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043 ウロボロス

次回更新は水曜日を目安に行いたいと思います。

応援のほど、宜しくお願いいたします。

 事件が起きたのは二日目の夜だった。

 日が沈む間際に野営の準備を始め、今日も危険はないと一安心した所でゼロが一吠えした。

 やってきたのは馬車で、暗黙の了解として一定の間隔を開けて停めていた。

 メルキナは麦わら帽子を目深まぶかに被り直し、交渉相手としてオスカーが立ち上がった。


 暗闇の中から一人の男性が歩いてくる。

 俺は手元に槍を準備し、サーヤは両手杖スタッフを出していた。


「私の名はブラフです、夜分に申し訳ない。一応、挨拶だけでもとね」

「これは丁寧に。私の名はオスカー、こちらは護衛任務さ」


 ブラフは長身のオールバック、衣服は暗めのものなのか闇に紛れやすい。

 何より切れ長の目は、蛇を思わせる程鋭かった。俺達が誰一人声を上げなかったのは、奇跡に近いと思う。

 この男が言うには、あちらは4人グループで荷物の輸送任務のようだ。

 形式的にはここで握手をする筈だけど、あくまで形骸化されたものなので、なくても不思議ではなかった。


 ブラフの視線は、ジットリというかネットリとしたものだった。

 俺とサーヤの武器を見ても反応せず、どちらかというと見下している感じがした。

 一般的に俺は、負傷兵と言われる存在らしい。車椅子に座っている分、戦力と見做されていないと思う。

 エルフを脅威きょういとみるかどうかで、このパーティーの戦力は計れると思った。


「行ったな」

「こちらをジッと観察してましたね」

「嫌な目だった……」

「あれが今回の黒幕かも?」


 あまりにそのまんまなコジカの意見に、納得せざるをえない。俺達はこれからの相談をする。

 あちらのチームは四人と言っていたけど、目に見える範囲にいたのはその通りだった。

 馬車の中に人がいた場合、ざっと8~10人が予想される。

 問答無用で襲い掛からないあたり、寝静まった時間を狙うのだろうか?


 暗闇のせいか一定間隔を開けている為なのか、ブラフ達が何をしているのは遠目なので分からなかった。

 このまま野営を続けるなら、その隙に逃げるのも手だ。

 問題はその時点で先方が、『何かおかしい』とアクションを始めた場合だ。

 メルキナだけを連れて、車椅子で振り切る案も出たけれど、サーヤ達がターゲットになったら目も当てられない。


「結局、様子を見るという選択肢しかないんですね」

「夜盗クラスなら、君たちが負ける要素はないと思うけど?」

「何か可能性があるから、護衛任務な訳ですしね」

「ここで叩き潰しておけば、後顧の憂いは断てますよ!」


 コジカは既にやる気になっているけど、相手から攻撃してこない事には専守防衛は成り立たない。

 いきなり攻撃するのは問題外だし、今から罠を用意するには都合の悪い時間だ。

 警戒を怠らずに、相手の出方を窺うしかない。

 今日の野営はオスカーも名乗りをあげてくれ、食事の後は念入りに武器の整備を行った。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 メルキナは馬車の中で眠りにつき、言いつけ通りきちんと・・・・内側から鍵をかけている。

 そろそろ交代で眠りにつこうとした時だった。しびれを切らしたのか、暗闇の向こうから人の気配がしてきた。


「チマチマした策なんていらねぇんだよ」

「チッ、仕方ない。今日は俺達しかいないようだから、手短に済ませろよ」


 まだ寝静まるようじゃない時間なのに、油断しきった感じでブラフと男性が大人数を引き連れていた。

 馬車の出入り口にはゼロが待機しており、俺達はその近くで火を囲んでいる。


「あっ、あの時の三人組」

「ギルドでは世話になったな。街から離れるのを、ずっと待ってたよ」

「なーんだ、雑魚じゃん。後は人数だけだね」

「油断するなよ。8対6で、こちらが不利なんだから……さっ!」


風弾ウィンドボール』を手近な男の顔面に投げつけ、サーヤが「あっ」と声を上げた。

 これはあくまで魔法であって、ボールを使った反則行為じゃないんだからいちいち・・・・反応しないで欲しい。

 魔法的にはダメージはない筈だけど、ある意味物理攻撃に近いのでご愁傷様って感じだ。

 アカネは素早く盗賊風冒険者の親玉に向かっていき、振り下ろされた短剣を見切って一瞬で地面に組み伏せて腕を折っていた。


「ハァ……、これでは交渉どころではないね」

「そちらから仕掛けておいて、それは通じないな」

「私は止めたのですよ。ただ雇った冒険者に運がなかっただけで」

「風貌を見たなら、チェンジするべきだったな」


 あの時の三人組もそうだけど、いかにも盗賊風な冒険者をこれだけ集めてよく言う。

 そして交渉なら、こんな大人数は必要ないはずだ。


「一応、交渉内容を聞いとくよ」

「ほう、それは物分かりが良い。君たちは小さな女の子を連れていたね。その子の祖父からの依頼だよ」

「連れて行くと言うのか?」

「あぁ、そちらの護衛任務が未達になるだろうから、達成扱い分とペナルティー分を支払おう」


「俺は、この女を赦さね……ギャァ」

「お粗末だな……。それは後日にして欲しいものだが」

「こちらの女の子の名前も言わずにか?」

「私達も下請けの立場でね。迷惑料も弾むが、どうだい?」


 交渉している風を装っているけど、ブラフの周りの男達は武器を仕舞おうとしていない。

 剣に斧に鉈、革鎧も素肌にベストなんて、いかにもな盗賊スタイルだ。

 いつまでも一人に構ってられないアカネは立ち上がり、解放された盗賊の親玉らしき男は後方に引き摺られていた。

 答えを待たずにジリジリとにじり寄ってくる盗賊たち。その足元目掛けてゼロが噛み付き、乱戦はスタートした。


 コジカの『微光線プチレーザー』が発射される。

 箸くらいの太さの一条の光が、ブラフの頬を抉るように放たれると、首をひねってダメージを逃がしているように見えた。

 サーヤの『水噴射ジェットウォーター』も勢いを増し、二人の冒険者をくぎ付けにしている。

 俺は新しい槍の性能を確かめるべく槍で応戦する。ただ座ったままの姿勢の近距離なので、攻撃力は期待出来ない。


「ウォォォォ!」

「オスカーさん、かっこいい!」

「ウォン(やれやれだぜ)」


 無双しているのはオスカーとゼロで、俺達は主に脚止め部隊だ。

 暗闇の中、焚火の明かりだけが頼りで、オスカーの剣技が一際異彩を放っていた。


 オスカーの話によれば冒険者は、自衛の為に人を殺めても罪にはならないらしい。

 街中だと事情聴取などが必要になるけど、外では生き残った者が勝者のようだ。

『死人に口なし』とはよく言ったもので、後は事後処理などモラルによる所が大きいらしい。


「交渉はどうした?」

「私は交渉を継続していますよ。冒険者達が勝手に暴走しているだけで」

「それなら、終わるまで待ってるんだな」

「でもねー、私も自衛が必要でして」


 ブラフは頬から伝う血を親指で拭い、軽く微笑んでから指で舐める。

 団体の依頼主としてなら、一緒に討伐されても仕方がないはずだ。

 だけどこの余裕はなんだろう? まるで冒険者たちの死を望んでいるようでもあった。

 盗賊たちは、ほぼ制圧されているけど全員無事だ。死んではいない。

 倒れていくごとに、嫌な予感が増していっているのが不思議だ。


「みんな、少し距離を取ってくれ」

「……分かった」

「はい、フェザー先輩」

「ウォン!(了解!)」


「おやおや、注意深い冒険者は嫌いではありませんが……」

「交渉は決裂だ。依頼主にそう報告するんだな」

「仕方ありませんね。交渉は・・・決裂したと報告しましょう。ですが……」

「なっ、何をする」


 ブラフは長剣を抜き放ち、倒れている冒険者の一人に逆手で突き刺した。

 それは急所への一撃で、冒険者が一瞬で事切れたのが分かった。

 突然の行動に俺達は動けなくなる。まるで『蛇に睨まれた蛙』になった気分だ。

 剣にべっとりついた血に、舌を這わせて愉悦にひたるブラフ。

 俺は寒気と共に、みんなへ注意喚起を行った。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 まだ起きている冒険者が、ブラフに詰め寄る。


「ブラフさんよ、……お前何をした!」

「使えない道具を処分しただけですよ」

「何を言ってる……ゴフッ」

「次は使える道具として、生まれ変わってくださいね」


 俺は状況を見守りつつサーヤ達の背を叩き、一人ずつ正気に戻していく。

 その間に一人ずつ屠っていくブラフ。敵が減っていく分、こちらが有利になるはずだけど……。


「フェザー、何か怖い……」

「ただの剣士なら問題はないが……」

「オスカーさん、何か心当たりが?」

「あれは、何かの儀式かもしれない」


 一人殺すごとに、その血を取り込んでいるように見える。

 その瞬間、切れ長の目が金色こんじきに光り、瞳孔・舌が爬虫類のように……。


「まさか、獣人なのか?」

「もしかして爬虫人?」

「リザードマンって種族もいるけど、多分獣憑・・きに近そうだね」

「簡単には終わらせてくれないか」


 ブラフの顔が段々と角質化し、爬虫類のように多面体を形成していく。

 それはトカゲのようでもあり蛇のようでもあった。シューシューと、息遣いさえ怪しく感じる。


「我ら『ウロボロス』は、世界の内外を監視する」

「もしかして、『運命の輪ホイールオブホーチューン』?」


 コジカのつぶやきと、『ウロボロス』というキーワードを心に刻む。

 ブラフは最後の一人を串刺しにし、まるで剣を呷り飲むように自身に向けて最後の一滴を飲み込んだ。

 その瞬間、ブラフの体が光り輝きだした。

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