047 謝肉祭
「お疲れさま、アカネ・ゼロ」
「ねえ、今何が起こったの?」
「フェザー先輩、私も知りたいです」
「そういえば、随分あっさり倒れたよな?」
倒されたイノシシは消え、『ビックタスクのヒレ肉』×2・『ビックタスクのロース肉』×4・『ビックタスクのもも肉』×4とブロック状の肉が竹の皮みたいなものに包まれて、紐で結ばれている状態でゲットした。
『ビックタスクの皮』・『ビックタスクの牙』もドロップしたので、何か製作系で使えるかもしれない。
いくら盾役が勢いを殺したとは言え、前回あの巨躯に槍は刺さりにくかったと記憶している。
新しい槍の性能か、それともスキルが体に馴染んできたのか?
周りがどんどん強くなってきていたので、正直少し焦りは感じていた。
何より前衛が弱いというのは罪だ。適度なバランスが保たれてこそ、パーティーとしてのレベルが上がると思う。
「フェザー先輩が構えているのは分かったのですが」
「うんうん。構えから動き出す瞬間、バビューンって……。バビューンって」
「何で二度言ったんだ?」
「大事な事だから、二度言・い・ま・し・た」
「フェザーさん、この魔法どうしましょう?」
コジカは目の前に『微光線』の魔法を溜め、堪えきれずに上空へ放っていた。
ゼロはアカネの前に行き、褒められるのを待っている。
「良く分からないけど、後で確認はするよ。今は肉を集めようか?」
「うーん。まっ、いっか?」
「じゃあ、ゼロに探らせますね。ゼロ、GO!」
「ウォン!(はーい)」
「わ、私の出番も作ってくださいね」
コジカは最初に聞いていた話より、好戦的になっていると思う。
臆病だった性格も、多少は改善してきたのかもしれない。
サーヤと一緒なのが、良い方向に進んでいると思う。
俺達は時間が許す限り、イノシシエリアでお土産を量産することにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ゼロの索敵能力と俺の謎のパワーアップのせいか、狩りは順調すぎるくらい順調に進んだ。
アカネが多少受け損ねても、サーヤが水属性魔法で回復をしてくれる。
コジカの魔法がアカネを掠めても同様だ。そういう意味では、アカネは大変なポジションを担っている。
俺達の中で、誰かが盾役のポジションを賄えれば……。今は、ないもの強請りでしかない。
時間を確認し、『早めに切り上げよう』と皆に呼び掛ける。出来れば、不用品は売却して分配しておきたい。
「それで、皮や牙が欲しい人いるか?」
「牙はゼロがいるから大丈夫です」
「私はローブで十分なので」
「サーヤは……、エルフに牙は似合わないよな」
ふとエルフの銀髪から、角が二本出ている姿を想像して笑ってしまった。
まあ誰がつけても似合わないのは仕方がないけど、ついついサーヤに当て嵌めてしまうのは悪い癖かもしれない。
「フェザー……、ちょいちょい失礼よね」
「サーヤも、よくからかうじゃないか」
「出ました痴話喧嘩」
「アカネさん、違いますよ。夫婦喧嘩です!」
「「誰が夫婦だ(よ)」」
「先輩、サーヤさん。そろそろ帰りましょうか?」
「そうだね。コジカちゃんも、変な事言わないの」
「はーい。その代わり……」
「分かった、分かったから」
何が分かったのか、サーヤ達は横一列になって歩き出す。
先頭にゼロがいるので、上手く敵を避けて先導してくれるだろう。
俺達は十分に注意しながら、この『スピードダンジョン』から冒険者ギルドへ帰還した。
ちなみに出入口は変わらずに、地獄絵図だったことを報告したいと思う。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「あれ? レイカさん」
「みんな待ってたわ」
「ギルドマスターがお待ちです。みなさん、別室にお願い出来ますか?」
受付嬢に案内された部屋に入ると、何故か教官がいた。
思わずレイカを見ると、静かに頷いている。
「よくぞ無事に帰還したな」
「はい、ただいま戻りました。サー!」
「フッ……、覚えていたか。それなら、ダンジョンの中の話を聞かせてくれないか?」
執務机に座っている教官――ギルマスは、応接セットに座る俺達に問いかけてくる。
『ダンジョンは危険だ』と受付嬢が説明したのだから、その後に起きた状況を説明すれば大丈夫だろう。
出入口の惨状を説明すると、ギルマスは沈痛そうな表情をし眼を伏せていた。
再び来た受付嬢がお茶を配膳してくれ、レイカが来た理由を説明してくれた。
救護院はその名の通り、医者の代わりのようなことをしてくれる。
シスターマリアだけでなく先生も名医なので、冒険者ギルドと密接な関係を築いているようだ。
レイカも例外ではなく調香師兼助言者で、ハーブだけでなく薬草も育てているらしい。
併設されている孤児院の子供達に手伝ってもらい、そこそこ大きな畑を管理していた。
「特殊個体の討伐ですか……」
「出来そうか?」
「俺達四人では、正直無理です。特殊個体に2~30匹の豚がいて、それが2グループですよね」
「あぁ、そうだ。下手に雑魚を狩れば、特殊個体が増える可能性もある」
「フェザー、どうしても無理かな?」
「特殊個体だけを釣れたとしても、別のグループが襲ってくるだろ?」
「私とゼロも、一体だけなら抑え込めると思いますが……」
「ウール達に協力してもらっても難しいだろうな。せめて雑魚に対して、時間を稼げる盾がいたら……」
俺の呟きに近い最後の言葉に、レイカは「そうねー」と指を顎に添えて考えている。
ちなみにシスターマリアや先生は、回復職として動けるけれど現場に連れ出す事は出来ない。
「マスター、あの子はどうかしら?」
「もしかして、クスクスのことか?」
「そうそう。プレイヤーで盾職なんだから、急ごしらえでも頑張って欲しいなって」
「それはレイカが、助言者として動くということだな?」
「少しぐらいの介入は大丈夫でしょ?」
助言者には、それぞれ役割があるのは前から説明を受けている。
この村で一緒に冒険した先生は、あれからリハビリ関係以外会っていない。
この村限定のチュートリアル的な存在で、それは調香師レイカも同様だった。
そして新しいプレイヤー候補で、この村から始めるクスクスは特別な事情があるのだろう。
ギルマスの許可を取るからには、それなりの事前準備は整っていると考えて良いと思う。
「では、豚の特殊個体討伐に協力してくれるか?」
「出来る限りの準備はするわ」
「俊ちゃん!」
「分かったよ! それと……まぁ、良いか。分かりました、依頼として引き受けます」
「じゃあ、明日の朝集合ね」
「あっ、明日は……」
「アカネちゃん、何か予定でも……。あぁ、メルキナちゃんか」
「うん。オスカーさんが責任持つって言ってたけど、同席したかったなって」
多分、メルキナの件が終われば、この村を旅立つことになる。
関わってしまった以上、最後まで見届けたい気持ちは俺もあった。
でも俺達の任務は、既に終わっている。
それはアカネも、きちんと理解しているはずだ。
「その件は私も関与している。ただ冒険者として、そのように引き摺られるのは如何なものか?」
「教官?」
「アカネよ。貴様にはまだ、足りないものがある。依頼が終わったら、講習を受けるのだ」
「えっ……。私、勉強は……」
「あ、アカネさんは、冒険者として十分強いですよ!」
「ほう。それならば、この依頼を完遂してみせよ。それと貴様も、講習が必要なような?」
「マスター、その話は後程。女の子相手なんですから、手加減はしてあげて下さいね」
「レイカさん、それって受講は確定……なんですか?」
「なかなかないわよ、こんな機会。実力者なんだから、『ギルマスが解決したら?』とも思うんだけどね」
レイカの皮肉に、ギルマスは咳払いで返す。
確かにあれだけ強いなら、この村くらいギルマスの力で解決できることも多い筈だ。
でも、そんなことを言ったら、冒険者家業が成り立たない。
俺も、もう一度受けたいと思うような? でも、あんな苦しい戦いはしたくないような?
明日の朝には、ウールチームとクスクスが来てくれる手配を取ってもらった。
怪我人が量産されて、食肉の供給が途絶えている今、俺達に出来ることを頑張ろうと思う。
この後、多くの戦利品をギルドに売却し、残った食材はレイカに渡すことにした。
宿泊費も食費もタダにしてもらっているし、俺達に出来ることはこれくらいしかない。
「先生が待っているわよ」
「俺達、今日も頑張ったよな」
「うんうん。働いた後は、食事が楽しみだよね!」
「共働きって大変そうだね」
「帰ってご飯がある生活、感謝しなければいけないと痛感しました」
「ウォン(ごっはん♪)」
明日は大人数での討伐戦になる。
少しの心配と多くの期待を込めて、食後のマッサージの時にする先生への報告を楽しみにしていた。




