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061 群れの一員

 最近アカネとクスクスは、よく一緒に行動をしている。

 基本的にアカネとセットで行動するゼロだけど、扱いとしてはペットなので当然入れない場所も存在していた。


「クゥーン(なんか寂しい)」

「ねえ、ゼロは何て言ってるの?」

「なんでもないさ」


 今は二手に分かれて、必要な物の買い出しをしている。

 俺とサーヤをセットで考える人が多いせいか、自然とこういう組み合わせになっていた。

 ゼロが気を遣ったのか、アカネがクスクスと買い物をしたいのか、真相は分からないままだ。

 だから今回は『俺達と一緒に行動するか?』とゼロに聞き、こちらのチームで必要なものを揃えている。


 サーヤがパン屋に入り、俺とゼロは外で待つ。サーヤの選ぶパン屋は、ハズレが少ないから納得の人選だ。

 機動力がある車椅子だけど、邪魔になるシチュエーションがどうしても出てきてしまう。

 この車椅子はバリアフリーとか気にしなくて良いけれど、こぢんまりした店に入るには都合が悪かった。

 保存食用だけど収納の性能が良くなってきているので、俺達は美味しいものを選ぶことにしていた。


「リアルのアカネも若いからなぁ。恋をしても、おかしくないだろ?」

「ウォッフ?(子供と恋しても無駄じゃない?)」

「う~ん……、それは何ともだな。人間の恋は、子孫を残すだけじゃないんだよ」

「ウゥゥゥッフ(難しい……)」


 車椅子に座った白い狼獣人の俺と、リアル狼による恋愛談義。

 不毛なようだけど、何故か話し込んでしまう。

つがい』という感覚は理解できないけど、ゼロにとってアカネは『仕えるべき、ご主人さま』らしい。

 ちなみに俺の立場は『群れのリーダー』のようで、群れの一員でもあるアカネはゼロにとって特別スペシャルなのだ。


 今回のダンジョンは|フロック(群れ)ダンジョンだ。

 人もある意味群れるし、家族や仲間を守る群れ・ハーレムを形成する群れなど様々だと思う。

 うちも犬を飼っているけれど、犬は家族の中で立場ポジションを大事にする。

 今回ゼロは家族というポジションから、少し距離を感じ始めたのだろう。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 程よい時間に合流し、俺達はダンジョンへ下見に向かった。

 伯爵領とは違い、男爵領では車椅子で止められることはなかった。

 毎回同じやり取りをするのは手間だけど、どこかやる気のない対応をされると少しえてしまう。


「ねえねえ、アカネちゃん。何処から行く?」

「うーん、どうしようか? フェザー先輩・サーヤさん、鶏を経由して羊エリアに行きませんか?」

「私はどこでも良いよ」

「サーヤ、羊のドロップ品はどんな感じなんだ?」


 少し考えたサーヤは、一般的な羊のドロップ品を教えてくれた。

 肉や糸は基本らしく、レアドロップとして内臓系が出るらしい。


「羊の腸って……。どう使うんだ?」

「えーっとね、美味しいソーセージが出来ると思う」

「僕ソーセージ大好き!」

「豚肉もあるし、レイカさんからハーブも分けてもらってるんだ。美味しいホットドッグも出来るよ」


「今日は下見だから良いか。後でドロップ品の売却価格も見ないとなぁ」

「そういえば、金策も兼ねてたよね」

「クスクスくん、早く鍛冶の街に行きたいよね?」

「ん~……、別に急がないよ」


 アカネの質問に、クスクスは少し考えて答えていた。

 続けて質問したアカネにクスクスの返事は、『我慢すれば楽しいことが待っている』は信じないことにしているらしい。

 まだ小さいのに運動を制限されていたことは聞いているし、詳しくは聞いてないけどきっと悔しい思いもしてきたのだろう。

 裏を返せば『今を生きる』だ。その時その時を一生懸命生きるのは、前向きで良いと思う。


『早く行こう!』とアカネの手を引くクスクスに、アカネの反対側では指示を待つゼロがいる。

 そして仕方がないなぁとクスクスに追随するアカネのいた場所で、ゼロが静かに佇んでいた。


「ゼロ。二人を危険な目に合わせないように、先行して見てきてくれないか?」

「ゥーォン(……分かった)」

「何か悲しそうだったね」

「後で、それとなくアカネに伝えるか……」


 俺とサーヤは、ゼロの事を少し心配しながら狩場へと向かった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 出入口付近の狩場では、初級者とおぼしき冒険者や少年達が『卵泥棒』をやっていた。

 にわとりと言うよりかは、どちらかというと軍鶏しゃもだと思う。

 鶏同士が戦う『闘鶏』に登場する鳥で、気性が荒くて攻撃性が高いので有名だ。

 特に第一印象ファーストインプレッションが大事なようで、お互いに目が合ってしまったらターゲットに認定されるらしい。


「これはギルドで聞いた話なんだけど……」

「うん」

「段々と盗られないように、学習してきてるんだって」

「鳥頭なのにか?」


「生存本能なら、覚えるんじゃない?」

「モンスターがAIで学んだら、人間なんて勝てないぞ」

「それはそうだけど……。ダンジョンのモンスターは殺さないと死なないし、あの卵が孵るかは分からないよ」

「ダンジョンから出れば、ドロップ品扱いの食料に変わるんだったな」


 基本的にダンジョンから持ち帰えれるのはドロップ品のみだ。

 ところがこのゲームは他のゲームと違って、直接手で持ちながら外に出るとドロップ品扱いになるものもある。

 各種検証をしているのがプレイヤーをやっている社員さんで、本格始動版用にサポート出来る体制を取っていた。

 そうなると『卵泥棒』は、初級者向け推奨のクエストなのだろう。


 ザルを持ちながら右往左往する少年少女に、盾職がどれだけ敵を引き付けられるのかがキーになると思う。

 その盾職の人は数匹の軍鶏にたかられてて、ダメージというよりかはジッと耐えるしかないので大変そうだ。


「ん? 今転んだ子……」

「どうしたの? フェザー」

「軍鶏は魔法も使えるのか?」

「えっ? そんな筈はないけど……」


 飛ぶというよりかは、跳んで羽ばたきからのついばみが基本技らしい。

 もしかしたら特殊個体が既に湧いている可能性もあるらしく、俺達は巻き込まれては敵わないと足早に移動を再開した。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ちょっと遅れて羊エリアに到着すると、サーヤとクスクスが手を振っていた。

 アカネの隣で健気にお座りしているゼロは、どこか寂しそうな雰囲気がありながら仕事モードだ。

 この場所は草原の丘のようで、所々わざと迂回をさせるように、木の杭や柵が設置されている。

 最小で4頭が1チームになっている羊は、長閑のどかに草をんでいた。


「どこのダンジョンも、基本的に緊張感がないよな」

「動物系だと、こんな感じらしいよ。それともアンデット系でも行く?」

「ねえねえ、それってお化け屋敷? 僕、恐いのへっちゃらだよ」

「クスクスくん、落ち着いて」


「アンデットなぁ……。ドロップ品は良くないだろ?」

「お金目的だとね。ただ、お宝が隠されているかもよ」

「それで、このエリアはどうなんだ?」

「あっ、それは私から説明させてください。あの羊は『ショートホーン種』で、頭突きと共に角が刺さる感じです」


 黒みの強いグレーの毛並みで、羊にしては凛々しい顔をしている。

 特徴的なのは頭上からツインテールのように、曲線を描きながら垂れた角が頬の辺りでヘッドギアのようになっていた。

 あれでは何か食べるのに大変だろうと思ったけど、草を食んでる分には問題ないかもしれない。

 羊は臆病な性質らしく、戦う時は集団戦になるようだ。


「まあ、やってみるか」

「うん!」

「……ねえ、フェザー」

「ハァ……。アカネ、ゼロにお願いしてもらえるか?」


 今まで盾職をやっていたアカネは、クスクスと話し出すと止まらなくなる。

 俺が雑魚を連れてきても良いんだけど、今までゼロが率先してその役目を果たしていた。

 俺の言葉でゼロの存在を思い出したのか、指示を出すことを忘れていたようだ。


「ゼロ、お願い!」

「ウォン!(うん、僕頑張るよ)」


 いつもと比べて少しだけ素っ気ない命令に、ゼロは尻尾をブンブン振りながら応えていた。

 この会話のニュアンスが分かるのはアカネと俺くらいだ。

 クスクスはこれから始まる戦闘にワクワクし、サーヤは少しだけ離れて辺りを見回す。

 俺とアカネはクスクスを中心にして、左右に分かれている。


 突如走り出したゼロに、羊たちは戸惑い逃げ回っていた。

 そしてあっちこっちから威嚇したゼロは上手く一頭だけを群れから外し、その羊はこちらに向かって駆けて来る。


「クスクスくんに、良い所を見せなくっちゃ」

「あー、アカネちゃん。僕の羊さんをとっちゃダメだからね」

「ふふーん、早いもの勝ちです」


 アカネはそう言うと、あっという間に羊の首を掴んで組み伏せ、まるで毛刈りでもするような『お座り』の体勢にまで持ち込んでしまった。

 その隣では『僕のご主人さまは凄いんだぞ』を誇らしげなゼロと、拗ねているクスクスがいた。


 この状態から倒すのは気が引けつつも、絞めつけて気絶させた羊に手を合わせて、槍で止めを刺す俺の姿があった。

 それからも順調に狩りは進み、かなりの数の羊を倒すことが出来たのだった。

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