072 ウノの調査
今回の偵察はクスクスがメインになり、サーヤがサポートをすることになった。
俺は車椅子で目立ちやすく、アカネは青い髪の毛でパンクな感じだからだ。
俺とアカネはラミレスの案内で、ゴブリンがいるかもしれない現場に向かった。
ただ足跡は見つからなかったし、縄張りを示すような痕跡もなかった。
そもそも熊などの動物とは違い、マーキングを行う種族かどうかは分からない。
お昼頃に猟師小屋に戻り、情報のすり合わせをすることにした。
「じゃあ、情報交換といこうか?」
「はいはーい!」
「クスクスくんは最後にね」
「チェッ」
噂になったドワーフはプレイヤーで、名前を『ウノ』と言うらしい。
昔カードゲームが流行ったので、由来は『1(いち)』だとすぐに分かった。
朝一番に村の小さな教会に行き、熱心にお祈りしていてから水汲みをして家に帰って来る。
家からは甲高い金属音が聞こえていたようだ。
猟師小屋と同じように、鍛冶師の故コビッドの家は村から少し離れた所にある。
近所のおばさんの話によると、元々コビッドは人付き合いが苦手だったので、ウノの言動は比較的普通のようだ。
村唯一の鍛冶師がいなくなって、生活用品の補修に困っていたところ名乗りを上げたので助かっているらしい。
その他にも雑用を手伝ってくれるらしく、報酬は食事で返しているそうだ。
「それでフェザーとアカネちゃんの方は?」
「うーん、ゴブリンについては何とも……」
「小型の四足動物がいる場所でした」
黙っていても仕方がないのでラミレスと一緒に猟師に相談したところ、証拠がない限り結論は出せないということだった。
基本的に村の中にいれば被害は少なく、下手に危険だと騒ぐと子供達が冒険に出てしまうらしい。
ただ村長には注意喚起し、しばらくは年長の子供が下の子供の面倒を見ることになった。
森には森のサイクルがあり、ゴブリンも自然淘汰の中で、適正な数に落ち着くのが普通のようだ。
問題はウノの評判が『普通』と、『危険な人物』に二分されていることだった。
前者は主に大人の評価で、男手が少ない村で手先が器用なドワーフに期待する所があった。
後者は主に子供の評価で、ウノが来てから間もなくコビッドが死亡し、強面な外見のドワーフが居座っている。
ちなみに俺は何故か人気になり、『車椅子を押させて』と何人かが列を作っていた。
「ねえ、そろそろぼくの番?」
「あぁ、そうだな。何か気が付いた事あるか?」
「あのねあのね。あのオジさん、弱そうだったよ」
「えーっとね、動きが初心者っぽかったの」
クスクスとサーヤの報告では、あまり操作方法が分かっていない素人のようだ。
スキルは覚えていてもセットし忘れるという、典型的なミスなのかもしれない。
ちなみにこの村の再出現地点は大きなタライがある井戸で、スキルの操作盤は村の集会場にあるらしい。
そして子供達の証言から推測すると、ウノは何度か死に戻りをしているみたいだった。
ゲーム的に、特別枠には助言者がつくことが多い。
俺達が関わるか関わらないかは微妙なところだと思う。
「フェザー、ゴブリンって雑魚だよね?」
「一応ゲームの世界では、導入のモンスターだよな」
「ウノさんはプレイヤーで、事件が起きていて相手はゴブリンみたい」
「これがシナリオだとすると、俺達が介入するのはウノさんの為にならないってことか……」
ゴブリン一匹なら、一般的な男性の大人が一対一で戦えば勝てる。
『武器を持っている・複数いる・上位個体がいる』等の難易度により、冒険者がいるか判断が必要になる。
正直この世界には、どこにでもゴブリンはいる。ある程度心構えが出来ているなら、それほど問題はない筈だ。
一番怖いのは不確定要素の子供達で、期限を決めずに長期間待機させるのは無理な話だと思う。
相談した結果、俺達は見守る方針を決めた。
村長からの依頼は特にないし、ラミレスもそう時間は取れないらしい。
馬車は三日くらい休むようで、その間に『馬場ファーム』の人は簡単な商売を始めた。
商業ギルドに属しているので、軽くて売れる調味料は売る方にとっても買う方にとっても重宝する。
「助言者が見つかれば良いんだけど……」
「みんな忙しそうだからな」
一瞬、同行者であるサーヤに指導を頼もうと思ったけど、健全な遊び方ではないのかもしれないと思い止めた。
出来ればウノに頑張ってもらい、早く村のピンチを救って欲しいと思う。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
今日の午後と明日は、自由行動にしようと提案した。
何かあったらパーティー会話で対応し、緊急時にはすぐに動けるようにする。
サーヤは継続して、ウノの監視をするらしい。
パーティーメンバー以外の『プレイヤー運』は悪いらしく、サーヤはウノのことを少し疑っている節があった。
確かにグッドマンやクグツ等、少し癖の強いプレイヤーは多かったと思う。
社員っぽくないので特別枠か、コアなゲーマーが応募したプレイヤーなのかもしれない。
「俊ちゃん、本当についてなくて良いの?」
「あぁ、無理はしないからな」
「本当にぃ~?」
「サーヤさん、私がついてますから!」
俺とアカネは、猟師小屋の近くで待機するつもりだ。
ここにいればラミレスも来やすいし、彼の師匠とも協力体制を取りやすいと思う。
アカネは日向ぼっこをするようで、きっと卵を愛でるのだろう。
俺は運動不足解消も兼ねて、歩行訓練をしたいと思う。
最近、現実世界の方が歩ける気がしているけれど、ゲームの世界ではイマイチな状態が続いていた。
「それで、クスクスはどうするんだ?」
「えーっとねぇ……。ぼく、遊んでくる!」
村長から親には箝口令が敷かれているけど、子供達がどこまで情報を得ているかは分からない。
どちらかというとクスクスの方が年下なんだけど、子供達が集まる場所で情報収集と暴走しないように見守るようだ。
クスクスは役割を分かっているのか分かっていないのか正直微妙だけどね。
それを踏まえた上でウノには頑張って欲しい。いや、投げやりでも丸投げでもなくて……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ウノが動いたのは夕方近くだった。
片手剣を持ちながら森の方へ歩いていく。
『フェザー、アカネちゃん。動いたよ』
『サーヤお姉ちゃん、ぼくは?』
『クスクスくんは、お友達の家でご飯食べてて良いよ』
『はーい。ルークお兄ちゃんと、ロロンくんのお家で食べてるね』
「アカネ、準備は良いか?」
「はい、フェザー先輩」
もしかすると、ウノも村の異変に気が付いているのかもしれない。
ただ死に戻りしたということは、何か危険な相手でもいるのだろうか?
俺達はサーヤの案内と、パーティーメンバー用のマップを駆使して合流をした。
クスクスのパーティー会話が流れる中、不用意な発言をしていないか内心ヒヤヒヤしていた。
何でも前回事件にあったルークとリーンは、子供達の中でも英雄的なポジションらしい。
ラミレスも二人を救った英雄のポジションだけど、今は大人的な考えに染まってしまったと子供達の間で不評だった。
そんな中、子供達の間で注目を集めているのが『弱虫ロロン』の存在だった。
ガキ大将のレーネアスは、英雄的3人のいない所でロロンをいじめているらしい。
その場面に出くわしたクスクスは、「それって面白いの?」と遊びの延長線上でレーネアスを退けたのだ。
兄に相談出来ないロロンは感動したようで、クスクスは友達になり夕食に誘われたらしい。
「アカネも一緒にいたかったんじゃないのか?」
「フェザー先輩。楽しい事は共有したいですが、私も少し自覚したと言うか……」
「アカネちゃんは、楽し過ぎたんだよね。で、更に大事なことに気が付いたと」
「はい! ゼロが帰ってきたら、まずは一緒に走りたいと思います。出来れば、この世界は素晴らしいって伝えたいな」
森の中でおしゃべりしている最中も、ウノは剣を片手にキョロキョロしていた。
一瞬の気のゆるみが生死を分かつんだから、武器くらい抜いていれば良いのに……。
片手に持った剣は革の鞘に仕舞われており、そのまま攻撃してもあまり意味がないように見える。
さすがに『抜刀術』の使い手には見えないし、居合い抜きをするようなドワーフは嫌な感じだ。
「私、『虹の橋』のような場所を作りたいんです」
「うんうん、良いと思う」
「あー、それ俺も知ってるな」
ウノには索敵能力がないように見える。
また剣を構えていないのは、技術がないから使わないのだろうか?
ドワーフと言えば斧が似合うけど、近くにいる俺達にすら気付く様子がない。
少しずつ奥の方へ向かっていく。
徐々に森というか植物と闇の濃さが増していく頃、唐突にウノを襲う影を見つけた。
それは数匹の狼で、まずは喉笛目標から剣を持っている腕に変更して噛み付き、もう一匹の狼はふくらはぎを噛み付いていた。
見事な連携に嘆息していると、ウノはよろけて仰向けになった。
「俊ちゃん!」
「今から出ても遅いだろ?」
「これが死に戻りの原因ですか?」
最後の狼にあっという間に組み敷かれ、ウノの体は霧散して消えていった。
俺は車椅子からゆっくり立ち上がり、狼のボスを睨みつけ忠告する。
『今日からここは俺の縄張りだ! もう少し森の奥に帰れ』
三匹の狼たちは、食事にありつけなかった。
その上で武器を持った俺を見て、何か思う所があったのだろう。
ボス狼は『ウォッフ』と一声漏らしてから、悠然と森の奥の方へ帰って行った。




