041 差し伸べられなかった手
明日の護衛任務を控え、俺達四人は泊めてもらっている分院で、水の神『ウィンティ』さまに祈りを捧げていた。
その後すぐに朝食の時間になり、今日一日はここから出ないことを条件に自由時間だった。
オスカーは忙しくしていて、話しかけることも出来ない。槍を引き取りに行って貰う話は出来ているので、戻るのを待つだけだった。
アカネとメルキナは、すっかり仲良くなっていた。今日もゼロを交えて遊ぶようで、メルキナの為には良いのかもしれない。
今日もサーヤは、やる気を見せている。
昨日コジカは魔法を一つ覚えたようで、『微光線』と名付けていたと思う。
古代語魔法は基本的に効果が一定の為、統一された魔法名をつけることが多いとサーヤが解説していた。
学校の見学で覚えたコジカは、詳しく習っていないはずだから、命名については問題ないと思う。
「今日も中庭に行かない?」
「サーヤ、その前にスキルをセットしたいんだけど……」
「サーヤさん、私もやっておきたいです」
「じゃあ、そっちを先に済ませようか?」
勝手知ったる他人の家――ではなく、余所の施設か。
NPCに操作盤は関係ないのに、主要な施設には高確率で設置されているようだ。
『パーティーメンバーに公開』にして、現在のセットスキルから今日の特訓用にスキルを変える。
フェザー(冒険者):セットスキル
【槍技:弐】
【受身:壱】→【精霊魔法/風:壱】
【腕力強化:壱】
【根性:壱】→【精霊との対話:壱】
【アクロ走行:壱】
【緑の鑑定:壱】
【警戒:壱】→【感情感知/犬系:壱】
ボーナススキル:【冒険者の心得】
必殺技(BSM):【強打】
車椅子:サーヤの【騎乗】カード
チェインポイント:8P
魔法
『風発生』
『風弾』
そういえば特にセットしてなくても、ゼロの感情というか言葉は伝わっていたと思う。
やっぱり狼と狼獣人は、元になる先祖が一緒なのだろうか? スキル情報が、体に馴染んでいくらしい。
肉体系のスキルはマニュアル操作とオート操作の二種類があり、槍の使い方も少しだけ慣れてきたと思う。
サーヤとコジカが揃うと、パーティーの女子度が上がっているような気がする。
俺とサーヤの時は、どちらかと言うと枯れた会話が多いと思う。
それかバスケに特化していて、たまに我が家の庭でやるBBQでは、お互いの親とシャッフルして話す事が多かった。
この依頼が終わったら、オスカーとは離れることが決まっている。できれば新規で、男性メンバーを探したいところだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
俺のセットが終わると、サーヤとコジカはそのテンションのままセットを始めた。
先にサーヤがセットしてたので、恒例の『エッチ』から「ハイハイ」と言いながら距離を取る。
同行者として知識を得たサーヤは、コジカのアドバイスが出来るので任せることにした。
まるで買い物での荷物持ちになった気分で、その待ち時間は手持無沙汰でも耐えるしかなかった。
準備が終わったようなので、改めて中庭に出る。
昨日より良く見える『水の精霊』は、とにかくサーヤにべったりだった。
今日はサーヤが指導すると思っていたけど、どうやら自主練が中心のようだ。
『風の精霊』の姿は見えないけど、この世界の精霊はどこにでも存在出来るらしい。
『ダム、ダムダム』
「ちょっと、フェザー!」
「魔法を使えば使うほど、上達するって言っただろ?」
「それはそうだけど……」
「ヘイ、パス」
「OK! ハイ、リターン」
「うっし」
「ちょっと、二人でバスケを始めないでください」
いつものテンションでパスをしたら、コジカに叱られてしまった。
確かに、魔法を使うのに集中している所で、いきなりパスの練習をしていたら迷惑かもしれない。
感覚で魔法を使う精霊魔法と違って、古代語魔法は手順を大事にするらしい。
真面目なコジカは瞬間的な集中力もあるけど、さすがに騒いでいる環境では使いにくいと思った。
サーヤは真面目モードに戻り、水の塊を出してグニュグニュと造形を整えていた。
「サーヤ、それって何してるんだ?」
「うーん、何か良い形にならないかなって。粘土を捏ねて、デザインを考えている感じ?」
「武器の形にしたらどうだろう?」
「基本的に、水の属性って戦いに向きにくいんだよね。形を変えやすい分、固定するのも難しいんだ」
「風も一緒なのかな?」
「そう……だね。だから表面を固形化するって、本当は難しい筈なんだけど……」
「でもこれ、当たっても痛くないだろ?」
「ボールは人にぶつけちゃいけませんって、一番最初に習うもんね」
そう、俺達の心はスポーツマンだ。
武器で攻撃することは理解出来ても、スポーツの道具で攻撃するには忌避感がある。
それなら補助魔法や、回復魔法にでも回した方が良いと思う。
サーヤは『イメージが大事』だと言うので、明日以降使えるシチュエーションを考えてみた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
青空が、とても気持ち良い。
明日の今頃は、馬車に揺られて旅をしているだろう。俺は車椅子だけど……。
中世の世界観だとよくあるのが、馬車での『お尻が痛い問題』だと思う。
乗馬でも苦労する描写があるけど、サスペンションとかそもそも原理が分からない。
「はぁ……。それで、こんな魔法を思いついたの?」
「フェザーさん、凄いです。普通そんなスピードで、魔法は習得出来ないんですよ」
「でも、作り出したのは『座布団』だぞ」
「うーん……。こういうのって、効果時間が30分なんだよね。スキルレベルによって変わると思うけど」
明日は早朝に出発してお昼休憩、最終的には野営の準備の流れになる。
それが三日続くとなると、30分しか効果がない魔法を覚えたのは無駄だったのかもしれない。
俺とは反対に、サーヤは攻撃魔法を考えていたようだ。
ただ水の属性の特性上、ダメージを増すにはやり方を考えなければいけない。まだ検討段階でボツが続いているようだ。
コジカの修業も、なめらかに魔法を紡ぐ練習をしていたようだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
夕方近くにアカネとメルキナがやってきて、オスカーとも合流出来た。
預けていたお金と引き換えに、『ロック鳥の嘴』を使った新しい槍、その名も『ロック・スピアー』をゲット出来た。
貫くというよりかは『抉り飛ばす』ような印象の穂先に、真新しい柄の部分。持ち手の所には革が巻いてある。
各種手配はオスカーによって済まされていたが、バツが悪そうな雰囲気を醸し出していた。
「オスカーさん、どうしたんですか?」
「あぁ……、うん。あっ、この期間中だけ、もう一度パーティーに入れてくれないかな?」
「それは構いませんが、今度は勝手に抜けないでくださいよ」
「ごめんごめん、あれは仕方なかったんだよ。じゃあ、こちらで話すね」
オスカーはメルキナの頭を撫で、抱き上げながらパーティーチャットで話しかけてきた。
『メルキナの父親――伯爵家当主が、会いたいと来てしまったんだ』
『えっ……、大丈夫なんですか?』
『容疑者は、関係者かもしれないのに?』
『コジカさん。まだ、事件は起きてないんだよ』
『メルキナちゃんに会わせるんですか?』
『アカネさん、心配そうな顔してるね』
『……会わない方が、幸せだと思います』
『サーヤはどうだ?』
『難しい話を振るんだね。そういうフェザーは?』
正直ここまで来たら、会わせないという選択肢はないと思う。
この当主の紹介で先代の伯爵夫妻を頼るんだから、言うなれば今回のクライアントに近い。
年の離れた兄妹のように一緒に暮らしていたのに、結婚した後で手を出すものなのか?
ふとサーヤを見る……。コジカもアカネも、俺の方を見ていた。
『メルキナにとって、最後の機会になるかもしれない。父親だと名乗りを上げないなら、俺はアリだと思う』
『その線が妥当かな? ちょっとメルキナを見てて貰えないかな? 簡単に打ち合わせしてくる』
この後俺達は伯爵家当主と対面し、『依頼主』としてメルキナを含めて挨拶をした。
メルキナは人見知りをしているのか? 小さな声で懸命に事情を説明していた。
『貴族の気まぐれ』と断罪することは簡単だろう。でも、俺達は自由な冒険者だ。
だから目の前の依頼を真摯に取り組む。依頼を受けた以上、情に左右されるべきではない。
全ての話が終わり、最後にメルキナが小さな声で「ありがとうございます」と伯爵にお礼を言った後、伯爵は顔を背けて片手で目元を押さえていた。すぐに立ち去ろうとする伯爵を、オスカーが追いかける。
「今日は早く休みましょうね」
「はい、アカネお姉ちゃん」
初めての護衛任務は、三日間の旅だ。
俺達は明日、始まりの村を目指して早朝旅立っていく。
本日もご覧頂きありがとうございます。
次回更新は、水曜日までに行いたいと思います。
最近、季節の変わり目のせいか……。
皆さまも、お体に気をつけてください。
ポイント欲しいです!(どさくさに紛れて!)




