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048 クスクス【閑話】

次回は本編に戻ります。

 世の中には様々な才能を持った者がいる。

 それはその世界でしか分からないような限られた才能であっても、光り輝くようなオーラを放つことがある。

 特に一芸に秀でた家系に生まれた子は、別の分野でも才能を開花することがあった。

 スーパードクターにして全身科医ジェネラリスト、そして『不遇の名医』と名高い楠もまた、名家の一員として数えられるだろう。


 そんな啓介が育った家庭は、いたって普通の家だった。

 お手伝いさんがいる訳ではないし、トイレも普通に一つしかなかった。

 ただ祖父が重要なポストに就いていたので、教育については厳しかったと思う。

 長男として期待されている分、姉は自由奔放に行くと思いきや、弟への教育に意欲を燃やしていた。


 それから順調すぎる学生時代を経て、努力と忍耐の医師への道を進むことになる。

 年齢を重ね数々の栄光と挫折を経験し、啓介は大きく変わった環境で新しい道を模索もさくしていた。


 とある事情により、運動を制限されていたおいは動画に夢中だ。

 最初は動画界の有名人から始まり、歌・踊りを経て格闘技にのめり込んでいった。

 スポーツにキャンプ・アイドルなど、あまりに張り付いていたので姉によく注意される程にだ。

 それから室内でも出来る猫の動画を撮るようになり、そのうち編集までするようになった。


 これからいっぱい勉強や運動をして、楽しい生活を送って欲しいとみんなが願っている。

 まだ制限は解けていないので、その制限内でガス抜き出来る何かを姉から相談されていた。


「あぁ、良いよ」

「本当ですか? それと年齢制限については……」

「その辺はリアル設定・痛覚設定の緩和も出来るからね。丁度、テスターを探してたんだよ」

「じゃあ……」


 VRMMOへのテスターとして甥の参加は認められたけど、それには本人のやる気と姉の同意が必要だった。

 GMも一度会ってみたいということで、この廃墟みたいな病院で会おうということになった。

 それからはトントン拍子で進み、テスターとしての参加が決定した。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 病院の個室のベッドに腰掛けながら、甥はパジャマ姿で静かに説明を受けていた。

 これから始まるゲームは、ファンタジー好きな甥にピッタリだと思う。


「啓介おじさん、ありがとう!」

「いいかい? 決して無理・無茶はしないこと」

「そんなに脅さなくても大丈夫さ。それよりゲームの中と現実は、きちんと区別できるかな?」

「うん、大丈夫!」


「しばらくは、私の近くにいること。村には子供達がいるし、今まで出来なかった友達作りも試せるぞ」

「うわぁ……楽しみだな。GMのおじさん……」

「うん、お兄さんだよ」

「GMのお兄さん、ありがとう。僕ね、色々やりたい事があるんだ。ねえねえ、動画も撮っていい?」


 GMは細かなことでも、懇切丁寧に説明してくれる。

 それは姉の質問も一緒で、特に心配事項だった心身へのダメージは極小に抑えてあるので心配無用だ。

 通常モードの最大ダメージが、『タンスの角に足の小指をぶつけたくらい』で、今回は更に低年齢層向けに調整してあった。

 肉体的には健康体を維持出来るので、食事制限下での飲み食いも平気だし、運動制限下でも十分発散出来るくらいだ。


 段々と説明量が増えていき、覚えきれるか心配になったので、まずはやってみようと言う事になった。

 特別にキャラクターメイキングも、助言者メンターとして参加することが許可された。

 姉とGMが見守る中、甥と一緒にゲームの世界に旅立った。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 暗闇が支配する空間に、意識だけが存在する世界。

 巨像が光により浮かび上がると、宙空にいくつかの扉が現れ始める。


「啓介おじさん、どこ?」

「近くにいるよ」


 像から流れてくる情報は、キャラクターの知識として蓄積される。

 これから本格的なキャラクターメイキングに入るので、甥に飛び方を教え一緒に扉を潜った。

 扉通過すると、椅子に座ったアバターの原型が存在する。

 丸を繋げたようなモチモチボディに、これから情報を埋め込み分身の作成に入る。


「まずは名前からだね」

「うーん、本名はダメなんだよね」

「そうだね、個人情報……お母さんから、『知らない人にはついていってはダメ』って聞かなかったかい?」

「うん、知ってる!」


「本名を知っていると、知らない人ではなくなる可能性があるからね」

「難しいなぁ……」

「好きな物の名前でも良いし、好きなキャラクターでも良いよ」

「僕ね、パンダが好き!」


 聞き込みをする中で、楠家の苗字が気になったようだ。

 そしてパンダの愛くるしい名前で繰り返す表現をもちいて、クスクスという名前に決まった。

 意識だけの存在だと分かりにくいので、目の前にある人形に触るように話しベースを甥の姿に整える。

 それから希望通りの変更を行い、種族の利点などを説明すると、一通りの分身アバターが完成したようだ。


 一足先に扉の向こうで迎える体制を整える。

 甥――クスクスは、元気いっぱいに立ち幅跳びの要領で飛び込んできた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 基本的にこの世界では、見た目による優位・不利は関係ない。

 だから子供キャラでも、筋力がないとか身長が足りないといった現象は発生しない。

 でも、クスクスはそこに違和感を覚えたのか、自分の体格に近い小人族を選択していた。

 成人でも小学生くらいの身長である小人族は、クスクスの目線に馴染んだのかもしれない。


 うずうずしているクスクスに、噴水の周りを一周するように話す。

 ゆっくり歩いているつもりが、徐々にスキップからの駆け足になり、ゴール地点の私の場所に止まりきれなかったのは愛嬌だ。

 運動を制限されていたせいか、それとも新しい環境のせいか、クスクスのワクワクは止まらなかったようだ。


「一日の最後に、覚えたスキルは報告すること」

「はーい」

「帰る場所は救護院だよ。後でお手伝いも、お願いするからね」

「はーい」


 この日は終日・・村の中を駆け回り、【疾走】というスキルを覚えたようだ。

 次の日にはシスターマリアと調香師レイカを紹介し、併設されている孤児院で自己紹介を行った。

 すぐに小さな子達と仲良くなり、仕事を持たないプレイヤーとして、子供達のお兄さん的存在に上り詰めていた。

 小人族の特徴と言えば、特出するところで素早さがある。足の速い男の子はモテるのだ。


 徐々にVR世界にも慣れてきた頃、やはり戦闘系のスキルも気になったらしい。

 この頃になるとリアルでGMとも仲良くなり、戦い方の構想など相談するようになっていた。

 どちらかと言うとサポート色が強い私では相談相手にならないようで、同じ童心を持つGMと波長が合ったようだ。

 そして不壊道具を選択する際、何故か盾を選択していた。


「貴様らは等しく無能である」

「さーいえっさー」

「……意味は分かっているのか?」

「さーいえっさー」


 冒険者ギルドの初心者講習では、教官を相手に熱心に学んでいた。

 武器各種を素振すぶりし、『小人族特有の利点を生かせ』という言葉に耳も貸さず、徐々にプレイスタイルを確立させていた。

 一回参加すれば後は任意の講習も何故か通いつめ、その真剣さを買われて教官のお気に入りのポジションも手に入れていた。

 特別に魔法の指導も受け、代わりに村の手伝いに駆り出されていた。


 どこで何をするにも真剣なクスクスはすぐに人気になり、天性の明るさで村に溶け込むことになった。

 今まで気を遣われる事が多く、『ありがとう』と言う事はあっても言われる事は少なかったから新鮮だったようだ。

 たまに助言者メンター達が連れ出す為、この世界でもすぐに馴染むことが出来たらしい。

 ただ残念なのは、この村は基本的に危険が少ないことだった。


「ねーねー、いつ狩りに連れてってくれるの?」

「クスクスに問題はないんだけど、やっぱり仲間が必要なんだよ」

「じゃあ、お友達集めて行って良い?」

「孤児院の子はダメだよ。そうだなぁ……、レイカくんにお願いしてみるかい?」

「やったー!」


 テストプレイヤーは各地に散らばっており、この村でスタートするプレイヤーは、基本的にサポートが必要なメンバーが多い。

 デリケートな問題なので、パーティーを組ませて良いかどうか考える必要もあった。

 助言者メンターとしては、適当な期間サポートしたら手放さなくてはいけない。

 それがプレイヤーの為でもあるし、ひいては会社の為でもあるからだ。

 今は医療従事者としての立場だけど、関連企業各種はGFC(Grand Finale Corporation)と運命共同体だった。


 NPCの成長も著しいけど、死んだら終わりな存在と、死の概念を理解しきれないだろうクスクス。

 一緒にパーティーを組ませる訳にはいかないのだ。

 教官――ギルドマスターからは『過保護すぎる』とお叱りの言葉を受けている。

 これは身内なので、仕方がない事だと理解して欲しい。少なくとも、姉夫婦に申し訳が立たないからだ。


「そろそろ、フラストレーションが溜まってるんじゃないかな?」

「GMもそう思いますか?」

「ほら、丁度良いタイミングだと思わないかい? フェザーくんをぶつけて、化学反応を見てみたら?」

「病院内ではすれ違ってはいますが、基本的にこの病院で患者同士の交流はないですからね」

「そういう意味じゃなくて。ラヴェール村は困ってるんでしょ?」


 本当にGMは、ピンポイントでよく見ている。

 上級職のテストプレイヤーの方が派手な動きを魅せているのに、何故かGMはフェザーくんに夢中だ。

 確かにこの世界でただ一人のアンリミテッドランクのスキル持ちだ。

 ただ移動に特化しステータスにボーナスがあるくらいで、現状はプラスマイナスで言えば一般プレイヤーとそう変わりはない。


「仲良きことは良い事かな?」

「私は動けませんが……」

「もう一人、美人受付嬢がいるでしょ?」

「戦闘の根幹として、参加させても良いのですか?」

「あの村での君達は頑張ってるからね。ご褒美だよ!」


 厄介ごとの解決としてフェザーくん達が帰還し、ダンジョンの正常化としてギルドを通して依頼をする。

 これから旅立つであろうクスクスは、今後は親類という立場から離れることになる。

 そのままパーティーの一員になれるか、自ら仲間を募り旅立つのかは分からない。

 ただ、このままの環境で燻るより、一度本格的な戦闘の経験をさせてあげるのも、叔父の務めかもしれないと感じていた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 クスクス:小人族


 セットスキル

【剣技:壱】

【疾走:壱】

【脚力強化:壱】

【盾:弐】

【絶叫:壱】

【戦闘姿勢/重戦士:壱】

【古代語魔法(私塾仮入学/魔法:土):壱】

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「スーパードクター」という単語自体が既に面白いw
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