039 風のいたずら
次回アップ目標は水曜日を予定しております。
宜しくお願い致します。
正式に依頼を受ける事が決まったので、俺達は改めてメルキナに挨拶をした。
一人ずつ自己紹介する度に、コクンと首を縦に振る仕草はとてもカワイイ。
俺達は四人とも妹がいないので、メルキナの余所余所しい反応は新鮮だった。
困るとオスカーを探す姿が、また何とも言えない……。
「あー、なんだ……。出来る準備があったら早めに頼む」
「良いお兄ちゃんしてますね、オスカーさん」
「ハァ……、茶化すな。じゃあ、私は報告するところがあるから」
「……」
メルキナはオスカーの裾を握っていたが、それに気付いたオスカーがヒョイっと抱き上げた。
どちらかと言うと表情が薄いメルキナだったけど、オスカーの前では柔らかな笑顔をしている。
アカネはオスカーの近くに行くと、ゼロの自慢をしだした。どうやら動物で釣る気のようだ。
「ねえコジカちゃん、それとフェザーも……。魔法の練習の続きどうかな?」
「同行者として、指導は大丈夫だよな?」
「はい、オスカーさん!」
「じゃあ、そっちは頼んだぞ」
サーヤがアカネを誘わなかったのは、アカネ自身がまだ魔法の必要性を感じていなかったせいだと思う。
それなら俺もと思ったけど、「武器がないフェザーには、それに代わる何かが必要でしょ?」と言われてしまった。
あまりの正論に納得するしかない。サーヤが言うには、プレイヤーなら魔法はほぼ全員が使えるらしい。
案内の人に宿泊する部屋と魔法を使っても大丈夫そうな場所を借り、俺達は移動を始めた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
分院にある中庭に出ると、サーヤはコジカに「グロッサリアさまの魔法みたよね?」と話しかけた。
それだけで何かが伝わったようで、コジカは俺達と少し離れて集中を始めた。
「じゃあ、フェザーはこっちね」
「俺も立ち上がった方が良いか?」
「ううん。魔法には詠唱や身振り手振りをすることもあるけど、それは全然関係ないんだ」
「あれ? でも、コジカは詠唱してたよな?」
「あぁ、あれは……。コジカちゃんって、ほらアレだから」
良く分からないけど、少し何かが分かってしまっていた。
こういうファンタジーな世界に来たならば、冷静さを忘れてはじける方が楽しめるのかもしれない。
「獣人族はね、細分化されて適正が出るんだって」
「へぇぇ、エルフが魔法を得意としているように?」
「そうそう、だから属性さえ間違わなければ難しくないみたいだよ」
「ちなみに狼族だと、どんな属性が得意なんだ?」
サーヤの説明によると狼族が得意なのは『風・氷』の属性で、『氷』は基本的には『水』属性の派生になるらしい。
多分、フェンリルが氷のイメージがあるからか、わりかししっくりくるイメージだった。
そして獣人族が得意とする代表格は、肉体強化魔法にあるようだ。
その違いを一言で言うと、魔力を放出出来るか出来ないかの差らしい。
一定の手順を経てMPを捧げ、一定の効果を出す『古代語魔法』は覚えるのが大変とは聞いている。
掲示板でもGMに対する苦情が出ていたくらいで、今苦戦しているコジカは大きな潜在力を秘めていると思う。
それとは違い『精霊魔法』は、『支配』・『友好』・『懇願』という形で精霊と契約をするようだ。
MPを捧げるのは一緒でも、効果がマチマチでは困ってしまうと思う。
サーヤはエルフだから『支配』することも出来たけど、『友好』関係を結んでいるらしい。
「どう、ここまで分かった?」
「あぁ。それで、具体的にどうするんだ?」
俺の質問に、「まず私を見て」とサーヤは言う……。
胸の前辺りで少し角度をつけて、両手を差し出しているサーヤ。
頭のてっぺんから、ゆっくり下まで視線をおろしていく。
沙也加をベースにした顔立ちは、より一層美形度を増している。
銀髪もエルフ耳にした事で違和感が減少し、中肉中背だった体はスレンダーさを増していた。
唯一残念と言えるのは、エルフにしてはやや大きすぎる胸だ。
サーヤは多分、バストを大きくはしてないと思う。
でもスレンダー化した体に、元のバストをのっけたとしたら……。
サーヤは急に、差し出していた両腕で自分を抱きしめ、「エッチ」と呟いた……。
「なあ、俺が何かしたか?」
「だーかーら、ちゃんと見てって言ってるでしょ?」
「あの……、サーヤさん。それじゃあ、分からないと思います」
「あっ、コジカちゃん。邪魔しちゃった?」
「お邪魔なのは、私の方じゃないですか?」
オズオズとサーヤの近くに来たコジカは、俺達のやりとりに違和感を持ったようだ。
普段見慣れている沙也加も、俺にとってはいることが当たり前な日常に等しい。
それを今更見てと言われても……。ゴンッ、頭に軽い衝撃を受けた。
車椅子に座っているので、最近は斜め上ばかり見ている。そして、瞬間的に周りを見回したけど何もない。
俺の見える範囲にはサーヤとコジカしかいないし、サーヤの周りにはキラキラ光る……?
「サーヤ、何かおかしくないか?」
「おかしいのは俊ちゃんでしょ?」
「サーヤ!」
「こ、今回は私悪くないもん。おかしいって言う、しゅ……フェザーがおか……」
「待ってください、サーヤさん。フェザーさん、どうおかしいんですか?」
「どうって、サーヤの周りに水色の線が縦横無尽に……」
「コジカちゃん!」
「サーヤさん!」
《スキル【魔力感知】を解放しました》
《スキル【魔力視】を解放しました》
『視る』ことに集中してないと、サーヤの近くにいる青い線はすぐに消えてしまう。
あれはきっと、サーヤの言っていた『水の精霊』だと思う。
スキルを習得すれば普通に見られると思うけど、俺にはまだ『視る』ことにムラがあるようだ。
サーヤの言っていた『見て』は『視て』であり、スキルを習得する為に『意識しろ』という意味だったと思う。
見慣れた物を改めて確認するのは、スルーしがちになる落とし穴かもしれない。
「サーヤ、俺達がここにいるって事は」
「うん、多分情報が漏れるのを防いでいると思う」
「フェザーさん、どこかに行きたいのですか?」
「いや、冒険者ギルドに行ければ、スキルを習得出来たのになって」
俺の言葉にサーヤは、ここにも『操作盤』があってスキルの習得が出来る事を教えてくれた。
ただ魔法の訓練は、このまま続行するらしい。
スキルの解放・習得は確率の問題で、解放されたら習得の確率は跳ね上がるそうだ。
スキルポイントは解呪によって6ポイントもゲット出来たけど、魔法使いは魔法を覚えるのにも使うそうだ。
「じゃあ視えたなら、次の段階に進もう!」
「サーヤさん、私も手伝います」
「そういえば、コジカちゃん。魔法は?」
「はい、一つだけ出来ました!」
会った期間は短いのに、コジカの確かな成長は目を見張るものがあった。
こうして俺はサーヤの指導の下、魔法の特訓を……。
「まだまだ、終わらないからね!」
「あぁ、入るまで撃つだろ?」
まだ終わりそうもなかった……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
夕方近くになる頃、 【魔力感知】も【魔力視】も習得していた。
この辺は、何かのスキルにぶら下げれば問題ないと思う。
まだセットをしていないので確実に視ることは出来ないけど、何となく『水の精霊』の存在は確認出来た。
それにしても、時々頭に衝撃を受けるのは何故だろうか?
魔法を使ってサーヤが何かした形跡はなく、『水の精霊』もサーヤのそばを離れようとしていない。
サーヤの感覚的な言葉をコジカが解説することで、ある程度魔法の使い方の基本は見えてきたような気がする。
時々二人が揃って笑うのが気になるけど、俺には分からないネタのようだ。
「フェザー、髪の毛がグシャグシャだよ」
「さっきから、何かがおかしいんだけど……」
「フェザーさんは、気が付いてるのですね」
「コジカは何か見えてるのか?」
俺の発言に、コジカは瞬間的にサーヤを見た。やっぱり原因はサーヤ……、ではないかもしれない。
サーヤを見たコジカは俺の方に顔を向けたと思ったけど、少しだけ視線の位置がズレているような気がする。
少し考えた後、俺はその場で車椅子を180度回転させた。宙に浮いているから出来る芸当だと思う。
急旋回をしたにも拘わらず、何も見つけることが出来なかった。でも、絶対何かがいるのは分かる。
半径1m以内で急発進・急旋回、バックしながら逆旋回。
ウィリーも混ぜると、かなりの範囲の視界を確保できる。
それなのに見つからない、何かがある筈なんだけど……。
ふと普段感じないGが、頭だけに掛かっていることに気が付いた。
「もしかして、他にも精霊がいるんじゃないか?」
「あー、バレちゃってるね」
「怒らないから出ておいで!」
「あの……、正直に出た方が良いですよ」
人より耳が良いからか、コジカの小声も難なく俺に聴こえてくる。
車椅子の操作を止めて、両手でお椀の形を用意すると、まるで螺〇丸のような効果が発生した。
その効果が徐々に鈍化していくと、まるでピーターパンのような衣装を纏った、『風の精霊』が姿を現したのだった。




