055 一日の始まりに
出会いがあれば別れもある。
俺達は冒険者ギルドへ報告した後、ギルドマスターに再び旅立つことを伝えた。
ここは田舎にある長閑な村なので、冒険者の仕事は正直少ない。
今回は特殊な事例で、俺達が無事にミッションを達成したので、しばらく平和だろうと言われていた。
特殊個体である『サヌゲントン』を退治したことで、俺達のランクは無事に一段階上がった。
それに伴い収納も能力アップし、時間の流れがゆっくりになったらしい。
これについては検証してみないと分からないので、熱湯や氷を入れて調べるつもりだ。
多分恩恵は、食事が温かいまま食べられるかどうかだと思う。
「なあコジカ、泣くなら辞めても良いんだぞ」
「グスン……ングッ、ハァ……。い、行ぎまずぅぅ」
「オスカーさん、コジカをお願いします」
「あぁ、任せておけ」
「コジカちゃん、何かあったら学校で話を聴くよ」
「コジカさん、待ってますから」
冒険者ギルドの前には、馬車が停まっている。
その窓から顔を出しているコジカに、俺達は少しだけしんみりしていた。
「すぐ戻ってくるのに変なの!」
「こら、クスクスくん。こういうのは、情緒ってものが大切なの」
「うーん……、情緒ってなーに?」
「それは……。フェザーさん、クスクスくんのことをお願いね」
パーティー編成はそのままだけど、コジカが抜けてクスクスが加入した。
そして保護者を務めていたレイカが、早速クスクスのことを投げてきた。
どうやら冒険者ギルドからの紹介という位置付けらしい。
俺達は今回の報酬として、パーティーメンバー全員に新しく二枚目のジョブカードを貰えることになった。
これで瞬間的に、二つのジョブを入れ替えることが出来るようになった。
ただ戦闘が始まると変更は受け付けなくなるので、『近接・魔法・職人』等の職種の入れ替えは基本的に街中で行うことになる。
どこからどこまでが報酬に含まれるかは分からないけど、クスクスの事は迷惑料に含まれるのだろうか?
ゲーム内でクスクスには目的はなく、動画の使用許可だけ了承していた。
俺達はテストプレイでアルバイト料まで貰っているので、情報を還元するのは問題はなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
コジカを見送った俺達は、新しいジョブカードで何をするか考えていた。
事前の打ち合わせで、『次の街は、どこにしよう?』と話題を提起したところ、情報があまりないことに気が付いた。
この伯爵領は治安的には良い場所だけど、メルキナの件があったので……。
メルキナは無事に、先代の伯爵さまの屋敷に雇われる事が決まったので、それについては安心出来た。
あてもなく出掛けるつもりだったけど、折角二枚目のジョブカードを取得したんだし、コジカとの時間調整も取りやすい。
二・三日、村でゆっくりした後に出掛けるのも悪くないと思った。
「本当に、一人で大丈夫?」
「サーヤは心配性なんだよ。アカネとクスクスは、すぐに出掛けたぞ」
「二人は冒険者ギルドで特訓だよね? 私はレイカさんと、保存食作りだけど」
「サーヤは調理系を覚えるのか?」
俺の質問に、サーヤは一瞬だけ呆気に取られていた。
折角スキルが存在する世界で、このスキルが現実世界に持っていける経験値になるんだから、普通はそう考えるだろう。
大量の肉はゲット出来たし、この村には野菜もある。またレイカが育てているハーブ類もあるのだ。
ヘタな村や町に行ったら、今よりもひどい食事事情を考えなければならなかった。
モゴモゴ独り言を言っているサーヤは、どこかの世界にトリップしているのだろうか?
そんなサーヤに夕方までに戻ると伝えると、俺は開拓エリアを目指して車椅子を走らせた。
「おぉおぉ、よくぞ参加してくれた」
「お久しぶりです。今日は伐採の手伝いに来ました」
本格的に参加している人数は10名前後で、その他に手伝い要員がいる。
現地には斧・鉈・ノコギリ等があり、基本的には一本ずつ伐採していくので、とてつもなく時間がかかる。
今まで開拓した場所は掘り起こし、なるべく木の根や石などが混ざらないように運び出されていた。
今日は伐採できる本職さんはいないらしい。そこで一般人よりもスキルがある俺が名乗り出てみた。
早速事前にセットしておいた、二枚目のカードに切り替える。
槍を得物に使っているので、出来れば木工関係の技能を取りたいと思っていた。
前回の伐採の時は、色々と得る物があったと思う。
セットしたのは斧と植物関係で、特に【緑の鑑定】は【観察】と【樹木知識】と【樹木の目】をスキル合成したものだ。
「気を付けて作業してくだされ」
「はい、周りにも気を付けます」
ガタガタする地面を物ともせず、俺の車椅子は目的の樹の前に到着する。
途中で何人かが近寄ってきそうになったが、何故か立ち止まって様子を見ている感じだった。
この作業は途中までは出来るけど、実際倒す段階では手を借りないといけない。
かなり伐り辛い樹なので、みんな交代でやりながら早々に諦めるのが常のようだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
目標の対象物を前にして、その全長を改めて見渡す。
ところどころ樹皮が傷ついているのは、何人かがチャレンジした証拠だろうか?
考えてみればロープワークをメインに活躍していたグッドマンは、村の開拓に貢献していたと思う。
『何で俺にだけ?』と考えなくはないけど、サーヤが言うほど俺には強い怒りはなかった。
適度な位置に車椅子を調整し、きちんとブレーキをかける。
動かそうと思えばこの車椅子は動くし、止まっていて欲しいと思えば動くことはない。それでも、やるべき事はやるべきだ。
ギルマス――教官によく指導された腰は入らないけど、その分はいくつかのスキルで補完する。
見て・視て・診る。そこに向けて正確な軌道を想像し、力を入れ過ぎないように力を入れる。
スコォォォォン……。
「うん、良い音だ」
少ない可動領域の割には、きちんと刺さった斧。
そして斧がスッと抜けたのは、入射角が良い証拠だと思う。以前より、体に戻ってくる反響に違和感がない。
この爽快さは投げた瞬間に入ると分かる、3Pシュートのような感覚だった。
最近、戦闘中に実力以上の力を発揮することがある。
サーヤは「それがフェザーの力で合ってるよ」とは言ってたけれど、正直ピンとは来ていなかった。
それでもゲームの中で成長でき、それがみんなの力になれるなら嬉しいと思っている。
今日はみんなと離れて、自分一人で何が出来るか考えていた。
「なんだ、なんだ?」
「おっ、兄ちゃんスゲーな」
「坊主、ロープを持ってこいや」
「えっえっ? みなさん、どうしたんですか?」
いつの間にか集まったメンバーに、俺はあっという間に囲まれていた。
そしていくつか指示が飛んでいるが、作業の順番は良いのだろうか?
「この音を聴いたら、来ない訳にはいかないだろ」
「そうそう、開拓はチーム作業だ。でも、たまにヒーローが現れるからな」
「俺達はみんなでチームだ。脇役には脇役の役割があるんだぜ」
「なあ、兄ちゃん。もう一回やってみてくれよ」
嬉しい言葉の中に、少しだけ違う感情の種が生まれる。
その正体がしっかり分からなかった為、とりあえず斧を握りなおすと周りを見渡した。
一人の男性が声を掛けると、改めて俺の周囲に一定の空間が生まれる。
目標を見据え、静かに精神統一を図った。
現実世界では、『車椅子なのに頑張っているね』とよく言われる。
ここではそういう目で見られない為、俺は目の前の事に全力を出せた。
「行きます!」
それは、まるで予告ホームランをする選手のようだ。
そして少しだけ、3Pシュートを撃つ前の精神状態に似ていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
開拓の仕事が終わると、救護院へ戻ってくる。
何故かサーヤは外で待っていて、丁度アカネとクスクスが泥だらけで戻ってきた。
「ただいま」
「おかえり、フェザー」
「サーヤお姉ちゃん、ただいまー!」
「戻りました、サーヤさん」
夕方近くなので、食事をしながら今日の報告会になるだろう。その後はマッサージになると思う。
アカネとクスクスは早くから出たのに、冒険者ギルドから戻ってきた時間が同じくらいなのは感心した。
帰り道は泥だらけなのに、二人して仲良くじゃれていたから、あっという間に仲良くなったのだろう。
そんなクスクスもサーヤを見たら抱き着くんだから……、ここで騒ぐのも大人気ないか。
たまには、こんな一日も悪くはない。
みんなの話を聴きながら、次はどの街に行こうか相談することにしよう。
サーヤの自慢の料理に少しだけ戦々恐々としつつ、俺は夕食を楽しみにするのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
フェザー(冒険者):セットスキル(1枚目:戦闘用)
【槍技:弐】
【精霊魔法/風:壱】
【腕力強化:壱】
【根性:壱】
【アクロ走行:弐】
【一点突破:壱】
【警戒:壱】
フェザー(冒険者):セットスキル(2枚目:生産用)
【斧技:壱】
【腕力強化:壱】
【アクロ走行:弐】
【緑の鑑定:壱】
ボーナススキル:【冒険者の心得】
必殺技(BSM):【強打】
車椅子:サーヤの【騎乗】カード
チェインポイント:11P
魔法
『風発生』
『風弾』
『座布団』
今年最後のアップとなります。
一年間ありがとうございました。
新年のスタートがいつになるか分かりませんが、早い段階でアップ出来たら良いと思います。
正月三が日のアップ……難しそうです(笑)
また来年もお会い出来たら嬉しいです。




