067 サーヤの気持ち⑤
私は『天は二物を与えず』という言葉が大嫌いだ。
幼い頃から父親と俊ちゃんが近くにいたので、バスケットボールをするのは自然な流れだった。
思えば父親は、私達二人を上手に導いてくれたんだと思う。
『嬉しい・楽しい・大好きはゲームの基本』のようで、小さい頃の私達は『可能性の塊』でしかなかった。
徐々に年齢が進むにつれて、突き付けられる残酷な現実。
特にミニバスケットをしていると、男子との性差を感じざるをえなかった。
このまま学校の部活に切り替えても良かったけれど、私達の父親は思いの外厳しいらしい。
色々考えた結果、バスケは遊び程度と割り切るようになった。
~
あの事件の後、学校・教師・生徒の間で大きな話題となった。
協会も問題視し、相手校は該当選手を早々に『無期限の公式試合出場停止』と決めた。
団体を通してスポーツ保険とかには入っていたので、治療費については問題ない。
ただ刑事や民事といった言葉を周りから聞くようになり、俊ちゃんパパと私の父親が代表として学校に行くことになった。
「ねえ、どんな話だったの? そもそも、何でパパが?」
「沙也加、秘密に出来るかい?」
羽鳥家と梶塚家は、古くからの付き合いだ。
私と俊ちゃんが幼馴染なくらいだから、少なくとも十数年は経っている。
学校に行った理由は弁護士を通して、先方からの謝罪と今後の対応の話をしたらしい。
本当は俊ちゃんの両親が行く予定だったけど、二家で相談した結果うちの父親が名乗りを上げたようだ。
差し出しされたのは二枚の便箋で一枚は相手校の監督、一枚は俊ちゃんに怪我を負わせた当事者からだった……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ここ最近のゲームは、出会いと別れの繰り返しだったと思う。
特殊個体戦が終わった後、コジカちゃんは魔法の勉強に旅立った。
私達もすぐ旅に出るつもりだったけど、ギルドの報酬が二枚目のカードだったせいか、少し方針転換をすることにした。
アカネちゃんとクスクスくんは仲良く修業に出掛け、俊ちゃんは開拓のお仕事に精を出す。
「私はもっと、料理を覚えないとなぁ」
「あら、高校生でそれだけ出来たら十分よ。お弁当とか作ってあげてるの?」
開拓村の助言者である調香師のレイカさんは、オーバーオールに麦わら帽子姿なのに時々艶っぽくなる。
自家製ハーブティーや香草を練り込んだお菓子作りも得意らしく、『一人で作ると似たようなものになりやすい』と私を誘ってくれた。
そうなると始まるのは、女子トークだった。
「俊ちゃんのお弁当は、俊ちゃんママの手作りですよ」
「あら……。じゃあ、この腕はどこで磨いているのかなぁ?」
ジッと見つめてくる視線、段々と近くなってきてます……。
後ろめたさは一切ないのに、思わず視線を外してしまう。
それを回り込むように、顔だけ動かして覗き込んでくるレイカさん。
気が付けば壁を背にしていた……。
視線だけで追い込む、なんて高等テクニック……。
「サーヤちゃん、吐いちゃいなよ」
「レイカさん。これって……、壁ドン……です」
「私は助言者として、同行者に指導しなきゃいけないの……うふ」
ドアップで顔を近付けてきたレイカさんの後ろで、ゴホンと咳払いが聞こえてくる。
先生が頼んでいた本を持ってきてくれたようで、妖しい状態を何とか止める事ができた。
多分外から見たら、壁ドンからのキスに見えたのかもしれない。
先生はレイカさんに軽く注意しながら、仕事へ戻るように話をしていた。
翌日は俊ちゃん――フェザーが大量に素材を貰って来たので、やりたい事がピンと来てしまった。
こういうゲームだと、自分の得意分野に持っていく人と、やりたかった夢を追う方に分かれるらしい。
フェザーが今でもバスケを愛しているのは分かっている。
それは夢であり憧れであり、今まで培ってきた現実でもあった。
部活の相談を受けたのも、この日の事だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
旅の道中では、クスクスくんの動画を楽しく見ていた。
自分たちの動きを客観的に観られる機会は少なく、普通一個しか使用出来ないカメラも特別扱いにより多角的に撮られていた。
カメラアングルの調整や動画の編集など、クスクスくんは幼いのに色々な技術を持っていて本当にスゴイと思う。
ある意味私達はベータテスターなので、特別扱いを許されている。
初級者として始めたグループや上級者のグループなど、社員テスターさんは目的に応じて様々な活躍をしていた。
薄々感づいてはいたけど、このパーティーは初級者として特別なんだと思う。
それは偏に、フェザーが獲得した【アクロ走行】の副次的恩恵が大きいんだと感じていた。
「どうしたんだ? 沙也加。ニヤニヤして」
「もー、そういう所はデリカシーないよね。よくママが惚れたと思うな……」
「あら、パパは今でもカッコイイのよ。そうねぇ、沙也加にとっての俊くん位に」
「ママまで……。何で、今それを出すかなぁ?」
一家団欒で、隙を見せたのが悪かったと分かっている。
何より、俊ちゃんを含めたお隣さんとは家族みたいな間柄だ。
最初から固まっている外堀があったとして、内側から玉砕が出来ないのが幼馴染の辛い所かもしれない。
時々、思い出し笑いをしているようで、それでも内容まで家族は聞いてこない。
あくまで仕事だと割り切ってはいるけど、このポジションをキープするのだって大変なんだから!
コジカちゃん・アカネちゃん・クスクスくんも頑張っている。
俊ちゃんだって、またうちの庭でシュート練習をするようになっていた。
「そろそろ、来る頃かしら?」
「アカネも風呂に入るなら、練習の後にすれば良いのに」
「あなたっ!」
勘の鋭い母親は嫌いです……。
でも私は見学組だから、……そんな所ばかり見ないで!
大体、お隣とシャンプーや石鹸は一緒と言っていた母親、思春期の頃から話題になったんだからね。
そのお陰でお互い恋愛には疎くなったんだから……。感謝しているけど……。
明日は俊ちゃんが部活に顔を出す日。上手くいくと良いなぁ……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
旅の目的地は、ドワーフがいる鍛冶の街。
その途中にある新しい村は、初級ダンジョンがある所だった。
それぞれがパワーアップしている中、私だけが取り残されている気がする。
ゼロも少し疎外感を持っているようで、ゲームの中でフェザーと二人っきりになれていなかった。
「サーヤさん、聞いてますか?」
「うんうん、聞いているよ」
ちょっと感情移入しすぎなアカネちゃんだけど、最近は『勉強に・お手伝いに・修業に』とマルチな努力をしているようだ。
そして一番に気が付いたのがクスクスくんなのは驚いたけど、このパーティーの異常性を指摘していた。
普通、『こんなスピードでは成長しない』と言うこと。それは隠しステータスの存在で、『運』の有用性でもあった。
特にスキルの成長で顕著に現れ、通常スキル合成で失敗する確率のものまで成功してしまっていた。
「なんでサーヤお姉ちゃんは利用しないの?」
「それはね、私が最初にしちゃうと、ズルしてるみたいだからだよ」
「じゃあ、今度からは大丈夫だね」
「うん、心配かけてごめんね」
旅の途中の資金稼ぎ。
最近はお金に困っていないけど、私達の目的はバグの回収でもあった。
リアルのお金にもそれ程困ってはないけど、最近欲しい本がありすぎて困ってしまう。
専門書は高いし、度々先生に頼ってばかりでは迷惑になってしまう。
幸い、お弁当作戦は順調だから、このまま続けようと思っている。
もともと俊ちゃんが選ぶ進路に合わせて、自分の進む道を決めるつもりだった。
「大学でもバスケが出来たら良いな」と言ってたし、それならスポーツドクターや栄養士みたいな職種も候補に入れていた。
先生に出会ってから、もっと多くの可能性があることが分かった。
スポーツは誰がやるのか? 『骨・筋肉・臓器・脳・心』と、最後には心理学まで候補にあがる程だった。
「サーヤ、聞いてるか?」
「ん? あぁ……、うん。ゼロも一緒に……だよね?」
買い物デート気分だけど、現実世界でもよく二人で散歩に出ている。
すっかり馴染んだゼロと、隣にいる狼獣人――まるで兄弟みたいな二人だなぁと、ふと面白くなる。
「何で笑ってるんだ?」
「何でもないよ! ねー、ゼロ」
「ウォン!」
このパーティーは歪な人が集まっているけど、どこか家族のような雰囲気を感じていた。
俊ちゃんもゲームを通して、脚に良い変化が生まれていてとても嬉しい。
最近は特に、現実世界の方が動くようになっていると勝手にそう考えていた。
少し散策して辿り着いた、一軒のパン屋。
どうやら買い物は私一人がするようで、フェザーとゼロは店の前で待つらしい。
その姿は、まるで忠犬みたい。
『二人が満足する買い物をしてこないといけないな』と変な使命感に燃える。
店の中からガラス越しに外を見ると、フェザーとゼロが話し込んでいた。
その姿はまるで、人生相談をするようでもあった。
「お客さま……」
「あっ、ごめんなさい。いっぱい買うので、オマケしてください!」
家族・仲間・友達……パートナー。
出会いがあれば、別れもある。
そして世の中には、善意だけではなく悪意もありふれていた。
『直接会って、謝罪をさせて欲しい』
『私の指導不足により……』
口止めをされているので、私に出来ることは正直何もなかった。
だけどフェザーが仲間を思うように、私には俊ちゃんが大切だった。
時間は容赦なく進む。
傷や心を癒すにも時間を必要とし、その間も膿は溜まっていく……。
何を一番に考えるか? それが俊ちゃんの為になるなら……。
握りしめたバケットを店員に渡し、私は気持ちを切り替えて店を出た。




