062 傀儡
ダンジョンでドロップした品物は、大抵冒険者ギルドで売ることが出来る。
肉や毛皮なんかもギルドに売却でき、そこから地元の各商会・商店に行くらしい。
「おい、お前たち。もう一度、今日の成果を言ってみろ」
「2個です」
「1個……」
「ありません」
10歳に満たない小さい子を並ばせて、テーブルにエールを乗せた30前後の男が説教していた。
冒険者ギルドも地域によって様々な形態があるようで、夕方近くからミーティングルームが酒場に変わるのがこの領の特徴らしい。
俺達は羊のドロップ品の売却と、情報収集で冒険者ギルドに来ていた。
振り向くと周りは『我関せず』といった感じだ。どこか冷たい雰囲気が、ギルド内からも感じ取れる。
ダンジョンの入場も緩ければ、年齢についても煩く言われないようだ。
正式に冒険者として認定されてない子供を使うなんてと思ったけど、子供は子供で生活の為にやるしかない事情があるらしい。
「明日もこんなじゃ、タダじゃおかねぇからな!」
「「「「「はぃ」」」」」
男は成果に対して銅貨を配り、最後には麦粥を配って解散させていた。
何人かの子供は泥だらけで、何人かの子供は傷ついている。
擦り傷もあれば、脚を引き摺っている子供もいた。
受け付けの女性に事情を聞くと、『この土地の貧しさが……』としか言わなかった。
グイッとエールを呷る男を、アカネとクスクスは睨んでいる。
サーヤは上手く壁になっていたけど、男がその視線に気が付いたようだ。
「お待たせ、みんな」
「チッ……」
「フェザー、遅いよ。もっと早く動けたでしょ?」
「悪かったな。とりあえず、今日は出るぞ」
上手くタイミングを外せた俺達は、このままここにいるのは良くないと出ようとした所、さっきの受付嬢から呼び止められてしまった。
どうやら冒険者ギルドのサブマスターから話があるらしい。俺達は別室に案内され、手短に話を聞くことにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
いかにも事務仕事が出来ます的な、茶褐色で短髪のメガネ姿の男性がやってきた。
応接室のソファーにアカネとサーヤが座り、その隣は車椅子の俺だ。
クスクスはお誕生日席のように一人用のソファーに座り、サブマスからの話を聞くことにした。
「よく来てくれたね……。えーっと、パーティーの名前は?」
「まだ決まっていません」
「なるべく早いうちに決めておくと良いよ。それが知名度になり、ギルドとしても『こうした指名依頼』がしやすくなるからね」
「しめいいらい? 分かった、悪者退治だ」
足をブラブラしていたクスクスは、指名依頼の言葉にガタッと立ち上がる。
アカネは小声でクスクスを宥め、その隙に俺は話の続きを促した。
このゲームのNPCは大別して二種類いる。この世界がゲームと自覚しているかどうかだ。
サブマスターの依頼は、さっきの『卵泥棒』のリーダーをしているクグツというプレイヤーの調査だった。
現状、子供達を雇用するのは自由で、最低限食事を取らせているのでギルドとしては強く言えない。
ただ、怪我をしても保障する訳ではなく、周りからの評判も良くないのが、誰の目から見ても明らかだった。
「除名すれば良いんじゃないですか?」
「アカネちゃん、私もそう思う!」
「そこが難しい所なんだよ。彼はギルドの規定には抵触してないんだ」
「犯罪行為もギルド員同士の争いも起こしてないと?」
農業従事者とその家族なら、必要な時期に労働力は欲しいだろう。
ただギルドから聞いた限りでは、労働力として微妙なラインを使っているにすぎないらしい。
またβテスターは地域の起爆剤として期待されており、製品版への足掛かりとなる改革になるかもしれない。
今現在も世界は進歩しており、ギルドの介入によってそれが閉ざされるのは不本意なようだ。
「それなら、どうして俺達を指名したんですか?」
「君達に実力があるのは、今日一日の成果で分かったよ。後は、同行者の存在かな?」
サブマスはサーヤを見る。
助言者程の権限はないけれど、どちらかと言うと会社側の人間である。
俺も後々就職に関係する業務が出るはずだけど、今はアルバイトとしてバグの修正に力を入れている。
ちなみにクグツは社員ではなく、何処かから情報を取り付けた一般のテスターらしい。
俺には『遊び方は自由だ』と言われているので、多分クグツも同じ条件なんだと思う。
「これはサブマスターの私からではなく、私個人からの指名依頼と思って欲しい」
「ねえ、アカネちゃん。どう違うの? 同じだよね? ねっ?」
「そ、それは……。フェザー先輩!」
「クスクス、後で説明してあげるから。なあ、みんなはあの子達を助けたいか?」
俺の質問に三人は頷いた。こうなると依頼を受けるしかない。
問題は3点あると思う。『クグツの人間性』と『卵泥棒の難易度』が徐々に上がっていること。
最後の『貧しさ』については、国の問題であるし領主の問題でもあるから何とも出来ない。
事業を興して料理無双とかも悪くはないけど、俺達にそんな時間があるかどうかは微妙だ。
「分かりました。とりあえず、明日から調査します」
「ありがとう。ちなみに調査費用は、こんな感じで……」
「えー、それは少ないですよ。せめてこの位に……」
最後は締まらなかったけれど、俺達は冒険者だ。
きちんと依頼料は貰うし、それに見合った働きをしないといけない。
宿に帰り先生が合流してから、俺達は依頼と今後の方針について話した。
先生は忙しいので、マッサージが終わるとすぐに帰ってしまう。
せめてクスクスの説明に同席して欲しいと、俺達は懇願するしかなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ここ数日、ダンジョンや冒険者ギルドに通って分かった事がある。
まずクグツについて、……言う程悪い奴ではないかもしれない。
部下として使っている子供たちに、暴力は振るわないけど恫喝はする。
ただ食事はきちんと与えているようで、怪我に関しては自己責任だと役割を放棄している。
「えーっとね、僕と同じ守る人だよ」
「少なくとも基本的なスキルはクスクスくんと同じでした。ただ、魔法は使えなさそうです」
「ずっと軍鶏の攻撃を受けているから、子供たちのフォローは無理だよね」
「あぁ……。その後逃げ回る軍鶏と、個別にターゲットの取り合いか……」
クグツが複数のターゲットを引きつけるスキルを持っていれば解決するようにも見えるけど、卵が盗まれた瞬間その均衡は崩れてしまうので何とも言えない。
同じレベルの人達と組めば問題ないけど、俺としては問題ある人には入って欲しくないし、みんなの印象も良くなさそうだ。
「それで、軍鶏については?」
「確証はないけど、何もない所で転ぶ子がいました」
「あの人、そんなに強くないよ。僕なら、あのトリ倒せるし」
「あのね、多分特殊個体が混ざっていると思う。ゲーム的に言うと、大ボスじゃなくて中ボスクラスの……」
「見た目は変わらないのにか?」
「うん。人型のモンスターなら、職業とか役職が名前になるでしょ?」
「ゴブリンのアーチャーとか、ソードマンとかか……」
「そうそう。今回はそうね……軍風見鶏ってところかな?」
軍鶏も杖でも持ってくれれば見分けはつくのにと思いつつ、サーヤに何で軍風見鶏なのか聞いてみた。
英語はよく分からないけれど、アングリーもフューリーも同じような意味だったと記憶している。
サーヤの答えは、『ヒューヒューと、風が吹いているようでしょ』と言われてしまった。
……だ、ダジャレかよ。真面目にやれば俺を引き離せるくらい頭が良いのに、サーヤは何故か残念な事をしたがる癖がある。
見た目だけは正統派エルフに近付いてきたのに、ゲームのステータスだけ知力が高いキャラクターのようだ。
その知力に自身の知力が伴っているなら問題はない。そう言えば、そっち方面の力は影響を受けないのかな?
ゲームの中で魔法を使っていれば知力が上がるなら、これは凄い発見だと思う。
こちらを覗き込むサーヤを見て、『それはないか』と妙に納得してしまうのであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
俺達の報告に、サブマスターは思案顔だ。
クグツに近い場所にいる俺達は、徐々に目をつけられている。
クグツもプレイヤーとして努力しているのか、操作盤で色々と作業している姿は良く目にしていた。
俺達には直接絡んでこない。サーヤとこっそり話した所、人見知りか引き籠りじゃないかという結論に至った。
引き籠りのネット弁慶、仁王立ちで軍鶏の攻撃を一身に受けるから、弁慶には違いないと思う。
それにしてもクグツという名前……。いや、ゲームの世界にいる俺達が言うべきことではないな。
「子供でも出来る下働きは、徐々に用意しているよ」
「それって……」
「うん、あくまで応急処置だね。大人から仕事を斡旋しないと、経済は回らないからね」
そもそも子供が働かなくてはいけない状況が歪であり、社会的には仕事は選べた方が良いに決まっている。
プレイヤーによる急速な内需拡大は無くはないけど、そもそも旅の途中の俺達は、ここに留まろうとは思っていない。
「そこで、ここからが本番になるかな?」
「分かった! あのお兄ちゃんをやっつけるんだね!」
「クスクスくん違うよ。でも本当に嫌なら、私が……」
「おいおいアカネ。物騒なことを考えないでくれ」
少なくとも今迄、『卵泥棒』は安定して稼げる手段だった。
この街の世界観がそういう設定なら、もしかしたらクグツの行動は善意から来ているのかもしれない。
このゲームの中では、ペナルティーとして牢獄のような場所があるらしい。
重大な違反を犯した時に閉じ込められる場所で、アカウントに紐付けられているのでキャラクターを消してもどうにもならないそうだ。
今回のクグツの言動は、そこまでとは判断されていないと思う。
だから俺達に課せられたミッションは、軍風見鶏を見つけ討伐することだった。




