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069 名無しの容疑者【閑話】上

今回は某人物のお話になります。

ちょっと気分が悪くなる話かもなので、後書きに要約バージョンを載せます。

宜しくお願い致します。

 スポーツは往々にして、監督やコーチの個性カラーがチームに反映される。

 卓球で言えば、攻めの『前陣速攻』・守りの『カットマン』みたいなやつだ。

 サッカーで言えばボールを支配し続ける『占有ポゼッション』や、堅守・速攻の『カテナチオ』という用語まであった。

 それは代々受け継がれるチームの戦術・戦略の時もあれば、現選手との相性・監督の得意分野など様々だ。


「それじゃあ、ミーティングを始める。まずは主将、チームの反省点からだ」


 この監督に代わってから、チームはギスギスしていた。

 基本的に練習の時は、スマホなど一箇所に回収される。

 それは当たり前の事だと思っていたけど、ある時仲間が『録音されたくないからだよ』と言っていたのが印象的だった。

 チームのミーティングでも、お互いがお互いを監視しているようで楽しくはない。


「いいか? 俺達の学校は弱小だ!」


 この言葉は刷り込まれるように、毎回言われている決め台詞だった。

 そりゃあ、優秀な選手を集めて練習時間をたっぷり取れば、俺達だってこんな所でくすぶったりはしない。


 そして続く言葉は『相手のリズムを崩せ』で、暗に『笛が鳴らないなら何でもやれ』だった。

 良いように受け取れば『その位の覚悟で取り組め』だし、悪く受け取っても『上手くやれよ』だった。

 先輩達からの指導も激しさを見せ、それが校風となる日は遠くなかった。


 監督から時々ある個人での呼び出しの後、多くの選手がレギュラー入りをしていた。

 たまにレギュラー入りをしない場合、何故か部活に突然来なくなり、そのまま辞めてしまう選手もいた。

 厨二病を患っている友人にその話をすると、それは『最後の審判』みたいだなと返事が帰ってきた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 レギュラー入りしてから色々変わった……。


 このチームは良く言えば『|ランアンドガン(速攻でシュート)』のスタイルをとっている。

 スピードを上手く活かして銃を構えれば、まずは怯えてくれるだろう。

 それが通じるのは学校の噂話を聞いている同格か、格下の学校でしかない。

 上手いチームは、何もかもが違っていた。


「お前達は、こんな所で終わる訳ねぇだろぉ!」

「「「「「「はい!」」」」」」

「なら、やるべき事は分かってるよな? なぁ?」


 チームの視線が、一斉に俺に移る。


 ラフプレイにも、やり方があった。

 それはメインの選手を崩せば良い。


「俺がアイツを抑えます!」

「よーく言った! なら、この試合も貰ったようなもんだな」

「「「「「はい!」」」」」


 相手チームは、全体的に動きがまとまっていた。

 それは巧みに戦術を切り替えるスタイルで、基本的な地力の強さが段違いなのも理解出来ている。

 だからこそかなめである羽鳥俊介を潰す事が、勝利に繋がると分かっていた。


 監督が言う通り、相手の嫌がる行動を始めてから、相手チームの動きは極端に悪くなっていた。

 ただそれを嘲笑あざわらうかのような3Pシュート、ゲームはかなりの接戦になっていた。


「絶対通さねぇ……」


 体格で言えば、こちらのチームの方が恵まれている。

 バスケットボールは突き詰めれば、交互に点を取り合うゲームだ。

 ミスをしたチームから敗北が決まる。

 そして疲弊してきた相手チームは、羽鳥にボールを集めだしていた。


「ジリ貧だな。諦めたらどうだ?」

「そうかな?」


 ゲームの残り時間は後僅か……。

 それでも展開が作れるくらいの時間はある筈だった。

 体を密着させての守りは完璧だ。体格が良いというのは、それだけでアドバンテージになる。

 それでも巧みなドリブルと、ある種の空気を纏ったような――俺にとっては嫌な空気が流れ始める。


 いつの間にか俺という壁を抜け、3Pシュートの体勢をとっていた。

 ふわりと浮かぶような姿勢は、まるで不可視の翼が生えているようだった。

 その瞬間何故・・か、まだ可能性があると考えてしまった。

 明らかな反則、しかも今入ろうとしている得点を止める事は出来ない。


「えっ?」


 俺は羽鳥の背中のユニフォームを軽く掴み、そのまま勢いよく引っぱった。

 誰もがシュートの行方を見ている中、俺は両手を上げて一歩後ろに下がる。

 その瞬間、思わず監督を見てしまった。

 まるで『初めから、そうしておけば良かったんだ』と言うような顔で、悪魔はニヤリと笑った。


 それから時間が動き出す。

 スローモーションで倒れてくる羽鳥を抱えるでもなく、倒れるままにした後すぐに「大丈夫か?」と手を差し出した……けど。

 耳をつんざくような笛の音が鳴り響く。

 俺を押しのけ救護班がコートに入って来て、事態の深刻さに俺自身が驚いていた。


 試合再開まで、俺達はベンチに戻って汗を拭く。

 熱気が充満している筈の会場で、何故か俺の汗だけが冷たく感じられた。


「なあ、あそこまでする必要があったのか?」

「なっ、今更だろ? 俺はチームの為に……」

「残り時間を考えると、逆転は難しいだろうな」

「まあ、及第点といった所だ。来年は、更に上を目指すぞ」


 残り時間はまるで反省してますと示しているのか、こちらのチームはまともに動いていなかった。

 試合終了の笛と共に鳴り響くサイレンの音で、俺はそれどころではなかった。


 試合が終わり、すぐに俺と監督は呼ばれていった。

『選手の暴走』・『監督不行届』と、隣の男の演技はアカデミー級だった。

 俺はその時、何を答えられたのかは覚えていない。

 今は何より、羽鳥の怪我が何ともないことを祈るばかりだった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 数日の休みを経て、俺は学校に行った。

 休み期間中に反省文を書き、ついでに退部届も書いておいた。

 まるで暴行事件でも起こしたような騒ぎに『大げさだ』と思いながら、俺は教室のドアを開ける。


「おはよう!」

「…………」


 一瞬、空気が凍り付いているように感じた。

 自主停学なんだから、そりゃあ少しすれば学校に来るだろう……。


 凍てつく空気の中、自分の席に行くと空の花瓶があり、その下に新聞が挟まっていた。

 まるで『このくらいはセーフだよな?』と言っている花瓶の中に、『悪魔の種子たね』が入っているような気がした。

 一瞬目を瞑り花瓶を取ると、その下の新聞を掴む。

 俺はそのまま鞄も取ると、静かに教室を後にした。


 それからはどうやって過ごしたか、正直覚えていない。

 とりあえず職員室に行き頭を下げた。

 その際に退部届を出したら、何故か一時預かりになっていた。


 胸に溜まったモヤモヤをどうにかしたくて、深夜に走ったりもした。

 ただ新聞の記事では『二度と車椅子を手放せなくなる可能性も?』と書かれており、その事を思い出した瞬間俺は走るのを止めた。


「悪魔との取引で、良い結果は生まれない……か」


 その時、友人から聞いた『最後の審判』を思い出した。

 人が生前せいぜん行った行為に対して、審判ジャッジが下される。


 今冷静に思い返してみても、ゆるされる行為をしたとは思えない。

 多くの球技及び格闘技でさえも、後ろからの攻撃は禁忌とされている。

 俺の行った行為は果たして、ただの反則・・・・・だったのだろうか?

 人として『越えてはならない一線』を、越えてしまったのではないか?


 家にいても、家族全体が好奇の目に晒されていた。

 特定の誰かが、直接口撃したりはしない。

 ただ家族というだけで俺を守ってくれる姿勢に、少しだけ申し訳なくなる。


 だから俺は、毎朝制服を着て出掛ける。

 その時は、職業紹介場の近くでボンヤリしていた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「ちょっと良いかな?」


 うさんくさいオッサンから、ゲームのテスターにならないかとアルバイトの勧誘をされた。

 学校で勉強を出来る環境ではなく、かといってバスケットボールは引退せざるをえない。

 一つの道が閉ざされただけで、あったはずの選択肢がギュッっと減ってしまったように思える。

 とりあえず大学に行くという目標…………、いったい何の為に?


 俺の夢は何だったんだろう?

 逃げたい……、ただ逃げ出したい……。


 ゲームをする環境は通える場所にもあり、本当はダメなんだけど入館パスさえあれば自由に入れるようにしてくれた。

「学生の本分は勉強だよ」と言うけれど、アルバイトを勧めてくるくらいだから説得力はなかった。


 アルバイト料金は、真面目に通えばかなりの金額になる。

 自動車の免許を取るのも良いかもしれない。

 必要ないと言われた、慰謝料として貯めるのも良いと思う。


「ゲームの中の過ごし方は君に任せるよ。ベータテスト期間が終わるまで引き籠っても良いよ」


 ただいるだけでお金が貰えるなんて、今の俺には最高の環境だった。


 ファンタジーの世界に旅立つなら、人は英雄を目指すだろう。

 俺は俺のことを誰も知らない場所で、人知れず反省をする……。

 この心が壊れようとも、それが俺に出来る『ただ一つの償い』だから。

フェザーに怪我をさせた容疑者は、某ゲームのアルバイトに誘われました。

犯した罪を後悔しつつも、現実逃避をしています。

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