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051 特殊個体戦①

年末まで週一本のペースになると思います。

増える場合は、予告なくアップしますので宜しくお願い致します。

 クスクスに集まっているメス豚たちは、次第に攻勢を強めていった。

 今までは単独撃破を狙っていた筈のメス豚たちはジレたのか、それとも屈服されに行ったのか複数での攻撃を始めていた。

 体の小さなクスクスは楽しそうに相手をしているが、体の面積に対して小さい盾は正直心許こころもとない。

 不思議なのは、クスクスの周りに浮いている半透明状の球体だ。サーヤが言うには、あれは半可視化されたカメラらしい。


 動き出した『サヌゲントン』は蛇行しながら近付きつつも、すぐにはクスクスに向かわなかった。

 そして多くのモンスターは目前の敵に夢中なのか、『サヌゲントン』に追随ついずいするモンスターはいないようだ。

 球状になっているローリングロックは、まるでビリヤードのブレイクショットのように各所を弾け飛んでいる。

 その中でも緑の布地ラシャを削るように、地面を抉りながら進む特殊個体は素行が悪く見えても仕方がなかった。


「ねえ、クスクスくんの助けに入る?」

「今なら、私もゼロも行けますが……」

「あ……あの黒豚、何か態度が悪いです」

「ゼロ、もうちょっと近付くようなら行ってくれ。俺達は作戦通り、黒豚を目標にするぞ」

「ウォン(任せて!)」


 作戦を一度決めたなら、途中で変更するのは問題だ。

 そういう俺も敵を引き付ける役目を申し出たけど、レイカとクスクスのやる気に負けたんだった。

 外見だけ少年なら問題ないんだけど、まんま小学生くらいだと見た目が苦しそうな感じだ。

 クスクスは十分引き付ける事が出来たのか、ウール達が動き始めた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ウール達は落ち着いて一匹ずつ剥がし、その間もクスクスは耐えている。

 倒すのにかなり時間が掛かっているようで、クスクスの苦労はそれ程変わってはいなかった。

 逆に空間があいたせいか、メス豚達は更に攻勢を強めていた。


「えーっと、展開おーぷん変形ふぉーむちぇんじ

「はぁ……、程ほどにね」


 クスクスの半身を保護するくらいの円形盾が、ふいに変形を開始する。

 中央部分を八角形に残しつつも、シャキーンと上下左右が分割して20cmくらい伸びた。

 細すぎる棒で固定されている為、盾としては劣化しているようにも見える。

 そもそも大きく隙間が空いてしまっているし、盾を使って受け流すのが難しいと思うので、かなり心配な状況になっていた。


「あっ、『サヌゲントン』が動き出した」

「はい! ゼロ、GO!」

「ウォン(はーい)」

「俺達も準備するぞ」


 クスクスを中心とした第三勢力の俺達は、上手く釣り出せた『サヌゲントン』をこちら側に持ってこなくてはならない。

 高速回転する黒豚は、ゼロがまともに飛び掛かっても弾かれてしまうだろう。

 それでも果敢に攻めたゼロは一定の位置で手を止め、轆轤ろくろを操るように爪で一周い傷跡をつけていた。


「ゼロ、バック!」

「ウォン(はーい)」


 直進の全力ダッシュで戻ってくるゼロは、とても狼には見えなく忠犬ぶりだ。

 真っ直ぐ来ればゼロを捉えられる筈なのに、S字を描きながら地面を削り取る『サヌゲントン』は、怒りを露わにしながらも嗜虐的しぎゃくてきに見える。

 アカネを中心にして、俺とゼロが左右を受け持つ。サーヤは杖を持ち、コジカは短剣を構えて魔法の詠唱を始めていた。

 素行が悪く見えても、さすが特殊個体。その実力は、通常個体を軽く凌駕りょうがするだろう。


 まるでボウリングのピンをなぎ倒すように、角度をつけてアカネに向かってきた『サヌゲントン』をアカネは両手を広げて迎え撃つ。

 どこかのサッカー漫画のゴールキーパーのように、がっしり掴みながらも後ずさりしている姿はとても申し訳なく思う。

 だけど、このタイミングが俺達には必要だった。勢いを削いでいるこの瞬間は、俺達に与えられた絶好のタイミングだ。

 俺は解放された車椅子の力を槍に乗せ、通常個体よりも一回りも二回りも大きい『サヌゲントン』に突撃した。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 高速回転している『サヌゲントン』を、アカネは革のグローブをしただけの手で止めようとしている。

 若干回転数が落ちているけど、上手く滑らせながら後退りしている為、早く助けなければいけなかった。


「いっけぇぇぇぇ」

「フゴゴゴゴ」


 俺の槍が高速回転している『サヌゲントン』とぶつかる。

 しかし、その回転のせいか、いつまでも皮膚には触れさせてくれなかった。

 瞬間、ギィィィィンっと音を立て、車椅子ごと右方向に流されてしまう。

 赤い効果エフェクトが見えたのは、『サヌゲントン』から血が飛び散ったせいだろうか?

『サヌゲントン』の回転は一旦止まり、すぐ後にゼロが噛み付こうと追撃するも、またすぐに回り始めてしまう。


「熱っ……」

「アカネちゃんに、ヒールミスト!」

「サーヤさん、ありがとうございます」

「アカネ、大丈夫か?」

「はい、フェザー先輩!」


 改めて俺達を敵とみなしたのか、『サヌゲントン』はアカネからゆっくり1mくらい距離を取っていた。

 一定の深さまで足場を掘り下げると、少しずつ蛇行を始める。

 サーヤの回復魔法は、ゼロにも届いていた。反撃効果というか、普通に攻撃しただけでダメージを負ったのだろう。

 俺は少し離れた所からタイヤを逆回転させて溜めに入り、球状になった『サヌゲントン』の中心部分に向かって攻撃を仕掛けた。


 止まっている玉ならば、そのまま押し出されるだけだと思う。

 動いている玉へ正確に槍の先端を叩きこむには、回転を上回るパワーで勝負するしかない。


「ウオォォォ」

「ピギィィィ」


 二回目の交差は、『サヌゲントン』が嫌がったイメージだ。

 だけど槍はきちんと当たり、赤い効果エフェクトが舞い上がる。

 俺の攻撃が終わって油断している所に、コジカの『微光線プチレーザー』が『サヌゲントン』に届いた。

 こっちは魔法なので反撃効果はなく、『サヌゲントン』の痛々しい悲鳴が聞こえてきた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


『サヌゲントン』の悲鳴で、あちら側の戦況に変化が起きたようだ。

 いつのまにか大きな盾を持っているクスクスに対する攻撃が止み、残ったのはウール達が戦っている個体のみとなっていた。


「あれぇ? もう終わり?」

「クスクスくん、あっちを手伝いましょう」

「こっちは?」

「ウールさん、大丈夫ですか?」

「はい、任せてください」


 こちらは弱気になっている『サヌゲントン』一体。

 心なしか回転数が落ちているようにも見えるけど、相変わらずの硬さを誇っている。

 アカネが引きつけつつも、その体ゆえか有効打を見いだせていない。ゼロとも相性が悪いようだ。

 戻っていったメス豚たちの動向が少し気になるが、クスクスとレイカはこちらに向かってきた。


「レイカさん、大丈夫でしたか?」

「えぇ、問題ないわ。こっちも大丈夫そうね」

「レイカお姉ちゃん、次はコレ?」


「クスクス、頼めるか? アカネとは相性が悪いみたいなんだ」

「うん! アカネお姉ちゃんは、僕が守る!」

「クスクスくん……。ハグしても良い? ギュって、ギューって」

「ゼロ、いざとなったら止めてくれよ」

「ウォッフ(出来たらね)」


 遠目で見た時と違い、盾は最初の大きさに戻っていた。

 見間違いかな? と思っていたら、クスクスはまた盾の形状を変えていた。


「次は僕の番だよ! 君は今日の晩御飯だ!」

「ブッフー!」


 いきなり来たにもかかわらず、クスクスは『サヌゲントン』の注意を引くことに成功したようだ。

 アカネはコジカに注意が向かないように、後衛組の護衛を担当してもらう。


 レイカはクスクスの近くに待機し、前衛の位置でヒーラーのポジションをするようだ。

 麦わら帽子のオーバーオール姿でクワを地面におとし、一見すると休憩しているだけにも見える。

 首から下げたタオルで汗を拭く姿は、のどかな農業スタイルにバッチリ合っていた。


『サヌゲントン』は怒りをあらわにしながら、俺とコジカを警戒しているようにも見える。

 それでも攻撃対象をクスクスに定めてしまうのは、盾職の強みが勝っているせいかもしれない。

 体高がアカネの腰くらいまであるということは、クスクスにとっては身長程の大きさになる。

 変形してスカスカになった盾では、『サヌゲントン』の猛攻もうこうは防ぎきれないと思っていた。


粘土細工くれいあーと

森の香りシトラスフレグランス


 クスクスの変形した盾の隙間を埋めるように茶色の光が集まり、大きな円形盾が完成していた。

 遠目で見たのはこの魔法の効果なのか、体当たりされたクスクスは笑いながら下がった分だけ弾き飛ばし、ダッシュで間合いを詰めていた。

 レイカが使った香水は風の魔法を併用したのか、クスクスと『サヌゲントン』の間を中心に滞留たいりゅうしている。

 淡い黄緑色の効果エフェクトで、新緑の爽やかな香りに包まれていた。


「これでしばらく、増援は来ない思う」

「えー、これで終わり? つまんなーい」


 多分クスクスにかかっていたフェロモンと、『サヌゲントン』から発せられるフェロモンを打ち消すものだと思う。

 レイカは助言者メンターというポジションなのに、かなりの手助けをしてくれていた。

 パーティーメンバーが増えた事により、特殊個体討伐に向けての準備は整ってきている。

 クスクスはがっかりした声とは裏腹に、半透明のカメラを操作しながら実況を始めていた。

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