェザー、少し待ってくれ」
「ウール、モールが一人で戦ってるんだぞ」
「少し見ていて欲しい……」
教官対モールは、まるで掛かり稽古を見ているみたいだった。
盾を構えながら攻撃するモールは、まだ盾と剣のバランスが取れていないように見える。
それでも果敢に攻撃するモール。それを軽いタッチの杖捌きで受け流す教官は、素直に力量が違いすぎると思った。
教官の攻撃は盾に向かっては普通に当ててきていて、それ以外は寸止めしてから一番バランスが悪い所を突く。
「足腰がフラフラしているぞ。そんな盾で、仲間が守れるのか?」
「の……ノーサー!」
「良く相手を見ろ! 攻撃を受けるのか、避けるのか、盾でいなすのか? その時間が長いほど、仲間の時間を稼げる」
「い……ッサー」
息切れをしているモールは、まだ諦めていないと思う。
その証拠に、モールは突かれた箇所に意識を集中し、段々と攻撃を受ける姿勢が仕上がってきたからだ。
盾に隠れようとするとガンガン激しい攻撃を繰り出され、攻撃を見ながら対応していると一歩先のステージに連れ出されていた。
「俺も参加してくる。三人まとめてだと、敵わないのは分かるよな」
「あ……あぁ」
「だから良く見ててくれ。いいタイミングでフェザーが動き出したら、俺が突破口を開くから」
「分かった! その……巻き込んで悪かった」
「いや……」
ウールは教官が持っている杖と反対側45度の位置に立つと、右手の木製短剣をシェイクするように上下に揺さぶりだした。
それはまるで手首の運動のような感じで、おもむろに右肩を後ろに反らし、鞭で攻撃するように木製短剣を投擲した。
モールには当たりえない角度からの攻撃も、教官の杖に簡単に弾かれてしまう。
教官とモールを隔てるように引かれた地面の溝は、最初の一振り目でついた跡だった。
「二本しかない武器の一本を投げる。悪くはないな」
「俺にも、御指南お願いします!」
ウールは、左手に持っていた木製短剣を右手に持ち替える。
さっきと同じように上下に揺さぶりだした後、急に短剣を回し始めることに成功した。
その動きを止め、駆け出すウール。モールは拙いながらもウールに攻撃が向かないように、攻める手を強めていた。
「やはり、その器用さを生かすべきだな」
「行きます!」
「かかってこい」
ウールが攻撃を開始したことによって、こちらから見える範囲が少なくなった。
槍を脇に抱えながらゆっくりと、車椅子をみんなの方に動かした。
これ以上進めると教官が反応しそうだという所で、今度は教官を中心に円を描くように方向を変える。
その動きは散歩をするようなスピードだったけど、二人の動きと教官の姿から、目を離さないようにジッと見つめていた。
《スキル【観察】を解放しました》
解放だけでは、スキルとして身についていないはずだ。
これを習得しセットすることで、スキルはアクティブ化する。
一刻も早く、教官の弱点を探さなければいけない。
学びに来ている時点で不可能に近いけど、それでも取っ掛かりとなる何かが必要だった。
「貴様に重い攻撃など求めていない。短剣の利点を考えよ! 突くのか、切るのか、刺すのか瞬時に考えよ」
「イエッサー!」
教官からウールへの攻撃も、それは指導を見ているようだった。
モールとは違って、腰を落とした前傾姿勢スタイル。
足の指先は多分、前後左右どちらにも素早く動けるんだと思う。
一瞬の隙が見えたのか、教官の足払いによってウールは大きく転んだ。
『転んだ先に、投げた短剣があるなんてラッキーだよな』
ウールもすぐに気が付いたようで、急いで木製短剣を拾う。
二刀流……そういえば、何で教官は短杖なんて持っているんだ?
俺達は様々な武器を持ち、それぞれに合う武器を探していたはずだ。
「うっ……」
「モール!」
「怪我をしないうちに諦めるなら考えよう」
攻撃枚数が減ったシワ寄せがモールを襲う。
その難易度は教官の匙加減のはずだけど、いつまでも甘やかしてはくれないようだ。
教官がこちらに視線を向けている。それは、『お前は来ないのか?』という落胆の表情にも見えた。
その目はどこか、アイツに似ていた。……俺から翼を捥いでいった、アイツの目だ。
「っざけんな……。ウオォォォォォォ!」
「特攻……、見込み違いか……」
まだ、その時ではないと分かっている。
ウールは叫んでいるし、モールは立ち上がってすらない。
だけど、俺には赦せなかった! あれは事故ではない、故意のファールだ。
あのラストシュートは、後ろに倒れながらも忘れることはなかった。
俺の背中から羽根が空気に溶け込んで行ったのを、俺は確かに感じたんだ。
「ウオォォォォォォン!」
車椅子での全速力をそのままに、タイヤの外にある持ち手から槍に切り替え教官を急襲する。
木で出来た槍と言っても穂先の部分は薄い切れ込みがあり、先端の部分は円の周りをちょっと削っただけの只の棒に近い。
リスクを恐れてばかりでは何も得る物はない。何より、その目で見るのを止めさせなければならなかった。
二人への指導では、『足腰が大事』だと言っていた。なら、それに代わるパワーを車椅子のスピードに求めても良いはずだ!
「残念だ……」
「ォォォォォン! ……あっ」
後、数十センチの所で、不意に片輪が地面の何かを乗り上げた。何で俺ばかりに不運が……。
最後まで槍から手を離さなかった為、車椅子が片輪走行から俺を投げ出し、結構な距離を進んでいった。
前方にヘッドスライディングをしてしまったが、こんな時に受身が良い仕事をしていた。
俺が欲しかった物は、保険でとったこれではない。
ウールはノタノタと立ち上がったが、片方の武器を教官に投げつけ、こちらに歩き出してくる。
「ウールよ。ならば、モールは良いのだな」
「なっ……」
教官はモールが手を伸ばそうとしている木剣を手ごと踏み、杖をウールに突き付けていた。
明らかにこれは、俺が招いた失策だった。
「ウール、こっちは大丈夫だ」
「でも……フェザー。……これは訓練だ」
「訓練なら尚更、本番のようにやらないとダメだ」
「ほう、その通りだ。フェザー、良い事を言うな」
「ウール、さっきの作戦を続行したい」
「でも……。もう、フェザーには無理だと思う」
「無理かどうかは俺が決める。俺の邪魔をするな!」
「ウールよ、どうする?」
教官が足に力を込めたのか、モールの「ぐあっ……」という呻き声が聞こえてきた。
ウールは一言だけ「ゴメン」と言い振り返る。
教官はモールの手から足をどけて、掌を返して指だけで『かかってこい!』と合図をした。




