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FLY HIGH アゲイン! ~VRMMO車椅子ランデヴー~  作者: 織田 涼一
1章 翼の折れた主人公(本編はここから)
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002 キャラクターメイキング

 事前に説明された話では、残された体は睡眠状態になるらしい。

 ただ、これが睡眠の代わりになることはなく、その調整をするのが佐久間というプログラマーの仕事のようだ。

 体内時計はきちんと働くようで、空腹や生理現象も普通に発生する。

 近付く気配まで反応出来るらしく、違和感を覚える状況になると現実に戻れるようだ。


 『Spinning a Dream Online』、通称SDOすどーは『夢を紡ぐ』ことを目標としていて、多様性を主軸に置いた大規模多人数同時参加型エムエムオンラインオーRPGだ。

 メインストーリーはあるようだけど、そこに至る道は多岐に渡る。

 SDOでは『勇者』になっても『パン屋』になっても良いようで、RPGの世界の住人として第二の人生を送れるらしい。

 詳しくはダイブした先で確認すれば間に合うようで、今回は特別に案内人がつくらしい。

『百聞は一見に如かず』、ゲームの世界に飛び込むことにした。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 その空間は、光が届かない暗闇の中だった。

 自分の体が存在しているかどうかも分からず、上下左右の感覚もよく分からない。

 でも不思議と恐怖感はなく、視線を上空に向けると一つ二つと星のきらめきを感じることが出来た。

 その光に反射するように、ある一点に大きな関心を抱く。


「巨大な……石像?」


 まるで寺社仏閣にある像のように、巨大で神秘的な女性像が胸の前で手をクロスさせ、眠っているように目を瞑っていた。

 ぼんやり輝き始める石像から、脳内に多くの情報と基本設定が流れてくる。

 ここで出来る事は、キャラクターの作成みたいだ。

 それをするには、無数に飛び回っている扉のどれかに入らないといけないらしい。


 一つの扉に意識を集中する。

 俺自身も光を発している事に気付き、上昇する意識が扉に近付くと、自動ドアのように扉が開かれた。

 その時、三つの光が一斉に、三箇所の扉に吸い込まれていった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 扉を潜った先には、椅子に座る人形のようなものがあった。

 多くの白いお団子が、人型のパーツ状にくっついている。

 もうちょっと潰せばミシュ〇ンやマシュ〇〇マン、昔の漫画で言えばコピー〇ボットが近いと思う。

 これが俺の分身として動くアバターになるようだ。情報は、先ほど脳内にインストールされている。


「セミオートで良いかな?」


 人形の肩に、右手を添えるように意識を乗せる。

 今の俺には実体がないけど、こうして肩に手を乗せれば現実世界の俺の姿が現れる。

 ゲームとはいえ操作性をVRに求めるならば、現実と大きな差をつけると上手く反映されないと聞いていた。

 椅子に座る俺をグルっと一周見回して、先ほどあった説明について考えてみる。


「一からのやり直しは何度でも出来て、キャラクターの外見でステータスに差は出ない……か」


 まず選べる種族として、人間・エルフ・ハーフエルフ・ドワーフ・獣人族・小人族とある。

 精霊魔法に長けたエルフ・物作りと膂力に優れたドワーフ・元になる動物の能力が使える獣人族・素早さと見た目が可愛い小人族。

 人間は良くも悪くも器用貧乏で、やや魔法よりなのがハーフエルフと紹介があった。

 これから選ぶアバターやキャラクター作りは、ある程度方向性をもってやった方が良い。


「足が何とかなる可能性か……」


 種族を選択し、付随する項目を考える。

 髪を伸ばすならブラシを使い、切るならハサミを使う。カラーパレットを使ってブラシで髪を梳けば、髪色が変化する。

 目の色はカラコンを選ぶように手元から選び、肌の色や顔の変化は引き上げたり下ろしたりするだけで変更できる。

 むにーと引っ張った頬から手を離すと、ポヨンと戻って様々な変化を与えていた。


 最後に謎のシステムに触れてみる。

 目の前に表示される円は、現在正三角形を形成している。

 それぞれの頂点には『戦闘・魔法・生産』の項目があり、中央には中心点のようなものが記されていた。

 最初の円の初期値は3で、全部で9ポイントを振り分けられるようだ。最低値は1で、1:1:7にすることも出来る。


「とりあえず、戦闘職でも目指すか……」


 その頂点から更に円が三つ表示されている。

『攻撃・防御・特殊』『魔攻・回復・支援』『製作・販売・その他』とあるが、割り振ったポイントを9個の項目から選択することが出来る。

 それとは別に『チェインポイント』というものがあるようだ。今回はベータテストなので、戦闘5(攻撃4・防御1)・魔法3(支援3)・生産1(製作1)に割り振り、追加のポイントは謎の中央の点につぎ込んでみた。

 最後に名前を決めると、確認の画面が現れる。それに『了承オーケー』と押すと、四つの円が回転しながら一つの円になった。


 意識がアバターの中に潜り込み、手をにぎにぎして反応具合を確かめる。

 椅子の前には突如現れた扉があり、そこを潜れば新しいゲームの始まりだった。

 恐る恐る足に力を入れてみる。取っ手に手を掛け、ひねりながら開くと期待に胸がいっぱいの第一歩目が……。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 扉を潜った先は噴水広場があり……、目の前がドンドン地面に近付いていく。

 倒れる直前に、抱きかかえられたのが分かった。

 さっきまで一緒にいたリハビリの先生で、名前はくすのき啓介けいすけだ。

 チュートリアルを手伝ってくれるのは、リハビリの先生らしい。ある意味ストッパーになってくれると思う。


「先生、ありがとうございます」

「いやいや、これで分かった事が一つある。だけどこっちの世界では、まず楽しむことを優先しよう」

「はい。あ、俺の名前はフェザーです」

「なるほど、なるほど。私のことは……、ドクターKと呼んでくれたまえ」


「それ、大丈夫なんですか?」

「あー、佐久間に怒られるかもな。助言者メンターだから、固定の名前はないんだが……。まあ、先生でも何でも」

「わかりました。それにしても、あいつはまだですか?」

「女の子は、オシャレに時間が掛かるからね。あぁ、こういうことは直接言っちゃダメだよ」


 噴水の近くのベンチで座りながら、沙也加のことを待つ。

 その間に先生クスノキの姿と、今の俺の姿を確かめる。先生クスノキ――白衣姿で顔形特に変更なし……終了。

 まだ俺自身も何が出来るってことは分からないけれど、それにしても適当すぎるだろうと思った。

 方向性で言えばヒーラーなのだろうか? どこまで手伝ってくれるか分からない人を、アテにするのは良くないと思う。


 俺の恰好はヒザ下まである丈で、ダボっとカーキ色のズボンを履いている。

 フード付きの濃緑パーカーを羽織り、胸元ははだけているけど獣人族としては珍しくない。

 ベースになったのは白狼はくろうで、若干口元が前に出ている。耳はヘニャリとしているけれど、やる気がない訳ではない。

 白い髪に白い耳だと不自然なので、耳は茶系にしておいた。

 尻尾は完全に再現されており、胸元からお腹にかけては薄い体毛に覆われていた。


 全体的に10%の獣人率であり、恩恵はほぼないに等しいようだ。

 多少、嗅覚と聴覚が鋭くなっているような感じはするけれど、それもきっと誤差の範囲だと思う。

 聴覚検査の時にヘッドホンをして、二種類の音を聞き分けているような状態で、静かだから聞き取れているというような状況だ。

 髪の毛が少しモフっているのは、なんとなく落ち着かなかった。


「梶塚さんが来るまでにやる事があるよ。まず、フェザーくんの足が治ってないことは理解してるよね」

「はい、問題なく歩けると思いましたが……」

「うん、私もそう思っていたよ。でも、そうなったのには理由がある。だから、その原因も含めて治療したいと思う」

「俺は、どうなるんですか?」

「とりあえず、現実世界と同様に車椅子に乗って貰おうと思うんだけど……」


 先生クスノキは空を見上げながら、何かを待つ仕草をしている。

 時間にして数秒。だけど、俺にとっては長い時間だった。

 なんとなく、『ゲームの世界まで、俺を拒絶するのか』という気持ちが溢れだしてくる。

 キャラメイクから当然予想していたのに、現実を見せつけられたような気がしていた。


「へぇ……。フェザーくんは、良い加護を貰ったようだね」

「加護……ですか?」

「そう、これを見てみて」

「ただのナイフに見えますが……」


「この世界では、スキル制を導入してるんだ。基本的には7つのスキルをセットして、それによってジョブに就く」

「はい……」

「梶塚さんが来たらもう一度説明するから。それで、このナイフは【解体:壱】というスキルが付与されているんだ」

「初期装備なんですか?」


 俺の質問に、先生クスノキはゆっくりと首を横に振る

 これは武器として使うには最弱で、例えば【必殺技】や【武器スキル】を使ったとしても最低ダメージが出るらしい。

 その値は最高でも1ダメージであり、場合によってはダメージが通らない事もあるようだ。

 計算式もあるようだけど、もちろんテスターの俺達には知る術はなかった。


 このゲームは、正確には初期に設定した円とスキルとジョブによって総合的な成長と強さが決まるようで、佐久間というプログラマーが繊細にして綿密なキャラクターのバランスを組んでいるらしい。

 それとは別に、円の中心にあった点に数値を振れること。それが加護に結びついているようだ。

 通常何も振らないと、このナイフのような『お役立ちアイテム』が一個取得できるだけらしい。


「じゃあ、具現化について説明するよ」

「はい、お願いします」


 先生クスノキの言う通りに、欲しい技能を頭に浮かべながら車椅子を創造する。

 今回は特別に用意しても良かったらしいけど、その特典は別の形で授かることになった。

 目の前に生まれた木製の車椅子。それは腕の力で動かすこともでき、足のステップにはブレーキ機能もついている。

 その他にスロットルがあるらしく、ここに【騎乗:壱】カードを挿入すると自動でも動かせるようだ。

 今回の特典はスロットルらしい。詳しい説明は、沙也加が来てからするようだ。


「ん? 梶原さんが来たかな?」

「同時に入ったのに、結構時間に差がありますよね」


 ほほ笑んだ先生は、静かに唇に人差し指をあてた。

 それから介助をしてもらって車椅子に座り、沙也加の到着を待った。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 絵師のMiNiさま(@minisan323323)に作っていただいた画像です。


挿絵(By みてみん)


 主人公『フェザー』くんのイメージ画像となります。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 予想したよりも大幅にキャラがファンシーw
[一言] 応援してます!
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