049 作戦会議
今日はオスカーとメルキナが、使者と会う日になっている。
朝食の時に同席していたけど、メルキナは若干緊張しているものの明るい笑顔を見せていた。
この後俺達はギルドに向かい、助言者兼調香師のレイカとクスクス・ウール達と会うことになっている。
期限はないけれど、ダンジョンの特殊個体である黒豚を一匹排除し、正常化を目指すのが目的だ。
「頑張ってくれよ、みんな」
「オスカーさんも、宜しくお願いします」
俺は車椅子に座ったままそっと頭を下げると、サーヤ達も座ったまま頭を下げる。
現実とか仮想世界とかは関係ない。一人の少女の幸せを願い、その手助けに携われる事が出来たのだから。
俺達四人とゼロで冒険者ギルドに到着すると、早速面通しと打ち合わせになる。
ゼロはギルドの外で留守番だけど、アカネと意思疎通が出来るので問題はない。
ギルドの中に入ると、ウールとモール他初めて見るNPCが二人いて、何となくパーティーバランスがとれているように感じた。
モールが盾職でウールともう一人が前衛になり、残りのローブ姿の女性が回復役に入るのだろう。
「久しぶり、フェザー。今日は宜しくな」
「ウール、モール久しぶり。大変だと思うけど、協力して頑張ろう!」
「あぁ、そうだな。お互い良さそうな仲間に出会えたようだしな」
「あれ? レイカさんとクスクスさんは?」
「こらー、待ちなさーい」
「こ~こま~で、おいで~」
「貴方が遅刻したのが悪いのにぃ」
「だったら、間に合うように走れば良いじゃん!」
何やら外から、賑やかな声が近付いてきたようだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
全員が揃った所で、受付嬢が会議室を使うように申し出てくれた。
この打ち合わせには教官――ギルドマスターも参加するようで、自主性は尊重するけど無茶な作戦の場合は止められるらしい。
俺達が先頭を歩き、その後からウール達NPCチームとレイカ・クスクスがついてくる。
最初に自己紹介をしようと言うことになり、それが終わったらギルマスが来るようだ。
「最後はクスクスさんの番かな?」
「ほら、どうしたの? 私に隠れてないで出てきなさい」
一般的な冒険者に見えるウールチームと違い、俺達の外見はちょっと奇抜だ。
狼獣人なのに車椅子に乗っている俺に、パンクな青髪をしているアカネ。
薄紅色の髪で伊達メガネのコジカはオドオドしていて、そういう意味では銀髪エルフのサーヤは見た目だけは正統派かもしれない。
オーバーオールに麦わら帽子のレイカもいるので、一概に外見だけが重要ではないと思う。
そんなレイカの背中に隠れているのがクスクスだろう。
レイカの腰を持ちながら、そーっと顔を出してすぐ引っ込めていた。
「カワイイ~」と喜ぶコジカとアカネを余所に、俺は変な感想を持ってしまう。
おもいっきりお尻の位置に顔が――何故か俺を睨むサーヤ。
「小さな男の子ですね」
「耳がちょっと尖ってたかな?」
「あー、あれが小人族なんだ」
「へぇぇ、変わった種族を選んだな」
何気ない一言の筈なのに、全員の視線が俺に集中していた。
そういえば、この村では亜人族が少ないんだった。
「怖いなら辞めておく?」
「全然怖くないよ。ぼ、僕の名前はクスクス! 仲良くしてください」
「宜しく、クスクス。みんな拍手!」
思わず見た目に釣られて言ってしまい、みんなが応えて拍手をしてくれる。
金髪ではあるけれど、いかにも子供っぽい容姿に若干の違和感を覚えた。
「なあ、サーヤ。小人族って、俺達にも選択出来たよな?」
「うん、出来たよ」
「じゃあ、中身がおっさんって可能性もあるのかな?」
「それは可能性としては……」
「わぁぁ、大きいワンちゃんとエルフさんだぁ」
「安心して、フェザーさん。その子は見た目通りの年齢よ」
「レイカさんの知り合いですか?」
「うーん……というか、先生関係かな?」
レイカが先生と言うくらいだから、あの病院関係なんだろう。
普通に考えれば楠先生関係……ただリアルを詮索するのは、ネットゲームではタブーだ。
見た目通りの年齢でテストプレイヤーということは、小学校低学年くらいか?
金髪で耳がちょっとだけ尖っている小学生。アカネの目が、少し光った気がしたのは気のせいか?
俺は車椅子なので必要以上に近付いて来ず、代わりにクスクスはサーヤに抱き着いていた。
「なっ……」
「良いんですか? フェザーさん」
「何のことだ?」
「サーヤさんを捕まえてないと、どこかに行っちゃいますよ」
アカネのませた発言に、『元々、俺のものじゃないし』という呟きが零れていた。
それにしても、いくらエルフとして胸が……は置いといて、正面から素直に抱き着くなんて……。
若干チクリと疼く何かは、家族の違った側面を見てしまった為なのだろうか?
あまりに長いハグにレイカが片手を滑り込ませて、おでこにアイアンクロウをしていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
さすが助言者のレイカ。
痛覚設定はかなり低めに設定されている筈なのに、クスクスはおでこをまだ揉み解していた。
雑談の中で簡単に出来ることを話し、ギルドマスターの到着を待つ。
今回は同盟を組むので、二つのパーティーが一つの作戦を挑むことになる。
「待たせたな」
「いえ、大丈夫です」
「では今回の作戦の前に、情報のすり合わせを行います」
今回のダンジョンの異常は、豚の特殊が二体同時に存在した為の縄張り争いが拡大したもの。
両者ともハーレムを形成するので、お互い強さを誇る為ひくに引けなくなったらしい。
元からいた黒豚は『アゴゥ』という名前で、冷静沈着・勇猛果敢な王者タイプ。
後から発生したのが『サヌゲントン』という名前で、向こう見ず・鉄砲玉というチンピラタイプのようだ。
両方とも特殊個体で名前持ちなので、通常個体を基準に考えると痛い目を見るらしい。
今回の作戦は、まず片方の特殊個体を見つけ、通常個体を間引きながらボスを釣り処分する。
その役割分担としてクスクスが盾役で突っ込み、空間を作りながらウールパーティーが通常個体の処理を行う。
俺達パーティーは特殊個体を素早く倒し、完了したら即時撤退するようだ。
ちなみに通常個体の再登場は元のエリアで行われるので、どんどん倒して良いらしい。
「その作戦、クスクス君が危険すぎませんか?」
「わ、私もそう思います」
「クスクスの意見も聞こう」
「うーん……。大丈夫だと思うけど?」
「なあ、サーヤ。小人族って何が得意なんだっけ?」
「えーっとね、手先が器用で素早くてカワイイことかな?」
「最後のカワイイは、何か関係あるのか?」
「カワイイは正義だよ!」
サーヤのよく分からない理論は納得出来ないけど、とにかく盾役に向いてなさそうなイメージだ。
もしかして前線で敵を引きつけ、ひたすら避けまくるのだろうか?
一匹や二匹が相手なら、その手段も取れると思うけど――と思っていたら小さな円形の盾を取り出していた。
いや、体の割には大きな盾かもしれない。体の半身をカバー出来るのは、クスクスの体が小さいせいだ。
ギルマスは何事もないように、話を進めるように促してくる。
今回で全てを終わらせる必要はなく、下見に徹しても良いという事だろうか?
それにしても黒豚ハーレムに、場合によってはそのエリアの混乱したモンスターの相手をする可能性もある。
人数的には厳しいけれど、これ以上割ける人員はいないようだ。
「それで、雑魚の処理について補足です」
「何か案があるんですね!」
レイカからの案は、特殊な香料を使うと言う事だ。
具体的に言うとフェロモン関係らしく、それで敵の分断を図るようだ。
どれ程効果があるかは分からないけど、作戦が何もないまま突っ込むのは愚策だと思う。
お互いの実力でさえ、まだ未知数な状態なのだ。
「でも助言者が、そんなに動いて良いのですか?」
「うーん、本当はダメなんだけどね。今回は特別に許可を頂きました」
サーヤの心配は、同行者だから分かった事のようだ。
それぞれ役割と権限を持つ助言者は、行動範囲にも縛りがあるらしい。
そういう意味では戦線から離脱して敵を引きつけてくれた、オスカーの行動も理解が出来る。
その上で、今回は戦力が足りないという結論に至ったんだろう。
「それでレイカさんとクスクスは、どちらのチームに?」
「お姉ちゃんと一緒がいい!」
「コーラ。ごめんなさいね、サーヤさん」
「私は平気です。弟みたいでカワイイかな?」
若干モヤモヤしながらも、ここまでお膳立てされれば否が応でも心は奮い立たされる。
そして何故かというか何時ものごとく、パーティーリーダーより上のアライアンスリーダーの役割を仰せつかってしまった。
目を閉じているギルマスは、問題がないように大仰に頷いている。
報酬の一環として各種ポーションがあり、初級なら4本・中級なら2本・上級なら1本まで貰えるようだ。
ただ上級・中級とも数に限りがあるので、更に簡単な打ち合わせを行う。
リーダーとして一人の犠牲者を出すことなく、ダンジョンの正常化を図る。
それぞれの個性を尊重し一つのチームとして勝利をもぎ取る、負けられない戦いが始まろうとしていた。




