074 因縁の相手
俺達は保護したロロンに事情を聞き、残るはレーネアスだけだと確認出来た。
緑色の皮膚に腰布を巻いただけの、醜悪な人型のモンスターが二匹。
ロロンを逃がす為、レーネアスがナイフを投げてゴブリンの怒りを買ったようだ。
『逃げるだけなら大丈夫だと思う』とラミレスが溢す。
『正直、守りながら探すのはキツイな』
『フェザー、とりあえず合流するね』
『あぁ、そうだな。出来ればラミレス達には、一度帰って貰おうと思う』
『それだと、危なくないですか?』
レーネアスはガキ大将なだけあって、ほっといても帰ってこられる実力はあるようだ。
あの頃捕らわれてた、ルークやリーンとは状況が違う。
コビッドの息子も囲まれなければ、状況は変わったかもしれないとラミレスは言った。
一言で言えば運がなかった……。ただ生き残った住人から言える台詞ではない。
俺達が来た方から、誰かがやって来る音が聞こえてくる。
サーヤはパーティーメンバーの位置を確認しながら来ている筈なので、これはゴブリンではないだろう。
「いっちばーん!」
「ハァハァハァ、……ロロン!」
「もう、クスクスくん早いってば」
「ま、待ってくれ。もう動けん」
サーヤ達は無事に合流出来たようだ。
ルークは弟を想い、必死になって追いかけたのだろう。
最後に怒鳴るように弟の名前を呼んだけど、そこには怒りの感情はなかったと思う。
逆に肩で息をしているのが、クスクスより若干背の高いドワーフだった。
「みんな、お疲れ様。ロロンくんは、無事に保護出来ました」
「なんじゃ、儂は必要なかったと言う事か」
息も絶え絶えになりながら、ドワーフは上体を起こした。
その瞬間、俺と目が合う……。
なんとなく目が離せない既視感……、向こうも何故か俺から目を逸らそうとしない。
「く、車椅子……」
突如ドワーフの顔が真っ青になり、荒かった呼吸が更におかしくなってきた。
ドワーフって器用で血から強く、鈍足で頑健だったよなと思っていると、急に蹲るように膝が折れた。
「しゅ――フェザー!」
「なあ、今……」
「それどころじゃないよ。これって、どうしたら良いの?」
「サーヤお姉ちゃん。ポケットから何か出そうとしてるよ!」
クスクスの指摘に、近くにいたサーヤがポケットを探る。
どうやら錠剤のような物をもっており、それを飲むことでドワーフの急変は落ち着くことになった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
大勢集まってしまったけど、事態はそれ程待ってはくれない。
特に事件は終わったと思っているドワーフに、変化した状況を説明しないといけない。
「村の子供でいなくなったのは二名。一人は確保し、もう一人のレーネアスくんがゴブリンに追われているみたいだ」
「お主らは冒険者じゃろう? なら、任せる訳にはいかないのか?」
「ねえウノさん、貴方は助けたくないの?」
「それは……。でも、儂には手段がない」
ウノの出で立ちは村人スタイルの衣服に、不釣り合いなほど大きな両手剣をたすき掛けに背負っている。
身長は低く脚が遅くても、膂力と器用さで敵を屠るのは難しくないと思う。
「とりあえず、ラミレスとルークはロロンを連れて村に戻って欲しい。クスクスは護衛出来るよな?」
「えー、ぼくがいなくて大丈夫?」
「帰り道で大勢に襲われたら、敵をひきつけるのはクスクスしか出来ないだろ?」
「……そっか! じゃあ、ぼくが帰り道で倒せば解決するね!」
隣にいるラミレスには、村長へ事情説明をして欲しいと小声でお願いをした。
かなりのゴブリンがいない限り、今一番危ないのはレーネアスで間違いない。
そして俺達は一刻も早く探しにいかなければならない。
「ねえ、ウノさん! ゴブリンなら大丈夫だって。村の事件を解決するなら、村の住人が一番なんだから」
「フェザー先輩、もう時間がないと思います」
「サーヤ、説得はその辺にしよう。えーっと、ウノさんですよね。俺達は行きます」
「……分かった! もう、後悔などしたくはない」
何故か俺から視線を外しながら、ついてくる事を決めたようだ。
若いドワーフかと思えば白髪交じりのブラウンの角刈りで、喋り方もおかしいし顔にも皺が刻まれている。
もしかしてクスクスとは逆に、年配のプレイヤーのテスターなのかもしれない。
森の中の移動なので俺の車椅子は小回りが利かないけど、ウノの脚に合わせるなら都合が良いのかもしれない。
ロロンの証言の場所に移動すると、すぐグチャグチャに踏み荒らさた足場を見つけた。
先行してアカネが移動し、俺・ウノ・サーヤの順に続く。
自動で動く車椅子にウノは驚いていたけど、その説明をするのは今じゃないと思う。
村の危険を排除する為にも、ここはなるべく隠密行動でゴブリンを仕留めておきたいと思った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
しばらく進むと、ウロウロしているゴブリン3匹を見つけた。
証言では2匹だと言っていた気がするけど、人型モンスターに気を付ける点はこういう所だと思う。
知恵を使い武器も使う。簡単な罠なども仕掛けるし、隠れた場所から襲い掛かることもあった。
見た目の人数には騙されてはいけない!
『フェザー、気を付けて!』
『なあ、サーヤ。そっちこそ、いい加減気をつけろよ』
『ごめんなさい……』
『この辺でウロウロしているって事は、見失ったのでしょうか?』
俺達のミッションで大事なことは、レーネアスの安全確保だ。
次にゴブリンの討伐であり、出来ればウノに倒してもらいたい。
「ウノさん、準備はいい?」
「あっ、あぁ……」
サーヤは弓を取り出し、キリキリと弓を引き絞る。
アカネは飛び出す準備を整えており、俺は一匹だけ残るように槍を持ち自由に動けるようにした。
一対一なら大人でも勝てる。今回のゴブリンは棍棒みたいなものを持っているので油断は禁物だ。
渋々と言った感じでウノが両手剣を抜き放ち片手で持つ。
繁みの向こうにいるゴブリンの肩口に、サーヤの矢が突き刺さった。
「グキャァァァ」
自分の肩から生えている矢を見て、一瞬のうちに痛みに変わったのだろう。
致命傷とは程遠いのに、心の底から怒りを全方向に向けていた。
これは多分、レーネアスの逆襲だと思ったに違いない。
狩る側から狩られる立場に代わり、二匹のゴブリンは矢が飛んできたこちらに向かって駆けだしてきた。
一匹のゴブリンはアカネが繁みから不意打ちをするようにインターセプトし、ラリアートのように腕を首に絡ませると瞬時にクルリと回り組み伏せてしまった。
俺も条件反射というか安全確保の為、やってくるゴブリンをカウンター気味に槍で貫いた。
残るは肩口を押さえているゴブリンのみ……、残ったことには違いないか。
「ウノさん」
「……なにっ!」
大きな樹を背にしていたゴブリンは、手負いの状態だ。
だから落ち着いて処理すれば良かったんだと思う。
ところが、その樹の上から何かが降ってきた。
「くらえぇぇぇぇ!」
多分、これがラミアス達が言っていたレーネアスだろう。
大声を出しながら、飛び降りてナイフでの攻撃は悪くはなかった。
ただ手負いのモンスターで、怒りで周囲に敏感になっていたゴブリンとは相性が悪かったのだろう。
相手に避けられ着地でバランスを崩したのか、今のレーネアスは尻もちをついていた。
俺の槍にはゴブリンが刺さっている。
アカネはまだ組み伏せたままだ。
サーヤの弓の技量は信じてはいる……。
けれど今は確実性に乏しい。
「ウノ! 頼む!」
「ウノさん!」
「お願いします!」
一瞬の逡巡も感じさせないまま、ドワーフとは思えない速度で大声を上げ走り出した。
気合を入れる分には問題ないけど、わざわざこれから攻撃しますよと言う必要はないと思う。
そして振り返ったゴブリンの腹部に、ウノは両手剣をズブリと押し込んだ。
勢いがついたのか、そのまま樹に縫い付けてしまっていた。
ゴフリとゴブリンが吐血する。
その返り血を、まともに浴びるウノ。
幸いレーネアスは、二人から少しだけ離れていた。
何故かそのまま、全ての時間が止まったような気がしていた。




