046 御礼のお肉
翌朝、早くに集まった俺達は朝食を摂り、お弁当を作って貰って出掛けることにした。
後ろ髪をひかれるような感じだったアカネもきちんと決心し、オスカーが待機することで納得したようだ。
最初に死に戻り対策として噴水で登録し、冒険者ギルドに挨拶に行った。
「長閑で良い村ですね」
「先輩たちは、ここがスタート地点だったんですね。いいなー」
「ほら、うちはフェザーと一緒だったから」
「俺は治療もあったからな」
水の街『ウェールデン』のギルドと比べると、かなり閑散としているのが目立つ。
ただ冒険という意味では仕事が少なくても、開拓村としてはやることが多かった。
冒険者ギルドの中に入ると、みんなは掲示板の方へ向かう。
俺は念のため、この村で異変が起きていないか情報収集をすることにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「おかえりなさい、フェザーさん」
「一時帰還となります。また出掛けると思いますが、挨拶に来ました」
「もう、すっかり冒険者ですね」
「ありがとうございます。あれ以来、この村で何かおかしな事はありましたか?」
俺達が旅立ってから、それ程時間は経っていない。
グッドマンが何を仕掛けたのかは分からないけど、直接的な被害は出ていなかった筈だ。
ただ時間経過と共に異変が起きていないか、確認する必要があると思った。
ギルドの受付嬢の話では、村はいつも通り平和な日常のようだ。
言い方が気になったので、少し突っ込んで聞いてみた。
前置きとして受付嬢が言うには、ウールとモールが順調に仲間を増やしダンジョンで頑張っているらしい。
NPCにしては急成長しているようで、ウサギを安定して狩れるようになり、今では豚まで狩れるようだ。
そこで問題が起きてしまった。
「豚の特殊個体が湧いてしまったのです」
「それって珍しい事なんですか? 黒いのなら俺達も見ましたが」
「えぇ、普段なら良いのです。特に臆病なモンスターなので、相手の方から逃げてくれますので。ただ……」
「ただ?」
あの豚がいるエリアは長閑で、どこか放牧を想像させる場所だった。
草を食み水場で遊ぶ豚たちはドロップこそ良いものの、モンスターということを忘れさせてしまう。
ところがウール達が豚を狩った事で、特殊個体が湧いてしまったようだ。
以前オスカーが『特殊個体が湧くのは確率の問題で、湧くときは湧くし湧かない時は湧かない』と言っていた。
この豚、逃げ足は速いんだけど、黒豚を中心にハーレムを形成しているのが習性だった。
逃げる時は球状になり、まるでビリヤードの玉状態で各所に散らばっていく。
そしていざという時時間を稼ぐのが黒豚の役目で、外敵と戦う時は逃げるのに雄同士だと……。
受付嬢の説明から想像するに、ビリヤード台の中で二人が20個の玉を使い、ナインボールをしているようだった。
「あのエリアは現在、危険区域としてお知らせしています」
「それって豚を狩る事も、間引く事も出来ないって事ですか?」
「しばらくすれば、特殊個体同士が縄張りを決めるか、決着をつけると思うのですが……」
「何時になるかは分からないですね」
戦闘に巻き込まれた冒険者もいたようで、ウール達は軽傷で済んだようだ。
色々終わったのか、サーヤ達がやってきた。
「フェザー、豚はダメみたい」
「ウサギはウサギで喜ばれたよな?」
「うん。ただ豚のドロップ品は、高価で喜ばれるんだよねぇ」
「そうなるとイノシシかな」
旅立つ前にチャレンジして、惨敗したのに見逃してもらったイノシシもいる。
あの頃の俺達とは、強さも人数も違うと思う。
ところが『あのダンジョンのイノシシは、かなり強いので危険です』と受付嬢が口を挟んできた。
俺達は悩みながらギルドを後にし、とりあえずダンジョンに向かう事にした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
手続きを終えて、拍手と共にダンジョンの階段を下りていく。
人とは違う移動手段ってだけで、拍手が貰えるのは何と言ったら良いものか……。
アカネもコジカもすっかり慣れたようで、俺を追い越していくゼロを止めるのに必死なくらいだ。
俺の隣には当たり前のようにサーヤがいる。不思議と落ち着くのは、喋っていないからかもしれない。
「ん? どうしたの?」
「あぁ、いや。何でもない」
見慣れているはずの沙也加の顔がサーヤになると、その違和感にドキリとする。
階段が終わると短い通路があり、その先には長閑な……。
「ウサギが飛び跳ねてますね」
「長い髪の毛がカワイイです」
「あー、アレな」
「あの毛が合わさって、ドリルになるから気を付けてね」
ゆっくりとウサギでも狩ろうと思っていたら、ギュルルルルという音と共にウサギが逃げ回っている姿が見えてしまった。
多分豚同士の縄張り争いから雄同士の戦いへと移り、引くに引けなくなった〇クザの闘争と化してしまったと思う。
それが通称『スピードダンジョン』の特性と合わさり、地獄絵図の鳥獣戯画な状態へと変遷していったようだ。
まるでブレイクショットされた玉が四方八方へと広がっている状態が続き、安全地帯なはずのこの場所まで影響を及ぼしそうだ。
「これ、ウサギエリアも無理じゃない?」
「弓矢で釣れれば良いけどなぁ」
「フェザー先輩達は、ここで乱獲したんですよね?」
「そうだな……。でも今日のここでは、戦果の期待は出来ないか」
「端っこを歩いて移動する?」
「ゼロに先導させますよ」
「な、なるべく大人しそうなのが良いです」
「もう、コジカちゃんは怖がりなんだから」
いくら初級者用ダンジョンだからと言って、ひとたび潜れば命の危険はどうしても付き纏ってくる。
NPCとは違って死に戻り出来る俺達は、命の危険について軽視しがちだ。
出来ればコジカの送別会も兼ねているので、楽しく美味しい狩りで終わりたいと思っている。
学校にどのくらい通うかはコジカ次第だ。その情報は沙也加が自然と収集するだろう。
ピンクの玉の射線を考えて、俺達はイノシシエリアに移動することにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
基本的にこのダンジョンは、見た目が大人しい動物で溢れている。
ただモンスター同士の縄張りがあるようで、豚にとってウサギは下位にあたるからか侵しても良いエリアだったようだ。
その証拠にイノシシエリアでは、豚の被害や痕跡は0に等しかった。
ファンタジー作品で見る肉のほとんどはイノシシだと思う。確かイノシシから牙を取って、品種j改良したのが豚だったような?
「まだ倒した事がないけど、ここに決めようか?」
「そう言えば、あの時の怪我は大丈夫?」
「あー、そうだ。サーヤは回復魔法に注意な」
「あっ、あの時はまだ……魔法に慣れてなかっただけだし」
「その話聞きたいです。せ・ん・ぱ・い」
「わ、私も興味があります!」
「戦闘で負けた話なんて参考にならないぞ」
「そ、その話は今度ね」
サーヤが慌てるなんて珍しい。
ただ一度戦闘エリアに入ったならば、適度な緊張感は必要だと思う。
その意識が一番高いのがゼロで、周囲の警戒を怠ってはいない。
早く狩りに行きたいみたいなので、索敵をお願いするとすぐに一匹見つかった。
ウサギエリアより少し傾斜があり樹々が増えてきたエリアで、そのイノシシは木の実を食べていたようだ。
エリアによって棲み分けがされていると、食物連鎖とか気になる。
ダンジョンの生態系とかはよく分からないけど、他の物語やゲームより現実に近付けていると思う。
サーヤが弓を構え、イノシシの後ろからゼロが追い立て、俺達の戦いは始まった。
サーヤの前に割り込んだアカネは、突進するイノシシを静かに見据えていた。
あの凶悪な牙や突進も、不壊アイテムであるこの車椅子だから受け止めきれたと思う。
乗っていた俺は怪我を負って、サーヤの魔法に頼ることになったけどな。
どんな敵にも恐れることなく立ち向かうアカネは、本当に凄いと思う。
「牙に気を付けてくれ」
「はい! フェザー先輩」
ガシッっと牙を掴んだアカネは、ズザザザザっと砂煙を上げながら後退していた。
背後のサーヤをちゃんと避けてるあたり、アカネの盾職としての力量を感じさせる。
ただ圧倒的な質量とスピードを殺し切れないのは、仕方がないと思った。
コジカは詠唱しているけど、サーヤの二射目やゼロよりも先に俺の攻撃が早そうな気がする。
アカネから離れて360度近くをグルリと旋回し、行くぞと気持ちを込めた瞬間車椅子がそれに応えた。
イノシシの正面は埋まっているし、狙うなら当たりやすそうな脇腹だ。
若干スピードを殺しているアカネを解放すべく、旋回からのチャージを試みる。
最近、俺の戦力不足を感じ始めていたけど今は戦闘中だ。集中して、今出せる最大のダメージを叩きだすだけだ。
「行っけぇぇぇぇぇ!」
「ブギィィィィィ」
イノシシとの接敵の瞬間、まるで抵抗を感じさせない衝撃の後に、槍の解放感が不意に訪れた。
もしかしてこれは、突き抜けたのだろうか? 遅れて血がドバッと反対側に噴出した。
「俊ちゃん?」
「おっりゃぁぁぁ」
「バウッ(トドメ!)」
スルリと抜けた槍の後、アカネがイノシシの巨躯を倒しにかかる。
その首筋にゼロが噛み付くと、呆気ないくらいにイノシシはドロップ品に変わっていた。
お読みいただき有難うございます。
週二本を目標としておりますが、体調を考慮した上現在一本/週ペースとなっております。
たくさん書けた時には予告なくアップしますので、宜しくお願い致します。




