056 生産の醍醐味
遅くなりましたが、本日からアップをスタート致します。
皆さまにとって今年が良い年でありますように。
昨日【伐採】のスキルを習得したことで、いくつか分かった事がある。
スキルをセットするのが間に合わなかったけれど、素材を集める系のスキルは作業に成功すると別途に素材をゲット出来るらしい。
次は自前の斧や鉈等を準備し、木工作業を覚えるのも良いかもしれない。
今日もアカネとクスクスは冒険者ギルドに行き、戦闘訓練をしているようだ。
魔法に興味がなかったアカネは、『サヌゲントン』戦で力不足を痛感していたのを俺達は見ていた。
クスクスは俺達と模擬戦をしたがり、最初に名乗りを上げたのがアカネで、相性の悪さで泥仕合になっているようだ。
泥仕合だからといって、泥だらけで帰ってくるのは何かが違うと思う。
「何でサーヤは、こっちに来たんだ?」
「だって、正確な寸法分からないでしょ?」
「大体で良いんじゃないか?」
「それなら尚更、みんなの意見は必要なんじゃない?」
小さな村の中にある救護院は、比較的大きな施設だ。
そして小さな村特有の考え方、『出来そうな事は、とりあえずやってみる』の精神で、俺は目の前の素材を改めて見渡した。
昨日いらない端材として貰った木材だけど、高い報酬を払えないので『現物支給だ』と大盤振る舞いを受けていた。
先生もレイカもシスターマリアも今日は忙しいようで、その代わりにサーヤを寄こしたらしい。
素材を並べただけで、何を作りたいか分かるものだろうか?
サーヤが木工作業用の道具を持て来てくれたので、早速板を切ろうとすると先に寸法の下書きをしようと言われてしまった。
「板の寸法って、こんなもんだよな?」
「もうちょっと大きいんじゃない?」
「離れた距離でしか見ないからなぁ」
「私達、もうちょっと身長があればダンクもいけたかもね」
「いや男ならやるけど、女子選手で見たことはないぞ」
「そう? プロ選手とかだと、ありそうだけど」
「この世界なら、みんな出来そうだよな」
「ねえねえ、早く作ろうよ!」
これから作るのはバスケットゴールで、この前倒した『サヌゲントン』からドロップした……。
ちゃんと煮沸消毒はしたし、魔法で膨らんだから問題ないと思う!
ラグビーボールっぽくなると思ったら真球になったので、それならいっそとゴールポストを作ろうと考えていた。
定規を使って線を引き終わり、俺は車椅子にブレーキをかけステップをどかして、ひじ掛けを掴んで力を籠めた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ちょっと、俊ちゃん!」
「いいから。サーヤは、そっちを持っててくれ」
「本当に大丈夫なの?」
「ここで武器を振れって言われたら無理だけどな。鋸程度なら動かなくても使えるだろ」
先生からも、積極的に立ち上がる練習をするように言われている。
ゲームの中では特に痛覚設定が緩和されているので、転んでも大してダメージを負うことはない。
そもそもリハビリは日常生活を送る為の努力だ。その先には僅かながら、プレイヤーとしての可能性もあると思う。
車椅子の操作ばかり上手くなっても仕方がない。
「腰持ってようか?」
「それだと板が動くだろ?」
「じゃあ、板持ってくれる人探してこようか?」
「良いから、始めるぞ!」
心配性なサーヤを待っていたら、いつまで経っても作業は進まない。
何かに掴まっていれば倒れることもないし、意識しないで自然体で動かなければ大丈夫だ。
立っていた頃の記憶・歩いていた時の記憶を思い出しながら、イメージを持ち上書きしていく。
刃物は押す時か引く時に斬れる。伐採とは違う力加減で、板の目を考えながら鋸を動かした。
何か作業してると、併設されている孤児院から小さな子達がやってくる。
「何を作ってるの?」と囲まれるのは悪くないけど、注意力が散漫になると足元が若干不安定になってくる。
何も考えないことを考える。まるで禅問答のようだ。
そんな子供達にサーヤは例のボールを渡し、簡単なドリブル指導が始まった。
「そうじゃないって。はい、交代ね」
「なあ、サーヤ」
「フェザー、後で!」
「そうか……。まあ、いいか」
小さな子のドリブルは、跳ねているボールと手の動きが段々とズレてくる。
それでも楽しそうにダムダムしている姿は、見ているだけで癒されるのは何故だろう?
作業する為の時間稼ぎなのに、思わず見惚れてしまうのは昔を思い出すからなのかな?
急にパシッと尻尾を掴まれて、振り向いたら女の子がニッカリと笑っていた。
その後ろにはレイカもいて、笑顔で「室内でバスケットボールをしない!」と怒られてしまった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
魔法を使えば、ボールは量産が出来る。
俺達は一旦外に出て、ドリブルの本格的指導に入った。
作業部屋はそのままにしてあるけど、人があまり来ない場所なので一日の終わりまでに片付ければ問題ないそうだ。
サーヤが先生になり、俺は車椅子に座りながら一人ずつ見て回る。
時々先生やレイカが来てくれ、子供達の相手をしてくれる。
「そうだ、フェザーくん。コレなんてどうかな?」
「これって……、もしかして樽の箍ですか?」
「そうそう。丁度良い大きさじゃないかな?」
「へぇぇ。ねえ、これ借りていい?」
サーヤは山ほど仕舞ってある『うさぎの毛糸』を取り出し、指編みでバスケットのゴールにぶら下がっている網を再現していく。
時々箍に充て、寸法を修正していく。もちろんボールが、きちんと通る大きさを忘れない。
このゴールネットは不思議なもので、シュッっと通る時もあればファサッと包み込む時がある。
どちらが良いとは言えない。どちらもゴールの醍醐味であり、その想いはサーヤもよく分かっていると思う。
『あれはどうかな? これは使える?』と先生が聞いてきたので、ゴールポストは着々と完成に近付いてくる。
先生とレイカが子供たちを見てくれているので、俺とサーヤはこの場をスッと抜け出し、再びゴールポストの製作に取り掛かった。
魔法が切れる時間だと思い息抜きに外の様子を見にいくと、一つのボールでパス練習をしていた。
多分、ドッジボールでもすれば済む話なのに、先生もレイカもバスケを前提とした遊びを教えていた。
「サーヤ、すぐ戻るって言っただろ」
「良いの! 私も息抜きだったんだから」
柱の陰から車椅子で見守っているその後ろを、サーヤはさりげなくハンドルを掴みながら外の様子を窺っている。
こっそり出てきた筈だけど、いくら熱中していても二人だけの空間だから分かってしまったのだろう。
子供たちの頑張りを見てしまったら、いやが応でも俺達のやる気に火がつく。
サーヤのニマニマしている笑顔を見たら、尚更俺のやる気に火が付いてきた。
《スキル【木工/見習い】を解放しました》
《スキル【木工/見習い】を習得しました》
それからスキルを追加でセットして、操作性・安全性に留意しつつパーツを準備していく。
最終的に外で組み立てて、良い場所にセットした所でアカネとクスクスが帰ってきた。
固定方法に少し悩んでいたけど、クスクスが魔法で仕上げてくれるらしい。
クスクスの魔法についてはギルマスの指導のもと、かなり柔軟に学んでいるようだ。
「お兄ちゃん、約束だからね」
「分かってるって。だけどサポートは無理そうだなぁ」
「それなら、私が手伝うよ」
「本当?」
先生はボールを持ったクスクスの腰を掴み、『せーの』の合図でギューンと持ち上げた。
小学生になったばかりのクスクスでも、現実世界でやったら腰を悪くしそうな気がする。
ゲームの世界なのでそんな心配もなく、タイミングよくクスクスはダンクシュートを決めた。
レイカが拍手をすると、俺達も拍手を始める。問題なのは先生の後ろに、子供たちが整列し始めたことだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
この日の夜、俺達は新しい街に行く決心をした。
最後まで反対意見を示していたのはサーヤで、もうちょっと伯爵領で学ぼうと言ってたからだ。
アカネはメルキナの件があり、この領内から早く出たいと言っていた。
初級者にとっては優しい村や街でも、トラブルの種は必ずそこかしこに存在している。
だからこそ冒険者が必要であり、その報酬で俺達も暮らしていけるのだ。
「サーヤお姉ちゃん。僕ね、カジをしてみたい」
「家事……。お手伝いってこと?」
「サーヤ、多分だけど武器や防具関係の鍛冶だろ?」
「そ、そんなのファンタジー世界の常識じゃない。和ませる為の話術よ」
微妙に慌てているサーヤに説得力はない。
同行者として考えているのか、それとも検索しているのかサーヤは少し考えこんでいた。
「どちらにしても、いくつかの村や街を経由するよ」
「道中の安全は任せてください!」
「アカネちゃん、カッコイー!」
「それはみんなで確保しようか。ルートは任せても大丈夫か?」
「まっかせなさい!」
村の人への挨拶は済ませてある。
後は救護院のみんなに挨拶をして、朝一番で旅立つつもりだ。
折角作ったゴールポストとボールは、子供たちへの選別として残して行きたいと思う。
またここにやって来る頃、みんながバスケ好きになれたら良いなと思いつつ、俺達は順次ログアウトしていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
フェザー(冒険者):セットスキル(1枚目:戦闘用)
【槍技:弐】
【精霊魔法/風:壱】
【腕力強化:壱】
【根性:壱】
【アクロ走行:弐】
【一点突破:壱】
【警戒:壱】
フェザー(冒険者):セットスキル(2枚こ目:生産用)
【斧技:壱】
【腕力強化:壱】
【アクロ走行:弐】
【緑の鑑定:壱】
【伐採:壱】
【木工/見習い:壱】
ボーナススキル:【冒険者の心得】
必殺技(BSM):【強打】
車椅子:サーヤの【騎乗】カード
チェインポイント:11P
魔法
『風発生』
『風弾』
『座布団』




