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053 サーヤの気持ち④

早めに仕上がったので本日のアップです。

明日のアップはありません!

 ゲームを始めてから、何度目かの歩行訓練になるのかな?

 俊ちゃんはゲームの中で体を活性化させ、現実世界に戻ってマッサージをしながら同期を図っている。

 先生が言うには『体を動かすイメージはとても大事』らしく、良い意味で脳を錯覚させなければいけないみたい。

 ゲームでの運動は体へのリスクも少なく、良い方向に進んでいると聞いていた。


「こんにちは、沙也加ちゃん。今日もありがとうね」

「あっ、おばさま。俊ちゃんは頑張ってます」

「そうみたいね。早く良くなって欲しいけど、心の問題もあるから……」

「やっぱり、家では落ち込んでますか?」


 私の質問に俊ちゃんママは、何とも言えない笑顔を返してくる。

 一番ひどい時の落ち込みを見ていただけに、快方に向かっているとはいえ微妙みたい。

 二人で俊ちゃんを見ながら昔話をしていると、幼馴染でも知らない事は多いんだなと少しだけ嬉しくなる。

 つかまり立ちの感動を聞いても、今の俊ちゃんには話せないと思った。


「ねえねえ、沙也加ちゃん。あの子の、どこが良いの?」

「それは……、ノーコメントで!」

「えー、良いじゃない。今なら孫の面倒も見るわよ」

「まっ、孫とかっ……。ゴホッゴホッ、まだそんな関係じゃありません」

「ふ~ん……」


 窓ガラスを挟んだ向こう側では、俊ちゃんが半円形で車輪がついた補助機を使って一歩ずつ歩いている。

 少し前までは平行に並んだ補助棒を使って、ほぼ両腕の筋肉だけで浮きながら進んでいたのを思い出した。

 こんな所でスキルの記憶を使わなくてもと思ったけれど、先生が言うには前向きなら何でも良いみたい。

 私と俊ちゃんママは相性が良いけれど、距離感が近すぎるせいか娘認定むすめにんていを受けているのがちょっとだけ……。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 このゲームをサポートするのに、助言者メンターという制度がある。

 GM一人で全てを見るのは不可能で、AIを搭載したNPCの他に、ゲームを円滑に運営する為に設けらた制度だ。

 今回フェザーの同行者パートナーに選ばれた私だけど、多すぎず少なすぎない権限を貰っている。


 お家騒動に巻き込まれたメルキナを見た瞬間、メインシナリオは進まないと言っていたのに、NPCにも時間が流れている事に驚きつつも理解した。

 大きく影響を受けたのはアカネちゃんで、占いの結果を気にしたコジカちゃんまでもが同調してしまった。

『女難の相』・『幼女』と占いに出ていたので警戒したけど、多分俊ちゃんにはそういう趣味はないと思う。ねえ、ないよね!?

 コジカちゃんの占いは、多分恋愛系に特化してるんだと思う。私との占いでは、良いカードが多く出るからね。


「そういえば、沙也加ちゃん。ゲームの中は安全なの?」

「はい、その辺は心配ないです。小学生も参加しているくらいですから」


 ゲームの中の俊ちゃんは、かなり優遇されていると思う。

 最上ランクのスキルを得られただけではなく、風の精霊の加護も受けている。

 気付くか気付かないかは俊ちゃん次第だけど、水の精霊と私が仲介役になって魔法の特訓をすることになった。

 狼獣人は種族的に『風・氷・雷』の属性と相性が良く、中々気が付かない俊ちゃんに風の精霊がジレていたのは面白かった。


 ただ精霊との契約は、お互いに心を開く必要があった。

 いくら同行者パートナーだからといって、心の内までサポートをすることは出来ない。

 先生は『俊ちゃんは、心の中に闇を抱えている』と言っていたのを思い出す。

 精霊と契約するには『支配』・『友好』・『懇願』と、いくつかの立場を取ることが出来る。

 茫然と立ち尽くしている俊ちゃんは、風の精霊とどんな話をしているんだろう?


「あの子は、変な所で意地を張るから心配なのよ」

「責任感は強いですよね」

「フォローしてくれなくて良いのよ。あの事故だって……」

「犯人が『謝罪したい』って、言ってきてるんですよね」


 俊ちゃんママの言葉で、ゲームの記憶から突然現実に引き戻されていた。

 あの時は一発退場のファウルだったけど、事件が起きたのは試合終了間際だった。

 試合会場は静まり返り、ゲームの終了と共に大人たちが慌ただしく動いていた。

 興奮したパパがいきどおっていたけど、私は俊ちゃんに付き添うしかできなかった。


 保険・賠償の問題とは別に、このファウルの問題は事態を大きくさせた。

 監督の責任・本人の認識など、『ついやってしまった』では済ませられない問題だからだ。

 地方の小さな新聞にも記事が載り、当事者は無期出場停止処分になっているらしい。

 これは傷害事件で、相手は犯人だ。俊ちゃんが治る治らないは置いといて、罪を償ってほしい。


「沙也加ちゃんまで付き合わせちゃって……」

「勉強したいこともなかったから、大学はどちらでも良かったんです。あのままだったら、サポート系の学校に行ってたかも?」

「本っ当に良い子。もうちょっと、あの子にハッパ掛けないとダメかしら?」

「今でも頑張ってますから。私がついてますから」


 一歩ずつ歩く俊ちゃんは、とても頑張っている。

 あの時、うちの庭にあるバスケットゴールに投げたフォームは、今でも目に焼き付いている。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 俊ちゃんのリハビリは、急がせている訳ではないけど時間との勝負だ。

 やりすぎて動けなくなるようでは困るし、サボればサボった分だけ後に影響を与えるだろう。

 今は休憩時間のようで、リハビリ室で直座りして先生と談笑していた。

 この時間なら関係者も入って大丈夫だけど、俊ちゃんママが辞退したので私も一緒に待つことにした。


「あまり見てあげられなかったから……。選手で人気だったなんてね」

「俊ちゃんはスター選手なんですよ。その分、狙われることも多くて……」

「それはスポーツなんだから、仕方ないのも分かるわ」

「私も油断があったんです。もっと、出来ることがあったと……」


 バスケットボールは目まぐるしく動き、点を取りあうスポーツだ。

 パパの期待が男の子に向くのは、こういう危険性を危惧したからかもしれない。

 スポーツ選手の運動能力で言えば、男性の方が力を発揮するから見ごたえがある。

 俊ちゃんはチームプレーを大事にしつつも、緊急時の3Pシューターとして動ける、重要なポジションについていた。


「沙也加ちゃんのせいではないわ。狙われるポジションだったんでしょ」

「それはそうですけど……。『俊ちゃんなら何とかしてくれる』って甘えがあったんだと」

「それが本当なら、チームの問題じゃない? そして仲間を信じきれなかった、あの子の問題でもあるかな?」

「そういうものなんでしょうか?」


 目立つ立場のせいか、最近の俊ちゃんはとても運が悪い。

 あの事件の後はグッドマンに『ウロボロス』と、パーティーメンバーの一人なのに不思議と悪意を受けるポジションになっていた。

 アカネを目当てに盗賊のような冒険者にも襲われ、ブラフという爬虫類のような男にも目をつけられていた。

 ブラフは儀式をするように仲間をにえに捧げ、変身した姿は大きなトカゲみたいだった。


 コジカちゃんは意味深な言葉を残すし、倒した後も安心できないのは納得がいかなかった。

 それでも常々『火力が足りない』って言っていた俊ちゃんの活躍で、私達は無事に勝利を収めることが出来た。

 こっそりオスカーさんと話してみたところ、『重要なスキルが上がったんじゃないか?』という話で落ち着いた。

 アカネちゃんは強いし、コジカちゃんも新しい魔法を覚えている。私の水属性魔法は、運用面で問題が多かった。

 メルキナちゃんの護衛任務のラストは俊ちゃんと一緒に、車椅子で『真夜中のランデブー』を楽しんだのは良い思い出だった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「沙也加ちゃん? さーやーかちゃーん」

「あっ、ハイ!」

「飲み物でも買ってくるわ。何か欲しいものリクエストある?」


 俊ちゃんママが席を外すと、入れ替わるようにレイカさんがやってきた。

 外見は廃病院にも見える施設だけど、受付のレイカさんは比較的自由なポジションのようだ。

 リハビリルームは何名かが訓練出来る広い部屋で、ガラス張りなので外側から家族が見守れるつくりになっている。

 レイカさんが小さい子を連れていると、あの時のクスクスを思い出す。

 ただ詮索するのは良くないし、お互いゲームの内容については秘密保持契約を結んでいる。


 メルキナの護衛が無事に終わった後も、色々と考える事は多かった。

 アカネちゃんはメルキナちゃんの心配が募り過ぎているし、コジカちゃんは魔法の特訓の為に学校に通う事が決まっている。

 折角仲良くなったのに、また俊ちゃんと二人だけのパーティーになって……。

 ご、ごめんなさい。一瞬、心が惹かれたのは秘密にします。


『……』

「(な、何でここで水の精霊が出てくるのよ!)」


 幻影を見せるなんて、恐るべきVRMMO!

 女子高生の妄想力は、現実世界に存在しないものまで創り出せるの?

 やましさがないと思ったのは、私の間違いでした……。

 そう思った瞬間、水の精霊が空気に溶けていったような気がした。


 その後は一宿一飯の恩を返そうと、みんなでお肉を捕ろうとして一悶着あった。

 ギルドを巻き込んだ『ラヴェール村』の事件で、特殊個体の縄張り争いに巻き込まれてしまった。

 そこで出会ったのはクスクスくんで、NPC達も聞いていた以上の力を見せてくれた。

 みんなでアライアンスを組み、最後には勝利を収めることが出来たんだ。


「あっ……」

「あ~ぁ」


 俊ちゃんが転んだところで声が出てしまった。

 近くで見ている小さい子も、同じように声を上げていた。


 先生はしゃがみこんで、俊ちゃんを確認している。

 リハビリの内容は事前に私達も知らされているし、やる・やらないは本人次第だ。

 やる気がない状態では体に与える影響は悪く、心にも良い効果が現れてこない。

『病は気から』という言葉は好きじゃないけど、気の持ちようが『病』を克服するなら悪くない考え方だと思う。


「がんばれぇ、がんばれぇ」


 まるで私の心の中から、声が漏れてしまったかのように錯覚する。

 小さい子が応援してくれてるみたいで、レイカと目が合った瞬間、思わず僅かに頭を下げていた。

 あの子も病気なのかな? 見た目が普通でも、人が抱える問題は様々だと思う。

 不思議と俊ちゃんにはエールが届く。その応援が力になることを私は知っている。


 あの時の俊ちゃんは、天才だと言われていた。

 だけど、努力を重ねた結果が実ったんだと私は知っている。

 みんなは努力を見ようとはしない。そもそも努力を見る機会なんてないからね。

 今この一歩の歩みが明日の俊ちゃんに繋がるんだから、私も一緒に応援したいと思う。

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