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073 ちっぽけな勇気

 ウノが死に戻りしていった夜、俺達は猟師小屋に戻った。

 お茶を淹れて一息ついていると、先生がマッサージにやってくる。


「あれ、どうしたの? 深刻そうな顔して……」


 俺達三人はお互いに目で合図して、ウノについて相談することにした。

 必要な情報は助言者メンターの中で共有されるらしく、どうやら担当はレイカだと言う事が分かった。

 マッサージを受けながら、今後の行動について話を聞いてもらう。


助言者メンターの立場からすると、ゲームの中では程良い距離感を取った方がいい人がいるんだ」

「そうなるとレイカさんは、この状況をわざと作ってたんですか?」

「そうなるね。だからこの村で何が起きようが、何を解決して何に関わらないかはプレイヤー次第かな?」

「でもそれだと、ウノさんの次の課題が大変になりませんか?」


 俺達が一番心配しているのは、この一点だった。

 ウノはこのままだと、一人では解決できない課題を前に、絶望する未来しか出てこないだろう。

 俺達は最強とか目指していないし、メインの目的はバグの回収をするアルバイトだ。

 会社にはリハビリ等便宜を図って貰ってるし、将来の為の研修と思えば良い環境だと思う。


「うーん……。そう考えるなら、いっそ仲間に誘ってみたらどうかな?」

「それは……、何か嫌な予感がするんです」

「サーヤは考えすぎなんだよ」


「だって、俊ちゃん!」

「はい、ストップ」


 先生は曲げ伸ばしをしている手を止め、サーヤのことをジッと見た。

 俺も一瞬何のことかと考えてしまったけど、よくよく考えると今の状況はマズイと思う。


「これは少し前に、アカネさんのスキルの名前で出た話題だけど」

「【近藤家流・調伏術】ですよね」

「そうそう。これはご両親に相談させて頂いて、正式に採用が決まったんだよ」

「……いつの間に」


「掲示板でも話題になってね。それでもう一度、個人情報や守秘義務について見直そうと話があがったんだ」

「サーヤ!」

「ごめんなさい、しゅ――フェザー……」


 シュンとするエルフは、中々見られるものではない。

 ただ俺が思っているより、事態は少しだけ深刻だった。

 何故なら……。


「パーティー会話を使わせて貰うよ。『フェザーくんの名前を知っている人はいるかな?』」

『しゅんちゃん?』

『バスケット選手の俊さん?』

『しゅ、俊ちゃんです。あっ、私は同じ学校なので本名は知っています』


 まさかクスクスにまで浸透しているとは思わなかった。

 そして少し気になった言い方をしたのがアカネで、どうやら俺の事を知っているような口ぶりだった。

 コジカについては少し気を遣ってくれたのだろう。

 リアルで会って、その呼び方をされたら少し問題だけど……。


「アカネ、もしかして……」

「ごめんなさい。個人情報を調べるつもりはなかったんですが」


 パーティーメンバーに『俊ちゃん』が刷り込まれ、俺とサーヤがバスケに夢中なのを見て点と点が繋がってしまったようだ。

 本名がバレたからと言って、俺が困ることは何一つない。

 アカネには大丈夫と伝え、今いるメンバーの中で『個人情報の取り扱いには気を付けよう』ということになった。

 クスクスはゲームに夢中なので、特に話題を振らない限りフェザーで通してくれるから大丈夫だと思う。


「まあ、別に大丈夫だけど……。サーヤ、これからは禁止だからな」

「はーい。リアルでもフェザーって呼ぶね」

「そこはきちんと区別しろよ!」

「わ、分かってるってば!」


 苦笑している先生はマッサージを再開し、俺達は方針を見直すべきか検討した。

 とりあえずウノが動けば解決しそうな問題なので、特別な事情がない限り動かない事で一致した。

 クスクスには明日話そうと思う。友達と楽しくしている時に、度々連絡がくるのは楽しくないだろうということでね。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


『フェザーお兄ちゃん、たいへん!』


 翌朝の早朝、クスクスから連絡が届いた。

 それはお泊りしているルーク・ロロン兄弟の家で、弟の『弱虫ロロン』が突然いなくなったらしい。

 母親は村長へ知らせに走り、ルークは『弟の行方を探す』と、怪しいウノのいる家の方に向かったようだ。


『まだ着いたばかりだけど、こっちは静かだよ』

『サーヤお姉ちゃん、どうしよう?』

『とりあえず合流するから、そのまま来て。もうウノさんを巻き込んじゃおうよ』

『サーヤ、静観するんじゃなかったのか?』


 パーティー会話で話をしてたら、ラミレスがやってきた。

 小さな村だけあって、話が伝わるスピードが凄い。

 端的に話を聞くと、この程度の事はそこそこ起きるけど、兄の事があったのでナイーブになっているらしい。

 村で戦える人は少なく、彼の師匠は村長の家で待機するようだ。


「なあラミレス、心当たりはないか?」

「ロロンはどちらかというと恐がりだから、冒険するような感じには見えなかったけど……」

「昨日、ガキ大将のレーネアスさんと揉めたって聞きました。何処か子供達しかいかない場所とかはありませんか?」

「チッ、隠れて年下いじめてたなんて最低な奴だな。そういう事なら……」


 どうやら村の子供の度胸試しの場所として、森の奥深くで名前を刻む儀式があるらしい。

 俺とアカネはラミレスと一緒に森に向かうことにした。

 サーヤはルークとクスクスをなだめながら、ウノに丁寧な説明を行っている筈だ。


『ウノさん、少し迷って家の中に入っちゃった』

『こっちは先に行ってるぞ』

『うん、わかっ……あ、出てきた!』

『大きいけんをかたてでもってるね。つよそー』


 確か昨日持ってた剣は、大きいとは言い難かった筈だ。

 それだけ本気を出したという事なのか?

 狼は昨日追い払ったし、危険を考えるならゴブリンくらいだろう。

 成人男性が戦えば勝てるくらいの相手なので、武器を持ったドワーフなら余裕だと思う。


 ラミレスが走り出し、アカネが追いかける形だ。

 俺は意識的に周囲を見渡しながら、オートモードで追いかけていく。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 同じルートを通っても仕方がない。

 そしてラミレスとは別で、兄であるルークの方が弟の事を理解しているだろう。

 俺とアカネ組とサーヤ・クスクス・ウノ組は、それぞれの先導者の後を追っていく。

 パーティー会話で情報を共有しつつ、お互いに少しだけズレたルートでロロンを探しながら急いだ。


「ちょっと待って」

「ラミレス、どうした?」

「この足跡……、複数いるかも?」

「それって最近のものですか?」


 ラミレスの説明によれば、基本的に森に入れる村人は限られている。

 それでもこっそり入っているのは黙認されているが、出来た足跡はかなりの年少者で同じくらいの日に動いた者がいた。


『失敗したな……。失踪者は一人じゃないかもしれない』

『え? フェザー、何が失敗なの?』

『村に誰か一人、待機して貰えば良かったなって』

『でもそれじゃあ、いなくなった人が分かるだけじゃない?』


 馬車が通るルートなので、人攫ひとさらいとかない訳ではない。

 ただ身代金目的にはならず、労働力だけを考えるならここでなくても良い筈だ。


 ラミレスが見たというゴブリンの足跡、それは小さな子供にとっては恐怖の対象だろう。

 それと同時に、蛮勇ばんゆうを示す適度な相手なのかもしれない。

 考えられる要素がいくつか浮かぶが、ラミレスは素早く判断すると足跡の進行方向へ進んだ。

 俺の車椅子は宙に浮いているので、わだちを作って荒らす心配はない。


「ロローン、出てこーい」

「ロロンくーん」


 立ち止まったラミレスとアカネが大声で叫ぶと、少し離れた木陰から小さな子がそーっとこちらを覗いて来た。

 そしておもむろに唇に指を当てている。どうやら見つかってはいけない相手がいるようだ。


『薄茶の髪の毛で、生成りのシャツに茶のズボンの男の子を発見』

『それロロンくんだと思う!』

『ねえ、他にもいなくなった子がいるんでしょ?』

『とりあえずロロンくんを確保しよう』


 ラミレスが注意深く周囲を警戒し、アカネが素早くロロンに近付いていく。

 俺は念のため車椅子に力を溜めておくが、特に異変らしい異変はなかった。

 ブルブルと震えているロロンを、お姫様抱っこしたアカネが連れ帰って来る。


「ロロン、どうしてこんな所に?」

「ごめんなさい、ラミレスお兄ちゃん。ぼくより年下のロロンくんを見たら、何か出来る気がして……」

「それで、一人でここまで来たのか?」

「ううん。あっ、レーネアスくんが大変!」


 どうやら昨日の揉め事の終わりに、レーネアスとすれ違いざまになじられたようだ。

『お前は守って貰ってばかりだな』と……。

 続けざまに『弱虫』を返上したかったら、『明日の早朝。誰にも知られずに、この森の入り口に来い』と言われたらしい。


 消えた子供はロロンだけではなく、レーネアスもその一人だった。

 そして偶然ゴブリンに遭遇し、今も森の中で逃げ回っているようだ。

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