052 特殊個体戦②
クスクスが『サヌゲントン』を引きつけるのに成功し、後はいかに早く討伐するかが鍵になっている。
鳴き声をあげた事で多くのメス豚たちに呆れられたので、再度ハーレムを形成するのは難しいだろう。
ただ、ここまで『お膳立て』が揃ったので、きちんと最後まで処理するのが得策だと思う。
アカネは後ろに下がる時、少しだけ悲しい顔をしていた。
いくら後衛の護衛という名目が出来たからといって、接近戦しか出来ないのは痛い。
そういう俺も遠距離攻撃が出来ないので、ここで踏ん張るしかなかった。
レイカがクスクスの回復を受け持ったので、サーヤは武器を弓に切り替えていた。
「ゼロは無理するなよ!」
「ウォン(はーい)」
「あはははははは」
「クスクスくん、少し落ち着きなさい」
そんな中クスクスだけは、『サヌゲントン』を完全にコントロール出来ているようだ。
ぶつかって下がった分だけ、高速ダッシュで元の位置に戻る。
『サヌゲントン』も盾で弾き飛ばされて、怒りに任せてクスクスに突撃する位置は元の場所だった。
結果として膠着状態を続けているが、その間にこちらの準備も着々と整っている。
牽制として、サーヤの矢が飛んで行った。
ギィンという短い音がした後、明後日の方向に矢が飛んで行ってしまう。
コジカの魔法はかなり警戒度が高いらしく、クスクスに当ててもマズいということで不発が続いていた。
そういう俺も近接攻撃での槍は弾かれ気味で、距離を取った場合には警戒心をあらわにされている。
「こっちは、そろそろ終わりそうだが……」
「フェザー、大丈夫かー?」
ウール達が心配そうに声を掛けてきた。
大抵のモンスターの敵対心は目の前の敵に向かうことが多く、『サヌゲントン』の悲鳴により呆れたメス豚たちも何かの拍子に戻るかもしれない。もし援軍を呼ばれたとしたら、この一分一秒の判断が命取りになるだろう。
「クスクス、大丈夫か?」
「うん! でも、飽きてきちゃったなぁ……」
「ブッフゥゥゥゥ」
「お兄ちゃんって、もしかして弱いの?」
「こらっ、クスクスくん!」
「だってー……」
クスクスの得物はレイピアで、細い刺突武器だ。
小人族が持つだけあって、敵を受け流すには弱弱しく、攻撃向きかと言うと正直心許ない。
その分守りに特化しているのか、アカネと違った安定感を出していた。
強すぎる敵と対峙し、残り時間はかなり少ない。正面突破が難しく、パーティープレイも望めない……なら?
見た目はぴょんぴょん跳ねているようにも見えるけど、クスクスにぶつかる黒い玉は同じくらいの体高だ。
『サヌゲントン』も、段々と勝てないまでも負けない事を理解してきたのだろう。
そうなったら体力勝負だ。明らかに、俺達に不足しているものだと思われる。
バスケの時には3Pシュートが俺の武器であり、高くボールを飛ばせたなら後はゴールポストに落とすだけだった。
「そうか!」
「何か思いついたの?」
「はい、レイカさん。クスクス、もうちょっとだけ続けてくれ」
「はーい! カメラさん、ばっちり撮ってね」
まだ余裕なのか、クスクスにはカメラの位置を気にする余裕があるみたいだ。
俺は『サヌゲントン』が警戒しすぎない距離で車椅子に力を溜め、その後はある魔法に集中した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ルーティン化しているクスクス対『サヌゲントン』の近くで、俺の進行方向上に『座布団』の魔法を設置する。
そして少しでもダメージが稼げるようにショートチャージを仕掛けると、『サヌゲントン』が回転しながらもあざ笑っているように見えた。
サーヤの矢よりかは強い攻撃なのに、俺の槍は近距離だと弾かれている。
だけど今回は違う、俺の予想が正しければ……。
走り出したタイミングで車椅子から、各所をベルトが覆っていく。
手首・足首・太もも・腰で車椅子と一体化しつつも、自由度がある締め付け具合だった。
少し進んだ所で暴れ馬のようにウィリーし、そろそろ『サヌゲントン』に接敵するところで『座布団』の魔法を踏み込んだ。
その瞬間、逆バンジーのように浮遊感に襲われる。だけど、これはイメージしていた通りだった。
教官との戦いで、意表をついた上空からの攻撃。
何故か【棒高跳び】というスキルまで解放してしまったけど、今まで工夫した一撃であれを超えるものはなかったと思う。
回転している『サヌゲントン』の一番の脅威は遠心力だ。
その遠心力の一番応力が少ない場所、それは……。
「ココだぁぁぁぁぁぁぁ!」
「うわぁ、お兄ちゃん!」
「プギィィィィィィ」
舐めるなとばかりに余所見するクスクスに、『サヌゲントン』は渾身の一撃でぶつかっていた。
その攻撃に態勢を崩されていたクスクスだけど、その表情はとてもワクワクしている少年のようだった。
まるで走馬灯を見ているかのようなスローモーションな思考から、俺は一気に現実に引き戻されていく。
【アクロ走行】の元になっているスキル、その中には【曲乗り】・【空中機動】・【突進】が含まれている。
最上部に到達した車椅子は緩いバク中をするようにクルリと回転し、そこで俺は槍に気持ちを乗せる。
狙うはほとんど回転していない、球状になった『サヌゲントン』の真上だ。
クスクスは態勢を崩しながらも指先の操作で、カメラを一斉にこちらに向けてきた。
俺は目標を見据え『サヌゲントン』の真上に向かって、車椅子の力を一気に解放した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
砂煙が舞っている。
今まで金属と金属がぶつかった音しかしなかったのに、感触は箸で切れる角煮のイメージだった。
スッと抵抗なく『サヌゲントン』に突き刺さった槍は、いつの間にか向かい合っている場面に戻っていた。
回転が止まっている『サヌゲントン』は、一回りも二回りも小さく見える。
《スキル【槍技】のレベルが上がりました》
《スキル【一点突破】を解放しました》
「ゼロ、GO!」
「『微光線』です」
「援護射撃よ!」
「あー、ダメー!」
もう一歩も動けないのか、コジカの魔法とサーヤの矢が直撃し、最後はゼロの大振りの爪で昇天していった。
最後にクスクスが叫んだ意味は分からなかったけど、無事に特殊個体の討伐に成功したようだ。
戦利品はきちんと貯蓄され、『サヌゲントン』の姿も消えていた。
みんなの無事を確認すると、やっぱりクスクスが無理をしていたようだ。
サーヤとレイカが魔法を併用して応急処置を施していると、タイミング良くウール達が戻ってくる。
「よし、撤収しよう」
「後は自浄作用に任せましょう」
「二乗サヨウ?」
「サーヤ、いいから行くぞ!」
「ちょっと、フェザーも分からないでしょ!」
「ゼロ、疲れていると思うけど案内を頼む」
「ウォン!(任せて)」
サーヤは車椅子のスロットルに【騎乗】カードを挿し、いつの間にか俺の後ろに乗り込んでしまった。
こうなってしまうと、俺には逃げることが出来なくなる。
「まだ作戦中だからな」
「はいはい、分かりました。今日はもう、無理しちゃダメだからね!」
「ねえねえ、あの二人って付き合ってるの? ワンちゃんとエルフなのに?」
「あのね、愛さえあれば年齢も性別も関係ないの」
「ね、年齢は少しは関係あります」
「コジカさん、何か言いました?」
ギギギとコジカの方を向くアカネを一瞬見てしまい、何か不穏なものを感じてしまったけれど、レイカがいるから大丈夫だろう。
帰りはゼロが先行し、ウールチームが周囲を警戒しつつ俺達が後に続く。
まだダンジョン内の喧騒は続いているが、争うべき相手のトップが倒れた事はいずれ知れ渡るだろう。
その時、残されたメス豚がどうなるかは俺達には関係ない。ハーレムなんて、作るもんじゃないと思う。
「ねえ……。俊ちゃんも、ハーレム作りたい?」
「そういうのは、どこかの主人公に任せるよ。俺は一人いれば良いかな?」
「ふ、ふーん。それで、相手はいるの?」
「そういうサーヤは、どうなんだよ」
「今は良いかな?」
「まあ俺達は、これが就職活動みたいなもんだからな」
「そうだよ! きちんと仕事して恋愛して……」
ふとサーヤが言葉を詰まらせたので後ろを振り向こうとすると、ガシッと両手で頭を固定されてしまった。
女性のか弱い手の筈が、ピクリとも動かないことに戦慄が走る。
「よそ見運転禁止!」
「スキルで動かしているの、知っているだろ?」
「だからってダメなの!」
「分かったよ……」
迂回しながらも、俺達は無事にダンジョンを抜ける事に成功した。
冒険者ギルドへの報告は後日で良く、簡易的な報告はウール達が受け持ってくれるらしい。
今日はとにかく濃い一日だったと思う。このまま先生のマッサージを受けたら、寝落ちしてしまうのは確実だろう。
パーティーを解散する時、クスクスはサーヤに抱き着いてすぐに離れた。
そして俺に「サーヤお姉ちゃんを賭けて勝負だ!」と言ってきたけど、すぐにレイカから頭をグリグリされていた。
「女性を物扱いして、賭けの対象にしてはダメ」と、助言者というよりかは年長者としての叱責だろう。
ただクスクスが最後に言った「お兄ちゃんは、僕のライバルにしてあげる」という言葉は、小さい子なりの背伸びなのか少しだけ微笑ましくなって笑ってしまうのだった。
年末に向けて、少しアップアップしています。
なるべく週一のペースは保ちたいと思いますので
気持ちだけでも応援してくれたら嬉しいです。




