042 護衛ミッション
水の街『ウェールデン』を旅立つ朝、俺達は分院の前で馬車の近くに集まっていた。
昨日のうちに出来る準備は終わっており、セットスキルも今日のに合わせてある。
荷物の積み込みは既に済んでいて、メルキナは大きな麦わら帽子を被って馬車の中にいる。
グロッサリアも見送りに出てきて、手短に挨拶は済ませていた。
少しでも情報を分散する為、用意された馬車は二台になる。
もう一組の冒険者はダミーで、別ルートを走るようだ。
「何もなければ、何もないよ」
「随分、信用出来ない言葉ですね」
「メルキナは私が守る!」
「じゃ……、じゃあ。私が犯人を捜します!」
お姉さんポジションを得たパーティー最年少のアカネと、自分の占いを信じているコジカ。
周囲の警戒は俺とゼロの担当で、サーヤも馬車での移動を予定していた。
通常馬車の移動でも、護衛がいる場合は歩調を合わせることになる。
ただ基本的に冒険者は肉体労働者が多いので、速足くらいのスピードになるらしい。
一台目の馬車が出発する。少し時間を置いて、オスカーが馬車を走らせた。
いつの間にかゼロはいなくなっており、俺は少し遅れて車椅子を進める。
早朝と言っても俺達が出るのは、一般とは違う出入口だ。
そもそも強盗目的と誘拐目的では、狙う馬車が違うらしい。
だけど要人の出入りは何かと噂になるようで、オスカーによる事前の情報収集がかなり役に立っていた。
早朝でも働く人々はそこそこいる。そして冒険者も、その中に含まれていた。
果たして平和な伯爵領で継嗣もいる中、メルキナを攫う敵がいるのか気になる所だ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
順調にウェールデンを出た俺は、少し遅れて馬車を追っている。
ゼロは先行して異常がないか確認し、俺は後ろからの敵を警戒していた。
馬車の進みはやっぱり遅く、あまり速く走らせると馬にも馬車もダメージが出るらしい。
地味で頑丈な馬車。安心と信頼の『馬場ファーム』は、無理・無茶な注文も引き受けてくれる。
御者台に座れば、車椅子に乗っている必要はない。
だけどコジカの心配を考えると、楽観視は出来なかった。
「うぉん!(遅かったね、兄弟)」
「そっちは大丈夫だった?」
「うぉん!(遊び足りないよ)」
「良く分からないけど、緊急の危険はないんだね」
オスカー達馬車班は、街道から少し外れたところで休憩をしている。
お昼休みに丁度良かったので、オスカーは包んでもらったハードタイプのサンドイッチを出していた。
「サーヤ、行儀悪いぞ」
「お尻が……、割れそうなんだもん」
「気持ち……、わかります」
「アカネは平気なのか?」
「なんとか……」
そこそこなグレードの馬車は、内装もしっかりしている。
クッションもきちんと完備されており、考えられる対策はされていてコレだ。
メルキナはアカネの隣で大人しくしている。この世界の住人が我慢強いのか、それともメルキナが特別なのか……。
シチュエーションさえ違えば、ピクニックのようにも見える。
その後も、俺達の警戒態勢は変わらない。
オスカーの隣の御者席は何人か入れ替わっていたけど、夕方まで異変には遭遇しなかった。
逆に言えば、ここからが本番だ。三日間の旅程で、一番気を遣うのが野営になる。
三日の距離にあると言う事は、大体同じような場所で休憩を取ることが多い。
「ゼロ、ここで異常がないか確認しててくれ」
「うぉん(了解だ、兄弟)」
途中で馬車を追い抜いた俺はゼロと合流し、初日の野営場所に異常がないか確認していた。
俺が持つスキルの『警戒』は、多分第六感に近いと思う。
ゼロの話によると、この近くに狼はいないらしい。また、モンスターなどの気配もないようだ。
オスカーの言う通り、何もなければ何もない方が良い。俺は馬車班を迎えに、今来た道を戻っていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「アカネちゃん、大活躍だね」
「ゼロも偉い!」
「そうだね、メルキナちゃん」
夕方近く、無事に野営場所に着いた俺達は、ゼロが集めた薪を使って夕食の準備をしていた。
ゼロがいる為、ウェールデンの外で寝泊まりしていたアカネは、野営の技術を身に着けていた。
木の板の凹んだ所にモグサのような物を置き、木の棒を回転させてグルっと回す方式の着火方法のようだ。
アカネが言うには、「この方法は様式美なんだって。火打石とか、よく使われるらしいよ」だそうだ。
オスカーの補足によると生産系のスキルは顕著で、オートとマニュアルが存在するのはそのせいらしい。
アカネが次々と野菜を切り、コジカが小麦粉をバターで焦がさないように炒め牛乳で伸ばしていた。
初日くらいは豪華にしようと、オスカーが色々と準備をしたようだ。
パン篭にスライスしたパンを盛り付けるのは、メルキナが受け持った。
「俺とゼロは、見張りの仕事があるもんな」
「うぉん(そうだな、兄弟)」
「本当に良いのかい?」
「明日眠くなったら、馬車に行きますので」
コトコトと煮込まれた鶏と野菜に、コジカ特製のホワイトソースが注がれる。
ビーフシチューも悪くはないけど、火を囲んで食べるには何故かホワイトシチューが胸に沁みる。
お昼にも食べたけど、この世界のパンはハードタイプが多い。
食べなれてない筈なのに、何故かスープ系に合うのがこのタイプのパンだ。
「ゼロ、美味しい?」
「うぉん!(ご主人様、美味しい!)」
「いっぱい食べてね」
「きゃー、メルキナちゃん良い子」
木製の深皿に頭ごと突っ込むゼロに、メルキナはそっと頭を撫でた。
ガフガフとがっついているように見えるけど、アカネの声にはきちんと反応している。
タマネギとかも入ってたと思うけど……、アカネは止めようとしないしゼロも美味しそうに食べていた。
火を囲んで食べる食事はとても美味しく、メルキナは少しだけ夜更かししていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
俺が前半に見張り番を担当し、後半はゼロが担当してくれるようだ。
その分担のはずが、アカネが後半の見張りを申し出てきた。
ゼロ一人では火の番は難しい為、順当な組み合わせだと思う。
サーヤとコジカは魔法使いなので、オスカーはきちんと休むように指導していた。
パチっと爆ぜる音に、俺は少し離れた所から、収納から出した小枝を折って投げる。
膝には毛布が掛かっているし、深夜の寒さも気にする程でもなかった。
右肘の所には、真新しい槍が立てかけられている。
怪しい気配もない中、火の爆ぜる音に魅入られて時間を……。
「お邪魔しまーす」
「ハァ……、サーヤか」
「何、そのため息!」
「騒ぐなよ。みんな寝てんだぞ」
小さな声で「はーい」と言う銀髪エルフは、深夜マジックも合わさってキレイに……。
いやいやいや……、これに騙されてはいけない。ゲレンデマジックと同じようなエルフ補正だと思う。
普通の生活を送っているだけなら、エルフになる機会はないだろう。
木箱に座ったサーヤは、俺に何か聞きたそうな顔をしていた。
「どうしたんだ? サーヤ」
「フェザーは、どう思う?」
サーヤの髪が一瞬だけ、ふわっと風に煽られる。
室内や太陽光の明かりとは違い、明暗がくっきりした中で目を細めて小首を傾げる銀髪エルフ。
この演出は……どこかに『風の精霊』が隠れているのだろうか? そういえば『水の精霊』も見当たらない。
「う……、っほん! そうだな……、一言で言えばコジカの思い過ごしだろう」
「その心は?」
「確か沙也加は、占いには楽しみ方があるって言ってたよな?」
「うん……。良い事は信じて、悪い事は注意するの。決して信じすぎないこと」
「占いの結果について、『何パーセント信じられる?』って言うのは野暮だよな?」
「そうだね。タロットカードは100%当たるって言われているけど」
「本当かぁ?」
「カードが本当のことを言ってても、占い師の『読む』技量によって解釈が変わるんだよ。だから間違うこともあるの」
占いは最先端の科学とも言われていて、人相学・統計学など幅広い分野が関わっているらしい。
今回コジカが出したカードは『月』だ。これから満ちるか欠けるか分からない、不安定さを表しているらしい。
隠れた人物……、それはメルキナにとってなのか? それとも、この旅についてなのか?
うちの庭でたまにやるBBQの後のように、サーヤの目はトロンとしていた。
「眠いなら寝てこいよ」
「もう、分かってない! 大体、プレイヤーに睡眠は必要ないんだよ」
「でも、疲労回復とか利点はあるんだろ?」
「それは、そうだけど……」
やけに近い位置で、火を見つめている俺とサーヤ。
車椅子に座っているので、俺から近寄った訳じゃない。
でも、この距離感は嫌いじゃなかった。
それからゼロが合図を送るまで、何もない時間をサーヤと過ごしていた。
アカネがやって来てサーヤに驚いていたけど、「フーン」と言いながら火の近くで座り込んでいた。
次回更新は土日のどちらかを予定しております。
宜しくお願い致します。




