057 藻掻きと足掻き①
後ろ向きに車椅子で馬車に乗り込み、一番奥の席に座ると車椅子を消した。
当然のように隣に座るサーヤ。俺の正面にはアカネが座り、その隣ではクスクスが足をブラブラさせている。
馬車に揺られながら、俺はクスクスとアカネに特訓の成果を聞いていた。
乗合馬車なので、パーティーメンバーの他にも乗客は何人かいる。
俺達のパーティーは四人で、他には3人家族と一人旅の男性がフードを目深に被っていた。
馬車を追走するゼロも、もちろん仲間だ。段々と落ち着きがなくなってくるクスクスを宥める為、積極的に話を聴く必要があった。
「それでね、アカネちゃんって面白いんだよ」
「あー、それは言わないって約束したよね」
サーヤからはコジカの話を聞いており、その様子はパーティーメンバーで共有している。
必ずしもこのメンバーで完成形を目指すのではなく、それぞれの個性を一つのチームとして纏められたら良いなと思っていた。
隣の家族は小さい子がいるせいか、クスクスのことを微笑ましく見てくれている。
フードを目深に被った男性には悪いと思うけど、眠っているような雰囲気を醸し出しているのできっと良い人なのだろう。
御者とを隔てている幌の一部に、クスクスは映像を投影しながら説明を始めた。
これはNPCに感じることが出来ない仕様であり、俺達はクスクスの説明よりも映像に注視している。
慌てふためくアカネは「いつの間に撮ってたの?」と言いながら、サーヤの周りを見る仕草に黙り込んでいた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「きょうかんきょうかん、僕がんばったよ!」
「あぁ、分かっている。それで、今日は何の用だ?」
「あのね~。アカネちゃんと僕、もっと強くなりたいんだ」
冒険者ギルドに到着したアカネとクスクスは、迷うことなくギルマスを呼び出したようだ。
二日連続で冒険者ギルドに行ったので、これは初日の出来事なのだろう。
人が少ないとはいえ、冒険者ギルドのギルマスは気楽に呼び出して良い存在ではない筈だ。
クスクスの気安さを考えると、かなり気に入られているのが分かる。
奥の部屋に通されたアカネとクスクスは、どんな形で強くなりたいか熱心にプレゼンをしていた。
アカネは素手での戦いに限界を感じ、以前サーヤに勧められた肉体強化魔法について真剣に考えているようだ。
クスクスは手の負傷と、掲示板に書かれていた内容について質問していた。
主に種族的な職業との適正関係で、小人族が盾職をするのは効率的に良くないと言う問題だった。
「周りの評価が気になるのか?」
「いいえ、気にならないでありまーす。さー」
「ならば、目の前の課題から片付けるのだ」
「きょうかん、かだいってなーに?」
同時に目頭を押さえる教官とアカネ。
実年齢が小学生くらいなら、宿題と言わないと分からないと思う。
「では、以前もした忠告だ。体に合わせた装備を整えよ。その盾は見掛け倒しだ」
「教官、クスクスくんの盾の技術は凄かったですよ」
「今はまだ良いが、不壊装備に特別な強さはない。ただ壊れないだけの盾など、役には立たないだろう」
「え? クスクスくん、盾にしちゃったの?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
映像は、ここで一度止まったようだ。
クスクスが編集しているということは、どこまで撮ってどこまで公開するかクスクスの手の内にある。
何もない空間で次の動画を探すように、忙しなく指を動かしているのだから続きがあるのだろう。
「クスクスの盾って、不壊装備なのか?」
「うん、そうだよ!」
「あれってナイフとかに、【解体:壱】とか付与されている奴だよな」
「そうだけど……、フェザーの車椅子もそうじゃない?」
確かにボーナス的要素が多いとはいえ、俺の車椅子も不壊シリーズだった。
ただ武器にしてもダメージは最低になり、防具にしてもほとんど効果がないと聞かされている。
厳密に言えば盾は防具ではないかもしれない。技術によってダメージを軽減する装備だ。
だから安定して見えた特殊個体戦の後で、クスクスは手に大きなダメージを負ってしまっていた。
俺もサーヤも、掲示板はたまに見ている。
その中で小人族は盾職に向いてなく、どちらかと言うと軽戦士や手先の器用さ・素早さを活かす職が良いと書かれていた。
一定層クスクスの可愛さを評価するカキコミがあったけど、何故か寒気を覚えたのは気のせいだろうか?
変形する盾にロマンを感じたり、それを魔法で補って戦う姿に称賛はあったが、自身にダメージを負うのは良くないと思う。
「僕は大丈夫だよ!」
「本当に強がってない?」
「うん! アカネちゃんは心配性だね」
「でも、どうして不壊の盾を作ろうとしたんだ?」
「だって、戦ってる途中で壊れたら危ないよ」
「うーん、それはそうだけど……」
「絶対壊れない盾なんだよ! 強いに決まってるよ」
絶対壊れない盾と聴いて、ふと俺の槍で突破できるか考えてしまう。
サーヤはスキルが上がったら強くなると言っていたし、中距離からのチャージは威力を増してきているのを実感している。
最強の槍と絶対壊れない盾……、ふと矛盾を感じてしまっていた。
ダメージを増やしたり減らしたりするのは、武器や防具の性能の他はスキルに依存する。
もしクスクスが最高の技術を身に着けたとしたら、不壊の盾が日の目を見るかもしれない。
現時点でダメージを負いながらも、特殊個体と互角に戦えたのは、ある意味奇跡なのだろうか?
選び終わったクスクスは、次の映像を投影し始めていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
俺達も新人研修をした広場で、クスクスとアカネは走っていた。
戦闘の基本は足腰らしく、敏捷性に優れている小人族のクスクスがぶっちぎり、アカネが後を追う形だ。
いつのまにかゼロも参加して走り、よく分からない全力マラソン大会が開催されていた。
終わらない競争に、普段は止めに入らない教官も早々とストップをかけていた。
その後はクスクスを突破する自由組手が始まった。
無手のアカネを相手に盾を構えているクスクスだったが、どうにもやり難そうに見える。
しかもアカネは打撃技というよりかは、どちらかと言うと柔道……いや、合気道に近いかもしれない。
合気道の戦い方は見たことがないけれど、相手に力を出させない戦い方が繰り広げられていた。
「お前、良い子だな」
「ウォン!」
教官の隣で大人しくお座りするゼロ。
攻め手に欠けるアカネに、やり難そうに守りに入っているクスクス。
最終的に二人は低レベルな喧嘩っぽくなり、地面でゴロゴロ転がっていた。
教官は片手杖をビュン・ビュンと振りながら、時折地面を強く踏み込むと波紋のようなウネリが二人を通り過ぎていく。
アカネもクスクスも、これでは訓練にならないと気が付いたのだろう。
お互い立ち上がり、二人はどうやって相手を崩していくか考えているように見える。
「クスクスよ、その手に持っている剣は飾りか?」
「のーさー」
「アカネよ。仲間がいない時、大事な人は守れないのか?」
「の、ノーサー!」
「教える事は簡単だ。ただ何をどうするべきか、その場で出来る最良の手段を考えよ! 車椅子の負傷兵にも出来た事だぞ」
油断して観ていたので、まさか自分の話が出てくるとは思わなかった。
俺達には種族的にも戦い的にも『らしさ』が存在する。
よくサーヤに『正統派エルフ』について話しているけど、魔法や弓を扱う姿はとても輝いて見える。
表立って言う事は少ないけど、ある意味歪なパーティーで変則的な戦い方をしている俺達なら、それぞれ違った形の『らしさ』を見つけることが出来るのかもしれない。
映像の中のアカネは、地面に這いつくばる蜘蛛を連想させ、クスクスの事を獲物と認定し睨んでいた。
対峙するクスクスは、絶対に後ろを抜かれない鉄壁の盾として、アカネの一挙手一投足を窺っている。
ある種、緊迫していない2日間を過ごした俺とサーヤは、二人の戦いに釘付けだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
アカネ(ビーストパートナー):人間
セットスキル
【近藤家流・調伏術:弐】
【追加体力:壱】
【我慢:弐】
【頑健:壱】
【観察:弐】
【共感/犬系:壱】
【指示:弐】
ボーナススキル:【ライドオン】
必殺技(BSM):【強打】
ペット:狼 名称:ゼロ
チェインポイント:5P
クスクス(冒険者):小人族
セットスキル
【剣技:壱】
【疾走:壱】
【脚力強化:壱】
【盾:弐】
【絶叫:壱】
【戦闘姿勢/重戦士:壱】
【古代語魔法(私塾仮入学/魔法:土):壱】
ボーナススキル:【冒険者の心得】
必殺技(BSM):【強打】
チェインポイント:6P
魔法
『粘土細工』




