064 慢心
次回は週末の土日のどちらかを予定しております
宜しくお願い致します
この冒険者ギルドで恒例なのは、クグツの朝礼と終礼だ。
まるで中小企業の社長のように、子供達を並べて本日の目標を言わせて始まり、結果を報告させて終わる。
毎日同じことをしていて、クグツは本当に何処を目指しているのだろう?
普通ならパーティーを組んでレベルやスキルを上げ、装備を整えながら英雄への道を目指していく。
VRMMOは、全てのプレイヤーが主人公になれるゲームだ。
パン屋になるのも鍛冶屋になるのも自由だし、場合によっては王侯貴族にさえなれる可能性を秘めている。
俺達は、それを見届けてから朝食を食べる。
飲食に力を入れている冒険者ギルド……、俺達とは合わない感性だけど、それと利用するしないは別問題だった。
「ねえ、まだ行かないの?」
「今日は短期決戦で行くから、出来るだけ顔を合わせている時間を短くしないとな」
「アカネちゃん。作戦をゼロに伝えて貰った?」
「あっ、まだでした。ダンジョンへの道で、簡単に説明します」
アカネの努力は、別方向に邁進しているらしい。
学校の勉強も頑張り、その合間を見て家業の手伝いもしているようだ。
お手伝いで学べる事も多いようで、それがこのゲームに活かされていると聞くと、一概にゼロの事で煩わせるのも考えてしまう。
俺とサーヤは卒業を控えているけど、アカネの本業は学生なのだ。
俺達は十分に時間と距離を置いてから出発する。
アカネからゼロへの伝達は簡素なものだったけど、今日はピンポイントで追い立てるので問題はないと思う。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
アカネとクスクスの報告で聞いていたけど、軍鶏エリアには所々に家と柵があった。
その柵と柵の間にある扉を、クグツがギィィと開ける所から『卵泥棒』は始まる。
短く刈り込まれた青々しい芝の上に点在する、茶色い稲わらっぽい物で出来ている鳥の巣。
うつらうつらと居眠りする軍鶏達が、一斉に警戒の眼差しを向けていた。
「あのね……。あの人がヘタなのは、ここで大声を出すべきなんだ」
「さっすがクスクスくん! 私もそう思う」
「アカネ、この距離で軍鶏の情報は読めるか?」
「はい、フェザー先輩。距離の補正かもしれないですが、軍鶏としか……」
「スキルが上がるかもしれないから、良く見ておいてね」
「はい、サーヤさん!」
家を中心に軍鶏たちの縄張りがあるようで、ここからは4~5軒の家が見える。
柵の内側には八羽~十数羽前後の軍鶏がいて、出入口に近い個体が用心棒を兼ねているらしい。
ちなみに柵を乗り越える事は出来なく、クグツが外に引き連れて行っても一羽以上の軍鶏は残るようだ。
クグツが囮になった後、更に囮が必要になるらしい。
クスクス調べで、あのパーティーの子供達は、後で公平に報酬を分配しているようだ。
「今だ、逃げろ!」
「「「「わぁぁぁぁぁ」」」」
「おい、こら待て。こっちだ!」
事前の報告とクスクスの指摘を考えると、クグツの行動はヘタなのかもしれない。
それでも一人の子が囮になり、残りの子供達が茶色い巣の前で待機する。
残り四人が手早く卵を盗んだ所で、クグツに集っていた軍鶏達に変化が起きた。
少しずつ抜けていくクグツへの敵対心が抜け、子供達を狙う為に分散していく。
大声を出すクグツとは対照的に、軍鶏達はその怒りを子供達に向けていた。
子供達は出入口のある一定ラインを超えれば勝利であり、俺達はその通り道に陣取っている。
助けようと駆け出しそうになるクスクスを、アカネが抱きしめながら見守る。
その抱きしめる姿をゼロが見て、切なそうな声を殺しながら、忠実に役割を果たそうとしていた。
「フェザー先輩。このグループじゃないみたいです」
「出来れば先に見ておきたいけど、狩場は荒らせないからな」
「しゅ……。フェザー、見るだけでもダメなの?」
「あのね。人を見ると、こうふんするんだって」
夜中に突入してこっそり始末するという案も出たけど、夜間はモンスターが活性化するらしい。
またイレギュラーなモンスターも出るようで、ダンジョンでも昼夜が存在する場所は要注意のようだ。
『卵泥棒』グループから卵が無くなると、軍鶏達は沈静化するらしい。
防御に徹しているクグツは、そういう意味では一番安全な場所にいると思う。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
徐々に出入口から距離が離れていくクグツパーティー。
数回目のチャレンジで、アカネから識別番号が見えにくい個体がいると報告があった。
俺達も少しだけ戦線を上げ、中間地点にゼロを待機させる。
「ちなみに他のと、どう違うの?」
「はい、サーヤさん。他のは小さい数字が並んでるんですが、あの辺のにノイズが走っているのが……」
「ゼロへの指示は大丈夫だよな?」
「はい! 私とゼロは以心伝心ですから」
ゼロと距離が離れている所で、ゼロが喜びそうなことを言うのは照れなのだろうか?
クスクスを愛でたくなる気持ちは分かる。メルキナの件があった後、その娘より幼いクスクスが加入したのだ。
NPCとプレイヤーという距離感もあるけど、アカネは両者とも激しく感情移入をしていた。
最初から車椅子を飛ばしていた俺達と違って、クスクスは健気に――戦況が動いたようだ。
『卵泥棒』の子供達は、よく工夫して動いていると思う。
目指すべきゴールは同じなので、最後はゴール目掛けての徒競走になってしまうけど、それだと追いかける軍鶏達が各個撃破するのに絶好な位置取りになる。だから子供達は、一旦散らばって走ることにしているらしい。
親鳥と卵が紐付けられているのか、仮に捕まって回収されたとしたら、そこで追撃は止まるようだ。
「それで一番幼いあの娘が、いつも狙われてるのか」
「最短距離を走るように言われているみたいね」
「あのコ、ちょこまかしてるから、トリさん怒ってるみたい」
「ゼロ、お願い!」
かなり距離が離れているのに、アカネの大雑把な指示をゼロは忠実に実行する。
成人男性の膝くらいある細マッチョな黒い鶏は、真っ赤な顔とトサカを携え、タッタッタとその脚力と羽ばたきで娘を追い立てていた。
それだけでも子供には恐い筈なのに、あの女の子はジグザグに走りながら、卵の事を気にかけて走っている。
その軍鶏はジャンプと滑空中に大きく翼を広げ――その瞬間、ゼロが体当たりで割り込んだ!
「フェザー先輩、ビンゴです!」
「アカネ、そのまま連れて来れるか?」
「はい! ゼロ、こっちに連れて来て」
「ウォォォォォン(ご主人さまのお願いきたぁぁぁぁ)」
「アカネちゃん、見えた?」
「はい! 多分……あっ、名前が変わりました」
「アカネちゃん!」
「パターン青、シャモです!」
軍鶏じゃダメじゃんと思ってたら、アカネは軍風見鶏と言い直していた。
女の子はそのまま俺達の前を通り過ぎ、クグツは未だに軍鶏達に集られていた。
別のパーティーの獲物を横取りするのは、冒険者としては最低の行為だ。
見方によっては敵を倒しもせず、エリアを占有しているクグツも褒められたものではない。
アカネが軍風見鶏と言い直したのも少し気になった。
それはサーヤが適当につけた仮称の筈なんだけど……。
まあ良いか、これを退治出来れば俺達の仕事は終わる。
ゼロが走って来る勢いのままダイブするのを、アカネが軽々と避けた所で戦闘が始まった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
カメラを展開するクスクスは軍風見鶏に向かって、『僕が相手だ』と前に出る。
クスクスは小人族なので盾を構えた位置が、軍風見鶏の嘴が届く絶妙なポジションになっていた。
アカネと俺はクスクスを中心として少し距離を取り、ゼロは大きく迂回しながら敵の背後を狙う位置取りだ。
サーヤは杖を構えていて、いつでもクスクスを癒せるポジションにいる。
「アカネはクスクスのサポートを! ゼロは牽制しながら攻撃を!」
「はい、フェザー先輩」
「ウォン!(はーい)」
「ねえねえ、僕は僕は?」
体を捻って余所見する子は、ほっといて……。
クスクスは前傾姿勢を保ちながら、小さいままの円形盾を器用に使っている。
大勢の豚を捌いていたクスクスにとって、中ボスでも所詮はトリのようだ。
油断大敵と俺は槍を持ちながら、一撃で仕留められるようにチャージ出来る距離を取っている。
「あはははは!」
「ちょっと、クスクスくん。真面目に!」
「今度は僕の獲物だよ」
「私だって、負けないからね!」
アカネは拳に光を集め、シャドーボクシングするようにジャブの真似をしている。
初級者用の狩場だからって、少し舐めすぎのような気がしてきた。
軍風見鶏はジャンピング突っつきをしながら、クスクスの牙城を崩そうとしている。
アカネのパンチは軽快に避けてはいるけど、みんな風の魔法について忘れているのだろうか?
「俊ちゃん、何か嫌な予感がする」
サーヤが少し離れた場所で何かを呟いていたけど、俺は短期決戦を狙って車椅子の力を解放した。




